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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第416話:月夜の戦い その6

 それまで倒れ伏していたはずのヘクターや兵士達が、スラウスの『起きろ』という言葉に従うようにして一斉に起き上がる。


 殺しはしていないが、常人が立ち上がるには“重すぎる”攻撃を加えて意識を失っていたはずだ。それだというのに平然と起き上がり、それぞれ武器を構えたのを見てレウルスは眉を寄せた。


(これは……さすがにまずい、か?)


 先程戦った感触としては、数が多いだけで強いとは言えない。レウルスがこれまで見たことがある“正規の”兵士達のように、連携を駆使して戦いを挑んでくるということもなかったからだ。

 武器や防具はその辺りの野盗よりも上等だが、それだけである。いくら数を揃えようと、この場には単独でその数の差を覆せる戦力が複数存在している以上、脅威にはならない。


 もっとも、それは普通に戦う場合に限った話だ。


 ヘクターも兵士達も、スラウスが操っているだけならば極力殺すわけにはいかない。貴族に加えてその配下の兵士達まで殺してしまったとなると、スラウスを退けたとしても色々と問題になるのが目に見えていた。


(“ご近所さん”を斬るわけにもいかないよな……)


 スラウスを退治するための必要な犠牲だった、などと言って周囲が納得するかどうか。


 その辺りの後始末をコルラードに頼もうにも、始末できる範疇に収まるのか。


 レウルスはそんなことを考えるものの、目の前の脅威を取り除かなければ後々悩むことすらできない。

 様々な属性の魔法を操るスラウスだけでも厄介だったが、前衛となる兵士達が大量に加わったのは厄介の一言では済まなかった。


「さあいくぞ……『踊れ』、『踊れ』、『踊れ』」


 そうしている内に、スラウスが兵士達へ更なる言葉をかける。すると兵士達が一斉に動き出し――その動きの速さに、レウルスは僅かに目を見張った。


「っ……このっ!」


 “先ほど”と比べれば段違いどころか桁で違いそうな速度で踏み込み、槍を繰り出してくる兵士にレウルスは『龍斬』を打ち合わせる。

 胴体を狙って横殴りに振るわれた槍を刀身で受け止めたレウルスだったが、両腕に伝わってくる感覚に歯を噛み締めた。


(さっきよりも更に重い……それにこの速度……まさか全員に『強化』を使ってるのか?)


 槍を受け止めたレウルスだったが、その隙を突くようにして更に二人の兵士が突っ込んでくる。剣の切っ先をレウルスの胴体に向け、体ごとぶつかるようにして踏み込んできたのだ。


 レウルスは受け止めていた槍を斜め上にはね上げると、瞬時に膝を折って剣の切っ先よりも“下”に潜り込む。それと同時に突っ込んできた兵士の足を圧し折るつもりで水面蹴りを繰り出した。

 勢いもそのままに、突っ込んできた兵士二人の体が宙を舞う。全力疾走の途中で躓いてしまったかのように地面を転がっていく兵士二人にレウルスは目もくれず、迫る殺気に合わせて『龍斬』を振るった。


 そこにいたのは、いつの間にか駆け寄ってきていた別の兵士である。手に持った剣でレウルスを斬り伏せようとしていたものの、レウルスとて斬られるつもりはない。

 防具を身に着けているのならば敢えて受け止めて隙を狙うという手段も取れるが、防具とは呼べない衣服しか身に着けていない現状では剣で受けるか避けるしかないのだ。


(くそっ……厄介な!)


 兵士達を操っているスラウスは、レウルスだけでなく他の面々の様子も観察している。


 レウルスやジルバ、クリスやティナ、レベッカにはそれぞれ五人の兵士を差し向け、残った五人の兵士とヘクターをエリザ達の方へと向かわせていた。


 先にスラウスを仕留められれば兵士達も止まりそうだが、肝心のスラウスを倒す方法が思いつかない。

 四分割にした程度は足りなかったのか、斬った上でサラに頼んで燃やせば死ぬのか、それとも別の手段を試すべきか。


 少なくとも、即座に勝負が決着するとは思えない。そのためレウルスは『熱量解放』を解くと、代わりに『強化』を使う。何かあれば即座に切り替えるつもりだが、少しでも魔力を温存した方が良いと判断したのだ。


 群がってくる兵士達を潜り抜け、空中に浮かぶスラウスのところまで跳び、撃ってくるであろう魔法をどうにかした上でスラウスも斬り伏せる。


 それを迷いなく実行できるほど、レウルスは技量に自信があるわけではない。そうなると他者と合流して協力するべきだが、兵士達はレウルス達をそれぞれ引き離すよう動きを取っている。

 単独で兵士と戦っていないのはエリザ達四人と、あとはクリスやティナぐらいだろう。レウルスとジルバ、レベッカは単独で兵士の対処に追われていた。


(とりあえずジルバさんと……)


