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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第521話:追跡者 その1

 ゴトゴトと音を立てながら進むヴェルグ伯爵家の馬車。その馬車から距離を取ってついてくる馬車の姿に、レウルスは小さくため息を吐く。


「一体どこの誰だよ……コルラードさんに渡す土産の胃薬が買えねえじゃねえか」

「土産が胃薬というのもどうなんじゃろうなぁ……いやまあ、あの御仁への土産ならそれが相応しいと思ってしまうのが何とも言えないんじゃが」


 冗談混じりにレウルスが呟くと、エリザが苦笑しながらツッコミを入れる。レウルスとしては、欠片も冗談ではないのだが。


「えっと……レウルス様? レウルス様を信じていないわけではないのですが、先ほどの話は本当なのですか? ……本当に信じていないわけじゃないですよ? 本当ですよ?」


 念押しするようにレウルスを信じていると言いつつも、確認のために尋ねるルヴィリア。その問いかけを受けたレウルスは、馬車の窓から後方を眺めながら御者台のセバスに声をかける。


「セバスさん、焼き菓子を売ってる店に行くまでに何回か道を変えてもらっていいですか? できれば俺達が立ち寄ってもおかしくなさそうな、武器とか扱っている店の前で止まってもらえると助かるんですが」

「かしこまりました。お任せください」


 レウルスが声をかけるなり、セバスが手綱を操って進路を変更する。さすがは王都と言うべきか店があちらこちらにあるため、セバスもレウルスの注文通り武器や防具、更には軒先で果物などを売っている店を通るルートで馬車を走らせていく。


 不自然にならないようヴェルグ伯爵家の馬車が道を曲がり――追跡してくる馬車も道を曲がる。


 物は試しにと店先で馬車を止めてみると、後方の馬車もそれに気付いたように馬車を止める。


 レウルスは果物屋の前で止まったのを良いことに馬車の扉を開けると、外に出て店員と思しき女性に声をかけた。


「すいません、そこの籠に盛られている果物を全部いただけますか?」

「は、はい……」


 突然馬車から下りて注文してくるレウルスに店員の女性は目を白黒とさせていたが、言われた通り果物を売る。レウルスは懐に手を入れて財布代わりの布袋を漁りつつ、馬車からの視線に注意を払った。


(視線は感じるけど……さっきと比べると敵意は薄いか?)


 そんなことを考えながらも布袋から銀貨を取り出して店員に渡し、籠ごと果物を受け取ると、馬車に乗り込んで扉を閉めた。


「それじゃあセバスさん、出してください」

「はっ」


 再びヴェルグ伯爵家の馬車が動き出し、僅かに遅れて後方の馬車も動き出す。それを窓から確認したレウルスは、購入した果物に齧り付きながら眉を寄せた。


「露骨だなぁ……お、これ美味いな」


 オレンジ色をした謎の果物――形状はリンゴに似たものを齧り、レウルスは不満と喜びを等分に表す。前世で食べたリンゴほど甘くはないが、自然の甘味と酸味が程よい。折角だから家に帰ったらコロナにも食べてもらおう、とレウルスは頭の片隅で思考した。


「レウルス、わたしも食べたい!」

「……ネディも」

「あいよ。汁を零して椅子を汚すなよ?」


 サラとネディにリンゴもどきを渡したレウルスは、その視線をルヴィリアへと向ける。


「実はこっそり……いえ、目立ってますけど、後ろの馬車にルイスさんが乗ってたりしません? 俺とルヴィリアさんの行動を見張ってたりとか……」

「いくらお兄様でもそんなことはしない……と思いたいのですが……」


 後ろの馬車からは魔力を感じないため冗談でしかないのだが、ルヴィリアは少しだけ真剣に考えて答えた。妹可愛さに追跡してくる可能性はゼロではないのかもしれない。


(でも、ルイスさんならこんな露骨な真似はしないだろうしな……こうして追跡がバレてるわけだし、情報の受け渡し云々が吹っ飛びそうだし……)


 ルイスどころか、レウルスが知る貴族――馬車を移動手段に用いる者の手腕とは思えない杜撰さだ。人という括りで言えばレウルスが最も警戒するグレイゴ教徒にしても、ここまで簡単に尻尾を掴ませるとは思えない。


