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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
12章:貴族の闇と果たすべき約束

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第499話:サルダーリ侯爵 その2

 サルダーリ侯爵自ら案内されたレウルス達は、玄関から居間へと移動する。ただし、居間とはいうものの非常に広く、足を踏み入れたレウルスは思わずめまいがしそうになった。


 玄関ホールも広かったが、居間もまた広い。長さが二十メートル、幅が三メートル近くある巨大な長方形の木製テーブルが置かれ、絹で作られたと思しき真っ白なテーブルクロスがかけられている。

 居間にはそのような巨大なテーブルが三つ並べて置かれており、壁にはサルダーリ侯爵家の代々の当主なのか血のつながりを感じさせる顔立ちの似顔絵や、メルセナ湖を描いたと思しき風景画、更にはサルダーリ侯爵の領内の町や村の外観を描いた絵などが飾られている。


 他にも様々な色や形をした壺や花瓶、宝石が嵌め込まれた金属細工など、売ればいくらになるのか見当もつかないような代物が置かれている。それでいて嫌味にならないよう配置も考慮されているのか、来訪者の目を楽しませようという気遣いが感じられた。


(……本当、金ってのはあるところにはあるんだなぁ)


 サルダーリ侯爵にとっては本拠地とは異なる“別邸”にも関わらず、様々な逸品が置かれている。あるいは、王都にある別邸だからこそここまで金をかけているのか。


(貴族だし、見栄とかもあるのかもな。姐さんは新興の男爵だけど、侯爵家ならもっと長く、代々続いてきただろうし……その長い年月で買い揃えたとか?)


 さすがにサルダーリ侯爵の一代でここまで揃えたわけではないだろう。しかし、財宝等に興味がないレウルスとしても思わず感嘆してしまうほどに見事なものだった。

 その上、手入れがきちんと行き届いているのか飾られている物は全て埃も付着しておらず、汚れの跡も見当たらない。執事のマルトーもそうだが、サルダーリ侯爵家に仕える者達の仕事ぶりが垣間見えるようだった。


 ナタリアも将来的には王都に別邸を建て、使用人を雇い、調度品などを揃えていくのだろう。だが、ここまでの規模になるのは一体どれほど先のことなのか。

 そうやって周囲を観察するレウルスに気付いたのか、サルダーリ侯爵は人好きのする笑みを浮かべる。


「どうかね、レウルス殿。何か気を惹くようなものがあれば喜ばしいが」

「こういったものは全くの門外漢ですが、どれもこれも見事なものだな、と」

「はっはっは! そう言ってもらえるのなら嬉しいな!」


 豪快に笑い声をあげるサルダーリ侯爵。その表情は言葉通り心底嬉しそうで、レウルスから見た限りでは“裏”も感じられない。


(褒められたから喜ぶ……いや、貴族がそんな単純な存在なわけねえな。これも演技……演技?)


 生粋の貴族ならば腹芸もお手の物だろう。そう考えるレウルスだったが、サルダーリ侯爵の様子を見ると確信が持てない。


 そんなレウルスの視線に何を思ったのか、サルダーリ侯爵は笑い声を引っ込める。そして何かを思い出すような仕草を見せると、ポンと自身の腹を叩いた。


「おお、そうであった! 余としたことが真っ先にかけるべき言葉を忘れておったわ!」


 そう言って、レウルスに向かって真っすぐ向き直るサルダーリ侯爵。それを見たレウルスは何を言うのかと内心身構えたが、サルダーリ侯爵は表情を引き締めてほんの少し――他者から見てもわかる程度に頭を下げた。


「貴殿がメルセナ湖に現れたスライムを退治してくれたこと、領主として感謝する。余の領地や領民に被害が出なかったこと……本当に感謝するぞ」


 貴族――それも侯爵の立場にある人間が、準男爵への叙爵が決まっているものの“今は”一介の冒険者でしかないレウルスに頭を下げる。


 それがどれほどの事態なのか、この世界の常識に疎いレウルスとて気付けないわけはない。


「……よく、俺達がスライムを仕留めたってわかりましたね?」

「なに、最初は精霊教のジルバ殿がスライムを退治したと報告があったのだが、家臣に“現場”を確認させてみると腑に落ちない点があってな……かの『膺懲』殿の実力は聞き及んでいるが、あれほどの大きさのスライムを倒せるものだろうか、とな」


