第612話:将来
マタロイという国はカルデヴァ大陸において有数の大国である。大小様々な町や村、廃棄街等が存在するが、現状のスペランツァの町ほど将来に向けて希望に満ちた活気で溢れている場所はないだろう。
いくら途中まで進んでいたとはいえ、普通ならば魔物が跋扈する未開地を開拓して町を造るなど無理難題も良いところである。しかし廃棄街から“普通の町”へと生まれ変わるためであり、目に見えて開拓が進む様は作業者達のやる気を引き出すばかりで活気に溢れるのは当然と言えた。
それもこれも鍛冶に留まらず、土木作業をさせても規格外なドワーフが三十五名も開拓に加わり、百名を超える作業者や冒険者達と共に日夜作業に励んでいるのが大きかった。その作業速度はドワーフ以外の人手を倍にしたとしても届かず、数倍、あるいは十倍以上の速度を誇るだろう。
当然ではあるが、ドワーフ達や作業者達を的確に指示できる司令塔がいるからこその作業効率である。各々が好き勝手に作業を進めた場合、効率は見る影もないほど落ちるに違いない。
ドワーフ達や作業者達の協力もそうだが、それらを統率して開拓を進めているコルラードの手腕があればこそである。
そんなコルラードはレウルスから見ても尊敬に値する人物でありスペランツァの町、ひいてはアメンドーラ男爵領に不可欠なのだが――。
「コルラードさん……その、なんと言ったらいいか……何があったんです?」
思わず、といった様子でレウルスは震えた声で尋ねる。
クリスとティナの一件が無事に片付いた直後。ジルバの背中を見送ったまさにその直後に視界に入ってきた光景。
そこには、アリスと寄り添うようにして歩くコルラードの姿があった。それもコルラードが拒絶していない、苦笑しながらではあるものの受け入れた雰囲気がありありとわかるもので、レウルスの混乱に拍車をかけていた。
あれだけアリスと距離を取っていたはずのコルラードが、一晩でその態度を急変させたのだ。クリスとティナに対するジルバの態度と同等か、それ以上の衝撃があった。クリスとティナの扱いに関して予想以上にジルバがあっさりと認めたことに安堵していたレウルスにとって、油断大敵といわんばかりの不意打ちに近い衝撃だった。
(まさか、レベッカみたいに『魅了』の『加護』かそれに似た力が……いや、魔力は感じないし、嫌な気配もない。となると余計にわからん……一体何が起きた?)
アリスに関しては預かり先の責任として、その動向を注視していた。クリスとティナにカンナからの伝言を伝える際は外出していたが、その際もアリスの身に危険が及ばないようサラが熱源を探知していたのだ。
スペランツァの町程度ならばサラの探知範囲内であり、危険があれば即座に駆け付けることができる。その上で宣言通りアリスがコルラードのもとへと向かったため何もしなかった。それでも朝になるまでレウルスの自宅に戻らなかったため何事かと思ったが、コルラードと一緒にいたためレウルスも深く気にすることはなかった。
それ以上にクリスとティナの扱いに気を割いていたというのもあるが、コルラードと一緒ならば何も問題が起きず、仮に起きたとしてもコルラードならば切り抜けられると思ったのだ。
それだというのに、一晩経ってみるとコルラードとアリスの距離が明らかに縮まっている。コルラードが不寝番を買って出たため厚意に甘えたが、レウルスとしては突然すぎる変化だった。
「何もなかった……とは言わぬ。ただ、一晩色々と言葉を交わしてな。とりあえずアリス殿に関しては警戒も必要ないのである」
「は、はあ……」
レウルスは狐につままれた気分になったが、コルラードがそう言うならばと引き下がる。そのついでにレウルスがアリスへ視線を向けてみると、眠気が原因なのか目尻を落としながらもアリスが微笑むのが見えた。