「例えばの話なんですが……こっちから向こうに声をかけたらどうなります? さっきからついてきてますけど何か用ですか、なんて言って……貴族的に大丈夫ですかね?」


 いっそこちらから接触してみようかと考えたレウルスがルヴィリアに尋ねると、ルヴィリアは困ったように眉を寄せた。


「偶然と言われてしまえばそれまでですし、相手が家紋を掲げていないというのが厄介なんですよね……」

「というと?」

「声をかけてみたものの、お忍びで外出中の“上位者”……貴族の階位が上という意味でですが、当家よりも上の方が乗られていた場合、厄介なことになりかねません」


 ふむ、とレウルスは呟きを漏らし、思考を巡らせる。


「ヴェルグ伯爵家より上となると……侯爵家や公爵家ですか」

「あとは王族の方ですね。さすがにそれはないと思いますが……」

「俺は一応準男爵家の当主……当主? になるわけですけど、それでも駄目ですか?」


 準男爵といってもその自覚はないが、立場を利用できるのならばそうするべきだろう。そう思ってレウルスが問いかけると、ルヴィリアは複雑そうな顔をする。


「準男爵は準貴族ですから……もしも男爵以上の方が乗られていた場合、かなりの失礼に当たります。レウルス様の場合、精霊教の後ろ盾があるので滅多なことにはならないと思いますが……」

「現状だとそこまで危険を冒す意味も薄い、と……これで相手が直接的な行動に出てくれば楽だったんですがね」


 後ろをついてきた、視線を向けてきた――そんな理由で声をかけるのはリスクが大きいようだ。


(面倒だ……本当に面倒だ……)


 ため息を吐きたくなるのを堪え、レウルスは頭を振る。


 そうしている内に馬車が減速し、今度は刃物を扱っている店の前で停止した。刃物といっても武器ではなく、包丁などの生活用品である。

 レウルスは再度馬車の扉を開けて外に出るが、追跡してくる馬車が停止しているのを横目で確認してからルヴィリアへと手を伸ばした。


「サラはそのまま馬車に乗っていてくれ……ルヴィリアさん、一緒に出てもらってもいいですか? セバスさんは馬車前方の警戒をお願いします」

「え、と……外に出ても大丈夫ですか?」


 相手が敵意を抱いているのが誰なのかを確認するために声をかけると、ルヴィリアは戸惑ったように尋ねる。それを聞いたレウルスは笑みを浮かべて左手を差し出した。


「ええ。何かあっても俺が守りますから」

「っ……は、はいっ!」


 ルヴィリアは嬉しそうに微笑みながら馬車から下りてくる。レウルスはそんなルヴィリアの手を取って自身の方へと引き――強い、敵意のこもった視線を感じ取った。


(これ、狙いは俺じゃないな……ルヴィリアさんか)


 自分に向けられているわけではないが、レウルスは強い敵意を感じ取る。


「あー……ルヴィリアさん、結構強めに視線が飛んできてるんですが、何か思い当たる節はありますか?」

「……そもそも、視線の強さってどうやって判断するんですか?」

「え? それは……感覚?」


 思わぬ疑問を受けた、と言わんばかりにレウルスは目を瞬かせた。レウルスの場合は獣染みた直感で“嗅ぎ分ける”が、ルヴィリアからするとそのような芸当はできはしないのだ。


 レウルスはルヴィリアの傍に寄り、店先に並んでいる包丁を指さしながら笑顔を浮かべる。


「相手は多分素人で、魔力はありません。さすがに性別はわかりませんけど、多分、戦ったりはしないんじゃないかな、と思うんですが」

「……それってどうやって判別しているんですか?」

「敵意の“弱さ”ですかね。殺気に近いですけど、これなら下級下位の魔物の方がピリピリきますよ」


 レウルスなりの判断基準を伝えると、ルヴィリアは表情の選択に困ったように視線を彷徨わせた。だが、その際レウルスとの距離が非常に近いことに気付いて瞬間的に頬を赤らめる。


「と、というか、近いです! いえ、それは嬉しいんですが、近いですっ!」

「はっはっは。今更ですねぇ」


 からかうわけではないが、ルヴィリアの反応にレウルスは思わず頬を緩ませた。そうしていると、店の店主と思しき男性が腕組みをしながら鋭い視線を向けていることに気付く。


「どこのお貴族様かは存じ上げませんが、店先で商売の邪魔をされると困りますよ」

「おっと、こりゃ失礼……それじゃあそこの包丁を一本もらいましょうか」


 包丁の種類はよくわからないが、ひとまず良く切れそうなものを選んでレウルスは小金貨を一枚渡す。すると店主の男性は一転して笑顔を浮かべ、木製の小さな化粧箱に包丁を入れて手渡してきた。

