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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第565話:果たすべき約束 その7

 レンゲにとどめを刺したレウルスは、間違っても“残った部分”が動き出したりしないことを確認し、深く安堵の息を吐く。そして再度ブレインやレベッカ、翼竜も死んでいることを確認すると、『熱量解放』を解いた。


「ふぅ……どうしたもんかね」


 思わず、といった様子でレウルスが呟く。


 グレイゴ教徒の主力と思しき面々はおおよそ仕留めたが、エイダンは取り逃がし、他にも司祭や助祭、信徒が残っている。主力の大半を失った上で襲ってくるのか、それとも逃げ出すのかはわからないが、相手の正確な数もわからない以上自分達から仕掛けるというのも難しいものがあった。


(今からエイダンを追って……いや、血の跡を追っても捕捉するのは難しいか?)


 そう思いつつ、レウルスはサラに視線を向けた。


「サラ、俺達がいる場所から遠ざかっている熱源は存在するか?」


 エイダンはサラの熱源探知を誤魔化せるが、重傷を負った状態でそこまで気が回るかは不明だ。そのためサラに話を振ったものの、サラは首を傾げている。


「んー……いない……っぽい? さっきまでは移動していた熱源があったんだけど、“急に消えちゃった”から……他の熱源ならあちこちにあるわよ?」

「そう、か……それなら仕方ないな」


 サラでも追えないとなると、最早お手上げだろう。レウルスは土の壁を生み出す際に穴に飛び込んだミーアを引き上げつつ、ため息を吐く。


「ジルバさんは大丈夫じゃろうか?」


 そんなレウルスを見詰めながら、エリザが疑問を口にした。その疑問に対し、レウルスは小さく苦笑を浮かべる。


「俺が生きてるんだ。ジルバさんが死ぬわけないだろうし、大丈夫だろ……ああでも、怪我して動けなくなってる可能性もあるか。ティナ達も気になるが、どうしたもんか……」


 ジルバは『治癒』が使えるが、重傷でそれどころではない可能性もある。その場合、事前に用意した魔法薬が役に立つだろう。


(そういえば、ルイスさんからもらった『魔石』も使うことはなかったな……王都に戻ったら返した方が良いのかね?)


 そんなことを考えるレウルスだったが、戦いが終わったわけではない。自身の状態を手早く確認すると、再度ため息を吐く。


(魔力は……けっこう減ったな。戦っていた時間が長かったのもあるけど、エリザ達に魔力が流れたからか? 半分……いや、四割ぐらいは残ってる感じがするけど……)


 今の状態からどれだけ残っているかもわからないグレイゴ教徒を“狩り出す”となると、少しばかり不安が残る。だが、元々の目的地も確認する必要があるため、このまま退くという選択肢は取れなかった。


「……あっ。なんか、熱源が一つこっちに向かってきてる」


 思考するレウルスの耳に、そんなサラの声が飛び込んでくる。それを聞いたレウルスは即座に思考を切り替えると、ラディアを握る手に力を込めた。


「どっちだ?」

「あっち……って、あれ? ジルバじゃない?」


 サラが視線を向けたのは、ワイアットと戦うためにジルバが駆け去ったのとは別の方向だった。東に向かったと思えば北西から姿を見せたジルバに、レウルスは首を傾げる。


(……魔法人形ってオチはないだろうな? っと、アレは……)


 森の木々の合間から姿を見せたジルバは、右手に何かを――赤い槍を握っていた。それはエイダンが使用していたもので、ジルバはレウルス達に気付くとすぐさま駆け寄ってくる。


「みなさんご無事でしたか……失礼いたします」


 そして、駆け寄ってくるなり槍を放り捨て、膝を突いたかと思うと自身の胸に右手を当て、サラとネディ、ラディアに向かって祈り始める。そんなジルバの行動にレウルスは頬を引きつらせながら尋ねる。


「……ジルバさん? 一応、まだ戦いは続いているわけですが、一体何を……」

「申し訳ございません。ですが、私の胸から溢れ出しそうになるこの想いを少しでも発散したいと思いまして……精霊様の深い御心に感謝を捧げております」

(うん、よくわからんが間違いなくジルバさん本人だ。魔法人形じゃねえわ)


