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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第422話:撤退と相談 その4

 レベッカから聞いた話に対するショックが大きすぎたのか、エリザは気を失うようにして倒れてしまった。


 それを見たレウルスは“これ以上”は聞かせられないと判断し、サラとミーアにエリザを家で介抱するように頼むと、三人を見送ってからレベッカへ視線を向ける。


「……もう一度聞くが、嘘じゃないんだな?」

「もう……わざわざ嘘を吐く理由がありまして? 疑い深いのか、それともあの子がそれほど大事なのか……興味があるところだわ、ええ、とても……ね」


 念を押すように確認するレウルスに対し、レベッカは小さく頬を膨らませた。それでいてその視線はこの場を去ったエリザへと向けられており、レウルスはその視線を遮るようにして立ち位置を変える。


「そう、か……わかった、教えてくれて感謝する」


 ただし、その表情は優れなかった。


 レベッカの言う通り、わざわざ嘘を吐く理由はないだろう。クリスとティナがいなければ真偽の程は定かではなかったが、残念なことにクリスとティナはどちらもレベッカの話を否定しない。


(こっちの二人はレベッカ以上に嘘を吐く理由がないしな……)


 レウルスは小さくため息を吐くと、遣る瀬無さを滲ませながら頭を振る。しかしスラウスの件もあるため意識を切り替え、レベッカの背後に視線を向けた。


 そこにいたのは、昨晩スラウスに操られて襲い掛かってきたヘクターである。まだ意識を取り戻していないのか、地面に“おすわり”をしている翼竜の足元に転がされており、ピクリとも動いていなかった。

 手加減こそしたものの、何度も襲い掛かってきたためヘクターは服もボロボロで体のあちらこちらにけがを負っている。ジルバが治癒魔法を使ってある程度は治しているが、完治するにはしばらく時間がかかるだろう。


 目を覚ました際に継続してスラウスに操られている危険性を考慮し、両手は後ろ手に縛って両足も縛られている。その姿だけを見れば、他所から誘拐してきたようにしか見えなかった。


「バルベリー男爵の様子はどうだ?」

「まだ目を覚まさない」

「そろそろ起こす?」


 レウルスが尋ねると、クリスとティナが答える。それを聞いたレウルスがコルラードに視線を向けると頷きが返ってきたため、レウルスも同じように頷いた。


「話を聞けるなら聞きたいしな……どうやって起こすんだ?」


 気絶した人間の目を覚まさせる方法が何かあるのだろうか、などと思いながらレウルスが見ていると、ティナがヘクターの傍へと歩み寄っていく。そしてしゃがみ込んで手で触れたかと思うと、バチッ、と雷が弾ける音がした。


「~~っ!? っ!? なんっ、なっ!?」


 そして数秒と経たない内にヘクターの体が震え、その目が開かれる。


 ヘクターは地面に転がったままで慌てたように周囲を見回し、続いて身を起こそうとして自分の体が拘束されていることに気付き、最後には取り囲むようにして立つレウルス達を見て顔を青ざめさせた。


「こ、これは一体……貴様ら、一体何者だ? ここはどこだ?」


 顔を青ざめさせてはいるが、すぐさま感情の高ぶりを抑えて冷静に問いかけるヘクター。すぐさま冷静さを取り戻してレウルス達の素性を問うあたり、ある程度の胆力はあるらしい。あるいは、現実が理解できずに情報を集めようとしただけかもしれないが。


「どうだ?」

「んー……シロかしら? もう“つながって”いないと見て良いと思うのだけど……」


 レウルスはひとまずヘクターの反応を無視して尋ねてみると、レベッカは小さく首を傾げながら呟く。


 スラウスとは方法が異なるが、他者を操る力に長けたレベッカがそう言うのだ。油断はできないが、一応は大丈夫と判断したレウルスがコルラードへ視線を向ける。


「それではコルラードさん、お願いします」

「一番面倒そうなところでぶん投げおったな貴様……」


 違います、適材適所です、などと返しながら視線を逸らすレウルスにため息を一つ吐き、コルラードは一歩前へと出る。そしてヘクターの傍に膝をついたかと思うと、体を起こしながら縄による拘束を解き始めた。


「已むに已まれぬ事情にて、この場にお越しいただきました……吾輩を覚えていらっしゃいますかな?」

「っ……貴殿は……コルラード殿か?」


 どうやらコルラードの顔を知っているらしく、ヘクターは困惑したように眉を寄せた。それでもすぐさま周囲を見回したかと思うと、納得の色が声に混ざる。


「貴殿がいるということは……つまりここは……」

「ええ。男爵殿の領地より東にあるアメンドーラ男爵領……その中でも現在開拓を進めている、スペランツァと名付けられた町です」


 スペランツァの町を建築していくにあたり、“支援”をしていただけあってすぐさま思い至ったのだろう。ヘクターはコルラードの顔をまじまじと見つめ、続いてレウルスとジルバを見る。


「そちらの方は……ジルバ殿か。それにアメンドーラ男爵領にいる、赤毛に大剣の冒険者……『精霊使い』殿か」

(……ふむ)


