第44話:いざ水浴びへ その3
「…………」
「ごめんって」
「つーん……なのじゃ」
「悪かったって。そんなに可愛いらしく拗ねるなよ。心が痛む」
水浴びを終えてからというもの、『怒ってます』と態度で示すエリザにレウルスは何度も謝罪の言葉をかけていた。エリザはコロナから借りた服を着ているが、若干サイズが大きかったのか袖を余らせている。
「だってよ、こんな大量の肉だぜ? 食う方に意識がいくだろ? それにいきなり魔物に襲われて気が動転してたんだって……悪かったよ、謝る」
「謝るのならせめて肉を焼くのをやめるのじゃ!」
エリザに向かって頭を下げるレウルスだが、その手元ではジュウジュウと肉の焼ける音が響いていた。
レウルスの手元にあったのは、河原に落ちていた石を組んで作った即席のかまどである。
そこに河原で野ざらしになっていた流木を折って風が通りやすいように置き、ナタリアからもらった着火道具一式で火を点けたレウルスは、シャロンから食べても良いと言われた分の魔犬の肉を焼いていた。
近くには木々が生えているため細い枝を取り、短剣で先端を尖らせて肉に刺す。そして焦げないよう注意しながら火で炙っているのだが、エリザとしてはそれが気に入らないらしい。
ちなみにシャロンは周辺に魔犬以外の魔物がいなかったことを確認した後、水浴びをするため上流に行っている。レウルスはエリザのお守り兼肉焼きのためにこの場に残っていたのだ。
わざわざ離れるあたりシャロンの性別に関して疑惑が強まるレウルスだったが、ニコラがシャロンを弟だと言っていたためそれを信じて行動するつもりだった。色々と“足りていない”が、そういったハプニングはエリザだけで腹いっぱいのレウルスである。
「早く焼いて食わないと魔物が寄ってくるかもしれないだろ? ここまで準備して肉を放置して逃げることになったら、俺はどんな行動に出るかわからんぞ……」
「お主の食うことに対するその情熱はどこからくるんじゃ!? 怖いわっ! いや、それは置いておくとして、乙女の柔肌を見たんじゃからもっとしっかり謝らんかっ!」
顔を赤くし、頬を膨らませながらエリザが吠える。それを聞いたレウルスは大まかに切り分けられた魔犬の死体に手を伸ばして生の肝臓を手に取ると、そのまま齧り始めた。
「すまない……お前が魔物に襲われてないか、怪我をしてないかは確認したけど、お前の体自体はまったく見てなかった……すまない……記憶に残ってないんだ……」
「なんで内臓を生で食っとるんじゃお主!? というか誰が記憶に残らないほど寸胴で寂しい体付きじゃ!? そんなことを真剣に謝るでないわっ!」
「あっ、血抜きしてる最中だけどこの犬の血って吸えるのか? 滋養……はあるかわからないけど、吸血種なら魔物の血でも吸える?」
「誰が吸うかそんなものっ!」
肉が焼けるまでの“つなぎ”として魔犬の肝臓を齧るレウルスに、エリザは目を剥いて怒鳴る。
「謝れ、謝るな、どっちだよ……というかそこまで言ってねえ。まだまだこれから成長期だろ? エリザも多分、きっと、これから少しは大きくなるさ」
「そ、そうか? ワシもこれから成長……って、少し!? ぬ、ぬうわああああああぁぁっ!」
レウルスの言葉にそのなだらかな胸を撫で下ろし、再び目を剥くエリザ。最初に出会った頃はビクビクと怯えていたが、これがエリザの素なのだろうかと思いながらレウルスは魔犬の肝臓を齧る。
少しとはいえ血を流したのだ。血を補充するためにもたくさんの肉を食べるべきだろう。そんなことを考えつつ、怒りと羞恥を発散すべく殴りかかってきたエリザの拳を右手で受け止める。
「つっ!? あちゃー……つい利き手で止めたけど、穴が開いてたんだった」
「は? 穴じゃと……」
冗談混じりに笑うレウルスだったが、傷口が開いたのか再び右腕から血が溢れ始める。腕を貫通するほどの重傷ではなく、痛みはそれほどでもないが、穴状に抉れた傷から心臓の脈動に合わせて血が滲み出る感覚は妙にくすぐったい。
