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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第409話:侵入 その6

 頭上を抑えていた翼竜はレベッカが地面に叩き落とし、周囲を囲んでいた野盗はそのほとんどがレウルスによって斬られた。

 燃えていた木々もネディが水を生み出して消し止め、森を照らすのは月明かりだけとなる。


 そうして“一応”は戦いが終結したものの、状況が好転したわけではない。むしろ混迷しているようにレウルスには感じられた。

 レモナの町に潜んでいると思しき敵は姿を見せず、代わりに姿を見せたのはレベッカとクリス、ティナというグレイゴ教の司教達。そして襲ってきた野盗と、レベッカ以外の“誰か”に操られたと思しき翼竜。


 レウルスとしてはレベッカが自作自演をしている可能性に賭けたかったが、翼竜を叩き伏せたレベッカは全身から殺気を滾らせている。そこに演技の色はなく、心底から怒りを覚えているようだった。

 それが自身が操っている翼竜を他者に操られたからという、レウルスとしても一言物申したい理由でなければ同情の余地もあったのかもしれない。


 レベッカは叩き伏せた翼竜の頭部を掴むと、片手で持ち上げて何度も揺さぶる。そうすることで気絶していたと思しき翼竜を強引に起こすと、瞳を赤く輝かせながら声をかけた。


「さあ……わたしの目を見なさい。あなたはわたしの『オトモダチ』……そうでしょう?」

『――――』


 呻き声を上げかけた翼竜だったが、結局声を漏らすことなくレベッカの言葉に頷いた。どうやら翼竜は再びレベッカの力に囚われてしまったようだ。


『ねえレウルス……結局、何がどうなってソイツと一緒にいるの? というかあっちにいる小さい二人組は誰? またどこかから拾ってきたの?』

『あっちの二人組に関しちゃほとんどわからねえよ。斬りかかる隙は……ないか』


 サラの『思念通話』に答えつつレベッカの隙を探るレウルスだったが、それを遮るようにクリスとティナが立ち塞がる。


 ひとまず危地を脱したこともあり、“目先”の危険に対処しようとしたことに気付かれたようだ。


 さすがに防具を身に着ける余裕はないが、『龍斬』は手元にある。レモナの町の中と違い、多少大暴れしても人的被害は出ないだろう。

 いつ、どこから、どんな手を打ってくるかわからないのがレベッカの恐ろしいところである。そのため仕留められる時に仕留めたいと思うレウルスだったが、さすがにこの状況で戦うほど向こう見ずではない。また、レベッカが本体ではなく魔法人形という可能性もある。


 レウルスはため息を一つ吐いて『龍斬』の切っ先を下げるが、クリスとティナの警戒は消えない。レウルス以上にジルバの存在が大きいのだろう。クリスがジルバを、ティナがレウルスを牽制するように狐面越しに視線を向けてくる。


「さっきも言った。こちらは必要以上に争うつもりはない」

「さっきも言った。こちらはあくまで仕事で来ているだけ」


 エリザ達と合流したことで、数の上ではレウルス達の方が有利である。それでもクリスとティナの態度は微塵も変わらず、自然体でレウルス達と向き合っていた。


 レベッカに対しては色々と思うところがあるレウルスだったが、ジルバほどグレイゴ教徒に対して苛烈な対応を取るつもりもない。精々、襲ってきたら応戦して叩き切るぐらいだ。


 レベッカは襲ってこなくても斬るつもりだが、今のレウルスにとって優先すべきはレベッカと戦うことではなく、レモナの町にいるであろう敵の存在だ。

 開拓しているアメンドーラ男爵領の“お隣”に得体の知れない敵がいるというのは、ゾッとしない話である。


(……待てよ? レベッカはともかく、この二人なら話を上手い具合いに持っていけば力を借りられるんじゃないか?)