(コルラードさんもだけど、この子も雰囲気が変わったな……なんかたまに演技っぽい感じがしてたけど、こっちが素か? コルラードさんは不寝番だったし、本当に会話をしていただけ……か? でもいくら男女が一晩一緒にいたからって、話をしていただけでこの変化は……)
というか名前で呼んでるし、とレウルスは内心で呟く。
敬称を付けてはいるものの、これまでアリスのことをサルダーリ侯爵令嬢殿と呼んでいたコルラードが一晩経つと名前で呼ぶようになっている。その事実を前に、レウルスはどう反応したものか迷ってしまった。
そんなレウルスの反応をどう思ったのか、コルラードは気まずそうにしながら頬を掻き、それとなく視線を外す。
「ところでレウルス……あー、その、なんだ……この町に吾輩が家を建てるとして、カルヴァン殿達にどのように伝えればすぐに作業に取り掛かってくれると思う?」
「……え?」
「いや、隊長殿からも家を建てる許可はもらっているし、将来的に村を造るとしても数年はこの町で生活する拠点が欲しいのである。さすがに今の仮小屋ではちと不便でな」
これまでは作業者用に建てられた仮小屋で生活し、文句を言うどころかそれが当然といわんばかりだったコルラードの発言。それが、一体何を意味するのか。
レウルスは反射的にコルラードとアリスの顔を交互に見るが、コルラードは視線を外したままで目を合わせず、アリスはそんなレウルスの反応を気に留めずにコルラードへと笑いかけた。
「大丈夫ですコルラード様っ! ドワーフの方々にはわたしからもお願いしますからっ! お酒を飲んでる時に何度かお酌しましたけど、気の良い方々ですからきっと大丈夫ですっ!」
「アリス殿、いつの間にそんなことを……」
呆れたようにコルラードが呟くが、その表情には苦笑が浮かんでいる。まるで仕方がないな、とでも言わんばかりの柔らかい表情だった。
「とりあえず、吾輩は軽く食事をとってから仮眠をしてくるのである。作業者には指示を出しておくが、有事に備えてお主達は町からあまり離れないよう注意しておいてほしいのだが」
「え、ええ……それじゃあ見張りついでに町周辺の畑の手入れでもしてますね」
「うむ、頼んだのである」
困惑するレウルスにそう言い放つと、コルラードは食堂へと向かう。アリスはレウルスに向かって綺麗な一礼を見せ、嬉しそうな雰囲気を振り撒きながらコルラードの後を追った。
レウルスが言葉もなくコルラードとアリスを見送っていると、食堂からエリザが顔を出す。そしてすれ違うコルラードとアリスの様子に首を傾げたかと思うと、レウルスのもとへ小走りで駆け寄ってきた。
「レウルス? ジルバさんを追ったまま戻ってこないで一体何をしているんじゃ?」
「何を……いや、何があったんだろうな……」
「……?」
そんなレウルスの疑問に、エリザから答えが返ってくるはずもなかった。
そんな、レウルスにとって一体何事かと困惑した日からスペランツァの町は色々と変わった。
レウルスの自宅前、スペランツァの町を縦断する大通りを挟んだ向かい側にコルラードの自宅の建設が始まったのである。
ついでにとレウルスの自宅も拡張工事が始まったが、建設予定のコルラードの自宅は元々のレウルスの自宅と比べてもそこまで大きくない。短くて数年、長くても十年程度しか住まないという見立てから、準男爵としては最低限度の大きさである。
それでもコルラードが利用しなくなった後もスペランツァの町を訪れた他所の貴族が寝泊りできるよう、大きさこそ最低限だがこじんまりとしつつも見栄えにこだわった外観になる予定だった。ナタリアが居住するための館が完成すればそちらに泊められるだろうが、予備はあっても困らない。
レウルスの自宅は一階の壁をくり抜いて増築した部分とつなげ、部屋数を増やす予定である。大きさこそコルラードの自宅より勝るが、増築した部分と元々の家屋との外見的なバランスが少々ちぐはぐな形になりそうだった。その辺りのデザインに関してレウルスは一切触れず、ルヴィリアとカルヴァン達に任せるため問題のない出来にはなると考えている。
