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エピローグ:その2 それは恋か愛か

 スペランツァの町において主力と評すべきレウルスは、一連の騒動が決着するなり倒れて眠りについていた。それもただの睡眠ではなく、既に一週間の時が過ぎている。


 レウルスと共に戦ったエリザ達も疲労困憊かつ魔力切れで戦うことはできず、クリスやティナといった実力者も魔力切れである。ジルバだけは魔力切れを起こさなかったが、レウルス達の治療のために治癒魔法を使って魔力を消耗していた。

 ヴァーニルも負傷が酷かったが、こちらは治癒魔法を使える精霊教徒達が治療に当たり、負傷の大部分を治している。そして最低限魔力が回復し、長距離を飛べるほどに怪我が回復するなりスペランツァの町から飛び立ち、今回の一件の発端となったであろう王都近郊へと向かった。

 魔力はあまり回復していないが、遠く距離を隔てていてもなお届いていた違和感は消失しており、その確認が主な目的である。他にも異常がないかを見て回るため、しばらくは留守にするというのがヴァーニルの言だった。


 そうして事態が終結したことを確認する者、大人しくスペランツァの町で療養する者、ナタリア指揮の下で近隣に危険や異常がないかを確認する者、被害状況の確認をする者と、開拓とは別種の騒々しさが今のスペランツァの町にはあった。


「…………」


 そんな騒々しさから隔離されたように静かな場所。レウルスの自宅、レウルスの自室において、ルヴィリアは寝台の上で静かな寝息を立てるレウルスを無言で見つめていた。


 ジルバ達精霊教徒が懸命に治療をした甲斐もあり、レウルスは一命を取り留めた。ただし黒龍との戦いで全身に大小様々な傷があり、胴体にはラディアが貫通したことで大きな穴があくという、常人ならば数回死んでも釣りが出るほどの重体である。


 黒龍との戦いで負った傷に関しては戦闘中にその大部分が治っていた。しかし鎧の内側で千切れていた布地や戦闘中に飛んできた石などを巻き込んで肉体が再生しており、それらの異物を除去しながらの治療となったのである。

 腹の傷に関しては、単純に傷口が大きすぎた。内臓もいくつか傷ついており、治癒魔法だけでなく魔法薬を傷口に直接流し込みながら治療を施したジルバをして『生きているのが不思議なほど』と言わせるぐらいには傷が深かった。


 それでも辛うじて命をつないだレウルスは今も眠りについており、絶対安静ということで自室に寝かされている。


「……レウルス様」


 ルヴィリアは小さく、しかしたしかにその名前を呼んだ。だが、レウルスがそれに応えることはない。血の気が失せた真っ白い顔で静かに寝息を立てるばかりで、ピクリとも動かないのだ。寝返りを打つこともなく、本当に生きているのか疑ってしまうほどである。


 ルヴィリアがレウルスの傍に控えているのは、端的に言えば看護のためだ。現在のスペランツァの町はラヴァル廃棄街から駆け付けたナタリアが指揮を執っており、コルラードが多くの者をまとめながら動き、アリスがその補佐を務めている。

 ルヴィリアも補佐程度ならば務まるが、いつ目覚めるかわからないレウルスの傍に誰かしら控えておく必要があり、ナタリア指名のもとルヴィリアが付きっ切りで傍にいることとなった。


 エリザ達――中でもサラが真っ先に立候補したものの、一人で広範囲を索敵できることから真っ先に除外されている。


 エリザ達も三日間の休息で少しながら魔力が回復しており、町の警備に駆り出されている。魔法が使える者は何人いても良い、というのがナタリアの考えだった。


 その点ルヴィリアは戦えず、かといってコロナのように作業者に振る舞う料理を作ることもできない。最低限手伝うことぐらいならばできるが、多忙な時に手伝おうとしてもかえって邪魔になってしまうだろう。

 だからこそ、こうしてレウルスの傍にいる。時折声をかけ、何かあればすぐに知らせるために。


『……ごめんなさい』


 そんなルヴィリアの聴覚に、か細い謝罪の声が飛び込んできた。その声はレウルスと共に運び込まれたラディアからのものであり、壁際に立てかけられた大剣へとルヴィリアは視線を向ける。


