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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第513話:伏魔殿 その4

前回の更新に関して、うっかり予約投稿を忘れたのでいつもと違う時間帯に投稿しています。

いつも通り0時の更新だけを確認された方は一話飛んでいる可能性があるのでご注意ください。

 叙爵の儀が終わり、“あの場”は解散となったレウルスは、その足でグリマール侯爵の邸宅へと向かった。


 夕方からレウルスが準男爵になったことを祝うための祝宴が開かれるのだが、その前に味方と思える者達と意見の交換をするためである。


「ふぅ……」


 グリマール侯爵の邸宅で居間に通されたレウルスは、襟元を緩めながらため息を吐く。すると、それを聞いたグリマール侯爵が苦笑を浮かべた。


「改めて……準男爵への叙爵、めでたく思うぞ」

「ありがとうございます……予定外のことがなければ素直に……素直に? 喜べた……というわけでもないですが、とりあえずありがとうございます……」


 支離滅裂になりながらも頭を下げるレウルス。その言葉を聞いた者達は一様に苦笑を浮かべた。


 この場にいるのはマタロイ南部の貴族を取りまとめる立場にあり、なおかつ場所を提供しているグリマール侯爵。当然ながらナタリアも同行し、残る面子はルイスといったレウルスに好意的な貴族、そして――。


「ところで、だ……何故お主までついてきた?」

「む? 久しぶりに顔を合わせたというのになんと冷たい言い草か! そもそも、椅子に座るまで放っておいたのはそちらではないか!」


 さも当然、と言わんばかりに同行したサルダーリ侯爵の姿がそこにはあった。サルダーリ侯爵はグリマール侯爵の発言に不満そうな顔をしたが、執事が紅茶と焼き菓子を運んでくると相好を崩す。


「うむ! マタロイ北部の紅茶も良いが、南部の紅茶もまた味わい深いな! ほう……こちらの焼き菓子も絶品である!」

「……まあ、こやつのことは置物と思っておけ」


 どこか疲れた様子でため息を吐くグリマール侯爵。北部と南部という違いはあるものの、多数の貴族を取りまとめる立場同士だというのにサルダーリ侯爵に対して扱いが妙に雑なのはレウルスの気のせいか。


「しかし困りましたね……まさか叙爵の儀に参加するのがレウルス君だけで、なおかつ国王陛下からあのような話を持ち出されるとは……」


 ルイスはサルダーリ侯爵の姿を見ないようにしながら、慣れた手つきで紅茶を飲み始める。その背後にはアネモネが控えているが、会話に参加する立場ではないからかすまし顔だった。


「そう、それよ。ヴェルグ伯爵殿は今回の件、どう見る?」


 グリマール侯爵としては、頼りになる戦力がマタロイ南部の準男爵として叙されたのだ。直接“懐に手を入れられかけた”ナタリアよりも被害の度合いは少ないものの、国王が相手でなければその場で食って掛かっていたような事態である。


「さて……俺からはなんとも言えません。レウルス君も言っていましたが、亜龍退治ぐらいならベルナルド殿一人でも十分に事足りるでしょう」

「で、あろうな。亜龍が相手では移動していて捕捉できない可能性がある……などともっともらしい話もあったが、それはレウルス殿とて同じことだろう?」

「そうですね……俺の場合、魔物を探すというよりも向こうから突っ込んでくることが多いんで……“探し方”に関してはそこまで自信があるわけじゃないんですよ」


 サラがいるため広範囲の熱源を探知できるが、それも精々四方一キロ程度。仮に捕捉できたとしても、亜龍ならば空を飛んで逃げる可能性もある。


「むぐ……んぐ……万全を期すのなら、レウルス殿とベルナルド殿率いる第一魔法隊を一緒に出せば良いのではないか? 金はかかるが、亜龍がもたらす被害を抑えるという点では妥当だと思うが」

「お主、せめて食べるのを止めてから話さんか……」


 意見を出しながらも行儀が悪いサルダーリ侯爵に対し、グリマール侯爵が呆れたように言う。しかし、サルダーリ侯爵は軽く笑い声を上げた。


「ははは! 出てきた焼き菓子が美味いのが悪いのだ! それに、考えるのは良いが深刻に考えすぎても良くはないと思うぞ!」

「こやつはまったく……北部の貴族達も大変だろうよ」


 無礼と怒鳴るのではなく、諦めたようにため息を吐くグリマール侯爵。それを聞いたレウルスは苦笑を浮かべつつ、サルダーリ侯爵に向かって頭を下げた。


「サルダーリ侯爵様、先ほどはありがとうございました。心強かったですよ」

「なあに、気にする必要はないぞ! 元々はこちらが余計な真似をしたのが原因故な! それに、貴殿をナタリア殿のもとから引き離すようならば北部貴族を代表して物申すつもりだったが、陛下が相手ではその必要もなくて申し訳ないぐらいだ!」