スペランツァの町を見渡すと、仮の造りではなくきちんと造られた建物が現状では非常に少ない。レウルスの自宅、カルヴァン達の工房、あとは食堂ぐらいで、多くの人間が移住して生活していくにはまだまだ足りないものが多かった。
作業者達が利用している仮小屋も、突貫工事とはいえカルヴァン達が造っただけあってそれなりに質が良い。しかし廃棄街ならまだしも、普通の町を目指すならば粗雑な外見と造りだ。これらも順次建て替えが必要となるだろう。
他にもスペランツァの町を訪れた商人達が寝泊りするために設けた小屋や、天幕を張るためのスペースなどもある。
現状のスペランツァの町では宿屋を造ったとしても運営する余裕がないため、町まで資材を運んできた他領の商人達や支援の荷駄隊、生活必需品を売りに来る行商人用に作業者と同程度の質ながら仮小屋を提供しているのだ。
その中には教会を建てるという名目のもと集まった精霊教徒達も含まれているが、ジルバのおかげか、あるいはサラやネディがいるからか、精霊教徒達は率先して町造りに協力している。更にジルバ以外の戦える人材は夜間の不寝番にも加わっており、スペランツァの町に溶け込みつつあった。
溶け込みつつあった――のだが。
「ヴァルザ準男爵様。我々精霊教徒より、一つお願いしたきことがございます」
レウルスは時折、そんな前振りと共に精霊教徒に声をかけられることがあった。
ある時は完成した教会にサラとネディの銅像を設置したいから製造の許可がほしい。
ある時は教会に設置するサラとネディが座るための椅子を用意したから二人に座り心地を確認してもらってほしい。
ある時はレウルスの自宅傍にサラとネディに祈りを捧げるための祭壇を設置させてほしい。
ある時は声をかけることまでは望まないからサラとネディに対して遠目に祈りを捧げさせてほしい。
他にも大小様々な“頼みごと”を持ち掛けられることが多々あった。
レウルスも最初の頃はサラとネディの扱いに関して何か言われるのだろうか、と身構えていたものの、そこはジルバが集めた筋金入りの精霊教徒達である。サラとネディがレウルスのもとで自由に行動していることに文句を言うことは一度もなく、遠目にサラとネディを見かけてはその場で膝を突いて祈り始めるだけという無害ぶりであった。
(……いや、無害か? 実害はないけどこれって無害でいいのか?)
レウルスは精霊教徒達の行動を思い返しながら、そんなことを思考する。サラもネディも慣れてしまったのか精霊教徒達が祈り始めても受け流してしまうが、レウルスとしてはジルバが何十人にも増えたような心持ちだった。
若い者で二十代、老いた者で五十代ほどだが、ジルバと同じように黒い衣服に身を包んだ精霊教徒が外見は年若いサラとネディに対して一心に祈りを捧げる姿は中々にインパクトがある、とレウルスは思っている。
それでもサラとネディを尊重し、『龍殺し』だけでなく『精霊使い』とも呼ばれているレウルスを仲介に立て、あくまで頼みごととして話を持ってくるためレウルスとしても対応はしやすい。
そのため今回も何かしらの頼みごとだろうと判断したのだが――。
「ヴァルザ準男爵様のご自宅では水の確保はどうされているのですか?」
「井戸から汲んでますけど……あと、魔力に余裕がある時はネディが水を出してくれますね」
質問から入った精霊教徒に対し、レウルスは素直に答える。
氷と水を操るだけあり、ネディに頼めば魔力が尽きない限りいくらでも水を手に入れることができる。レウルスの自宅に設置されている風呂も、ネディが水を生み出してサラが加熱すればあっという間にお湯を張ることができた。
その際使用する魔力は精々下級魔法一回分を超えるかどうかという低燃費なため、自宅だけでなく旅先でも利用できる便利な力と言える。ネディは魔力量が多く、仮にスペランツァの町で渇水するようなことがあってもそれを補うことすら可能だろう。
