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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第460話:戦いの後 その3

 スラウスや黒い球体との戦いから十日の時が過ぎた。


 気を失ってから五日ぶりに目を覚ましたレウルスは部屋に飛び込んできたエリザ達に抱き着かれ、揉みくちゃにされ、ネディを除く面々に盛大に泣かれてしまった。


 それからの五日間でもレモナの町の復興作業に手を貸しつつも、必ず誰かが傍にいるという念の入れようである。レウルスとしても心配をかけたからと断ることもできず、エリザ達の好きなようせにさせていた。


 そうして復興作業を手伝うレウルス達だったが、いつまでもレモナの町に留まっているわけにはいかない。そもそもからしてアメンドーラ男爵領自体が開拓の真っ最中で、今はスペランツァの町とその周辺がある程度形になろうかという状況なのだ。


 そちらを放置するわけにもいかず、また、レモナの町を領有するヘクターが健在な以上、いつまでも手を貸し続けるわけにもいかない。レウルス達によって町が救われたのは事実でも、ヘクターの統治に疑義が挟まるような事態は好ましくないのである。


 ただでさえヘクターからすれば自身の領軍を遥かに上回る戦力が居座っている状態なのだ。レベッカ達は既に姿を消しているが、レウルスやナタリア、ジルバといった面々が襲い掛かってくれば領軍では到底抑えきれるものではない。

 無論、ナタリア達が意味もなくそのような真似をするとは思えず、ヘクターとしても救われた感謝の念から味方だと思っているが、恐れる感情を抱くのも仕方がないことだった。


 加えて言えば、サラやネディといった精霊が復興作業に加わっているというのも領主から見れば厄介な点である。精霊教徒が多いマタロイでは精霊の存在は特別なもので、復興の士気が上がるものの領民がアメンドーラ男爵領に移り住みたいと思いかねない。

 怪我人に関しても近隣の町にジルバが使いを出し、治癒魔法が使える精霊教徒や医療技術を持つ者を集めて治療に当たっている。治癒魔法を必要とするほどの重傷者を優先的に治療し、軽傷者は薬による治療を施すに留めているが、ジルバに“そういった意図”がなくとも精霊教へ入信するきっかけになるだろう。


 スラウスを倒し、負傷者の治療を行い、復興作業まで手伝ってもらったとなると借りは膨らむ一方である。重傷者こそ出たが町の住民に死者も出ておらず、上級の魔物と戦った割に建物の損壊も大人しいもので、ヘクターとしては何を対価とすれば良いのか頭を悩ませるほどだった。

 その上、アメンドーラ男爵領の開拓に対する支援も今回の一件で難しくなってしまった。現状ではレモナの町の復興を優先しなければならず、いくら恩も借りもある相手とはいえヘクターとしては領主である以上、領地と領民を優先しなければならなかった。


 “それらの事情”を汲み取った上で、ナタリアはにっこりと微笑みながら引き下がる。今後は近隣の領主同士、困ったことがあれば助け合いましょう、と一言添えて。


 ナタリアとしては自身が持ち込んだ『魔石』の損耗、レウルスの『龍斬』や防具の損壊以外、大きな損失はない。ナタリア自身魔力を大きく消耗してしまったが、これは時間を置けば自然と回復するものだ。

 ナタリアもヘクターも領地が隣同士である以上、互いに爵位や領地を取り上げられるような真似をしなければ“末長い付き合い”をする身である。それこそ次の世代、子々孫々に渡って付き合いがあるのだ。


 貸しは大きければ大きいほど良く、相手が借りに思ってくれるのならば踏み倒される可能性も低くなる。もちろんナタリアとて居丈高に接することはなく、じっくりと、少しずつ借りを返してもらえれば十分なのだ。


 それらの事情により、戦いが終わってから十日を目途として復興支援を切り上げ、レウルス達はスペランツァの町へ帰還することとなった。

 レモナの町が復興するにはまだまだ時間がかかるだろうが、アメンドーラ男爵領の開拓がある以上そちらにばかり時間を割いてはいられない。ナタリアとしても頻繁にスペランツァの町を訪れることができないため、ラヴァル廃棄街に戻る前にできる限りのことをしたいのだ。


