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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第414話:月夜の戦い その4

 レウルスが知る中で、複数の属性魔法を扱える存在はほとんどいない。

 そもそも魔法を使える者自体が少なく、レウルスが知る話では数百人に一人程度の割合でしか魔法を使える者がいないという話だった。


 魔法が使える者――魔法使いの中でもさらに希少なのが属性魔法の使い手で、“基本”となる補助魔法しか使えないという者も少なくはない。


 レウルスの身の回りでも、先輩冒険者であるニコラ、恩人であるドミニク、冒険者組合で組合長を務めるバルトロ、剣術を教えてくれたコルラードなど、補助魔法だけしか使えないという者は珍しくないのだ。


 ジルバやエステルのように補助魔法に加えて治癒魔法を扱える者もいるが、この二人に関しては属性魔法を行使したところを見たことがない。

 エステルに関しては大精霊コモナという“切り札”を持っているが、魔法というよりも『加護』のためどのようなことができるかわからず、仮に戦えるのだとしても実際にどのような戦い方になるのか見当もつかない。


 属性魔法を使える者に関しては、補助魔法に加えて何か一つ得意とする属性魔法を扱えるぐらいで、複数の属性魔法を使えるとなるとネディぐらいしかすぐには思い浮かばなかった。

 そんなネディでさえも、氷魔法と水魔法の二種類しか扱えないのである。


 それだというのに、スラウスは“少なくとも”四種類の属性魔法を行使してみせた。

 火炎魔法、氷魔法、風魔法、雷魔法と、それぞれをレウルス達の目の前で発現してみせたのである。


(あとは水魔法と土魔法、それと治癒魔法を使ったら全種類……かどうかはわからないが、俺が知る限り全部の属性魔法が使えることになるのか……洒落にならんな)


 複数の属性魔法を使えるから強い――とは断言できないだろう。


 だが、打てる手が格段に増えることに間違いはない。また、スラウスから感じ取れる魔力の大きさから考えると、間違っても弱いと判断することなどできなかった。


(救いがあるとすれば、こっち側にも属性魔法を使える奴が多いってことか……)


 エリザが雷魔法を、サラが火炎魔法を、ネディが氷魔法と水魔法を使えるのだ。それらに加えて、全面的に味方と判断できるわけではないがクリスとティナもいる。現状だと使える属性魔法の種類では上回っているのだ。

 ただし、全員で連携して魔法を叩き込めるような練度はない。エリザとサラ、ネディの三人はともかく、そこにクリスとティナを加えれば連携するどころか魔法を相殺し合う可能性もある。


「…………」


 そこまで思考したレウルスは、熱を冷ますように一つ息を吐いた。魔法を撃ち合ってどうにかなる手合いならばそれで良いが、スラウスがそうとは限らない。むしろ撃ち負けて押し切られる可能性もあるのだ。


『エリザ、サラ、二人はネディにも声をかけていつでも魔法を撃てるよう準備しておいてくれ。ミーアには周囲の警戒を頼んで身を守ってもらってくれ……そっちに手が回らないかもしれない』

