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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第439話:吸血種との戦い その2

前書きをお借りいたします。


本日(1/30)、拙作のコミカライズ版の7話後半が掲載予定です。


よろしければそちらもお読みいただければ幸いに思います。

 レモナの町と外部を隔てる城門が、轟音と共に吹き飛ぶ。本来は町の外に向かって開くはずの扉が“内側”へと飛び、砂埃を巻き上げながら地面へと転がった。


 そうして巻き上がった砂埃を散らしながら、複数の人間がレモナの町へと足を踏み入れる。


 サラとネディ、ナタリアとジルバ、レベッカに加えてクリスとティナの姉妹。そして『龍斬』を背負ったレウルスの合計八人である。


「ねーねーナタリア。なるべく被害を出さないようにするんじゃなかったの? いきなり城門壊しちゃったけど、これって後で怒られない?」


 レモナの町に足を踏み入れたサラは、先頭に立つナタリアに向かって声をかけた。その視線はナタリアが吹き飛ばした城門へと向けられており、問題はないのかと首を傾げている。


 当然の話ではあるが、城門というものは非常に頑丈に作られている。人が出入りできるよう開閉可能な範疇ではあるが、魔物の襲撃や他所の兵が攻めてきた際に防衛できるよう頑丈に、それでいて重く作られていた。

 レモナの町の城門は分厚い木材で作られ、なおかつ鉄材で補強もされている。これを破壊するには通常ならば破城槌などの攻城兵器が必要となるだろう。


 だが、ナタリアは単身で城門を破壊していた。城門の周囲に住民の気配がないことを確認するなり、問答無用で破壊したのだ。

 方法はいたって単純なもので、魔法で生み出した風を叩きつけただけである。しかしその威力は凄まじく、ナタリアと同様に風魔法を操るクリスが目を丸くしていた。


「この場にいないバルベリー男爵には確認できないことでしょう? 住民に被害は出してないし、件の吸血種の仕業にしてしまえばいいわ」


 そして当のナタリアは砂埃を風で払うように、手を振りながら軽く言ってのける。それで良いのかとサラは再度首を傾げたが、ナタリアはそんなサラの様子に小さく苦笑した。


「こちらの方が都合が良いし、目を引けるからこうしているのよ。可能な限り被害を抑えると約束したけれど、これは“必要なこと”ですもの」

「サラ様、少々手荒ではありますが仕方のないことかと」


 そう言って苦笑と共にサラを窘めたのはジルバである。これからの戦いを思えば、町の外につながる経路の確保は必要だと判断したのだ。


「ふーん……ナタリアが大丈夫って言うのなら大丈夫よね!」

「……怪我した人も、いない」


 納得したのか笑顔で頷くサラと、周囲を見回して怪我人がいないことを確認するネディ。


「怪我人どころか住民が全然見当たりませんわねぇ……まあ、わたしと似たようなことができるのなら戦力を無駄に分散させることもない、か」


 ネディと同じように周囲を確認していたレベッカは気楽な、それでいて油断した様子もなく呟いた。その傍にはクリスとティナがいたが、無言で周囲を警戒している。


「…………」


 そして、ナタリア達の話を聞いていたレウルスもまた無言だった。無表情で遠くを見るように目を細めている。


「ふふっ……何か気になるものでもありましたか? “わたしの王子様”の気を引くようなものはないでしょう?」

「…………」


 そんなレウルスに対してレベッカが笑いかけるが、レウルスは無言のままで何も答えなかった。レベッカはレウルスの反応に笑みを深めると、レウルスに倣うようにして視線を遠くに向ける。そして数秒と経たないうちに再び口を開いた。


「っと……動きましたわ、ええ、動いたわ」


 レベッカの言葉の意味を読み違える者は、この場にはいない。数秒の誤差こそあれど、その場にいた全員が状況の変化に気付いた。

 遠くから響く、地鳴りのような音。その音は感覚の鋭い者ならば地面が僅かに振動しているようにも感じ取れる変化と共に迫り来る。


「わわっ! 来たわよっ!」


 “それ”に気付いたサラが驚いたように声を上げた。


 その場にいた全員の視線の先――町の中心部から、一斉に迫り来る人の群れが見えたのだ。


 性別年齢を問わず、それぞれが武器を手に持った集団が駆けてくる。剣や槍といった武器の他に、包丁や木の棒を握った集団が駆ける音と振動は距離があってなおナタリア達のもとへと響いていた。

 スラウスに操られ、なおかつ『強化』もかけられているのだろう。城門を破壊したナタリア達目掛け、真っすぐに向かって来る住民達は常人と比べて段違いの速度だ。


「数は……百といったところかしら。こちらの戦力を確認するためかもしれないけど、戦力を小出しにするなんてね。強力な吸血種だとは聞いているけど、将としては未熟なのかしら」


 感情が抜け落ちたような表情を浮かべつつも殺気だけはしっかりと放っている集団――レモナの町の住民達を目視したナタリアは、どこか呆れたように呟く。

 しかしすぐさま意識を切り替えると、その視線をネディへと向けた。


「それじゃあ“予定通り”にお願いするわ」

「……任せて」


 ナタリアが声をかけると、ネディが一歩前へと出る。そして迫り来る住民達へと真剣な、それでいてどこか悲しげな眼差しを向けた。


「絶対に……助けるから」


 そう呟くなり、ネディは魔力を込めながら地面に手を触れる。すると次の瞬間、ネディの意思に従うようにして氷魔法が放たれた。

 ただし、氷魔法といっても住民を直接狙ったものではない。ネディの狙いは迫り来る住民の足元――地表である。


 パキパキと音を立てて地面が凍結していく。ネディ達の前方、大通りの地面を覆うようにして氷が生み出されていく。


 氷の厚みは一センチにも満たないが、それで十分だった。一直線に向かってきていた住民達の足を滑らせ、走ってきた勢いもそのままに盛大に転ばせる。


「ふむ……話を聞いた限り“そう”だとは思ったけれど、予想通りね」


 地表を覆う氷によって足を滑らせる住民達の姿を観察しながら、ナタリアがぽつりと呟いた。


 『強化』がかけられているため、勢いよく転んだとしても大きな怪我はしないだろう。しかし転び方によっては危険なため、酷い転び方をしそうな住民だけは風で掬い上げて氷の上に転がしていく。それに併せ、手に持った武器で怪我をしてしまわないよう可能な限り風で弾き飛ばしていく。