 そこでふと、レウルスは一つの案を思いつく。


 グレイゴ教の司教を名乗るということは、相応の実力があるのだろう。ジルバがいる以上迂闊な真似はできないが、ある程度情報を渡せば勝手に動いて勝手に敵を仕留めてくれそうだ。

 そう判断したレウルスは、駄目で元々と思いながら口を開く。


「その仕事……グリフォンを含む魔物が逃げてきたって話だが、多分、俺が原因だ。“その件”に関しては上級の魔物が関わっているわけじゃないと思うぞ」


 一応、何があっても対応できるようにと『龍斬』を担ぎながらレウルスが言う。するとクリスとティナの狐面が僅かに揺れた。


「確認。それはいつのこと?」

「確認。何をしたらそうなった?」


 お前が上級の魔物だったのか、などと言いながら襲い掛かってくることも考慮していたレウルスだったが、クリスとティナは不思議そうに尋ねてくるだけである。

 思ったよりも素直なその反応に、レウルスも素直に答えた。


「三ヶ月近く前のことでな……少しばかり派手に暴れたら魔物が逃げちまった。いなくなったグリフォンや他の魔物がどこに行ったのか、気になってはいたんだ」

「……なるほど」

「……納得した」


 レウルスの言葉を聞いたクリスとティナは、小さな手で指を折って日数を数える。そして納得したような声を漏らしたが、すぐに首を傾げた。


「そうなるとこの町は?」

「何がいる?」


 レウルスが思っていたよりもあっさりと納得したクリスとティナだったが、そうなるとレモナの町に何がいるのか気になったらしい。


 グリフォンを含めた魔物の群れが逃げてきた件とは別に、厄介な存在に気付いたのだ。


「何がいようと、どうでも良いことですわ……ええ、そうですとも」


 だが、クリスとティナの言葉を遮るようにしてレベッカが声を上げる。その声色は落ち着いているが、相変わらず殺気とも怒気とも判別できない剣呑な気配を漂わせていた。


「…………」


 そんなレベッカの気配にあてられたのか、ジルバが無言で一歩前に出た。それまでレウルスとクリス、ティナの会話を黙って聞いていたが、レベッカが放つ剣呑な気配は無視できなかったらしい。

 すると、そんなジルバとレベッカを宥めるようにクリスとティナがため息を同時に吐いた。


「はぁ……レベッカ、今回の件は“試験”の一環でもある」

「はぁ……クリスとティナが同行している理由を忘れないでほしい」


 二人はそう言うと、今度はジルバへ視線を向ける。


「『狂犬』のジルバ……あなたの噂はよく聞いている。戦うというのならこちらも自衛のために戦わざるを得ない」

「でも、せめて面倒事が片付いてからにしてほしい。町の人間に被害が出てからでは遅い」


 ため息混じりにそう言ってのけるクリスとティナに、レウルスは驚きの感情がこもった視線を向けた。すると二人が何事かと首を傾げたため、レウルスは素直に心情を伝える。


「……話がまともに通じるグレイゴ教徒ってのは初めてなんでな。少し驚いただけだ」


 正確に言えば、司祭であるローランも話が通じる手合いだろう。以前ヴェルグ伯爵家の“お膝元”である城塞都市アクラでも、すぐに町から離れるよう忠告してきた。

 その忠告を無視した結果レベッカと戦う羽目になったが、忠告自体は正しかったと言える。しかしそれを口に出せばローランがレベッカに殺される可能性もあると考え、“助言”の対価に黙っておくことにしたのだった。


 そんなレウルスの感想に何を思ったのか、クリスとティナは再度大きなため息を吐く。


「一応、誉め言葉として受け取っておく」

「でも、話はここまで。これからどう動くにせよ、まずは離れた方が良い」


 そう言ってクリスとティナは移動を促す。


『ええっと……つまり、どういうこと?』


 それまで話を聞いていたサラが『思念通話』でレウルスへと尋ねた。


『一時休戦……でいいのか、俺にもわからねえ』


 少なくともクリスとティナは“まとも”に話が通じそうだが、レベッカは論外である。ジルバでなくとも、ふとした拍子にレウルスも斬りかかってしまいそうだ。


 それでもまずはレモナの町をどうにかする方が先決だった。そして、今は鎮火しているとはいえ森の一部を燃やすような戦闘をした上、襲ってきた野盗の死体まで転がっているとなると、レモナの町から何かしらの反応が返ってくる可能性がある。

 その前に一度この場を離れるべきだと告げるクリスとティナにレウルスは賛成し、エリザ達を促して森の中を移動しようと歩き出す。


「――どこへ行こうというのだね」


 そんな矢先だった。


 暗がりからそんな声が響き、レウルス達は即座に臨戦態勢を取る。


 草木を掻き分けるようにして姿を見せたのは、上質な服に身を包んだ男性だった。その後ろには金属鎧に身を包んだ兵士の集団が控えている。


「えっ!? 嘘、なんで!? 熱源はずっと探ってたのに!?」


 それを見たサラの驚愕するような声が、夜の森に響くのだった。

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