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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第508話:伝言 その1

 馬車から下りたルイスは、近付いてくるレウルス達の馬車に気付くなり顔を上げた。そしてレウルスとナタリアが馬車から下りるなり、友好的な笑みを浮かべながら近付いてくる。


「お久しぶりです、アメンドーラ男爵殿。それにレウルス君……いや、これからはレウルス準男爵殿、と呼んだ方が良いかな?」

「いやぁ、準男爵殿なんて言われたら座りが悪くて仕方ありませんよ。これまで通りで構いません」

「そうか……それならそうさせてもらおうかな。ああ、もちろんそちらも“今まで通り”接してくれると嬉しいよ」


 そう言って楽しげに笑うルイスだったが、不意にその表情を引き締め、ナタリアに向かって小さく頭を下げる。


「使者も送らず急な訪問、失礼だとは思っていますが御容赦願いたい。先日、うちの妹が……ルヴィリアが大変な失礼をしたと聞き、謝罪に来ました」

「ああ……あの件、ですか」


 ルイスの言葉を聞いたナタリアは、困ったように曖昧な笑みを浮かべた。


「レウルス君も、先日はうちの妹が失礼をした……正直なところ“何をした”のか聞いても要領を得なくて困っているんだが、こちらから訪ねておきながらいきなり帰ってしまったと聞いてね。今日はその詫びに来たんだ」


 そう言って詫びながら、心底困ったように笑うルイス。その背後にはアネモネの姿もあり、蔓で編まれた箱を両手で抱えている。


「お気になさらず。気温も高かったですし、ルヴィリア殿も体調を崩されてしまったのでしょう……仕方のないことですわ」


 言外に、“そういうこと”にしておこうと提案するナタリア。


 相手の方からいきなり訪ねてきたかと思えば、これまたいきなり帰ってしまったのだ。アメンドーラ男爵家とヴェルグ伯爵家は爵位の高低こそあれど、対等な立場である。他の貴族家と比べれば友好的な関係ではあるが、それは失礼を働いても良いということにはならない。


 それでも、先日のルヴィリアの様子を思い返すと、これを好機と捉えて何かしらの条件を吹っ掛ける気も起きなかった。


 既にアメンドーラ男爵領の開拓に関し、色々と便宜を図ってもらっているという面もある。それはレウルスがこれまで行ってきた“貸し付け”の返済という面があるとしても、わざわざあの程度のことで騒ごうと思うほどナタリアは狭量ではなかった。


 ――“詫び”という名目で、余計な厄介事が飛び込んでくる危険性もあると見越してのことでもあったが。


「そう言っていただけるとありがたいです……レウルス君はどうだい? 何か必要なことや必要な物があったりしないかい?」

「ないですね……アメンドーラ男爵様の言う通り、体調を崩してしまったのなら仕方のないことですから」

「そうか……うん、わかったよ。ただ、せめて詫びの品だけは受け取ってもらえると嬉しいかな。話を聞いてすぐに謝罪の使者を送ろうとも思ったんだけど、手ぶらで向かわせるというのも申し訳なくてね……今、王都で評判の焼き菓子を買ってきたんだ」


 そう言ってアネモネが蔓で編まれた箱を開けてみると、その中にはルイスが言った通り焼き菓子が綺麗に詰め込まれていた。


 蓋を開けるだけで甘く香ばしい香りが周囲に広がり、その香りだけでも味の良さが伝わってくるほどだ。焼き菓子は何種類か入っているらしく、食欲をくすぐる香りがいくつも混ざり合っている。


 そこでふと、ルイスはナタリアへと視線を向けた。意味ありげな眼差しを受けたナタリアは、数秒ほど思考してから口を開く。


「……せっかくですし、上がっていかれますか? 訪ねた客をもてなさずに帰すというのも品がない話ですわ……もっとも、もてなすことができるだけの執事も侍女もいませんがね」

「ははは……では、お言葉に甘えさせていただきましょう。それとアネモネ、失礼にならないよう注意しつつ、アメンドーラ男爵殿の従者の方を手伝ってきてくれるかい?」


 せっかくだから従者として手解きをしていってほしいと言外に告げるナタリアに笑って返し、ルイスはアネモネにそんな指示を出すのだった。

 







「くんくん……レウルスが帰ってきたと思ったら良い匂いが……あー! アネモネじゃない! 久しぶりね! あとは……えっと、うん……そう、ルヴィリアのお兄さん!」

「ルイス様じゃろ!? 申し訳ございません!」


 家に戻ってルイスとアネモネを居間に通すなり、サラが突撃してきた。


 どうやら焼き菓子の匂いに釣られたようだが、一緒に旅をしたアネモネは覚えていても、ルイスのことは思い出せなかったらしい。侍女服を着たエリザが慌てて頭を下げるが、ルイスは朗らかに笑うだけである。