『まっかせて! 隙があったらドンドン撃ち込むわ!』

『……うむ』


 後方に下げたエリザ達に『思念通話』を使って指示を出すと、サラからは即座に声が返ってくる。しかしエリザの反応は若干鈍かった。


 相手が吸血種ということもあり、エリザとしても思うところがあるのかもしれない。だが、時間をかけて話を聞き出す余裕はなかった。


 警戒するレウルスの視線の先で、スラウスが魔力を高めていく。クリスとティナが放った落雷と暴風は相殺されて既に消え失せており、スラウスは次の一手を打とうとしていた。


 周囲の気温が下がるような感覚と共に、スラウスの周囲に氷の矢が生み出されていく。成人男性の腕のような太さと長さを持ち、なおかつ先端が鋭利に尖った氷の矢だ。

 そんな氷の矢が、瞬く間に数を増してスラウスの周囲に生み出されていく。十、二十、三十――五十、百と増え続けていく。


 それを見たレウルスは『龍斬』の鞘から刀身を抜き放つ。先程斬りかかった際に鞘が氷で覆われているというのもあったが、“全力”で挑まなければ危険だと判断したのだ。


「っ……貴様、その剣は……」


 そして、『龍斬』を見たスラウスの表情が僅かに変化した。真紅の刀身をまじまじと見たかと思うと、どこか得心がいったように歯を食いしばる。


「いくつもの匂い……なるほど、貴様が我の敵であるというのは本当のようだな。それならば」


 スラウスは指揮者のように右手を振り上げる。その動きに合わせて氷の矢が一斉に動き出す。


「――『動くな』」


 同時に、重力が増したような感覚がレウルス達を襲う。ヘクターが使った時のように動きを阻害するような感覚があったが、レウルスはそれに構わず、『龍斬』を右肩に担いで前傾姿勢を取った。

 スラウスはそんなレウルスを見下ろしながら、振り上げていた右手を振り下ろした。すると、スラウスの周囲に浮かんでいた氷の矢が弾丸のように撃ち出される。


 ――狙いの先は、エリザ達だった。


「っ!?」


 それに気付いたレウルスが瞬時にその場から姿を消す。放たれた氷の矢を超える速度で地を駆け、エリザ達を庇うよう移動した。


 『熱量解放』によって引き延ばされたような視界の中、徐々に迫ってくる氷の矢の位置と速度を即座に見抜く。

 氷の矢の群れは一度に五本ほどが“ほぼ同時”に飛来するが、僅かにタイムラグがある。さすがにエリザ達をそれぞれ個別に狙うような精度はないのか狙いは大雑把だが、次から次へと放たれる氷の矢はとにかく数が多い。


「オオオオオオオオオオオォォッ!」


 迫りくる氷の矢を、レウルスは端から斬り砕く。機関銃のように連続して放たれる氷の矢を、『龍斬』を一振りする度に三本以上粉砕する。


 先端が尖っているというのもあるが、氷の塊というのは重量があり、勢いよくぶつかってくればそれだけで凶器となり得る。先端の鋭利さを考えれば、太い槍で貫かれるのと大差ない。貫かれた上に傷口が凍るかもしれないと考えると、槍よりも厄介だろうが。


(くそったれ……真っ先にエリザ達を狙うか)


 そして、飛来する氷の矢よりもスラウスの判断の方が厄介だった。動きを止めたかと思えば、この場においては戦力で劣る面々を即座に狙ったのである。


「まさか卑怯とは言うまいな?」


 レウルスの心情を読んだように言葉を発するスラウスだが、レベッカ達に見向きもしていないわけではない。レベッカは問題なく動けているが、動きを封じたクリスやティナ、ジルバといった面々にも氷の矢を放っていく。


 クリスやティナ、ジルバは完全に動きを封じられているわけではない。それでも普段と比べると非常に鈍重な動きで氷の矢を迎え撃つ羽目になってしまった。

 だが、レウルスが心配するよりも早く、それぞれが氷の矢を迎撃していく。


「厄介な力」

「でもこの程度なら問題ない」


 迫りくる氷の矢を見ながら、クリスとティナは平然と呟く。

 動きに制限があるといっても、魔法の行使まで封じられたわけではないのだ。次の瞬間にはクリスが生み出した風によって氷の矢の軌道が逸らされていく。仮にクリスが風魔法を使わずとも、ティナが雷魔法で迎撃していただろう。


「……これは中々に厄介な力ですね」


 一方、属性魔法を使えないジルバは迫りくる氷の矢を見ながらため息を吐くように呟いていた。普段ならば問題なく捌けるだろうが、さすがに動きが制限されている状況ではそれも難しい。

 腕を動かすのも難儀する状態では叩き落とすのも受け流すのも非常に困難だ。そのため、ジルバはどちらも選ばなかった。


 動きを止められているにも関わらず、強引に一歩前へと出る。肉体がギシギシと軋む音を立てているが、ジルバはそれに構うことなく、迫りくる氷の矢に向かって一歩、二歩と距離を詰めていた。