「何も謝ることはありません。レウルス様が選んだことで、貴女はレウルス様を助けようとしただけでしょう?」


 ルヴィリアに魔法の素養はない。それでもラディア側から『思念通話』を使い、こうして会話が成り立っていた。


 仕方がなかったとはいえ、レウルスが負った怪我はラディアによるものが一番大きい。それでもルヴィリアにはラディアを責める気持ちなどなく、むしろ感謝してすらいた。


「貴女とコロナさんがレウルス様を人間に戻してくれた……それは、わたしには決してできないことですから」


 そう言ってルヴィリアは僅かに視線をずらす。その視線の先にあったのは布地の上に置かれたレウルスの防具で、どれもこれもがボロボロになっていた。装甲部分は無事な箇所が多いが、留め具が耐えきれずに破損しているのだ。レウルスが腰の裏に差していた短剣も、鞘ごと潰れて刃が砕けていた。

 『首狩り』の剣だけは無事だったが、レウルスの傍に置いておくべきではないと判断され、ジルバが保管している。


 それだけでもレウルスが繰り広げた激戦がどれほどのものか察せられる。そして同時に、レウルスがそれほど大変な時に何もできなかった自分自身をルヴィリアは恥じていた。


 ルヴィリアには戦う術などない。そのためコルラードに促されるまま避難し、戦いが激化してからはスペランツァの町から離れてしまった。ドワーフや冒険者に護衛されながら、少しでもスペランツァの町から離れるよう、黒龍から距離を取るようにと。


 黒龍が予想以上に危険だったため、非戦闘員であるルヴィリアや町の作業者等を逃がすという判断を下したコルラードは正しい。軍事に疎いルヴィリアでも当然だと思うほどだ。


 黒龍とレウルス達が戦う音が消え、緊迫していた気配が薄れたことからコルラードが様子を見に行くと言った際もルヴィリアは言われるがままに待機した。それが当然の判断だと思ったからだ。


 そんな中で、コロナだけは違った。


 嫌な予感がすると、レウルスに何かあったのではないかと、渋るコルラードを押し切って同行した。


 “それ”はルヴィリアにとって――。


「…………っ」


 扉の外から誰かが近付いてくる音が聞こえ、ルヴィリアは思考を打ち切る。そして数秒もしない内に扉がノックされ、ルヴィリアが返事をするとコロナが顔を覗かせた。


「食堂の方が一段落したので昼食をお持ちしました。ルヴィリアさん、レウルスさんの様子は……」

「ありがとうございます、コロナさん。レウルス様は相変わらず眠ったままです」


 ルヴィリアは笑顔でコロナを迎え入れ、用意してあった椅子を勧める。するとコロナは恐縮した様子ながらも椅子に座り、寝台で眠るレウルスの顔をじっと見た。


「レウルスさん、お昼ご飯ですよ?」


 そして小声ながらもそんな言葉を投げかける。しかしレウルスが反応することはなく、コロナは悲しそうに眉を寄せた。


「もう……レウルスさんったら、お寝坊さんですね」


 この場にルヴィリアがいることを思い出したのか、コロナは冗談でも口にするように小さく微笑む。だが、貴族として他者の顔色を読むことに慣れているルヴィリアにとってはその内心が容易に推し量れた。


「以前も無理をして、そのあとに数日間眠り続けたことがあったと聞きます。だからレウルス様はきっと……」


 大丈夫、という言葉は自然と掠れて消えた。レウルスが“以前と違う”ことをルヴィリアも聞いているからだ。


「大丈夫ですよ。レウルスさんのことですから、お腹が減ったって言って目を覚まします」


 ルヴィリアを励ますためか、あるいは本心からか。コロナは大丈夫だと言いながら眠るレウルスの手をそっと握る。そして指を絡めて持ち上げると、祈るようにして自身の額に当てた。


「だから、レウルスさんが目を覚ましたらいっぱいご飯を食べさせて、そのあといっぱい怒ります。こんなに心配をかけさせるなんてひどい人だって、怒っちゃいます」


 そう言って笑みを浮かべるコロナの姿に、ルヴィリアは眩しいものでも見たように目を細める。そして椅子から立ち上がり、レウルスを挟んでコロナの反対側へと移動すると、コロナを真似るようにレウルスの手を取った。