 レウルスはいつでも振るえるように構えていたラディアの切っ先を地面に向けながら、そんなことを思う。


 ――それと同時に、ジルバから濃密な血の臭いを嗅ぎ取った。


「ジルバさん、その槍の持ち主は……」

「仕留めました。大司教を仕留めた後、向かってくるグレイゴ教徒を仕留めて回っていたのですが、“進んだ先”で発見しましてね。中々の手練れでしたが、重傷を負っていたので仕留めるのは容易でしたよ」

「進んだ先で……」


 エイダンが撤退する際の進路に偶然ジルバがいたのか、それともジルバのグレイゴ教徒に対する嗅覚がそうさせたのか。あるいは――。


「ジルバさん、仕留めたグレイゴ教徒の中にレベッカの……いや、何でもないです」


 エイダンが撤退することを見抜いてジルバを“誘導した”可能性に思い至ったレウルスだったが、言葉を切って頭を振る。仮にそうだとしても、それを問い質す相手は既にこの世にいないのだ。


 ジルバはそんなレウルスの態度に首を傾げていたが、サラとネディ、ラディアへの祈りを済ませて立ち上がる。そして周囲を見回してレウルスに笑いかけた。


「司教が二人に翼竜、アレは魔法人形ですか……成長しましたね、レウルスさん」

「……いえ、今回頑張ったのは俺じゃなくてエリザ達ですよ」


 ジルバの言葉にレウルスは曖昧に笑う。


 ブレインを殺したのはレベッカだ。エイダンに重傷を負わせ、レベッカや翼竜、レンゲにとどめを刺したのはレウルスだが、全て自力で倒したのかと問われれば首を縦に振ることはできない。


(後でエリザ達を褒めて甘やかしてやらないとな……)


 レウルスが指示を出した面もあるが、エリザ達は一人として欠けることなく切り抜けた。ジルバは成長したというが、それはエリザ達の方だろうとレウルスは思う。


 そこまで考えたレウルスは、ふと、その視線をジルバに向けた。


「ところでジルバさん、グレイゴ教徒を仕留めて回ったって言いましたけど……何人仕留めたんですか?」

「大司教が一人、司教が一人……あとは戦った際の技量から考えて司祭が二人、助祭が五から七人、それ以下は数えていませんね。二十は超えていないと思うのですが」

(……道理で血の臭いが濃いわけだ)


 涼しい顔をしながら言ってのけるジルバだが、服の袖口から血が一滴、滴り落ちるのを見てレウルスは頬を引きつらせる。


 ジルバはそんなレウルスに笑いかけたあと、不意に視線を鋭いものに変えて振り返った。


「あとは司教が二人、数に加わるかもしれませんね」


 そう言いながらジルバが視線を向けた先。そこには気を失った様子のクリスと、そんなクリスを抱えるティナの姿があった。一体何のつもりなのか、レウルス達の方へと近付いてきている。


 他のグレイゴ教徒の姿はなく、レウルスは自然と険しい顔付きになる。


(逃げれば良いものを……なんでこっちに来たんだ)


 エリザ達と戦っていたとは聞いたが、他の司教や大司教であるワイアットまで死んだ以上、撤退してもおかしくはないだろう。それだというのに姿を見せたクリスとティナにレウルスは内心で舌打ちを叩くと、ラディアを右肩に担ぐようにして構えた。


 クリスはともかく、ティナはそれなりに長い期間を共に過ごした間柄だ。それでも姿を見せた以上、戦うしかない。


 ジルバが傍にいなければ、わざと見逃すこともできたのだが。


「レウルスさん」

「……ええ、わかっています。エリザ達に殺させはしませんが、俺は――」

「あの二人は連れ帰りましょう」

「斬れます……って、え?」


 だが、ジルバから飛んできた言葉にレウルスは思わず動きを止めた。そしてジルバの顔をまじまじと見つめ、混乱したように思考を巡らせる。エリザ達もまた、おかしなことを聞いたと言わんばかりに目を見開く。


(連れ帰る? “あのジルバさん”が今、グレイゴ教徒を……しかも司教を連れ帰るって言ったのか?)