「これはサラ様、お久しぶりです。それとエリザさんは気にしないでくれ。精霊様からすれば、貴族が相手だろうと関係ないだろうからね……しかし、いつの間に侍女になったんだい?」

「ハッハッハ……うちのサラがすみません。本当にすみません……エリザが侍女の格好をしてるのは、他にできる人が少ないってのもありましてね」


 笑ってサラの発言を許すルイスに対し、レウルスも軽く笑ってから真顔で謝罪する。こんなことならば『思念通話』を使って二階で待機しておくよう伝えれば良かったか、とレウルスは頭を抱えた。


「気にしないでくれよ、レウルス君。さっきはああ言ったけど、失礼を働いたのはこっちだからね……それに、精霊様から親しく振る舞っていただけるのなら光栄なことさ」


 そう言ってルイスは笑顔を浮かべる。しかし、ふと何かに気付いたようにその視線を動かし、居間の端を見た。


「あれは……」


 その視線の先にあったのは、レウルスの武具である。ミーアの手によって『龍斬』や鎧が綺麗に並べられており、木窓から差し込む光を柔らかく反射していた。


 レウルスに割り当てられた個室に運び込むと部屋が狭くなるという理由もあったが、その全てが逸品とも言える物ばかりである。絵画や壺の代わりとでも言わんばかりに並べられた『龍斬』や鎧を見て、ルイスは感嘆したように息を吐いた。


 自らも剣を振るって戦うことがあるからか、ルイスは希少な逸品を見つけた好事家のように目を細める。


「見事な剣と鎧だね。これだけの代物となると、長い歴史がある貴族家でも滅多に見れる物じゃない……いや、剣の方は王家にすらあるかどうか……眼福だよ」


 鞘から抜かれた状態で立てかけられている『龍斬』をじっと見つめるルイスの瞳は、子供のようにキラキラと輝いているように見えた。さすがに素材が素材なだけはあり、カルヴァン達ドワーフの腕も相まってルイスの目から見ても優れた逸品に見えるらしい。

 ルイスの反応に、サラを追いかけて居間に来ていたミーアもどこか誇らしげである。


「失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」


 そうやって話をしていると、コロナと共にアネモネが姿を見せた。言葉通り飲み物を運んできたようだが、その視線は時折コロナに向けられている。アネモネもコロナも配膳用のお盆を両手で持っているが、アネモネの方にティーカップとティーポットが、コロナの方に焼き菓子が並べられた平皿が乗っていた。

 おそらくは運びやすい方をコロナに頼んだのだろうが、コロナはヴェルグ伯爵家の当主が相手ということもあって緊張の面持ちである。


 そんなコロナの背後では、何故かネディが続くようにして歩いていた。その視線はコロナが歩く先に向けられており、おそらくはコロナが慌てて転ばないよう注意を払っているのだろう。


 そうして運ばれてきた紅茶と焼き菓子がテーブルに置かれ、レウルス達は雑談をしながら休憩を取る。紅茶もそうだが、ルイスがわざわざ買ってきた焼き菓子はその全てが絶品であり、レウルスは目を丸くしてしまった。


 材料となる小麦粉に新鮮な卵や多くの砂糖を加え、干した果物をふんだんに使用したクッキーやマフィン、他にもレウルスが名前すら知らないような焼き菓子がいくつもあり、一体いくらかかったのだろうかと考えてしまうほどだった。


(材料費だけでも小金貨超えそうな……貴族相手に詫びの品として持っていくなら、これぐらい当然……なのか?)


 せっかくだからと相伴に預かったコロナなど、驚きのあまり目を見開いて固まってしまったほどである。レウルス達の中で濃厚かつ暴力的とすらいえる味に驚いていないのは、ナタリアぐらいのものだった。


「あら……中々良い味ですわね。これはどちらで買われたのかしら?」

「王都西部の市場近くにある店でしてね。最近王都の貴族間でも話題になっているんですよ」


 紅茶を飲みながらルイスと言葉を交わすナタリアの姿は落ち着きがあり、それに答えるルイスもまた、堂に入った落ち着きぶりだった。


 ルイスは香りを楽しむようにゆっくりと紅茶を飲んでいたが、やがてティーカップをテーブルに置き、その視線をレウルスとナタリアへ向ける。


「さて……“本題”に入る前に一応、確認しておきたいことがあるのですがね。先日、当家のルヴィリアがお邪魔した際、一体何があったのですか? セバスが一緒だったというのに失礼を働いてしまったと聞き、こちらとしては何があったのか本当に気になるところでして」