 おそらくはスライムが上陸した地点を調べたのだろう。百メートルを超えるスライムが上陸したとなれば、その痕跡を見付けるのも容易だったはずだ。


「それに、ヴァルディでは何やら巨大な爆発音を聞いた民もいたとか……ジルバ殿が属性魔法を使うとは聞かんし、ヴァルディ行きの船に貴殿達が乗り込んでいたという報告が家臣からあった。その後、当家の領地にも『魔物喰らい』という名前が流れてくるようになったのでな」


 爆発音というのは、サラが放った上級の火炎魔法のことだろう。百メートルを超えるスライムの大部分を消し飛ばす威力があったが、巨大な轟音がしたためヴァルディの町に届いてしまったようだ。


「その爆発音についてはサラの魔法が原因でして。スライムに関しても、俺が仕留めたというより他の皆の協力があったからで……」


 メルセナ湖で戦ったスライムに関しては、間違ってもレウルス単独で仕留めたものではない。エリザ達やジルバの協力、カンナやローランとの共闘があったからこそ仕留められたのだ。


 もちろん、カンナやローランに関しては明かすわけにはいかない。そのため“他の皆”という曖昧な表現で伝えるレウルスだったが、サルダーリ侯爵は首を横に振る。


「精霊様の協力があったことはありがたいし、ジルバ殿が助力してくれたのも本当だろう。だが、貴殿が主力を担ったと家臣から報告があってな。余は施政者として、その偉業に対する報酬を渡す義務があるのだよ」

「……家臣の方からの報告、ですか? 俺が主力を担ったと?」


 スライム退治が叙爵の切っ掛けになったとは聞いたが、レウルスはサルダーリ侯爵の言葉に疑問を覚える。


 サルダーリ侯爵はレウルスを騎士爵に推薦したが、そうするに足る証拠などは残っていないはずだ。家臣が調査し、ヴァルディの民やレテ川を下る際に利用した船の人間から情報を得たとしても、レウルスがスライムを倒したという確証は得られないはずなのだ。 


「うむ。余の家臣は皆優秀でな! さすがに時間がかかったが、余の領地や領民を救ってくれた者が誰なのか調べあげてくれたのだ!」


 サルダーリ侯爵の言葉を信じるならば、家臣からの報告を微塵も疑うことなく受け入れ、そのままレウルスを騎士爵に推薦したらしい。だが、レウルスとしては腑に落ちないものがあった。


(調べ上げたって……後々現場を確認したとしても、俺が倒したっていう証拠はないだろうに)


 それこそ、“スライムと戦う現場にいた誰か”が証言しなければ、確証は持てないはずである。


(さすがに確証もなく俺を騎士爵に推薦したりはしないだろうけど……しないよな?)


 レウルスを騎士爵に推薦し、現状では準男爵にまで膨らんでしまった叙爵の話。それはあくまで厚意によるものだろうが、サルダーリ侯爵の認識に若干の違和感を覚えてしまう。


「しかし、貴殿は多くの功績を挙げていたのだな……余は騎士爵に推薦したが、他にも多くの推薦者が集まって準男爵への叙爵が決まったと聞く。うむ、大したものだ!」

「ははは……お褒めに預かり光栄ですよ、ええ……」


 サルダーリ侯爵は純粋に感心しているようだったが、レウルスとしては曖昧に笑って誤魔化すしかない。ここまで好意的に接してきている相手――それもナタリアと比べても高位の貴族相手に、『本当は有難迷惑でした』などと言えるはずもなかった。


