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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第440話:吸血種との戦い その3

前書きをお借りいたします。


拙作のコミカライズ版の8話前半が掲載中です。


よろしければそちらもお読みいただければ幸いに思います。


 正面から攻めてきたナタリア達を確認したスラウスは、思わずといった様子で眉間に皴を寄せた。


 “試し”にと住民を向かわせてみたものの、容易く無力化されてしまったことに驚いた――というわけではない。


 先頭に立つナタリアの姿を遠目にながらも目視した結果、眉を寄せずにはいられなかったのだ。


「見知らぬ顔が一人増えているが……あの女は何者だ? 並の手合いではあるまい」


 純粋に驚いたような眼差しで窓の外を見ていたエリザに対し、スラウスが問いかける。その声色には警戒の色が滲んでおり、眼差しも鋭いものへと変わっていた。


「……ワシがそれを話すと思うか?」


 スラウスの声色を聞き取ったエリザは威嚇するように眦を釣り上げる。


 レウルス達だけでなく、“あの”ナタリアまで戦いの場に出てきたのだ。エリザもナタリアが全力で戦うところを見たことがあるわけではないが、その経歴は知っている。


 ナタリアはマタロイという大国でかつて一つの軍を率いた魔法使いだ。それは王都ロヴァーマで、試合という形式とはいえレウルスを圧倒したベルナルドと同格と呼べる立場である。


 ベルナルドとナタリアを比べた場合、どちらが強いかはエリザにもわからない。だが、ナタリアの強さが大きく劣るということもないだろう。

そんなナタリアが援軍として加わっているというのなら、スラウスを打倒し得る可能性も高まる。それならばスラウスに情報を渡すべきではないだろう、とエリザは判断した。


「ではこうしよう――『あの女に関して知っていることを話せ』」


 だが、相手が悪いと言わざるを得ない。有無を言わさず情報の抜き出しにかかるスラウスに対し、エリザは無駄だとわかっていても必死に口を閉じようとする。


「ぐ、ぅ……あれはナタ、リア……ラヴァル廃棄街の、管理官……この町の、隣の領地を拝領した……男爵……元々は、この国の国軍で隊長を務めて、いた……」


 エリザは抵抗していたものの、勝手に口が動いてナタリアに関する情報を漏らしてしまう。


(っ……わたしは、足を引っ張ってばかり……)


 抵抗は困難ではあるが、容易く情報を漏らしてしまった自分自身にエリザは怒りと悔しさを覚えた。しかし、そんなエリザの心情とは裏腹にスラウスはどこか感心したように片眉を跳ね上げる。


「ほう……この国で一軍を率いていた将、か」


 エリザの言葉を聞いたスラウスは再度遠目にナタリアの顔を確認し、納得したように頷く。


「なるほど、遠目に見てもわかる隙のなさ……それならば“あの技量”にも納得がいく。グレイゴ教徒ならば司教の中でも上位に匹敵するだろうな」


 直接戦ったわけではないがスラウスはナタリアの僅かな動きからその技量を見抜き、称賛する。しかしすぐに不思議そうに首を傾げた。


「それほどの手練れも、いるところにはいるのだろう……だが、何故あれほど多くのドワーフが協力している?」


 スペランツァの町にドワーフがいたことは“知っている”ものの、その数は想像以上だった。スラウスが知る限り、ドワーフという魔物が数十人も集まって人間の町に住みつくことなど余程のことがない限りあり得ないはずなのだが――。


「……まあ、然して脅威でもないか」


 ドワーフは手先が器用で鍛冶を得意とし、優れた武具や魔法具を生み出すことにかけては目を瞠るものがあるが、スラウスからすれば警戒に値しない。魔物の中では中級に分類されるドワーフだが、その戦闘能力は高が知れているからだ。


 使える魔法は補助魔法の『強化』程度で、膂力は侮れないが戦い方は近接戦闘のみ。魔法を使って周辺を丸ごと薙ぎ払えるスラウスからすると、群れで襲ってきても片手間に対処できる戦力でしかない。