そんなネディだからこそ、レウルスの自宅でも水魔法を使用する頻度が高い――のだが。
「やはりネディ様が……それでは、如何程お包みすればその聖水をお譲りいただけますでしょうか?」
「…………」
精霊教徒から投げかけられたその言葉に、レウルスは思わず沈黙する。
サラとネディが風呂を沸かすことを考えていたため、一瞬、サラとネディが入った風呂の水が欲しいのかと錯覚しかけた。しかし精霊教徒の表情はいたって真剣であり、レウルスは絞り出すようにして答える。
「……ネディに頼めば、水を出してくれるとは思いますが」
「いえ! 我らのために精霊様のお手を煩わせるわけにはいきません! 余った水を僅かでもお売りいただければと思う次第でして!」
滅相もない、といわんばかりに首を横に振る精霊教徒。その表情は真剣で、瞳に嘘はなく、ただただ真剣だった。
「その……仮にネディが魔法で出した水を渡したとして、何に使われるんですか?」
公的には準男爵、精霊教徒の間では『精霊使い』、そして最近では『龍殺し』などと呼ばれているレウルスだったが、気圧されたようにして尋ねる。ジルバならば付き合いも長いため違った反応ができただろうが、さすがに平常ではいられなかった。
ジルバまでとはいかないが、信仰で目を輝かせながら距離を詰めてくる精霊教徒の姿には強力な魔物やグレイゴ教徒とは違った圧力があった。
「教会には風呂を併設する予定なのですが、そこで使用できればと思っております」
「風呂、ですか」
「ええ! ヴェオス火山には精霊様に祈りを捧げる『祭壇』があったと聞きます! そこでは精霊様に祈りを捧げる前に身を清めていたとも! ならば! 実在するサラ様とネディ様に祈りを捧げる前に! 身を清めるべきでしょう!? その際! 身を清めるための湯に聖水を混ぜたいと考えております!」
興奮した様子で徐々に語調が強くなる精霊教徒。そんな精霊教徒を前に、レウルスは現実から逃げるように視線を遠くへ飛ばす。
(たしかにヴェオス火山の『祭壇』には風呂……というか温泉があったな。祈りを捧げる前に体を洗うってのもわからないではないし、信仰している精霊が魔法で出した水を有難がる気持ちもわからんではない……いや、やっぱりわかんねえわ)
サラとネディに対して家族として接しているレウルスとしては、精霊教徒の心情に共感しにくい部分がある。それでも頼み込んでくる理由は理解できたため、曖昧に微笑んだ。
「俺の一存では判断できませんし、まずはネディに聞いてみますね」
その前にジルバにも相談しよう、という心中で呟くレウルス。大丈夫だとは思うが、一度引き受ければ今後も似たような頼まれごとが頻発する可能性がある。
今回の件もネディに頼めば引き受けてもらえるだろう。しかしその頻度や規模が増していけば負担になるため、レウルスにとって精霊教徒の中で最も頼りになるジルバに相談をしてから返答をするべきだと判断した。
「でも風呂……風呂かぁ……」
精霊教徒の背中を見送りつつ、レウルスはそんな言葉を呟く。
現状のスペランツァの町において、風呂はレウルスの家にしかない。そもそも湯船に湯を張って入浴するという習慣自体廃棄街では浸透しておらず、汗を掻けば水を浴びるか水を含ませた手拭いで体を拭く程度だ。
風呂のために大量の水を用意するのも手間であり、水を温めるにも薪がいる。湯船を作り、設置する場所を確保するのも簡単にはいかない。衛生面で考えれば身綺麗にしておく方が良いだろうが、手間や費用を考えれば気軽に風呂を作ることはできない。
現代日本のように蛇口からお湯が出てくることもなく、湯を沸かすために専用の魔法具を用意することができるのは貴族や裕福な商人ぐらいだろう。
(今の件はジルバさんに相談するとして、コルラードさんに公衆浴場の設立でも提案してみるか?)