 レウルスはルヴィリアを連れて馬車に戻ると、御者席のセバスに声をかける。


「セバスさん、後ろの馬車以外に怪しい動きはありましたか?」

「ありません……ここまであからさまだと、逆に偶然な気もしてきますな」

「それなら取り越し苦労ってことで良いんですがね……」


 そう言ってレウルスは苦笑を浮かべるのだった。








 その後、レウルス達は時折進路を変えながら以前ルイスが語っていた焼き菓子を扱っている店に行き、焼き菓子を購入してから再び当初の目的地である薬屋へと向かった。


 その間、距離の開き具合こそ変動するものの馬車が追跡してきたため、王都の市場を見て回るという観光に相応しくない緊張感を強いられたが、直接手出しをしてくるわけでもないため放置せざるを得なかった。


「んー……本当に目的がわからんなぁ。セバスさん、相手の御者にも見覚えはないんですよね?」

「布地で顔全体が見えないため断言はできかねますが、少なくとも知り合いではないですな」

「いっそのこと、馬車の速度を上げて振り切るとか……危ないから無理ですか」


 これが野外で野盗が追跡してくる、といった状況ならば当の昔に斬って終わったのだろうが、さすがにそんな真似はできない。


 とりあえず後ろの馬車は無視して薬屋に入るか、などと考えるレウルスだったが、今の状況が不満だったのかサラが窓越しに馬車を見る。


「むむむむむ……」

「いきなり唸ってどうした?」

「周囲に熱源の数が多すぎて目が回りそうだけど、後ろの場馬車に乗ってる熱源を頑張って探ってるの……むぅ、大きさがちょっと小さい……かな? 多分……女性? 身長がエリザ以上ルヴィリア未満?」


 どうやって男女の違いを見分けたのかはわからないが、サラは眉間に皴が寄るほど集中しながらそう呟く。これまではレウルスが相手の素性を探っていたが、これ以上は情報が出てこないと判断して探り始めたのだ。


 ただし、場所が市場ということもあって周囲にはたくさんの人がいる。そのため馬車に何人乗り込んでいるかを数える程度ならばともかく、熱源を詳細に探るのはサラとしても辛いようだった。


「エリザさんより背が大きくて、わたしよりは小さい女性……ですか」


 サラの発言に考え込む様子を見せるルヴィリアだったが、その条件に該当する者は王都に数多くいるだろう。少なくともレウルスはそう思ったのだが――。


「まさか……」


 ルヴィリアは何かに思い至ったように呟きを零す。それに疑問を抱いたレウルスだったが、不意にミーアに袖を引かれてそちらへ視線を向けた。


「レウルス君、後ろの馬車の様子がおかしいよ」

「なに?」


 ミーアの言葉に釣られて確認してみると、御者が何やら馬車に向かって声をかけている。それは遠目に見ても慌てているようで、その反応にレウルスは眉を寄せた。


「一体何を……っと?」


 そうこうしているうちに、それまで後を追跡するだけだった馬車の扉が開く。そしてサラが予想した通り一人の女性――少女が姿を見せた。


(誰だ? 知らない顔だが……んん?)


 その顔立ちを確認したレウルスは、僅かな違和感を覚える。初めて見た顔だったが、既視感を覚えたからだ。


(誰かに似ているような……誰だ?)


 グリマール侯爵を初めて見た時はニコラとの血のつながりを感じたが、そこまで“直接的”ではない。それでも知り合いの誰かに似ていると思ったレウルスは、ふと、正面に座るルヴィリアの顔を見た。


「なんでここに……」


 後ろの馬車から下りた少女は年下ながらも、そう呟くルヴィリアにどこか似た顔立ちをしていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 周りからはイチャイチャしてる様に見える距離感よね
[一言] 女性という時点で一安心、と思ったらお身内の方ですか。 サラ頑張ったのになあ……出るならもっと早くしてw
[一言] なるほど、「妹」を心配する「兄」ではなかったといった感じなのかな。
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