 その点でいえば、ドワーフ達を戦力としてではなくレモナの町の住民を運び出す“運搬役”として使うのは正しい。


(おそらくはあのナタリアという女の指示だろうが……)


 遠目に捉えたナタリアの姿を観察しながら、スラウスは内心で呟く。スラウスにとって魔力源である住民をレモナの町から引き離すという判断は的確なものだ。

 例え『契約』を交わしていたとしても、距離が離れすぎればそのつながりも途絶えてしまう。離れすぎれば『思念通話』の魔法が“断線”するように、魔力によるつながりは絶対ではない。


 手段としては単純ではあるが、本来は物量差によって実行が困難なはずの一手。それでいて実行されればスラウスにとっては面倒な、的確な一手と言えた。


(あのレウルスという男がいる以上、『契約』が有効な距離に関してはあちらもある程度見切っているか。なるほど、これはこちらを引きずり出すための策と言えるな)


 レウルスがエリザと『契約』を結んでいる以上、魔力が届く距離に関しては筒抜けだろうとスラウスは納得する。

 ナタリア達が取っている行動は放置するわけにはいかず、かといってこのまま物量をぶつけ続けるわけにもいかない。最悪の場合、ナタリアならば住民を皆殺しにしてでも魔力源を絶てるとスラウスは悟ったのだ。


 やろうと思えばレベッカ達グレイゴ教徒でもそれは可能だろうが――そこまで思考したスラウスは、ふと疑念を覚える。


(……あのドワーフの娘はどこに行った?)


 ナタリア達の姿を確認したスラウスだったが、その中にミーアの姿がないことに気付いた。再度確認してみても、ナタリア達の中にミーアの姿はない。

 しかし、その疑念はすぐに消え失せる。先の戦いでも大した活躍はしておらず、スラウスからすれば脅威にはなり得ないからだ。


 戦いの役に立たない以上、住民を運ぶドワーフ達の中に紛れていたのだろう、とスラウスは判断した。


 なによりも、今はもっと警戒すべき相手がいる。ナタリアという魔法の使い手が、元々特に警戒していたレウルスと共にいるのだ。

 ナタリアの援護を得れば、レウルスの脅威度は一体どれほど跳ね上がるか。


「『貴様らはエリザがこの場から逃げないよう監視していろ。敵が来れば死ぬ気で抗え』」


 ――このまま“手駒”を減らされては堪らない。


 そう判断したスラウスは控えていた兵士達に指示を出すと、すぐさま動き出すのだった。








「あら……思ったよりも早く動いたわね」


 レモナの町の住民を“ひとまず”百人ほど無力化してみせたナタリアは、遠くに感じていた巨大な魔力が動き始めたことにすぐさま気付いた。

 遠くを見るように目を細めながらも、その立ち姿には何の気負いもない。ナタリアは左手に杖を握り、右手には懐から取り出した煙管を握る。そして手慣れた仕草で煙管をくるり、くるりと回した。


「さすがに戦力を逐次投入するような真似はしませんでしたか」


 そんなナタリアの仕草を視界の端に収めつつ、ジルバが言う。ナタリアはジルバの言葉に頷くと、口の端を釣り上げて小さく笑った。


「このまま相手の戦力を削れたら楽だったのだけれど……まあ、予想の範囲内ね」


 そう話すナタリアの視線の先には、スラウスの姿があった。スラウスはレモナの町の領主であるヘクターが住まう邸宅の屋根に上り、見下ろすようして視線を向けてくる。


 スラウスがどう動くかを観察していたナタリアだったが、わざわざ姿を見せたということは戦いに加わるということだろう。そしてそれは、レモナの町の住民を操るだけでは勝てないと判断したということでもある。