 レウルスが知るジルバならば到底口にしないような言葉だ。故に、レウルスは即座に『熱量解放』を使いながらジルバから距離を取り、エリザ達の前に立つ。


「――魔法人形だったか。ずいぶんと出来がいいじゃねえか」


 危うく騙されるところだった、とレウルスは殺気を滾らせる。エリザ達も同様に、警戒した様子で戦闘態勢を取った。


 “そうでなければ”ジルバがそんなことを言うはずがないという信頼が、レウルス達の中にはあったのだ。


 だが、ジルバは微塵も動じることはなく、顎に手を当てながら目を細める。


「私が仕留めた司教が気になることを言っていたんですよ。今回の件、グレイゴ教徒からすれば明らかに失敗のはずですが……最善ではないが次善ではある、とね。殺すのは容易ですが、殺すにしても情報を吐かせてからにしないと危険でしょう?」

「……なるほど」


 一応、納得のできる話ではある。それでもレウルスは完全に警戒を解かず、距離を開けたままで一つ尋ねることにした。


「でも、それなら連れ帰る必要はないんじゃないですか?」


 暗にこの場で情報を聞き出せば良いのではないか、という意図を込めた言葉。しかし、ジルバはその問いかけに対して首を横に振ると、その視線を遠くへ向けた。


「どうやら時間がないようですからね」

「時間? 一体何を……」


 レウルスは不思議に思って尋ねるが、それに反応したのはジルバではなくサラだった。


「あれ? 熱源が増えて……一つ、二つ……うぇっ!? れ、レウルス? なんか熱源が増えたと思ったら減ってる!」

「増えたのに減ってる?」

「うん! わたしが感じ取れる範囲の外から熱源が来て、“元々あった熱源”に向かったと思ったら消えちゃった!」


 混乱した様子で叫ぶサラ。それを聞いたレウルスがジルバに視線を向けると、ジルバは肩を竦める。


「王都に戻ったらソフィア様に拳骨を落としましょう……どうやら国軍が動いていたようです。距離がありますが、武装した大人数が移動する音が聞こえました」

「……国軍が?」


 そこまで言われ、聴覚に意識を集中したレウルスは遠くの方から金属同士がぶつかるような音を拾った。意識しなければ聞き逃すようなその音に、レウルスは眉を寄せる。


「あの二人を連れて帰るっていうのも……」

「放っておいたら殺されそうですしね。あのティナという司教はレウルスさん達と一緒に王都で過ごしていたのでしょう? 業腹ですが……準男爵であるレウルスさんが味方であると伝えれば連れ帰れると思います。無論、情報が得られない代わりにこの場で殺すという選択肢もありますがね」


 情報は欲しいが、司教を連れ帰る“危険性”に見合うかはわからない。そのためどうするべきか逡巡するレウルスだったが、エリザがおずおずと口を開く。


「レウルス……ティナはその、ワシを助けてくれて……」

「……ああ、そうだったな。クリスの方は……気絶してるのか? というか、アイツらはなんでこっちに来たんだ?」


 ジルバが話していた『最善ではないが次善ではある』という話に関しても、情報が欲しい。そのためならある程度の危険は仕方がないとレウルスは判断した。


 レウルスはため息を吐き、ティナに向かって手招きをする。襲い掛かってくる可能性を考慮してラディアを鞘に納めることはしないが、ティナはバツが悪そうな顔をしながらゆっくりと歩み寄ってきた。


 ――それと同時に、レウルスは近付いてくる“知った魔力”を感じ取る。


「ティナは、その……」

「とりあえずコレで治療をしてろ。あとは静かにしてれば誤魔化してやる……クリスが起きたら口を塞いでくれよ?」


 レウルスは持っていた魔法薬をティナに渡すと、その視線を近付いてくる魔力へ向けた。相手もレウルス達の魔力を感じ取っていたのか、その足取りに迷いがない。


「久しい、と言えるほど長い別れではなかったが……無事で何よりだ」

「……ベルナルドさん」


 そして、武装した状態で姿を見せたベルナルドに、レウルスは内心でため息を吐くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 囮に使われたな、こりゃ
[良い点] ジルバさんの揺るがない信仰心(笑) ジルバさん、大好きです [気になる点] 国軍の動きですね 次回が気になります [一言] ティナがとりあえず助かって良かったです 青筋立てたジルバさんが近…
[良い点] ジルバさんの純粋な信仰心に笑…いや、涙しましたw [気になる点] 国がレウルスたちを囮(悪く言うと捨て駒)にしていたのは分かりますが、 精霊をも利用しているというのは、精霊教徒が暴れそうな…
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