シャロンが酒で消毒してから軟膏を塗って包帯を巻いてくれたが、それだけで完全に血が止まるほど小さな傷ではなかった。エリザは包帯に血が滲んでいるレウルスの右腕を見ると、それまでの怒りを忘れたように心配そうな顔をする。
「れ、レウルス? だ、大丈夫なのか?」
「この犬っころに手甲ごと噛まれてな。手甲が壊れた上に牙が貫通して穴を開けられちまったよ……ま、キマイラに殴られた時と比べりゃ大したことはないさ」
そう言って河原に並べられた三匹の魔犬の死体に視線を向けた。血抜きをするため、レウルスが首を刎ねた一匹以外の魔犬も首を切って川に血を流している。
その臭いによって魔物が寄ってこないか不安になるが、シャロンからの指示でもあるためレウルスは素直に従っていた。
「エリザ?」
魔犬の死体を見ていたレウルスだったが、エリザが何も言わなくなっていることに気付いて首を傾げた。視線を向けてみると、エリザはどこかぼうっとした顔付きでレウルスの右腕を見ている。
「……血、吸うか?」
魔物は嫌でも人間の血なら吸えるのか、などと思いながらレウルスは言った。するとエリザの体が大きく震え、我に返った様子で一歩後ずさる。
「なんっ……なっ、なななな……」
「吸血種って血を吸って自分の力にするんだろ? もしかしたら魔力が増えるかもしれないし、吸うなら吸っていいぞ?」
血を吸われても吸血種になるわけではないらしい。それならば献血と変わりはないと思ったレウルスだったが、エリザは激しく困惑した様子で視線を彷徨わせている。
そして数秒もすればエリザは首から顔にかけて真っ赤に染め、口元を震わせながら大きく首を横に振った。
「な、何を言っておるんじゃ!? ワシとお主は出会ってほんの数日じゃぞ!?」
「……おう、そうだな?」
何やら妙な反応である。レウルスは不思議そうな顔をするが、エリザは魚のように口を開閉しながら赤く染まった頬を両手で押さえた。
「いきなりすぎるわっ! わ、ワシとて心の準備が必要じゃし……いや、そもそもそんなことできるかっ! はしたないのじゃ!」
(何だろう……俺とエリザの間にものすっごい意識のズレがある気がする……)
湯気でも噴きそうなほど真っ赤になっているエリザ。そんなエリザの顔を見たレウルスは、吸血種の感性について思考を馳せる。
吸血種にとって血を吸うことが特別なのか、それともエリザが特別だと思っているだけのか。あるいは吸血種という括りの中でも色々と違いがあるのか。
血を吸えば力が増すとは聞いていたが、具体的にはどの程度血液が必要で、どの程度力が増すのかもわからない。メリットだけでなくデメリットが存在する可能性もあり、レウルスその辺りは聞いておく必要があると判断した。
「吸血種にとって人の血を吸うのって特別なことなのか?」
他意はなく、単純な疑問として尋ねるレウルス。エリザもレウルスが何も知らないことを察したのか、真っ赤な顔を冷ますように手を振りながら答える。
「ワシはおばあ様にそう教わったのじゃ。むやみに血を吸うな、吸うのなら――」
そこまで言った途端、冷まそうとしていたエリザの顔が再び真っ赤に染まった。
「吸うのなら?」
「~~~~っ! ひ、秘密じゃ! 教えぬっ!」
余程言いにくいことなのか、エリザは顔を真っ赤にしたままでそっぽを向く。エリザが何を言おうとしたのかは不明だが、少なくとも“特別な意味”があるらしい。
(エリザのおばあさんが孫の可愛いところを見たくて変なことを吹き込んだってオチは……さすがにないか。本当に何か意味があるのか、それともエリザが進んで人の血を吸わないようにって考えたのか……)
詳しく聞きたいところだが、エリザはレウルスの方をチラチラと見るだけで口を割りそうにない。性急に聞き出す必要もないと判断したレウルスは視線を自分の右腕に移し、ひとまず止血をすることにした。
「のう……その傷、本当に大丈夫なのか? し、死んだりはせんよな?」
それまでの赤面が落ち着き始めたエリザは、止血を始めたレウルスを心配そうに見る。
「こんなもんは唾でもつけときゃ治るさ」
「そうなのか? ふぅむ、唾をつけるだけで治るとはすごいのう……治癒魔法とやらがいらぬではないか」
