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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第536話:準備 その1

 ソフィアを交えて様々なことを話し合った日の翌日。


 レウルスは朝から正装で身を包み、三度目となる王城への訪問を行っていた。その傍らにはナタリアだけでなくソフィアの姿もあり、王城の一階にいた貴族や文官が一体何事かと目を丸くしている。

 しかしレウルス達は周囲からの視線を気にも留めず、“件の依頼”に関して話があると伝え、応接間に通された。


「これはこれは、アメンドーラ男爵殿にレウルス準男爵殿。昨日に引き続きまたお会いしましたな。それに……ファルネス侯爵殿もご一緒か」


 そして、応接間でしばらく待っているとフィオリ侯爵が姿を見せる。フィオリ侯爵はソフィアの顔を見て僅かに眉を寄せたが、すぐさま表情を平静のものに戻し、レウルスへ視線を向けた。


「準男爵殿の家名と家紋に関してではなく、陛下が仰られた依頼に関する話があると聞いたのだが……」


 そう言って首を傾げるフィオリ侯爵だったが、その瞳には若干の警戒の色が浮かんでいる。レウルスとナタリアだけでなく、ソフィアが一緒にいることに対して何かしら思うところがあるのだろう。


「ええ……色々考えたんですが、わざわざ国王陛下に指名してもらったわけですし、受けないのも不義理と思いましてね」

「おお……ということは、受けてもらえると思っても?」


 レウルスが話を切り出すと、フィオリ侯爵は驚いたように目を見開き、念を押すように尋ねる。それを聞いたレウルスは不敵に見えるよう口の端を吊り上げ、笑みを浮かべた。


「魔物退治なら任せてくださいよ。相手は亜龍という話でしたが、倒した場合はその死体をいただいても? 亜龍ならさぞ食べ応えがありそうですしね」

「ん? 食べ応え? ……も、もちろん構わんとも。ああ、それとは別に報酬も用意するし、準備が必要というのなら支度金も用意するからの。報酬に関して希望があるなら聞いておくが……」


 レウルスの発言を聞いて動揺した様子のフィオリ侯爵だったが、すぐさま取り繕って報酬の話に移る。レウルスはそんなフィオリ侯爵の言葉に数秒沈黙し、恥ずかしそうに頬を掻いた。


「それなら金でもらえると助かりますね……いえ、昨日ソフィアさんがうちを訪れましてね? 精霊様と『契約』を結んでいる身なのだから何かあったら困る、戦うことを止めはしないがせめて治療の手段を持てと怒られまして。高価なんで買えなかったんですが、『治癒』の魔法薬を買いたいんですよ」

「……ふむ、ファルネス侯爵殿がそんなことを」

「はい。それに、先日の件で毒を浴びたでしょう? なんとか無事だったわけですけど、後々振り返って考えてみると回復手段は重要だな、と思いまして。それに、王都を見て回ったら“辺境”にはない物がたくさんあるじゃないですか。あれも欲しい、これも欲しいと思っても先立つものが……ね?」


 そう言いながら人差し指と親指で“輪っか”を作ってみせるレウルス。相槌を打つようにして話を聞いていたフィオリ侯爵は、苦笑を浮かべながら顎を撫でた。


「ふぅむ……それならファルネス侯爵殿が融通するのも手だと思うのだが。『精霊使い』と呼ばれる貴殿ならば、大教会も喜んで支援をするであろうよ」

「いえいえ、俺はあくまで精霊様と『契約』を結んでいるだけですからね。自分で稼げる機会があるなら稼ぎますよ。だから報酬は金で……もちろん、“依頼の難しさに見合った”報酬をもらえると思って良いんですよね?」

「それは当然のこと。失礼に聞こえるかもしれんが、王軍を動かして対処する費用と比べれば貴殿一人に報酬を支払う方が安上がりでな……もちろん、王軍を動かす費用より安いとはいえ、準男爵一人に渡す報酬としては破格のものになる」

「おお……それは夢が膨らみますねぇ。ああでも、俺一人だと探すだけでも一苦労ですし、いつも一緒にいる仲間も同行させたいんですよね。厚かましいですが、その分の報酬もいただけると嬉しいんですが……」


 レウルスがそう言うと、フィオリ侯爵は苦笑を深めながら頷く。


「依頼したのがこちら側である以上、そのぐらいなら請け負うとも。ただ、“亜龍の被害”が出ると困るでな……なるべく早くに対処してもらえると助かるのだが」

「それはもう。二、三日中には出発しますよ。亜龍が“移動していないと良い”んですけどね」


 急かすようなフィオリ侯爵の発言にそう返したレウルスは、数秒経ってから少しだけ申し訳なさそうな顔をする。


「ただ、家名と家紋の件に関してはもう少し待ってもらっても良いですか? 亜龍なら大丈夫だと思いますけど、絶対はないですし……もし死んでしまったら手続きの手間が無駄になるでしょう?」

「……貴殿がそう言うのなら、そのようにしておこう。是非とも無事に戻ってきてくれたまえよ?」

「ええ、それはもう……ただ、“今回みたいな話”はこれっきりにしてほしいですね。王都は魅力的ですけど、アメンドーラ男爵殿の領地で町作りをしたいんで……」


 レウルスが不満そうな顔をすると、フィオリ侯爵は鷹揚に頷いた。


「さすがに今回のような面倒事は中々起きないから安心したまえ……ああ、面倒事といえば、ドーリア子爵家の件だが。君が不在の間はどのように対応した方が良いかね?」

「そうですね……一番被害を受けたのがヴェルグ伯爵家ですし、こちらの対応はアメンドーラ男爵殿に一任して、ヴェルグ伯爵家を立てながら対応していく感じでどうでしょう? あっ、そういえば精霊教側はどうします?」