 レモナの町に攻め入るにあたり様々な準備をしていたため、落ち着いて自分の領地を見ることすらできていないのである。そのため、少なくとも数日はスペランツァの町に滞在しようとナタリアは考えていた。


 そうやって領主として様々なことを考えるナタリアだが、レウルスもまた、様々なことを考える羽目になっていた。


 レモナの町では落ち着く暇もなかったため確認もできていないが、ネディと『契約』を結んだ影響を確認する必要がある。今のところレウルスだけでなくエリザやサラにも目立った影響はないものの、魔力を使うようなこと――戦闘行動を取ってみると事情が変わる可能性もあった。


 レモナの町では復興支援を優先したため魔法は『強化』ぐらいしか使うことがなかったが、試すべきことは色々とある。


 そういった個人的な事情もあれば、自分達がこれから住み続けるアメンドーラ男爵領の開拓を更に進めたいという思いもあった。大まかながらも建設が進んでいるスペランツァの町を更に町として相応しい姿にし、なおかつ町周辺の開拓もしなければならない。


 現状でもある程度人間が住める環境になっているが、住居も畑もまだまだ規模が足りないのだ。目途が立てば新たな住人をラヴァル廃棄街から連れてくることもできる。


 そして、レウルスにとって現状で最も悩ましいのは武器と防具が失われてしまったことだ。


 『龍斬』はノコギリかと思うほど刃毀れでボロボロになっており、手入れや修繕だけではどうにもならないため新たな武器を入手する必要がある。防具に関しても一から全て作らなければならず、激戦の代償と思えば仕方がないが頭が痛い問題だった。


 『龍斬』を鋳潰して剣を作り直すことも可能かもしれないが、元の『龍斬』と同等の性能を発揮できるかも不明である。その辺りはスペランツァの町に戻ってからカルヴァンや他のドワーフに話を持ち掛けてみよう、とレウルスは思っていた。

 ただし、黒い球体との戦いで破損してしまった以上、今後似たような敵と遭遇してしまう可能性を思えば不安が残る。レウルスとしては二度と会いたくないが、一度遭遇してしまった以上、可能性はどう足掻いてもゼロにはならないのだ。


(時間と姐さんが許せばヴァーニルのところに行ってくるか……)


 スペランツァの町に戻る道中、レウルスはそんなことを考える。


 『龍斬』の素材として使ったのは、ヴァーニルから譲り受けた鱗と爪である。『龍斬』と同等以上の武器を作るとなると、他に適切な素材が思い浮かばなかった。


 探せばヴァーニル以上の魔物も存在するかもしれないが、勝てる保証はなく、素材が武器の素材に向いているかもわからず、どこにいるのかもわからない。それならば所在がはっきりとしているヴァーニルを頼る他ないだろう。

 ただし、今の状況でレウルスがスペランツァの町を離れられるかは怪しいところだが。


(仮にアイツのところに行けたとして、喧嘩相手を務めたらまた爪とかくれねえかなぁ……ああでも、『首狩り』の剣でアイツの相手をするのは無謀か……)


 『首狩り』の剣は多少補修をするだけで元通りになるが、普段から常用しているわけではないため大剣ほど扱いに慣れておらず、ヴァーニルを相手にするには不足が過ぎるだろう。


 そうなると今ある素材だけで大剣や防具を作ってもらい、ヴァーニルと戦って素材を手に入れ、新たに『龍斬』を超える武器を作るしかない。


 だが、ヴァーニルと戦おうにもスペランツァの町から離れられるかわからず――と思考がループするレウルスだった。


 レウルスはそんな悩み事を抱えながらスペランツァの町へと帰還する。自身のこともそうだが、先に帰したレベッカ達のことも気がかりだった。


 さすがに暴れたりはしていないだろうが、色々と聞きたいこともある。しかし武器や防具が万全でない以上、“もしも”に備えてナタリアやジルバに同行してもらうのも手だろう。