 ヘクターの反応を確認したレウルスは内心で一つ頷いた。


 レモナの町では『魔物喰らい』と名乗ったが、ヘクターの口から出てきたあだ名は『精霊使い』の方である。

 その反応から“正気”の可能性が高いと判断したレウルスは、仮にヘクターが暴れ出したら羽衣で拘束してもらおうと思ってこの場に残していたネディに視線を向けた。


「初めまして男爵様、上級下位冒険者のレウルスと申します。こっちは精霊のネディです」

「……こんにちは?」


 レウルスが紹介すると、ネディは何を言えば良いのかわからなかったのかとりあえず挨拶をした。するとヘクターはネディに対して一礼を返す。


「こんな格好で失礼……いえ、本当に何故こんな格好に? それに全身が痛い……そちらの女性達は?」


 ヘクターは心底から困惑したように自分の体を見下ろし、続いてレベッカ達へ視線を向けた。


「ははは、こちらの女性方はこの町に立ち寄った旅人でして……そのような格好になられた理由、覚えていらっしゃらないので?」


 コルラードはヘクターの疑問をさらりと流し、話題の流れをすぐさま変える。するとヘクターは記憶を探るように視線を彷徨わせた。


「何が起きれば隣の領地の町の傍で目を覚ますようなことになるのか……昨晩……昨晩? いや、待て……昨晩……一昨日……今日は……」


 どうやら操られていた際の記憶は明確には残っていないのか、ヘクターはぶつぶつと呟きながら目を細める。


「今日は……一体いつなんだ?」


 表情を愕然としたものに変え、ヘクターが言う。そのためコルラードが日付を伝えると、ヘクターは信じ難い話を聞いたように両手で顔を覆った。


「ここ一ヶ月ほど……記憶が、曖昧なんだが……昨晩……昨晩かどうかも怪しいが、何かすさまじい生き物と戦ったような……っ……脇腹が妙に痛む……」

(……そういえば、『龍斬』で脇腹を峰打ちしてたっけ)


 スラウスに操られていたとはいえ、『龍斬』で殴った後だというのによく動いたものだとレウルスは思う。同時に、峰打ちとはいえ『龍斬』で斬りつけたことをしっかりと覚えていないのなら助かる話だとレウルスは思った。


「気をしっかりと持って聞いていただきたいのですが……男爵殿の領地に吸血種が現れ、貴方を含めて多くの人間を操っていたのです。昨晩一戦交えたのですが仕留めるには至らず、男爵殿を救い出すだけで精一杯でした」

「なんと……わ、我が領地に吸血種が? そんな、馬鹿な……」


 コルラードが沈痛な面持ちで説明すると、ヘクターは目を大きく見開く。


「何を馬鹿なことを、と思うでしょう? ですが事実です。この町の建設に関し、レモナの町からの支援が突如途切れましてな……おかしいと思ってレウルスに様子を探らせていたのですよ」


 そう言って、コルラードはヘクターをこの場に連れてくるに至った経緯を説明していく。


 もちろんレベッカ達がグレイゴ教徒だということは伏せているが、話が進むにつれてヘクターの顔色は赤くなったり青くなったりと変化を繰り返した。


「にわかには信じ難い……だが、この記憶の欠落は……」


 一通り話を聞いたヘクターは半信半疑といった様子で視線を彷徨わせる。


 目を覚ましたと思えば拘束されている上に全身がボロボロで傷だらけで、ここ一ヶ月ほど記憶が曖昧で、加えて自身が治める領地に強力な吸血種が現れて領民を操っているというのだ。

 話を聞いて即座に納得できるはずもない。しかし、レウルス達がわざわざヘクターを連れ出してそんな与太話をする意味もない。


「あの吸血種……スラウスについて、何か覚えていることはありませんか?」


 ヘクターの心情を察しつつも、レウルスはスラウスに関して情報を求める。


 スラウスの外見はヘクターに似ていた。つまり、全くの無関係だとは思えないのだ。


 どこから来たのか、どうやってレモナの町に潜り込んできたのか、どうしてヘクターに似た姿をしていたのか。

 気になることは色々とあるが、レウルスの質問を受けたヘクターは口元を苦く歪めるだけだ。


「気が付いたらこうなっていた、としか言えない……すまない……」


 そう話すヘクターに、レウルスは素直に引き下がる。今の状況でヘクターが隠すとは思わなかったからだ。


「ひとまず、しっかりと手当てをしましょう。服も変えねば……」


 気落ちした様子のヘクターを励ましつつ、コルラードが肩を貸して立ち上がらせる。そして町の中に向かって歩き出した。


(……収穫はなし、か。いや、あの人が操られていない可能性が高いってわかっただけマシか?)


 やはりレモナの町からの距離が関係するのか、それとも操っていてもレベッカが“上書き”をすると判断して打ち切ったのか。

 あとはヘクターが落ち着くのを待ってから、レモナの町を“どうする”か決める必要があるだろう。


 そこまで考えたレウルスは、ふと思い出したようにレベッカ達へ視線を向ける。


「昨晩は状況が状況だけに聞けなかったけど、そっちの目的を聞いてなかったな。仕事として調査に来たって言ってたけど、司教が複数で動くってのはおかしいんじゃないか?」


 結果としてスラウスという厄介な敵がいたわけだが、レベッカ達はグリフォンなどの魔物が大量に移動してきたため調査していると言っていた。


 その原因はレウルスだったわけだが、司教が複数で動くには理由が弱いと思っていたのだ。


 そのためレウルスは良い機会だと考えて疑問をぶつけるのだった。

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