「『精霊使い』様の御意思通りにいたしますわ。“今回の話”もきちんと聞き届けましたし、大精霊様に誓って破ることはないと保証いたします」

「ではアメンドーラ男爵殿と協力をお願いする形で……フィオリ侯爵殿もそれで大丈夫ですよね?」


 微笑みながら答えるソフィアに、レウルスも笑顔で答えて話をフィオリ侯爵へと振る。フィオリ侯爵は数秒悩む素振りを見せたものの、最後には薄く微笑みながら頷くのだった。








「……で? あれで本当に良かったのか?」


 王城を後にしたレウルスは、ニコラが操る馬車に乗り込むなり正装の首元を緩めながらそんな質問をナタリアへと投げかける。その手には大きな革袋が握られており、レウルスが馬車の床に置くと重たい音が響いた。


 準備のための支度金ということで早速渡されたが、中には大金貨が五十枚――レウルスの感覚で言えば五千万円ほどの価値がある金銭が入っており、王都内の商店で買い物をするのならばその倍まで支度金として出すと言われ、頬を引きつらせたくなったのは内緒である。


 金ってあるところには本当にあるんだなぁ、などと思いながら問いかけたレウルスの言葉に、ナタリアは苦笑しながら頷く。


「向こうとしても妥協できる範囲でしょうし、十分だわ」

「そうは言うけど……金の亡者になったみたいでちょっとなぁ」

「割と乗り気で演技してたように見えたわよ?」


 そう言ってからかうように笑うナタリア。馬車に同乗したソフィアは、どこか不満そうに唇を尖らせる。


「もう少し報酬を引っ張り出せたのに……今からでも他所の領地で魔物を狩れる権利、もらってくる?」

「いや、よくよく考えたらそれって今回の件みたいなことに利用されそうだし、いらないです」

「チッ……」


 レウルスから視線を外して舌打ちをするソフィアの姿は、間違っても侯爵家の当主とは思えないガラの悪さだった。


 レウルスとしては他所の領地で魔物を狩れる権利というのは“美味しそう”に思えたが、どこぞの領地に強い魔物が出たからと応援を要請され、行ってみたらグレイゴ教徒だった――というような“今回と同様の手口”に嵌りたくない。


 一度やれば二度目はないと思うものの、それを逆手にとって再度危険な場所に放り込まれては堪らないのだ。

 今回ばかりはソフィアの“口車”に乗るが、敢えて危険で面倒な場所に飛び込む気はないのである。


「とりあえず、今回みたいな話はこれっきりってソフィアさん立ち合いのもとで承諾を得ましたし、良しとしますよ」

「仮にゴネたり、自分は話を聞いたけど他の者はそうではない、なんてことを言ったら対処するから任せなさい。遠くのグレイゴ教徒より近くの精霊教徒の方が面倒で厄介だって教えてあげるから」


 冗談なのか本気なのか、ソフィアはそう告げる。


「でも、本当に金が欲しいのなら融通するわよ? そうねぇ……大教会の方で寄付を募れば“その程度の金”ならすぐに集まるし、何ならアンタの頭まで大金貨を積んであげるわ」


 そう言ってレウルスが放り出した布袋を指さすソフィアだったが、レウルスは真顔で首を横に振った。


「依頼に見合った報酬なら受け取りますけど、そんな理由で集めた金ならいらないですね。もらう義理もないですし」

「……せっかく金に弱い感じでフィオリ侯爵と話したんだし、もうちょい引っ張ってよ」


 金で懐柔してどうするつもりだ、とレウルスは呆れるような視線を向ける。するとソフィアは悪戯っぽく笑った。


「あ、ちなみに今の話は本当だからね? アンタが望むのならそれぐらいの金は集まるし、アンタ個人で見れば大金かもしれないけど、それなりの領地を持つ貴族からすれば大した額でもないんだからね?」

「欲張っても良いことないでしょうよ……フィオリ侯爵に言ったことを実行するわけじゃないですけど、とりあえず魔法薬とかを買える金があれば十分ですって。あと『魔石』とか欲しいですけどね」


 そう言いながらレウルスが思い浮かべたのは、以前ナタリアが使っていた『魔石』である。魔物を仕留めてその肉を喰らうのも良いが、魔力の塊とも言える『魔石』が手に入るのならばわざわざ魔物を狩って回る必要もないと思ったのだ。

 ただし、『魔石』は質によって値段が大きく変化するため、今回のように大金を得なければ買うことも難しい。元々貯蓄していた金でも買えないことはないが、スペランツァの町やラヴァル廃棄街では『魔石』を売ってくれる者もいなかったのだ。


 『魔石』を取り扱う商人が訪れるのを待つよりも、ドワーフに頼んで採掘してもらった方が早く手に入るのではないか、と思うほどである。


「……まあ、報酬に関しては横に置いておきましょう。問題はジルバさんですよ……二、三日中には出発しますって言いましたけど、本当に到着するんですか?」


 金は汚いもの、などと言うつもりは微塵もないが、レウルスとしては将来の報酬よりも目先の戦力の方が大事だ。そのためソフィアに尋ねると、ソフィアは唇に指を当てながら視線を宙に向けた。


「わたしの計算だと、遅くても出発までには来ると思うわよ? 早ければ――」


 ソフィアがそこまで言った途端、ニコラが操る馬車が急に減速する。それに何事かとレウルスが視線を向けてみると、馬車の進む先に人影が見えた。


「明日には来る……と、思ったんだけど……来たわね」


 そこには、レウルスと共にいるソフィアを真顔で見据えるジルバが立っていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔石、食うの?
[一言] そろそろジルバの本気が見れそう。 もともと対人が得意って言ってたしね。
[一言] グレイゴ教いる所ジルバ有りwwwwwww
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