 レウルスは会ったことがないが、マタロイの国王すらも認可しているのだ。今更サルダーリ侯爵に頼み込んで取り下げてもらうのも不可能だろう。


「……ぬ? もしや貴殿、準男爵に叙せられることを喜ばしくないと思っているのか?」


 だが、レウルスの反応に疑問を覚えたのか、まさかの直球がサルダーリ侯爵から飛んできた。レウルスは思わず頷きかけたが、さすがに失礼だと判断してナタリアに視線を送る。しかしナタリアは困ったように微笑んでおり、打開の手立てが存在しないように思われた。


「むむ……そうだったのか。騎士爵ならば確実に得られるだろうと思って推薦したのだがな……準男爵となると枷が厳しいか?」


 サルダーリ侯爵は顎に手を当て、眉間に皴を寄せながら悩み始める。


「ううむ……困ったな! いやはや、これは困った! マルトー! 何か良い案はないか?」


 サルダーリ侯爵はレウルスから視線を外すと、傍に控えていたマルトーへと話を振った。するとマルトーはレウルス達に一礼してから口を開く。


「恐れながら旦那様。国王陛下や宮廷の許可が下りている以上、レウルス様の叙爵を取り消すのは当家の力をもっても不可能かと」

「そうであろうな! ……そこをどうにかできる案はないか?」


 後半は声を潜めて尋ねるサルダーリ侯爵。しかし元々の声が大きいからか、レウルス達には丸聞こえだった。


「ありません。国王陛下や宮廷の許可が下りる前ならば取り消すこともできたでしょうが、許可が下りている以上不可能かと思われます」

「そうか……うむ、困った! ……困った」


 サルダーリ侯爵は申し訳なさそうにしょぼんとした表情で肩を落とす。それでも落ち込んでいる場合ではないと思ったのか顔を上げ、レウルスに向かって再度頭を下げた。


「すまぬ、レウルス殿! 礼をするつもりが迷惑をかけた!」

「……いえ、悪気があってのことではないと思っていますから」


 サルダーリ侯爵に何かしら思惑があり、演技をしている可能性は捨てきれない。それでも本当に申し訳ないと思っているのが雰囲気で伝わってきたため、レウルスとしても反応に困ってしまった。


「せめてもの詫びに何か……そうだ! 当家で所有している名剣を――」


 そこまで言って、サルダーリ侯爵はレウルスの背中側へと回る。そして『龍斬』を上から下まで眺め、視線を逸らした。


「ここまでの名剣はないから、鎧を――」


 次いで、サルダーリ侯爵はレウルスが身に着けている鎧を眺める。おそらく、戦う術はなくとも審美眼は優れているのだろう。サルダーリ侯爵は視線を左右に彷徨わせた。


「わ、詫びとして金を……いや、それも申し訳ないな。アメンドーラ男爵殿の領地に資材を送って……距離がありすぎるか。むむむ……これは難題であるな」


 サルダーリ侯爵の領地とアメンドーラ男爵領は距離がありすぎるため、開拓に必要となる資材を送るのも難しい。そのため頭を抱えるサルダーリ侯爵だったが、ふと、何かを思いついたように両手を打ち合わせた。


「そうだ、余の娘を嫁がせて――」

「旦那様、更にご迷惑をおかけするつもりですか?」


 良い案を閃いたと言わんばかりのサルダーリ侯爵だったが、マルトーが即座に止める。サルダーリ侯爵はしばらく悩んでいたが、それ以上の案が出なかったのか頭を抱えながら言う。


「ぬぅ……こうなっては仕方ない。レウルス殿、何か望むことはあるか? 余に叶えられるような願いならば、何でも叶えてみせようぞ!」


 そう言って平然と“白紙の小切手”を投げて渡すサルダーリ侯爵に対し、レウルスの方が頬を引きつらせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 500話おめでとうございます。 [気になる点] もしかしなくてもレウルス君の争奪合戦が始まってる(もしかしなくてもグレイゴ教も参加の(-_-;))気がしないでも無いですが、それはそれはで楽…
[一言] 人材下さい、って言えれば楽だよなあ
[気になる点] 公爵様はレウルスくんの無私の行いに感動したのかそれとも取り込みなのか 多分前者ですよね 無私でやれるほどお人好しも命知らずもこの世界にはいなさそうですし
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