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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第430話:奔走 その1

 今世において初となる空中飛行だったが、レウルスにそれを楽しむ余裕はなかった。翼竜に跨っている下肢に力を込めて落下しないよう注意しつつ、エリザを探す必要があったからだ。


 エリザを探すことについては、わざわざ目視で探す必要はない。『契約』によるつながりが復活するぐらい近づければ、すぐに見つけ出すことができるからだ。そこから更に距離を詰めれば、『思念通話』を使って呼びかけることも可能になる。


 そのためレウルスはエリザを探すことよりも翼竜から落下しないことに注力していた。地表から五十メートル近い高度を保って飛行する翼竜から落下すれば、さすがに命がないからだ。


 かつて『城崩し』と交戦した際に似たような高度まで撥ね飛ばされたこともあるが、その時は足場になる岩を飛び移り、辛うじて生き永らえることができた。

 だが、さすがに足場がない状態で五十メートルも落下すれば死ぬだろう。眼下に広がる森の枝葉がクッションになるかもしれないが、翼竜が飛行する速度まで加わった状態では焼け石に水である。


 それでも『熱量解放』を使っていればあるいは――などと思考していたレウルスだったが、遠目にレモナの町が見えたため気を引き締めた。そして同時に内心で舌打ちを零す。


(ここまで来てもエリザとの『契約』がつながらない、か……)


 レモナの町との距離は、目測でまだ数キロはある。それでも未だにエリザと魔力的なつながりが復活しないことにレウルスは眉を寄せた。


「どうやら見つからないようですわね」

「……なんでわかった?」

「わたしの肩に添えた手が、しっかりと食い込んでいますから」

「悪い、すまなかった……速度を落としてもう少し町に近づけるか?」


 どうやら無意識の内に力が入っていたらしい。声を上げるレベッカに対し、レウルスは素直に謝罪してからレモナの町に近づくよう頼む。


「ふふっ……構いませんわ。ええ、構いませんとも」


 何故か喜色が混ざった声が返ってきたためレウルスは盛大に眉を寄せるが、今はエリザを探す方が先決である。


 レベッカが操る翼竜は警戒するように速度を落とし、それまでと比べればゆっくりとレモナの町へ近づいていく。


(ここから先はスラウスにも注意しないとな……)


 レモナの町に近づけばスラウスに気付かれる危険性がある。今はまだそれなりに距離があるが、空を飛んでいるとなると発見するのも容易だろう。

 地上に降りて近づくという手もあるが、レウルスは魔力を隠すのが得意ではない。故に即座に離脱できるよう翼竜での移動を継続したが、遠目に見えていたレモナの町が近付くにつれて違和感を覚え始める。


「っ……なんだありゃ……」


 思わず、といった様子でレウルスが呟いた。


 レモナの町まではまだキロ単位で離れている。だが、近づくにつれて町の方から魔力を感じるようになってきたのだ。

 まるで風に乗った匂いのように、近づくにつれて強まる魔力。それは交戦したスラウスの魔力と思われたが、肌が粟立ちそうな得体の知れない気配も薄っすらと感じ取れた。


 ――同時に、それらの魔力に紛れるようにしてエリザの魔力も感じ取れた。


「……いた」


 『契約』によるつながりは復活していない。だが、それでもレウルスは雑多に混ざった魔力の中からエリザの魔力を嗅ぎ分ける。


「レモナの町を中心にして、周囲を旋回してくれるか?」

「ええ」


 レウルスの言葉に余計な口を挟むことなく、レベッカは翼竜の進路を僅かに変えた。そしてレモナの町から距離を取ったまま、大きく円を描くように飛行する。


(エリザの位置は……町の中心……バルベリー男爵の屋敷か?)


 レウルスは意識を集中し、僅かに感じ取れるエリザの魔力を探り続ける。エリザの魔力が移動する様子はなく、おそらくはヘクターの屋敷にいるのだろうと思われた。

 さすがに『思念通話』が届く距離ではない。レウルスは心中で何度もエリザに向かって呼びかけてみるが、それに応える声はない。


「…………ッ」


 ギリ、と奥歯が鳴るほど歯を噛み締めるレウルス。

 魔力を感じる以上、エリザは生きているのだろう。殺すつもりならばスペランツァの町から攫う必要はないが、そもそも何故エリザを攫ったのかという疑問は残る。


 エリザが自身の孫だと知り、レウルスの元から連れ出したのか。それとも別に何か目的があるのか。


(エリザがどこにいるのかわかったが、このまま突撃してエリザを確保して即離脱……可能か?)