「……やっぱり、コロナさんが羨ましいなぁ」


 ポツリと、ルヴィリアが呟く。それは本心から零れ出た言葉で、コロナは驚いたようにルヴィリアを見た。


「羨ましい……ですか?」

「ええ。少し……ううん、とっても」


 そう答えるルヴィリアの声色に宿っていたのは、不思議なほど柔らかい感情だった。羨望する言葉とは裏腹に、嫉妬などの負の感情はない。

 コロナが困惑したように見つめると、ルヴィリアは小さく苦笑しながらレウルスの頬を指でつついた。


「実はですね……わたしって、最初はこの人のことが怖かったんですよ」

「……えっ?」


 思わぬルヴィリアの発言にコロナは目を丸くする。同じ女性であるコロナの目から見てルヴィリアがレウルスに向ける慕情は一目瞭然で、まさに恋する乙女と呼ぶべきものだったからだ。


 そんなコロナの反応にルヴィリアは苦笑を深めると、レウルスと出会った当初の頃を思い出していく。


「男の人だからとか、すごく強い人だからとか、そんな理由じゃありません。キマイラに襲われている最中に馬車の屋根を突き破って来た時は驚きましたけどね」


 当時のルヴィリアにとって、初めて出会った頃のレウルスは突如として現れた謎の男性である。


 ヴェルグ伯爵家――当時は子爵家だったが、ルヴィリアが住む屋敷にいた執事達や仕える騎士、従士や兵士や領民、他所の貴族等、多くの男性と接してきたルヴィリアにとって、レウルスは未知の存在だった。


 廃棄街で活動する冒険者という存在を伝聞程度でしか知らなかったというのもあるが、それ以上にレウルスが、特にレウルスの目がルヴィリアにとっては恐ろしかった。


「今は当然違うんですけど、最初の頃はレウルス様から向けられる視線が怖かったんです。わたしを見ているのに何も感じていない、その辺りの石でも見るような……興味すら抱いていないのが伝わってきたんです。さすがにそういう人は初めてで……」


 “それ自体”はレウルスに伝えたが、ルヴィリアにとっては本当に怖かったのだ。ルヴィリアが培ってきた常識や知識にはない、理解しがたいその瞳が。

 しかし、そんな話を振られたコロナとしては困惑するしかない。


「えっと……本当ですか? わたしが知っているレウルスさんはその、なんというか……」


 少なくとも、コロナはそんな目で見られたことはなかった。そのためルヴィリアの話を半信半疑で受け止めつつ、言葉を濁す。


 コロナの脳裏に過ぎったのは、レウルスが浮かべる柔らかい笑顔だ。大切なものを見るような、温かみのある笑顔。それはコロナの父であるドミニクが浮かべるものに似ているが、それでいて異なるものだ。

 コロナの言葉を聞いたルヴィリアは再び苦笑するように微笑むと、眠っているレウルスの頬を撫でる。


「そうでしょうね。以前のレウルス様……いえ、今もそうでしょうけど、この人にとってラヴァル廃棄街とそこに住まう方々……とりわけ親しい人に向ける感情は“それ以外”の者と比べると雲泥の差がありましたから」

「…………」


 穏やかに語るルヴィリアに対し、コロナは思わず沈黙してしまう。


 レウルスと出会うまでラヴァル廃棄街の中で育ち、王都やスペランツァの町を訪れるまで非常に“狭い世界”で生きてきた。そんなコロナには、ルヴィリアが言うようなレウルスの側面は見えていなかったのである。


 レウルスにとってラヴァル廃棄街の身内で、命の恩人でもあるコロナ。


 レウルスにとってラヴァル廃棄街の外の人間で、何のかかわりもなかったルヴィリア。


 家族のように親しい人間と、見知らぬ他人。その両者に全く同じ感情を向ける者はおらず、仮にいたとしても極僅かだろう。そう考えればレウルスの態度はある意味当たり前のものだったかもしれない。