感心したように頷くエリザだが、レウルスとしてはエリザが真面目に頷いていることに戦慄した。幼少の頃に人里を追い出されたとはいえ、さすがに知識が偏り過ぎではないだろうか。
読み書き計算はできるらしいが、自分よりも常識がなさそうだ。そう考えたレウルスはエリザが変な勘違いをしないよう、発言に気を付けようと思った。
「……なるほど、唾をつければ治るんじゃな」
小声でエリザが呟くが、肉を焼くこととエリザの“今後”に気を取られていたレウルスの耳にその呟きが届くことはなかった。
シャロンが水浴びから戻り、魔犬の肉のみで食事を終えたレウルス達はラヴァル廃棄街へと戻っていた。魔犬の肉はラヴァル廃棄街でも食用と認識されているらしく、巨大カマキリであるシトナムを食べることには難色を示したシャロンも美味しそうに食べていた。
ちなみにではあるが、レウルスも水浴びをしている。ただし魔物を警戒する必要があるため烏の行水とでも言うべき短さであり、手早く体の汚れを落として水から上がった。
機会があれば風呂に――サウナ風呂でも良いから入りたいと思うレウルスである。そんなレウルスは水浴びが終わるなり魔犬の死体を担いでラヴァル廃棄街に戻り、汗だくになっていた。水浴びの意味がないと思ったのは内緒である。
大剣などの装備もあるためレウルスが魔犬を一匹、『強化』が使えるシャロンが魔犬を二匹、そしてエリザはレウルスの剣を背負っての帰還だ。
シャロンは手が塞がっていても戦えるためそこまで問題はないが、レウルスはただでさえ低い即応性が下がって内心では戦々恐々である。
それでも、結局遭遇した魔物は魔犬が三匹だけだった。
この日の成果は水源までの調査および魔犬の素材の売却、更には討伐報酬まで加えてそれなりの額になる。冒険者組合に魔犬の死体を持ち込んだレウルス達は、ナタリアが差し出す報酬を確認して三等分にした。
昨日とは打って変わり、一人あたり銀貨6枚――日本円で考えると6万円近い報酬である。久しぶりにまとまった金額で報酬を得られたことに安堵したレウルスだったが、報酬を受け取ったエリザは非常に気まずそうな表情を浮かべていた。
「のう、レウルス……本当にワシも受け取って良いのか? ワシ、何もしておらんぞ?」
魔犬を倒したのもレウルスとシャロンで、魔犬の死体を持ち帰ったのも同様だ。エリザもエリザなりに周囲の警戒をしていたが、銀貨6枚もの報酬に値する仕事だったかと言われれば答えは否だろう。
「気にすることはない……昨日は空振りだったから何も言わなかったけど、駆け出しの冒険者も“最初だけは”優遇する。レウルスもそうだったし、そのお金は君が受け取るといい」
指導を引き受けているからか、エリザの疑問に答えたのはシャロンだった。レウルスもそれを肯定するように頷く。
「俺も初めて魔物退治をした時は等分で報酬をもらったもんさ。エリザの場合は……まあ、魔物と戦っていないから気になっても仕方ねえ。でもな、その優遇も一回だけだ。その金の使い方はお前に一任するけど、よく考えて使うこと。いいな?」
レウルスも冒険者として初めて魔物退治をした際、シャロンやニコラと報酬を三等分したのである。その時のことを思い出して懐かしむように目を細めるが、懐かしむほど昔のことではないと気付いて苦笑した。
「……ちなみにレウルスは何にお金を使ったんじゃ?」
「俺か? 俺は靴と脚甲だ。冒険者なら歩くのが仕事みたいなもんだし、自分の足に合った靴が重要って先輩達に聞いたしな」
現在レウルスが履いている靴と身に付けている脚甲は初めての報酬で買ったものだ。既に三週間近く使っているからかすっかり馴染み、動きを阻害することもない。
「あっ、でも報酬全部を使うようなことはするなよ? 半分は残しておいた方が良い」
「何故じゃ? もちろん生活費は残すが、なるべく良い装備を手に入れた方が安全じゃろ?」
手に入れた金を即座に使ってしまうと今の自分みたいになる。レウルスは自分の実体験からそう言おうとしたが、あまりにも格好がつかないため他の理由を持ち出すことにした。