「あれが例の吸血種ね……エリザのお嬢さんと比べると大違いだわ。“アレ”なら町の一つも容易に滅ぼし得る、か」


 スラウスがナタリアを見てその技量を見抜いたように、ナタリアもスラウスを目視してその技量を見抜いた。

 実際に魔法を撃ち合ったわけでも、刀刃を交わし合ったわけでもない。だが、感じ取れる魔力と僅かな挙動から大まかながらも相手の技量を見抜いていた。


「……なるほど。アレが相手ならレウルスが仕留めきれなくてもおかしくはないわね。ジルバさんや司教が一緒でも、手こずってもおかしくはない、か……」


 そう呟きつつも、ナタリアは怪訝そうに眉を寄せる。


 スラウスの強さに関しては別に良い。間違いなく上級に分類されるであろう魔物が――それもかつてグレイゴ教徒によって滅ぼされたはずの吸血種がレモナの町に現れたことに関しても、今は横に置いておく。


 ナタリアがスラウスの強さや出現した理由よりも先に疑問を抱いたのは、その外見だ。レモナの町の領主であるヘクターによく似ているのは一体何故か、と内心で首を傾げる。

 レモナの町を支配下に置くにあたり、周囲の目を誤魔化す必要があると判断して『変化』したのか。しかしその割に“抜けた”行動を取っており、正体を見破られている。


(実力と行動が釣り合っていないように思えるのは何か理由があるのかしら? レウルスが話していた“制限時間”もまだ余裕がある。さすがにこの稚拙さで周囲の目を欺けると判断するほど間抜けではないでしょうけど……)


 スラウスから感じ取れる強さとは裏腹に、行動に稚拙な部分が垣間見える。ナタリアはその点が気にかかったが、強者であることと政治や謀略を得意とすることは紐付かない。


 ナタリアはアメンドーラ準男爵家の娘として、一軍の将として王都で散々揉まれてきたが、吸血種であるスラウスにはそういった経験を積む機会もなかったのだろう。もしかするとスラウス本人としては周囲を騙し通せると思っていた可能性もゼロではない。


(行動の稚拙さに加え、偶然我々が隣の領地に来たことで計画が破綻した……ということかしら)


 ナタリアはスラウスのこれまでの行動に関してそう結論付けた。


 普通に領地を開拓するような者達が近隣に来ただけならば気づかれなかった可能性もあるが、レウルス達のような異質な集団がドワーフの集団を引き連れて開拓に乗り出してくるなど普通ならば考えない。


 スラウスの運が悪かった、などと一言で片づけるつもりはナタリアにもない。だが、一軍の将として戦場を駆け抜けた経験を持つナタリアからすれば、運という要素は無視できないものでもある。


(それに、相手はこちらの予定通りに動いている……それならあとはどう仕留めるかね)


 “予定通り”スラウスを引っ張り出すことができたのだ。エリザの救出に関してはまだ叶っていないが、それはレウルスの仕事だとナタリアは割り切っている。


 遠目に見えるスラウスと視線が交差する。距離を隔てているはずだというのに、警戒の眼差しを向けられているとナタリアは感じ取る。


 だからこそ、ナタリアは宣戦するように口を開く。


「では戦いましょうか、吸血種。遊びも加減もなく、全力でね」


 そう言って、ナタリアは挑発するように煙管をくるりと回すのだった。






どうも、作者の池崎数也です。

いきなり2か月近く更新が空きまして申し訳ございません。

世間を騒がせているコロナウイルスによって仕事がごたついていました。

多少落ち着きを取り戻したので今後は更新ペースを少しでも早められればと思います。


それでは、このような拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 各自の成長や心の機微がしっかり表現されているところ。 また、主人公以外の登場人物もキチンと書かれておりとても良いですね! [一言] 面白くて一気読みしました。 個人的に好きなのはコルラー…
[良い点] 更新きたぁ! [一言] いよいよ対決ですね! 楽しみに待ってます!
[良い点] 更新ばんざい!
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