 そう言って笑い飛ばすサルダーリ侯爵に対し、グリマール侯爵は深いため息を吐く。


「それはこちらの役割だが……まったく、何故北部の連中はこやつの世話を焼きたがるのか……」


 ぶつぶつと呟くグリマール侯爵だが、そこまで悪感情を抱いているわけではないのだろう。再度ため息を吐いて気を取り直すと、その視線をナタリアへと向けた。


「アメンドーラ男爵殿からは何かないか?」


 “先日の一件”とは異なり、今回はマタロイ南部の貴族を取りまとめる立場としての態度を見せるグリマール侯爵。これまで発言をしていないナタリアに水を向けるが、ナタリアからの反応は薄い。


「そう、ですね……さすがに今回の件はおかしな点が多くて……でも……」

「姐さん? 体調でも悪いのか?」


 ナタリアらしからぬ歯切れの悪さに、レウルスは思わず心配そうな声をかけた。するとナタリアはレウルスの顔を見てから数度目を瞬かせ、我に返ったように頭を振る。


「……いえ、なんでもないわ。話を戻しましょう」

「お、おう……大丈夫ならいいんだけど」


 何かあったか? と首を傾げるレウルスだったが、ナタリアは視線をグリマール侯爵へと向けて口を開く。


「わたしとしては、おそらくレウルスがどんな人間かを確かめるためにあの場を設けたのではないかと思います」

「ふむ……これはレウルス殿を貶しているわけではないから誤解しないでほしいが、高々一人の準男爵を見極めるためにあの場を設けたと?」

「ええ。その可能性が高いかと……陛下はともかく、宮廷雀からすれば予想外もいいところだったでしょうけどね」


 そう言って調子を取り戻したのか、ナタリアは紅茶を一口飲んでから薄く微笑む。


「レウルスが何に反応し、何を求めているのか……それを探るためだったのではないでしょうか? あの場で嘘を吐くような性格でもないですし……ああ、失礼。剣術指南については嘘こそ言いませんでしたが誤魔化しましたわ」

「さすがにコルラードさんを生贄には出来ねえよ……“うちの領地”に絶対必要な人だろ?」


 さすがにないと思うが、『自分の剣の師匠を推薦します!』と言ってコルラードの名前を出した結果、王宮に召し上げられたのでは堪らないのだ。


 レウルスとしてはコルラードならば王族の剣術指南でも問題なくこなせるだろうと思っているものの、魑魅魍魎渦巻く王宮にコルラードを放り込むような不義理はできなかった。


「……まあ、そういうわけで、レウルスが何を求めているか探ろうとしたんだと思います。立場や地位、将来的な出世、あるいは名声か金銭か……わたしも手を焼いていますが、宮廷雀からすれば得体が知れないでしょうけどね」

「今の生活で十分だしなぁ……準男爵ですら重荷過ぎるぞ」

「かといって陛下の前で爵位の返上に関して尋ねるなど、度胸がある……では済まんぞ」


 グリマール侯爵は苦笑しながら言うが、レウルスとしては“そういう取引”なのかと希望的観測から尋ねてしまったのだ。


「ああ! あの時は思わず噴き出してしまった! いやはや、レウルス殿に話しかけた相手の顔が見物でな!」

「誰が噴き出したのかと思えば、あなただったんですか……あの宮廷貴族を敵に回しても知りませんよ?」


 サルダーリ侯爵が手を打ち合わせて笑い始め、それを聞いたルイスが頬を引きつらせる。グリマール侯爵は肩を竦めると、サルダーリ侯爵に鋭い視線を向けた。


「安心しろヴェルグ伯爵殿。こやつ、既に何人も敵に回している」

「……安心という言葉の定義がおかしくなりますね」

「はっはっは! あまり褒めるでないわ! さすがの余も照れるぞ?」

「褒めてないんですよね……」


 相性が悪いのか、爵位が上だからか、ルイスもサルダーリ侯爵を相手にしてため息を吐いている。


(うん……マタロイ北部の貴族って楽しそうだな)


