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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
最終章:人間と魔物の狭間で

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第573話:『龍殺し』 その1

 カルデヴァ大陸の大国、マタロイの王都ロヴァーマより北西に五日ほど進んだ平野で行われたグレイゴ教徒との戦いを終え、レウルス達が王都に帰還して五日の時が過ぎた。


 この五日という時間、レウルス達は基本的に借家で待機しており、各々が疲れを癒したり、旅の際に使用した道具の手入れをしたり、武器や防具の手入れをしたりと、のんびりした時間が過ぎたと言えるだろう。

 だが、レウルス達は意味もなく借家で待機しているわけではない。できるならば“故郷”へと戻りたいのだが、亜龍退治の報酬の受け取りや、準男爵になったレウルスの家名や家紋の承認申請など、待たなくてはいけないものがあるからこその待機だった。


 しかしそれもそろそろ終わるということで、レウルス達はいつでも借家を引き払えるよう準備を進めていた――のだが。


「アメンドーラ男爵様、レウルス準男爵様は御在宅でしょうか?」


 そんな言葉と共にヴェルグ伯爵家の家令、セバスが借家を訪れたことでのんびりとした時間は終わりを告げることとなる。

 コロナが取次ぎを行い、居間に通されたセバスを見たレウルスは小さく首を傾げた。


「お久しぶりですね。セバスさんが来たってことは、ルイスさんの方も一段落した感じですか?」


 ルイスは“諸々の件”でドーリア子爵家と揉めていたが、セバスが来たということは何かしらの進展があったということだろう。そう判断してレウルスが問いかけると、セバスは頷きを返す。


「ある程度ではありますが進展がありまして……主がドーリア子爵家の件でお話したいことがあり、お二人の予定の確認をするべく私が参った次第です」

「あー……俺は今のところ暇なんですが、姐さんは?」

「急ぎで片付ける用件はないわね。セバス殿、よければこのまま同行しても?」


 ナタリアが尋ねると、セバスは僅かに沈黙する。おそらくはルイスの予定を思い出しているのだろうが、ほんの数秒で考えをまとめたのかしっかりと頷いた。


「もちろんです。当家の馬車で良ければご利用ください」

「では少しだけ時間をいただきますわ。ニコラ、もしも王城から使者が来たらヴェルグ伯爵家まで報せにきてちょうだい。レウルス、あなたは“忘れ物”がないように……ね?」

「ん? ああ……了解だ」


 ナタリアの意味深な視線を受けたレウルスは、僅かに疑問を抱きつつもすぐに苦笑を浮かべた。


 そして十分とかけずに準備を整えたレウルスとナタリアは、セバスが操作する馬車に揺られてヴェルグ伯爵家の別邸へと向かうのだった。








「やあ……久しぶりだね……」


 久しぶりに会ったルイスは、以前見た時のように少しだけやつれた様子でそんな言葉を投げかけてくる。別人かと見紛うほどではないが、レウルスの目から見ても頬がこけて見えた。


「時間があったんでセバスさんについてきちゃいましたけど……帰った方が良いですか? ルイスさん、顔色がやばいですよ」


 居間に通され、とりあえず椅子に座ったレウルスだったが、日を改めた方が良いのではないかと思う。疲れた様子を見せ、ドーリア子爵家の件に関して“手心”を期待しての演技かと疑ったレウルスだったが、どうやらルイスは本気で疲れているようだった。


「ははは……ちょうど休憩をしたいと思っていたところでね……ああ、セバス、アネモネ、給仕を頼むよ」

「かしこまりました」


 ルイスの指示を受け、セバスとアネモネがそれぞれレウルスとナタリアの前に飲み物と焼き菓子を並べていく。ルイスも自分の分の飲み物を受け取ると、一口飲んでから笑みを浮かべた。


「まずはレウルス君、無事の帰還を嬉しく思うよ。それと申し訳ない。君達が戻ってきたことは王都の住民が噂していてすぐにわかったんだけど、少し……いや、正直に言えばかなりごたついていてね。日が経ったことを詫びさせてほしい」

「疲れを取るのに丁度良かったですし、気にしないでください」

「そう言ってもらえると助かるよ……それで、君達の戦いに関しても気になるけれど、まずはこちらの話をさせてもらっても構わないかな?」


 そう言いつつルイスが視線を向けるのは、ナタリアではなくレウルスである。ナタリアはレウルスの後見人という立場だが、ドーリア子爵家――正確に言えばセラスが行った蛮行による被害者はレウルスなのだ。


 しかし、レウルスはそれに待ったをかける。


「あれ? そういえばドーリア子爵家に関しては俺達が不在の間、姐さんがルイスさんと一緒に対応していくって話だったような……姐さん?」


 ここにきてレウルスはナタリアから何も話を聞いていないことに気付き話を振った。すると、ナタリアは小さくため息を吐く。


「“亜龍退治”の件に関して色々と根回しをしていて話す暇がなかったの……というのは言い訳で、あまり気味の良い決着とは言えなくてね。帰ってきたばかりのあなたに聞かせるのもどうかと思ったのよ」