(……あ、そもそも姐さんが泊まる場所がなかったな)


 作業を行うドワーフや冒険者が寝泊りするために、将来ナタリアの住居予定地に“砦”を建ててはあるが、ナタリアを寝泊りさせるには不適当だろう。


(風呂もトイレもあるし、うちで寝泊りしてもらえばいいか……)


 スペランツァの町における住宅第一号、町のほぼ中心部に建てられたレウルスの自宅ならばナタリアが泊まれるだけの広さもある。


 レウルスはナタリアを自宅へと案内し、ドアノブを捻って扉を開ける――。


「……ん?」


 自宅の扉前に立ったレウルスは、思わず手元を確認した。ドアノブに伸ばした手が空を切ったからである。


(あれ? うちの玄関って引き戸だったっけ?)


 ドアノブが消失している扉を見て、レウルスはそんなことを考えてしまった。当然ながら玄関が引き戸ということはない。


(というか、家の中に二つ魔力が……敵意は感じないが……)


 それほど強くないものの、二人分の魔力を感じてレウルスは眉を寄せた。少ないながらもスペランツァの町の防衛に残したドワーフが上がり込んでいるのか、それともレベッカ達が勝手に上がり込んだのか。


 そういえば一足先に帰したものの住む場所を指定したとは聞いてないな、などと考えながらレウルスは扉に爪を引っ掛け、扉を開ける。おそらくはレベッカ達が上がり込んでいるのだろう、と思いながら。


 それでも無防備に扉を開けたように思えて、レウルスの右手はすぐさま『首狩り』の剣の柄に添えられた。その背後ではナタリアやエリザ達、ジルバやコルラードも戦闘態勢に移っている。


(しかし、魔力が二つってことは一人足りないよな……近くに翼竜もいなかったし、レベッカが翼竜を連れて近所で餌取りでもしてんのか?)


 それならば中にいるのはクリスとティナだろう。もしも泥棒が入り込んでいたならば盛大に“歓迎”してやろうと思いながらレウルスは居間へと踏み込み――予想外の遭遇を果たす。


「…………」


 居間に踏み込んだレウルスが“最初”に見たのは、双子司教の片割れであるティナだ。ただし非常に居心地が悪そうに居間の隅で座り込んでいる。頭に生えた狐耳をペタンと倒し、膝を抱えて座る姿は妙な哀愁が漂っていた。


 そして、もう一人。こちらはレウルスとしても完全に予想外の相手だった。


「邪魔をしているぞ。ずいぶんと遅い帰還だったな……ああ、扉の取っ手に関してはすまぬ。我が引いたら取れたのだ」


 居間の椅子に座り、尊大な態度でそう話す人物。


 その人物は深紅の髪を背中まで伸ばし、白い貫頭衣を着た人物――『変化』で人に化けたヴァーニルだった。


「…………」


 ヴァーニルの姿を目視したレウルスは、思わず遠くを見るように目を細める。


(ああ……そういやおやっさんやコロナちゃんの料理、食べてないなぁ……)


 これは厄介事の臭いがする、などと思考したレウルスは現実から逃避するようにため息を吐く。


 ――今ばかりは、無性にドミニクやコロナの料理が恋しかった。






どうも、作者の池崎数也です。

毎度ご感想やご指摘、評価ポイントや誤字脱字の報告等をいただきありがとうございます。


第10章もこれにて終了となります。

第10章が終わるまでに70話以上、一年以上かかりましたが第11章はもっと短くなる予定です。


コロナ禍で仕事が忙しくなったり、どことは言いませんが豪雨災害が直撃したり、今度は強烈な台風が直撃したりしそうですが、可能な限りペースを保って更新していければと思います。


それでは、このような拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 来ちゃった これほど嬉しくないのも珍しい。
[一言] 酒だ!酒持って来い!って自棄になる状況だわなあ
[良い点] ちょうど良い所に来てくれた。
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