水に関してはネディに頼むか、スペランツァの町の傍を流れる小川から引き込んでも良い。用意した水を温めるのはサラを放り込むか、カルヴァン達ドワーフに加熱用の魔法具を作ってもらえばどうにかなりそうだった。
(その場合、コルラードさんは自宅に風呂を作ってくれって言うかもな……アリスの嬢ちゃんの件もあるし)
最近のコルラードとアリスの様子からレウルスはそんなことを思考する。
レウルスの自宅に風呂がある以上、同じ準男爵であるコルラードの自宅に風呂があってもおかしくはない。むしろ率先して作るべきでは、などと考えたレウルスは、ふっと息を吐くようにして笑う。
スペランツァの町の開拓が順調というのもあるが、王都から帰って以来平和な日々が続いている。クリスとティナの扱いに関してもレウルスが思うよりも良い形で落着し、アリスとコルラードも打ち解けた。
このままいけばそれほど遠くない未来――数年のうちにラヴァル廃棄街の面々が移住することも可能となるかもしれない。
今はまだ、足りないものが多すぎる。住民が住むための家屋、多くの人々が食べていけるだけの食料の生産、産業の育成。上を見ればキリがないが、年月を重ねれば最低限生活が可能となる水準まで到達するのは難しくない。
木々を取り除き、畑を広げ、伐採した木材で順次家を建て、ドワーフ達の手を借りて鉱山を見つけ、商人を呼び込み、隣接する町や村、街道との道をつなげる。
ナタリアとのすり合わせが必要だが、資材を運んでくる商人経由で定期的に手紙が送られてくる。必要ならばレウルスがひとっ走りしてラヴァル廃棄街に向かっても良い。
得られる食料が増えるにつれて順次移住を進め、人手を増やして開拓を加速させる。そうすれば今は作業者が多いスペランツァの町も、“普通の町”に近付いていくはずだ。
(そこまで町造りが進んだら俺は何をしてるのかね……領軍はコルラードさんが率いるし、そこに組み込まれるのか? もしくはこれまでみたいにエリザ達を連れて領内を巡回したり、近隣に足を延ばしたり……どうなってるのやら)
生まれ変わって以来、数年後の将来に関して考えることなどなかった。シェナ村で生活していた頃は毎日生き延びることに必死で、ラヴァル廃棄街で生活するようになってからも年単位で未来のことを考える機会が乏しかったのだ。
“これから”のことを思考するように、レウルスは空を見上げる。以前とは関係が変わったこともあり、自分自身の家庭に関して注力するのも良いだろう。じっくりと腰を据えて少しずつでも良いから家族として仲を深めていければ、とも思う。
「……ん?」
柄にもないことだが、とそんなことを思案し――ふと、レウルスは違和感を覚えて空を見上げる。
見上げた冬の空は雲一つない快晴だった。青々とした空に浮かぶものは何もなく、レウルスの視界に映るものはない。魔物が空を飛んでいるということもなく、蒼穹が広がるばかりだ。
それだというのに、妙な違和感があった。レウルス自身、“それ”が何なのか言葉では説明できない。しかし帯電するようにピリピリとした違和感を覚える。
(まさか目で見えないぐらい上空をヴァーニルが飛んでいたり……なんてことはない、か)
『熱量解放』を使って身体能力を引き上げてみても、視界に映るものはない。周囲の様子を確認しても空を見上げている者はおらず、レウルスは『熱量解放』を解きながら首を傾げた。
(なんだこれ……ん? 消えた、か?)
だが、それまで五感を刺激していた違和感が消失したためレウルスは眉を寄せる。再度空を見上げて目を凝らしてみても、気になるものはない。
将来のことを考えて、柄にもなく不安でも抱いたのか。あるいはスペランツァの町の開拓が進むにつれて現れていく変化に戸惑いでもしたか。
(俺の勘違いならいいけど……一応、コルラードさんに報告してから町の周囲の見回りをしておくか)
転生して以来、様々な面で己の勘に助けられてきたという自覚がある。そのためレウルスはそう判断すると、コルラードの姿を探して歩き出すのだった。