「……姐さんがそう言うってことは、かなりの問題なんだな?」

「問題……そうね、問題と言えば問題かしら」


 珍しいことに、歯切れ悪く言葉を濁すナタリア。そんなナタリアの様子にレウルスは不思議そうな顔をするが、ルイスが助け舟を出すようにして言葉を挟んでくる。


「レウルス君、セラスの一件が何故起こったかは……」

「宮廷貴族が一枚噛んでて、例のセラスって女性を言葉巧みに“暴発”させたんですよね? ついでに言えばセラスって女性の母親も……?」


 レウルスがソフィアから聞いた話を口にすると、ルイスは苦笑を浮かべながら頷く。


「うん、そうなんだ。宮廷貴族が絡んでいたんだが……そこまで手を打っていた時点で気付くべきだったよ」

「……と、いうと?」


 レウルスが問いかけると、ルイスの表情が変わる。真顔になったかと思うと、その表情に悔しさを滲ませた。


「王都から逃げ出した“ドーリア子爵家の御令嬢”だけど、王都近辺で訓練をしていた近衛兵が偶然見つけたらしくてね」

「へぇ……偶然ですか」

「ああ、偶然さ。まったくもって都合の良い偶然だよ……で、その際に激しく抵抗したらしい。近衛兵も“やむなく”斬るしかなかったそうだよ」

「……近衛兵ってのは、素人の女性が暴れたら斬らなきゃいけないぐらい腕が悪いんですか? 素手で取り押さえることぐらいできそうなんですが……」


 思わず、といった様子でレウルスが尋ねる。その表情には呆れの色が浮かんでおり、ルイスも似たような表情を浮かべながら紅茶を一口飲んだ。


「ふぅ……娘を唆して君やルヴィリアを殺しかけ、精霊様を危険に晒したんだ。罪状を告げて、実家であるドーリア子爵家にも累が及ぶと通告したら暴れたらしい」

(伝聞っぽい感じなのは……ルイスさんも後になって知らされたってことか。しかしどう考えても口封じにしか聞こえなかったが……宮廷貴族の口車に乗ったのは母親の方で、セラスは言わば“道具”だったのか?)


 もしかするとセラスの母親が王都を脱出したのも、宮廷貴族の手引きだったのかもしれない。


 問題は、宮廷貴族と一口に言ってもどこの誰が“音頭を取った”のかだが――。


(ルイスさんの口振りと姐さんの様子を見る限り、尻尾は捕まえられなかったか…‥)


 そう思考したレウルスは、うん、と大きく頷いた。


(姐さんとルイスさんで無理なら仕方ないな。相手が何枚も上手だったってわけだ)


 宮廷貴族には領地も武力もないが、謀略という一面においてはナタリアやルイスでも歯が立たなかったのだろう。“その方面”に才覚はないと自覚するレウルスは、二人が駄目だったのならば諦められる。


「それじゃあ娘……セラスの方はどうなるんです? 一命は取り留めていましたよね?」

「……準男爵と伯爵家の次女、そして精霊様を殺そうとしたんだ。コレだよ」


 そう言って、ルイスは手刀を自身の首に当てた。


「なるほど……そうなりますか」

「ああ……セラスよりも下の妹に関しては無関係だと判断されたけど、母親は近衛兵相手に暴れて殺され、姉は罪を犯して斬首だ。貴族の子女として将来は絶望的だよ」


 既に縁が切れているとはいえ、元は異母兄妹だったからかルイスの表情も固くなっている。


「それと、近日中にドーリア子爵が王都に来るらしいんだ。早馬を出してはいたけど、今回の件に関して“協議”したいと返答があったらしくてね」

「協議? 一体何を協議するっていうんです?」

「実の娘と孫があれだけのことを仕出かしたんだ。まずは当家とレウルス君に対する和睦の打診、そこから賠償に関して話して……折り合いがつけば正式に和睦って感じかな?」

「……もし、折り合いがつかなければ?」


 セラス達を王都に追いやったという“過失”はあっても、ドーリア子爵としては娘と孫が大問題を引き起こすとは思いもしなかっただろう。多少の問題はあっても、他家の人間を殺しかけるような事件を起こすとまでは考えなかったに違いない。


 そのためドーリア子爵も素直に非を認めるかわからないとレウルスは思ったのだが、ルイスの考えは違うらしく、なんとも言い難い顔で苦笑を浮かべた。


「当家だけでなく、グリマール侯爵殿や他の南部貴族も巻き込んだ戦に発展するかもしれないね……その場合、西部貴族はどこまでドーリア子爵を庇うかな?」

「そうなった場合、当事者だから俺も参加するんですよね? あとは……姐さんも?」


 ドーリア子爵家にどれだけの戦力があるのか、マタロイ西部の貴族がどれだけの戦力を抱えているのか、レウルスにはわからない。しかし、生半可な戦力ならばナタリア一人で十分に釣りが返ってきそうだと思った。


「そうなるね。ただ、精霊教と深いつながりがある上に、最近は『龍殺し』と噂されている君を敵に回すぐらいなら最初から和睦を選択すると思うよ」

「そうなんで……ん? 今、なんか変な名前が出てませんでした?」


 聞き間違いか、と思いながらレウルスが尋ねる。


「おや、知らないのかい? 数日前から王都の住民の間で『龍殺し』という名前で色々な話が出回っているんだ。繰り返しになるけれど、君のことを噂しているみたいだね」


 するとルイスは目を丸くして、そんなことを言うのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最終章とか書くのやめてくれない? 寂しくなるじゃん
[気になる点] 最終章ですと? [一言] 真の最終章が待ってる展開ですね、きっと。
[気になる点] さ……最終……章!?( ̄□ ̄;)!!
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