 レウルスは最初にエリザ達の様子を確認したが、数的不利はそれほどでもないためすぐさま助けに入る必要はなさそうだ。例えスラウスに動きを止められたとしても、魔法で対処できるだろう。


 ジルバと合流するべきだと判断したレウルスだったが、兵士達が群がってくるのなら強引にでも距離を離せば良い。

 『熱量解放』を使っていなくとも、『強化』だけで鎧を着込んだ兵士を弾き飛ばすことは可能だ。


 剣を構えて突っ込んできた兵士に向かって逆に踏み込み、殺してしまわないよう手加減しつつも峰打ちで大剣を繰り出すレウルス。

 その一撃は金属鎧を陥没させながら兵士の両足を地面から浮かせ、勢いに乗せて遠くへと放り投げる――よりも先に、兵士が『龍斬』の刀身へとしがみ付いた。


「っ!?」


 峰で殴りつけたのを好機と捉えたのか、全身を使って抱き着くようにしてしがみ付く兵士にレウルスは動きを鈍らせた。

 兵士は『龍斬』の切れ味を気にせずしがみ付いたため、その勢いだけで左腕の半ばまで刃が食い込む。しかし兵士は痛がる素振りもみせず、左腕から大量の血を流しながら無表情にレウルスを見つめている。


 人ひとりがぶら下がったところで『強化』を使っているレウルスの動きが鈍ることはないが、そんな兵士の表情に気付いてしまったからこそレウルスは動きを鈍らせた。


 過去に見たような、レベッカに操られた者とは異なる無機質な表情。スラウスが操っているからだろうが、自身の腕が斬り落とされようともそのまましがみ付いていそうな兵士の姿に、レウルスは腕を斬り飛ばしてでも振り払うべきか僅かに逡巡した。


 既に重傷といえるほどの深手だが、“まだ”治癒魔法で治せるだろう。だが、さすがに腕が切断されたとなると治癒魔法で治るかどうか、レウルスには判断ができない。かといって兵士を『龍斬』から引き剥がすには、他の兵士が邪魔だった。


 そうして動きを鈍らせたレウルスに気付いたのか、スラウスが何かを仕掛けるよりも先に動いた者がいた。


 レウルスと同じように兵士に群がられていたクリスが風魔法で強引に周囲の兵士を吹き飛ばしたかと思うと、その隙にティナが駆け寄ってきたのである。


「手伝う」


 そう言うなり、ティナは『龍斬』にしがみ付いていた兵士に向かって雷撃を叩き込む。『龍斬』を通してレウルスも僅かに痺れたものの、ティナはそれに構わず、感電している兵士をすぐさま『龍斬』から引き剥がした。


「……助かった。ありがとう」


 少しばかり腕が痺れたものの、助かったのは事実のためレウルスは素直に礼の言葉を告げる。ティナはそんなレウルスを横目で見ると、小さく首を横に振った。


「気にしなくていい。操られているとはいえ、極力死者を出したくないだけ」


 そう話すティナに対し、レウルスは僅かに眉を寄せた。


(これまで見たことがあるグレイゴ教徒と比べると、滅茶苦茶まともに感じるな)


 初めて遭遇したグレイゴ教徒やレベッカの存在から過激な連中だと思っていたレウルスだったが、少なくともクリスとティナは“まとも”そうだ。


 さすがに全員が全員危険な思想に取り憑かれているとは思わないが、もしかするとレウルスがこれまで遭遇したことがあるグレイゴ教徒が特別だっただけで、クリスやティナのような人間も珍しくはないのかもしれない。


 それが少しだけ気になったレウルスだったが、この場で尋ねることでもないだろう。再びしがみ付かれるのを防ぐため、レウルスは襲い掛かってくる兵士に対して『龍斬』で殴りつけずに蹴り飛ばすことを選択した。


「…………」


 だが、蹴り飛ばしても兵士は無言で立ち上がる。中には今しがた『龍斬』によって左腕に深手を負った兵士も混ざっているが、痛みなど感じていないように立ち上がり、再びレウルスへと襲い掛かってくる。


(ええい、面倒くさい……さすがに足の骨を折れば襲ってこれないか? それともネディに頼んで氷で固めて動けないようにするか?)


 さすがに縛り上げるための縄などを持ち合わせているわけでもないため、動けなくするにはある程度荒っぽい方法を取る必要がある。

 そもそも、縄があったとしても縛り上げる隙をスラウスが見逃すとも思えないが。


「温いわ……ええ、とても、とっても温いことだわ」


 そうやって群がってくる兵士の対処に手間取っているレウルスの耳に、不意にレベッカの声が届く。


「おいで、わたしの『オトモダチ』」


 そう言って、レベッカは先ほど自分が殴り伏せた翼竜を呼び寄せるのだった。

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