 ネディが生み出した氷によって足を滑らせたのは、駆け寄ってきていた住民の内およそ七割程度である。スラウスが事態に気付いたのか、残り三割は転ぶ前に進路を変えて周囲の家々へと跳び上がる。

 地表ではなく氷が覆っていない周囲の建物を足場にするつもりなのだろう。大通りの両脇には大小様々な建物が並んでいるが、『強化』がかけられているのならば猿のように飛び移りながら移動することも容易だ。


 もっとも、“その程度”ではナタリアからは逃げられないが。


 ナタリアが手を振るうと突風にあおられたようにして住民が体勢を崩し、大通りへと落下していく。


「うわぁ……ねえねえナタリア、本当に大丈夫? 転んだ人もだけど、屋根から落ちた人も怪我しちゃわない?」


 虫でも叩き落とすようにして住民を氷上へと落下させるナタリアに対し、サラが恐々声をかける。転んだ者も落下した者も立ち上がろうとするものの、ほんの僅かに動くだけで再び足を滑らせて転倒していた。


「死なないように足から落としているし大丈夫よ。それよりも合図をお願いするわ」

「うん、任せてっ!」


 ナタリアの指示を聞くなりサラが右手を空へと向け、火球を生み出して発射する。そして数秒ほど上昇した後に炸裂し、爆発音を響かせた。


 レモナの町を攻めるにあたり、ナタリアが選択したのは少数による強襲である――が、スラウスに関する話を聞いた限り、“それだけ”で仕留められるとは考えていなかった。


 それ故に、使えるものは何でも使う。


「よっしゃ、行くぞオメェらァッ!」


 サラの合図から僅かな間も置かず、城門を潜り抜けて飛び込んでくる集団の姿があった。それはカルヴァンを筆頭としたドワーフ達で、ナタリア達を追い越すようにして大通りへと突入する。


 カルヴァン達は薄く張られた氷を踏み砕きながら前進し、立ち上がろうともがく住民達へと飛び掛かっていく。

 無論、カルヴァン達を戦力として考えているわけではない。スラウスやスラウスに操られている住民と戦うのはナタリア達の仕事だ。


 ナタリアがカルヴァン達に頼むのは戦闘ではなく“運送”である。


 いまだに武器を持っている住民からは武器を取り上げ、あるいは破壊し、次から次へと無力化していく。そして俵でも担ぐようにして住民を抱え上げると、全速力で元来た道を戻り始めた。


 突入してきたドワーフは三十人ほどで、ドワーフ一人につき住民二人を抱えて撤退していく。


 いくらスラウスが『強化』によって住民達の身体能力を底上げしているとしても、中級に属する魔物であるドワーフの身体能力には及ばない。小柄ながらも膂力に優れ、その上『強化』を使えるドワーフとでは差が大きかった。

 もちろん住民達も無抵抗で担がれるわけではないが、その抵抗はカルヴァン達の拘束から逃れられるほど苛烈というわけでもなかった。


「こいつらを外の連中に任せたら戻ってくるが、吸血種がこっちに来ないよう頼むぜ!」

「ええ、任せてちょうだい」


 通ってきた城門から町の外へと駆けていたカルヴァンがナタリアへと声をかけ、ナタリアもそれに答える。


 レモナの町の外にはスペランツァの町の開拓に参加していた冒険者達が待機しており、カルヴァン達が運んできた住民が“大人しくなり次第”運送を引き継ぐ算段だった。


 冒険者達の指揮に関してはコルラードに一任しているため、ナタリアとしては何の心配もない。


(『人形遣い』のように自分の意思を持った状態で操るのならかなり厄介だったわね。でも、支配下に置いた者を自分で操る必要があるのなら手の打ちようはいくらでもある……)


 懐から煙管を取り出しながらナタリアはそんなことを思う。その視線は動きを封じた住民の残りを通り過ぎ、町の中心部にあるバルベリー男爵の邸宅へと向けられていた。

 距離があり、間にはいくつもの建物があるためその全貌は確認できない。しかし大勢の人の気配が感じられる。そこにスラウスがいることも、魔力の大きさから容易に看破できる。


「さて、次はどんな手を打ってくるかしら? このまま戦力を小出しにするなら楽に終わるけれど……」


 相手(スラウス)が住民の魔力を得るというのなら、その前提を覆してしまえば良い。仮に残った住民を一斉に向かわせてきたとしても、何百人も同時に操ればスラウスの“繰り方”も単調になるだろう。


 このまま戦力を削るか、あるいは一気に攻め立ててくるか。スラウスの動きを見透かすようにして、ナタリアはその眼差しを細めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまでと違ってドワーフ達もいる総力戦 [一言] 運送してるのは支配範囲から出すためなんだろうけど、実際何処まで離せば外れるのか分からないんだよなぁ。 一応エリザとレウルスのラインが繋がる…
[良い点] めちゃ熱い展開ですね! 楽しみです!
[一言] 住民搬出(わら)
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