 そして僅かな、本当に必要最小限の動きだけで氷の矢を回避する。両腕は使わず、直撃すれば死にかねない攻撃を体捌きだけで回避してみせたのだ。

 顔のすぐ傍を氷の矢が通過しても眉一つ動かないのは、矢の軌道を完全に見切っているからか、あるいはジルバの胆力がそうさせるのか。


「わたしの『加護』よりも即効性があって“それなり”に強力……でも、動きを止めるだけで、『狂犬』ぐらいになるとああして無理矢理動くこともできる、と……なるほど、なるほど」


 そして最後に、レベッカはスラウスを観察しながら氷の矢を弾いていた。弾くといっても素手ではなく、傍に生えていた木の幹に指を食い込ませて地面から引き抜き、木の棒でも振り回すようして力任せに弾くという荒業である。


 氷の矢によって引き抜いた木が徐々に削れていくが、レベッカは微塵も気にした様子を見せず、蠅でも落とすように木を振るう。


 そうやってレベッカ達が問題なく氷の矢を防げるのは、本人達の強さもあるがレウルス達と比べると放たれる氷の矢が少ないというのもあるだろう。

 スラウスはレウルス達に向かって全体の六割を、残った四割をレベッカ達に割り振って氷の矢を放っているのだ。


「ああもう、鬱陶しいわねぇ!」

「……邪魔」


 レウルスが『龍斬』を振るうのを見ていたサラとネディは、それぞれレウルスの助力をするべく魔法を行使する。

 サラは火球を放って氷の矢を吹き飛ばし、ネディはスラウスが放つものよりも小振りながら氷の矢を生み出し、相殺させていく。


 そうしてサラとネディの助力を得たレウルスは、氷の矢を迎撃する手間が減った分“攻撃”へと回った。


 『龍斬』に魔力を込めて振るい、空に浮かんでいるスラウス目掛けて魔力の刃を繰り出していく。

 レウルスが放つ魔力の刃は進行上に存在していた氷の矢を切り裂きながら進むが、さすがに全てを突破することは不可能である。徐々に威力を削がれて霧散し、後続の氷の矢によって完全に掻き消えてしまった。


 それでもレウルスは『龍斬』を振るい、二度、三度と魔力の刃を放っていく。スラウスには届かずとも氷の矢を切り裂けるため、無駄というわけでもないのだ。


 このまま持久戦か、あるいは隙を見て突撃を仕掛けるか。『龍斬』を振るいながらそんなことを考えるレウルスだったが、不意に攻撃が止む。

 それに何事かと思ってスラウスを睨んでみると、観察するようなスラウスの視線とぶつかった。


 スラウスは数秒レウルスを見ていたが、やがてその視線をレベッカへと移す。続いてその視線が動き、クリスとティナへと向けられ、最後にジルバへと向けられる。


「やはり、貴様ら五人が我の“敵”だな。司教が四人……それに服装こそ精霊教徒のものだが司教と同等の存在が一人……『強化』だけで我の力に抗うというのも、おかしな話よな」


 司教と同等と評されたジルバのこめかみが、ピクリと動く。しかし身動きが取りにくい状況で即座に動くほど短慮ではない。


「だから誰が司教だ……上級下位冒険者のレウルスだ」


 レベッカの同僚と見做されたことにレウルスも憤りを覚えていたが、ジルバと同様に動くことはなかった。その代わり、呼吸を整えながらスラウスの隙を探るように目を細める。


 スラウスはレウルスの言葉が聞こえていないのか、聞こえていて無視をしたのか、視線を動かしてそれまで魔法を放っていたサラとネディを見た。そして僅かに目を見開く。


「残りは雑魚かと思えば……精霊だと? 何故こんなところにいる?」


 スラウスはサラとネディを見ると、驚きが込められた呟きを漏らした。


(……コイツも一目で看破できるんだな)


 レウルスはスラウスの様子を確認しながら内心で呟く。何の情報もなくサラとネディを初見で精霊と見抜けたのは、レウルスが知る限り上級の魔物かソフィアのように特殊な能力を持つ者だけだ。

 その点から考えると、強力な吸血種という点に疑いはないのかもしれない。


「魔力はそれほどでもないが……ふむ……」


 スラウスは興味がなさそうにミーアを見つめ、最後にエリザへ視線を移し。


「……カトリーヌ?」


 それまでと異なり、心底から驚いたような呟きを漏らしたのだった。

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