 エリザの位置が知れたため、レウルスは思わずそんなことを思考してしまった。


 レウルスにジルバ、レベッカにクリスとティナ。その五人がかりでもスラウスは仕留めきれなかったが、奇襲を仕掛けてエリザを奪還するだけならば可能だろうか。


 レウルスはエリザの位置を確認しながら黙考するが、馬鹿正直に真正面から、それも視界が明瞭な日中に突撃するなど自殺行為に過ぎないだろう。

 仮にエリザを奪還できたとしても、離脱している最中にスラウスに魔法を撃たれれば非常に危険だ。加えて、エリザが敵に囚われているのなら即座に離脱するようコルラードからも言い含められている。


 レウルスの心情としては、危険があるとしても突撃したい。周囲にぶちまけないだけで、今も怒りがその身を焦がしている。

 ぐつぐつ、ぐつぐつと、溶岩のような熱が腹の中で暴れているような錯覚を覚えるほどだ。


 孫であるエリザを慮って呼び寄せたという可能性もゼロではないが、これまでにスラウスが取った行動や話しぶりから、“そんなこと”をするような相手ではないとレウルスの直感は告げている。


 もしも今この瞬間、エリザの魔力が消えでもすればレウルスは突撃していただろう。翼竜から飛び降りてでも、彼我の戦力差が大きいとしても、スラウスを殺しにかかったに違いない。

 だが、ギリギリのところでレウルスは踏みとどまった。骨が軋みを上げるほどに強く拳を握り締めながら、踏みとどまる。


(……少しだけ待っていてくれ)


 心中でエリザに声をかけ、レウルスはレベッカを促してスペランツァの町へと帰還するのだった。








 そして、一度スペランツァの町へと戻り、エリザがレモナの町にいるであろうことを説明したレウルスは、再び翼竜の背に乗って空へと舞い上がっていた。

 今回の一件をナタリアへ報告し、どのように動くかを決める必要があるからである。


 運べる人員に限りがあるからとコルラードからは手紙を渡され、ナタリアへの報告も任された。

 これはスペランツァの町の開発責任者であるコルラードが町を離れるわけにもいかず、同時にスラウスに対する警戒の指揮を執るためでもあったのだろう。あるいは、少しでもレウルスに落ち着かせる時間を与えるためだったのかもしれない。


 単純にレベッカと一対一で空の旅をするのが嫌だった可能性もあるが、何日も一緒にいるわけではないのだ。陸上を走ればレウルス達でも日を跨ぐ必要がある道程でも、翼竜ならば数時間とかからずに行き来することができる。


 快適とは言い難く、レベッカが相手ということで心安らぐとも言い難い空の旅を体験したレウルスは、遠目にラヴァル廃棄街を確認できる距離まで移動するとレベッカに頼んで翼竜を降下させた。

 スラウスが根を張っているレモナの町ならばまだしも、ラヴァルやラヴァル廃棄街のすぐ傍まで翼竜で近寄れば大騒ぎになってしまう。下手するとナタリアに迎撃され、翼竜ごと撃墜されるかもしれない。


 そんな危惧から早めに地面に降り立ったレウルスは、レベッカにその場で待機しているよう頼んでから駆け出す。レウルスが殺気立っているのを感じ取ったのか、あるいは偶然近くにはいなかったのか、魔物に行く手を遮られることもない。

 そうして駆けたレウルスは、ラヴァル廃棄街へと到着する。いつ戻ってきても安らげる場所だが、さすがに今回ばかりは腰を落ち着けて休むこともできない。


「ん? おいおい、レウルスじゃねえか! 今日は姐さんに報告――」


 駆け寄ってきたレウルスに気付いたのか、門番であるトニーが表情を明るくしながら声を上げた。しかし、レウルスの様子に何かを感じ取ったのか口を閉ざす。


「……穏やかじゃねえな。ほら、通りな」


 そして、すぐさま門を開けてレウルスを通した。


「悪い、トニーさん」


 レウルスはそれに短く感謝の言葉を告げ、門を潜り抜ける。トニーはそんなレウルスの背中を見送ると、乱雑に頭を掻いた。


「ったく……今度は一体何があったんだ?」

「トニーさん、確認もせずに通して良かったんですか?」


 ぼやくように呟くトニーだったが、レウルスとのやり取りを見ていた年若い男の冒険者が尋ねる。

 その冒険者もレウルスとは顔見知りだったが、さすがに何の確認もせずに通すのは問題だと思ったのだ。


 可能性は非常に低いが、『変化』でレウルスに化けている可能性も否定できない。そのためせめて冒険者の登録証は確認するべきではと疑問を呈する冒険者に、トニーは鼻で笑い飛ばす。


「ハッ、俺が何年門番やってると思ってんだ。ありゃ間違いなくレウルスだっての……というかお前、以前エリザの嬢ちゃんがグレイゴ教の奴らに攫われた時、まだ冒険者になってなかったっけ?」

「ええ……それが何か?」


 不思議そうに尋ねる冒険者に対し、トニーはレウルスが駆け去った方向へと視線を向けながら答えた。


「あの時も似たような顔をしてたからな。一体何があったのやら……」


 あれほどレウルスが怒っているのも珍しい。


 そう付け足すように呟くトニーの声を聞くことはなく、レウルスは冒険者組合に飛び込むのだった。

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