「銀貨三枚あれば最低限の旅支度は整えられると思う。もし俺が死んでからもエリザがこの町に残るのなら必要ないけど、この町を出るかもしれないと考えるなら貯めておくんだ。いいな?」
「――えっ?」
レウルスが含めるように言うと、エリザは虚を突かれたように目を丸くする。
「いやな? 今日もあと少し反応が遅れていたら最初の一撃で首を噛み千切られてたし、あの犬っころが最初から三匹で襲ってきていたら死んでたかもしれねえ」
思い出すのは、魔犬と戦った時のことだ。魔物がいれば自身の“勘”でわかるが、迎撃態勢を整えるよりも早く間合いを詰められるとは思っていなかった。
あの場合は林の中という動きにくい場所にも関わらず、数秒で間合いを詰めた魔犬を褒めるべきだろう。だが、もう少しだけレウルスが警戒を強めていれば強襲を防げていたかもしれない。
「冒険者ってのは本当に死にやすいし、その割に報酬が高いわけでもない。まとまった金が手に入ったなら貯めておくに越したことはないんだ……うん、俺が言っても説得力がねえな」
金は貯めておくに越したことはない――が、手に入った金をすぐに使ってしまう自分が言っても、説得力は微塵もないだろうとレウルスは思った。
それでも、使った金は全て必要なものを得るためだった。自前の装備を手に入れることができた以上、これからは可能な限り金を貯めようとレウルスは考えている。
(さすがにおやっさんのところで物置を借り続けるのもなぁ……どこかで空いている家を借りるか、建てるか。金がいくらあれば足りるのかな……)
冒険者として当面は通用する装備を揃えることができた。それならば次は住む場所を意識するべきだろう。現在住んでいる物置も気軽にドミニクの料理が食べられるのは魅力的だが、さすがにそろそろ卒業しなければならない。
コロナやドミニクは気にしないだろうが、レウルスは気にするのである。
「……嫌じゃ」
自分のことを棚に上げて金を貯めろと言うレウルスだったが、エリザは顔を俯かせて何事かを呟く。その呟きにレウルスが首を傾げると、エリザは勢いよく顔を上げて叫ぶ。
「嫌じゃ! “お主まで”ワシの傍からいなくなるのかっ!?」
冒険者組合にいた冒険者全員が同時に振り向くような、大きな声だった。エリザはそれに気付いていないのか、縋るようにレウルスの服を掴む。
「あー……いきなりすぎたし言葉も悪かったな。死ぬつもりなんてないし、いなくなるつもりもないって。ただ、備えあれば憂いなし……お金は大事だって話さ」
レウルスは今にも泣き出しそうなエリザに苦笑を一つ零し、膝を折って目線の高さを合わせる。そして安心させるように頭を撫でると、エリザは涙を誤魔化すように目元をぬぐった。
「……約束じゃぞ? 勝手にいなくなるでないぞ?」
やはりというべきか、エリザの精神はまだまだ不安定なようだ。そのためレウルスは笑いながらエリザの頭を強く撫で、話を変えることにする。
「金を貯めとけって言ったばかりでなんだけど、その金を受け取るのが申し訳ないっていうのなら酒の一杯でも奢ってくれよ。俺はそれで十分だ」
「……ボクもそれでいい。冒険者の先輩として奢ってもいいけど、心苦しいのなら清算しておくことを勧める」
レウルスの時は実際に魔物と戦い、レウルス自身の手で倒したわけだが、エリザの場合は違う。魔物退治の初報酬として“お祝い”を受け取るのが心苦しいというのなら、それを別の形で清算しようとレウルスは勧めた。
「わかった……うむ、わかったのじゃ。お酒の一杯と言わず、今晩の食事代はワシがすべて払うぞっ!」
「俺、食おうと思えば銀貨6枚分でも多分いけるぞ」
「……やっぱりお酒の一杯で勘弁してほしいのじゃ」
レウルスが真顔で言うと、エリザも涙を引っ込めて真顔になる。しかし数秒してから笑い合うと、今日の成果を祝ってドミニクの料理店へと向かうのだった。
「酒飲んだら血が止まらなくなったわ……」
「お主馬鹿じゃろ!? 絶対馬鹿じゃろ!?」
ドミニクの料理店で食事を終えたレウルスとエリザだったが、エリザに酒を一杯奢ってもらったレウルスは右腕の血が止まらずに困っていた。