 ルヴィリアとてそれは理解している。様々な人間と出会い、接してきたルヴィリアからすれば理屈としては理解できるのだ。


「レウルス様の場合、線引きが極端だったんです。味方と敵と中立……ううん、中立というより感情を向ける対象外? 味方は守る、敵は殺す、それ以外はどうでもいい……そんな風に割り切っていて、わたしはその“対象外”の人間だったんだと思います」


 だが、レウルスは本当に極端だった。当時はレウルスが『まれびと』だと知らなかったが、同年代の異性にここまで興味のない視線を向けられるとは、と困惑すらしたものだった。


 貴族の令嬢として身に着けた礼儀作法、少しでも見目美しくなるよう磨かれた体、将来嫁ぐ際に少しでも相手に良く思われるよう仕込まれた表情をはじめとした演技力。

 毒を盛られた影響で教育が滞り、他所の貴族令嬢と比べれば数段劣る程度の能力だっただろうが、ルヴィリアにも相応の自負と自信があったのだ。


 全く、微塵も、小指の先程度にも興味を抱かない例外レウルスと出会うまでは。


 そんなレウルスの反応はルヴィリアのなけなしの矜持を傷つける――などということはなかった。


 世の中にはそういう人間もいるだろう、という常識からの納得と判断。そして“そんな人間もいるのだ”という興味。

 その興味は体を治すための旅に出かけるまで続き、それでいて旅の最中にルヴィリアの認識は変化していった。


「コロナさんもご存知でしょうが、わたしはこの人やエリザさん達に守られながら旅をしてきました。往復で二ヶ月半ほどの長い旅です。その間に色々なことがあって、この人のことを色々と知って、この人に……恋をして」


 最初はただの他人だった。それが依頼主と護衛という関係に変わり、共に旅をする仲間になり、『首狩り』を倒すためとはいえ命を預け合うことになった。


 そして、満天の星空と満月の下で、人生で初めてとなる恋の告白をして。


「まあ、“あの時”はレウルス様も一緒に旅をした仲間、ぐらいにしか見てくださらなかったので告白しても実らなかったんですが……別れれば二度と会える機会もないと思いまして。気持ちを抑えることができませんでした」


 自身の胸に手を当て、大切な想い出を脳裏に思い浮かべるルヴィリア。今だからこそコロナが相手でも平気で話せるが、当時のルヴィリアにとっては一生抱えていくだろうと思った初恋にして失恋の記憶だった。


「それからしばらく経ってから、二度と会えることはないと思っていたのに再会できて……ふふっ、時間が経てば大切だけど良い想い出になるって思ってたんですよ? でも、会えないと思っていた方にもう一度会うことができて、この気持ちは膨らむばかりで……」


 そう語るルヴィリアの表情を見て、コロナは僅かに視線を伏せる。


「それで……そう、“あの時”です。それまでわたしを見ていなかったのに、レウルス様が“わたしという存在を認識した時”どれほど驚いて、どれほど嬉しかったか……」


 レウルスが魔力を満タンになるまで蓄えて人間としての感覚を取り戻している間に、ルヴィリアはレウルスと顔を合わせる機会があった。レウルスが準男爵に叙されるからと王都を訪れた際にルヴィリアは押しかけ――そして驚愕した。それと同時に、歓喜もした。


 今は眠っているため、当然ながらレウルスは目を瞑っている。しかし、レウルスと仲が深まるまでは目を瞑っているのと大差ない状態だったのだ。


 認識され、想いを更に強め、紆余曲折を経て求婚され。叶うはずがない未来を、共に在ることを求められた。


 そうやって語るルヴィリアの声色と表情から、コロナはルヴィリアがレウルスに向ける想いの大きさ、重さを嫌というほど感じ取る。同じ女性として、その想いの強さにはある種尊敬とも畏怖ともいえない複雑な感情を抱いてしまった。


 だが、それと同時にコロナは思うのだ。


「こうしてレウルス様と共に在れることは、わたしにとって奇跡みたいなものなんです。わたしがどこかしらの家に嫁ぐよりも早くレウルス様が準男爵となり、その妻として求められる……本当に、御伽噺みたい」