 そう言って眉根を寄せるルイスだったが、レウルスとナタリアは思わず顔を見合わせてしまった。何があったと聞かれても、何もなかったからこそレウルス達も困っているのだ。


「偶然近くを通りかかったとのことで、家にお通ししましたわ。それ以外は特に思い当たる節もなく」

「挨拶している最中に顔を真っ赤にして帰ってしまったんですよね。こちらとしては、何か特別なことを言った覚えもないんですが……もしかして怒っていましたか?」


 それ以外に説明のしようもなく、“レウルスは”素直に答えた。するとルイスは苦笑しながら首を横に振る。


「怒っていた、なんてことはないさ……セバスからも話を聞いたけど、あのセバスが困惑していたぐらいだからね。それでも可愛い妹のことだし、兄としては気になってしまったんだ」


 ルイスは相変わらず苦笑を浮かべていたが、同時に、困惑した様子で首を傾げた。


「本当は今日、謝罪のために連れてこようと思ったんだけど、もう少し待ってほしいとか、今は無理ですとか、顔を真っ赤にして言うものだから……失礼を承知で、妹を案じ過ぎる馬鹿な兄の言葉として受け取ってくれていいが……本当に何もなかったんだね?」


 何故かレウルスをじっと見つめながら問い質すルイス。レウルスとしては、それだけルヴィリアのことが可愛いのだろう、と不快に思うこともなかった。家族思いでけっこうなことだ、と。


「家名に誓って、何もありませんでしたわ」

「同じく……いや、家名はないんで、そこに飾ってある俺の大切な剣に誓いましょう。何もありませんでしたよ」

『ふみゅ……なかった、ね』

「――――」


 不意に聞こえてきた声に、レウルスは動きを止めた。


「レウルス君? どうかしたのかい?」

「……いや、なんか幻聴が聞こえたような気がしてですね」


 『思念通話』を使える誰かの悪戯かと疑ったものの、聞こえてきた声は聞き覚えがないものだった。強いて言えばネディに近い口調だったが、それは幼げで舌足らずな声で、わざわざネディがそのような真似をするとも思えない。


『今、俺に向かって誰か話しかけたか?』

『ん? なんじゃいきなり』

『なに? お話していいの?』

『ボク、この魔法を自分の方から使えるほど慣れてないんだけど……』

『……知らない』


 一応の確認を兼ねて『思念通話』を使ってみるが、返ってきたのはエリザ達の声だけだ。“他の誰か”と魔力がつながっている感覚もなく、レウルスは小さく首を傾げる。


 この場で最も魔法に長けているであろうナタリアに視線を送ってみるが、ナタリアはレウルスの発言に訝しげな顔をしているだけだ。


(先輩の件もあったし、ストレスで幻聴が聞こえたとか……いや、前世でもそんなことはなかったしな……)


 実は自覚していないだけで相当なストレスを感じていたのだろうか、とレウルスは戦慄する。前世で命を落とす前でさえ、周囲にはいたがレウルス自身は幻聴や幻覚といった症状が出た記憶はない。


 そんなレウルスの様子を見ていたルイスだったが、嘘はないと判断したのだろう。困ったようにため息を吐き、椅子の背もたれに体を預ける。


「失礼を働いた側が言う言葉ではないけれど……“そういう年頃”だと見逃してくれるとありがたいよ。体が元気になってからは少しお転婆になったしね……」

「はぁ……」


 幻聴が再度聞こえるようなこともなく、レウルスは曖昧に頷く。すると、ルイスは一度咳払いをしてから姿勢を正した。


「さて……本題に移ろうか。昨日、当家の屋敷を第一魔法隊の隊長……『天雷』のベルナルド殿が訪れてね。“伝言”を頼まれたんだ」


 そう言って表情を真剣なものへと変えたルイスの姿に、レウルス達も表情を引き締めるのだった

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― 新着の感想 ―
[一言] 龍切ちゃん可愛いっ!
[良い点] 覚悟を決めて間合いに踏み込んだはずが、カウンターを受けて日を跨いでも震えが治まらないなんて、貴族の令嬢としてなっていなくってよ! [一言] ヴぁーにるがみーあをほめてたのはやはりこの子の誕…
[良い点] まさかの幼女属性だとは…… 確かに産まれたばかりだし、レウルスだからなぁ(失礼 本格的な出番、楽しみにしております!
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