切り傷ではなく、人差し指が入りそうな穴状の傷からはいまだに血が溢れている。多少はカサブタも出来ているが、滲み出すようにして血が出てくるのだ。
「ま、軟膏塗って新しく包帯巻いとけば大丈夫だろ。たくさん肉を食ったし血も作られるって……問題は今晩どうやって眠るかだ」
酒を飲んだせいで右腕の血が止まらないのは自業自得だが、それ以上に差し迫った問題があった。それは今晩の寝床をどうするかという問題であり、少なくともレウルスにとっては数日で治りそうな怪我よりも重要である。
もっとも、レウルスに選択肢などない。元々レウルスが使用していた藁ベッドをエリザに使わせ、レウルス自身は地面に転がって眠るしかないだろう。壁に囲まれているため外で眠るよりも温かく、安心感もある。
そう考えたレウルスが装備を物置の端に移動させていると、エリザがきょとんとした顔付きで首を傾げた。
「地面に藁を敷いて一緒に寝ればいいじゃろ?」
「……誰と誰が?」
「ワシとレウルスが?」
他に人はいないだろう、と言わんばかりにエリザは不思議そうだ。たしかに昨晩は同じ寝床で眠ったが、それはエリザが離さなかったからである。ついでに言えば涙と鼻水で危うく服の一着が使えなくなるところだった。
しかしエリザが正気に戻っている状態で一緒に寝るのはどうしたものだろうか。レウルスとしては再び大惨事が訪れないのならば別段構わない。最早エリザを監視する意味もないだろうし、湯たんぽ代わりになりそうだ。
これで一緒に眠るのがナタリアやエステルのように肉感的な女性だったならば話は別だが、エリザが相手ならば微塵も“その気”にはならないだろう。
「一人は……寂しいのじゃ」
木箱を整理すれば二人で寝転がる広さはある。そんなことを考えるレウルスだったが、何も言わないレウルスの耳に囁くような声が届いた。視線を向けてみると、エリザが瞳を揺らしながらレウルスの服を掴んでいる。
「……仕方ないな。よし、それなら早速寝るか」
「っ! うむっ!」
木箱で作った藁ベッドでエリザを寝かせたとしても、寝相が悪ければ落ちてくるかもしれない。それならば最初から地面の上で寝た方が良いだろう。
そう判断してレウルスが寝床を作り始めると、エリザは一転して笑顔に変わった。
そうして、レウルスとエリザは二人して地面に敷いた藁の上に寝転がる。レウルスとしては右腕の出血が気になるが、寝ている内に血も止まるだろうと考えていた。
今日は魔犬と戦い、さらには魔犬の死体を担いで一時間近く歩いている。疲労もそれなりに溜まっていたレウルスは寝床に転がると、あっさりと眠りに落ちていった。
そして翌日。
レウルスは日の出と共に自然と目を覚ました。何度か瞬きをして意識を覚醒させると、利き腕である右手を地面について体を起こし。
「……ん? 寝てる間に包帯が解けて……んん?」
巻いていたはずの包帯が解けて右腕が露出し――魔犬につけられたはずの傷がなくなっていることに気付いて目を見開くのだった。
どうも、作者の池崎数也です。
読者の方からいただいたご感想で補足説明したいものが一点ありましたので、あとがきをお借りします。
Q.前回のレウルスやたらと強くなかった?(意訳)
A.運が良かったのと相手が弱かっただけです。
シャロンが説明しましたが、魔犬は“群れなら”下級上位というだけで単体なら下級下位~下級中位の強さになります。
前回の場合は度胸試しに若い(弱い)個体がレウルスに突撃→ピンチになったので仲間が参戦という流れでした。それに加えて一匹目はレウルスが目を潰して怯えていたので、一対一を二回行った形になりました。そのためレウルスでも少しの怪我だけで倒せました。
ただ、レウルスが気付くのが遅ければ最初の一撃で首を噛み千切られて死んでいましたし、最初から複数で同時に襲われても死んでいました。
キマイラと戦ったことで度胸がついたことも魔犬を倒せた理由に含みますが、油断すれば下級の魔物が相手でも死んでしまうとご理解いただければと思います。
それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。