 ――そこまで語るルヴィリアが、自分コロナをレウルスの傍に置こうとする理由がわからない。


 コロナとてレウルスのことを強く想っている。だからこそ、正妻という立場にもかかわらず許容するどころか率先してコロナを“引き込んだ”ルヴィリアの考えがわからなかった。


「コロナさん」

「……はい」


 名前を呼ばれたコロナは、知らず知らずの内に背筋を伸ばしていた。それまで握っていたレウルスの手を離し、真剣な表情でルヴィリアと向き合う。


「あなたの疑問はわかりますが、その疑問に対する答えは二つあります。一つは貴族として、わたしとレウルス様の間に子どもができる可能性が……いえ、わたしにレウルス様の子を宿せるかわからないという点」

「それは……」

「強力な毒を浴びましたから。そしてもう一つは」


 そこまで言ってルヴィリアはコロナから視線を外し、眠り続けているレウルスをじっと見つめる。


「レウルス様があなたに向ける目が、他の誰に向けるものとも違ったからです。あなたのことを語る時の表情が、とても“人間らしかった”からです」

「えっ……」


 ルヴィリアがどんな想いを込めて語っているのか、コロナにはわからない。それでも、ルヴィリアが本当にレウルスのことを想っているということは痛いほどに感じられた。


「エリザさん達と同じようで、少し違う……レウルス様にとって必要な人なんだなって思ったんです。きっとレウルスさんが人間であるために必要な、大切な存在なんだって」


 そう言って、ルヴィリアは大きく息を吐く。だからこそ、とその瞳に強い光を宿す。


「レウルス様に何かあった時、あなたがいれば助けになるのではないか、と。そう考えていました。結果は予想通り……いいえ、“予想以上”でしたけど」


 レウルスとコロナが共に在ることをルヴィリアが望んだのは、一言でいえばレウルスのためだった。レウルスの変化に気付き、その変化があったからこそ正妻になれたルヴィリアにとって、自分やエリザ達とも異なる“特別な存在”が必要だと判断してのことだった。


「だから――あなたがいてくれて良かったです」


 それはルヴィリアが培ってきた貴族としての観察眼と、女性としての勘。そしてそれ以上にレウルスに対する慕情が成しえたある種の奇跡である。


「貴族の方って……ううん、ルヴィリアさんってすごいんですね」


 ルヴィリアの考えと想いを聞いたコロナは、自然とそう口にしていた。そこまでくれば最早好意を超えて愛情ではないか、とすら思う。

 だが、コロナの言葉を聞いたルヴィリアははっきりとした苦笑を浮かべた。


「わたしからすれば、理由も根拠もなく嫌な予感がしたからと言ってロヴェリー準男爵様についていったコロナさんの方がすごいです。黒龍との戦いが本当に終わったのかもわからない状態で、危険も顧みずに……」


 ルヴィリアからすれば、何の根拠も持ち合わせていないはずのコロナがレウルスにとっての最適解を選んだことこそがすごいと思えた。貴族として他者の機微を読み取るための教育を受けたわけでもなく、レウルスに対する感情一つで“正解”を選んだのだから。


「それでレウルス様を正気に戻したんですから……うん、やっぱり羨ましいなぁって思います」


 コロナはルヴィリアを羨ましく思い、ルヴィリアはコロナを羨ましく思う。


 それに気付いた二人は顔を見合わせると、どちらともなく笑い合う。互いが互いの持っている物を求め合っていると気付けば、これまでにない親近感が湧いた気がした。


「ふふっ……レウルスさん、早く元気になって目を覚ましてほしいですね」

「ええ、本当に」


 未だに眠り続けているが、黒龍との戦いが終わった直後と比べれば血色が良いレウルスの寝顔を眺めつつ、コロナとルヴィリアはくすくすと笑い合う。


 レウルスが死ぬはずがない、いつか目を覚ますと信じる二人の小さな笑い声は、しばらく続くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実はもう起きてるレウルス「(無になれ…俺は何も聞いてないぞ)」 なんてことはないらしいw
[気になる点] >コロナがどんな想いを込めて語っているのか、コロナにはわからない。 この最初の「コロナ」は「ルヴィリア」ではないでしょうか? [一言] コロナの扱いについてレウルスとコロナの双方がは…
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