 担ぐ神輿は軽い方が良いだろうが、これはこれで愛着が沸く“神輿”だろう。レウルスは内心だけでそんなことを考えたが、今は目先のことを考える方が先だ。


「それで……これからどうした方が良いですかね? 王様……じゃない、陛下の依頼って受けた方が良いんですか?」


 魔物退治ならば受けても構わないと思っているが、他にも何か面倒事が潜んでいそうだ。レウルスが警戒心を抱きながら尋ねると、グリマール侯爵が顎に手を当てながら首を捻る。


「戦力に関わること故、答えなくても構わんが……実際のところどうなのだ? 亜龍が相手となると余程の手練れか数が必要になるのだが……」

「上級に届くかどうかってぐらいなら俺一人でもなんとかなるんじゃないですかね? 相手が飛ぶようならエリザ達の力を借りて……とりあえず無理ではないですよ」

「ふむ……となると、あとはどのような報酬を望むかだな。無理せずに狩れるというのなら、陛下に貸しを作っておくのも悪くはないはずだ」


 そう言って受けることを勧めてくるグリマール侯爵に、レウルスは内心だけで首を傾げる。


(薄々思っていたことではあるけど……この国の貴族って国王に対する忠誠とかじゃなくて利益で結び付いてるよな……忠誠がゼロとは言わないけどさ)


 グリマール侯爵はレオナルドに貸しを作っておけとアドバイスするが、レウルスとしてはその“姿勢”が原因でどこまで踏み込めば良いかわからない。ただ、グリマール侯爵の言う通り、恩を着せるなり報酬を引き出すなり、好機であるとも言えた。


(といっても、報酬ねぇ……何か必要なものってあったっけか……)


 レウルスとしてはスペランツァの町に立派な家があり、金も十分にあり、立場は準男爵になってしまった。武器や防具は今以上の物を望めるとも思えず、どんな注文を付ければ良いのかと迷うほどである。


 他に興味があるものと言えば食べ物ぐらいだが、ドミニクやコロナが作ってくれる料理さえあれば十分で――そこで不意に、“必要なもの”がレウルスの脳裏に浮かんだ。


「報酬に関してですけど……礼儀作法を教えられる執事や侍女を派遣してくださいって頼んでも大丈夫ですかね? できれば他所の家の影響がない、職業意識が高い人が良いんですけど」


 アメンドーラ男爵領に必要だというのもあるが、レウルス自身、これから礼儀作法が必要となる場面が増えてくるかもしれない。そう思ってグリマール侯爵に問いかけると、グリマール侯爵は僅かに身を乗り出した。


「ほう……他者に礼儀作法を教えられる執事や侍女、か。専門技術の伝授と思えば報酬としては妥当やもしれんな」

「もう少し欲張っても良いと思いますけどね……それにしてもつれないじゃないか。レウルス君、必要なら当家から執事や侍女を派遣するよ? 以前の借りを返す良い機会と思ってさ」


 ルイスは苦笑を浮かべながらそう言う――が、その瞳は笑っていなかった。


「……ほら、知り合いに迷惑をかけるのも心苦しいですし……ね?」

「迷惑だなんてとんでもないさ。ただ、きちんと働いているか、うちの人間が“定期的に”確認しに行くとは思うけどね」

「ははは……」


 ルイスの言葉を笑って受け流すレウルス。


 ひとまずはレオナルドから提示された亜龍退治に関して情報を集めるということで意見が一致し、あとは雑談を交えながらの世間話へと移る。


「おお、そうだった……先のことも重要だが、今晩の宴に関しても話をせねばな」

「お手数おかけします……」

「なに、これは“迷惑料”だから気にする必要はない。ひとまず立食形式で参加者も多いが、基本的に貴殿を祝いに来る客だ。適当に相手をすればそれで済む」

「その適当がですね……とりあえず笑ってればいいですかね?」


 サルダーリ侯爵のように、とまでは言わないが、相手に合わせて話を進めれば問題ないはずだ。


 レウルスはそう思い、今晩は美味しい食事を取れるのだろうかと呑気に考えるのだった。








(ああ、今度はそう来たかぁ……)


 そして、“お祝い”という名目で宴に現れた多くの女性に取り囲まれたレウルスは、そんな考えは甘かったのだと知ることになるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 来ましたねwww国王が争奪戦に参加は予想外でしたが、 女性を使った貴族からの争奪戦の始まりですね。 ルヴィリアも参加した修羅場が楽しみです。
[一言] >この国の貴族って国王に対する忠誠とかじゃなくて利益で結び付いてるよな まあ御恩と奉公で考えればそんなもんやし(明後日の方を見ながら
[良い点] レウルスくん引き抜き工作で自分の娘を送り込む晩餐会でしょうか?(笑) [一言] 伏魔殿2が2話あるのは上下という意味で良いのでしょうか?
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