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第40話:吐露

 エリザを連れて初めて魔物退治へと赴いた日の夜。


 最早レウルスの自室となっているドミニクの料理店の物置の中に漂う空気は、ひたすらに重かった。


「すまぬのじゃレウルス……」


 レウルスが自分の装備を置くこともあり、非常に手狭になっているその一室。

 装備を脱いで身軽になったレウルスが木箱に腰をかけていると、同じように木箱に座って向かい合っていたエリザが沈黙に耐えかねたように謝罪した。


「気にするなよ。魔物と遭遇しない日も珍しいわけじゃないって話だし、売れる薬草も見つかったんだしさ」


 同じように木箱に座っていたレウルスは、エリザの謝罪を笑い飛ばすように言う。


 日が落ちる前まで粘ったものの、見つかった魔物の数はゼロ。

 それでもかつての指導の続きということでシャロンが食べられる野草や売れる薬草、ラヴァル廃棄街の近隣で見つけることができる木の実や果物について解説を行い、実際に僅かとはいえ薬草を採取することができた。


 そのため今日一日で得られた成果はゼロではない――が、多いとは決して言えない。


 一日で採取できたのは、ラヴァル廃棄街で冒険者が使用する頻度の高い軟膏の素材となる薬草が三束程度だった。税金などを引いた結果、ラヴァル廃棄街周辺の警戒に対する報酬を含めても一人当たり大銅貨三枚の報酬である。


(一日粘って大銅貨三枚……日本円で考えると三千円ぐらいか。晩飯代と宿代にはなったけど、さすがに厳しいかねこりゃ……)


 指導を担当したシャロンは『こんな日もある』と気にしていない様子だった。しかし今日一日の成果を報告しに行った際、ナタリアが何も言わずに薄く微笑んだのが怖かった。

 夕食は安めの定食を頼んだため、手持ちの金が底を尽いたわけではない。それでも今日のような成果が続けば金は尽きずとも貯金は難しそうだ。


「すまぬ……すまぬのじゃ……」


 そして、金以上に厄介な問題は目の前のエリザである。エリザに魔法の訓練をさせるため活動範囲を狭めざるを得なかったのだが、それが原因だと凹んでいるのだ。

 レウルスが気にするなと言っても気を落としたままであり、時折叱られることを恐れる幼児のように怯えた視線を向けてくる。その“原因”の多くが自分にあるためレウルスも強くは言えないが、エリザを精神的に追い詰めたナタリアには一言物申したい気分だった。


 物置の中では通気口の近くに設置された蝋燭が頼りなさげに火を灯しており、薄暗く室内を照らしている。そんな見通しの悪い視界の中でもエリザの落ち込みようが鮮明に見え、レウルスは小さくため息を吐いた。


「ひっ……」


 その小さなため息に反応し、エリザが体を震わせる。一緒に漏れた、押し殺したような悲鳴がまたレウルスの気分を低下させるのだ。

 それでもエリザに当たるわけにもいかず、レウルスは何でもないと言わんばかりに苦笑を浮かべる。


 そもそも、何故エリザと同じ部屋にいるのか。それは金がないこともそうだが、借りられる部屋がないからである。


 ドミニクの料理店に二階には生活スペースがあるが、ドミニクとコロナの部屋以外にはドミニクの妻でありコロナの母親である女性が使っていた部屋があるだけだ。

 ドミニクもコロナも、レウルスが相手ならば遠慮せずに使えと言う。しかしながら、レウルスとしてはドミニクやコロナにとって大切だった人物の使っていた部屋を使うのは気が咎めた。

 それならばエリザに使わせればいい、と単純に考えるわけにはいかない。“身内”であるレウルスならばともかく、エリザが相手となるとドミニクも渋る。コロナは消極的賛成に回るものの、心から歓迎しているわけではない。


 それらの事情が重なった結果、監視も兼ねてレウルスが寝泊まりしている物置にエリザがいるのだ。

 前世を含めれば四十年近く生きているレウルスとしては、エリザのような“子ども”と同じ部屋で寝泊まりしても特に思うところはない。前世だったら通報されるかもしれないな、と思うぐらいである。


 だが、エリザからすれば自身と大差ない年齢の男と一緒の部屋にいるのだ。ナタリアからの脅しの件もあり、身の危険を覚えてもおかしくはないだろう。


「そういえば……」

「っ……な、なんじゃ?」


 エリザに関してほとんど知らない。そのためいくつか質問をしようとしたレウルスだが、声をかけるだけで体を震わせるエリザに苦笑を深めてしまう。


「いや、何だかんだでお互いにちゃんと自己紹介をしてないと思ってな」


 互いの溝を埋めるには、歩み寄ることが重要である。そう判断したレウルスはなるべく表情を柔らかくするよう意識した。


「改めて名乗ろう。俺はレウルスだ。歳は十五で好きなものはおやっさんの作った塩スープ。嫌いなものはシェナ村だ。あんなところは滅んじまえ」


 ついつい最後に本音が出てしまったが、例え強力な魔物によってシェナ村が滅んでも後悔はしないだろう。生まれ育った場所だから守りたい、などと郷土愛があるはずもない。


 この世界における両親も魔物に襲われて命を落とした。両親を殺した魔物はシェナ村の兵士に追い払われたが、逃げる際に両親の遺体をそのまま持ち去ったためシェナ村には両親の墓もないのである。故に滅んでも心が痛むことはないだろう。


「そ、そうか……こほんっ、ワシはエリザ=ヴァルジェーベ。歳は十三じゃ。好きな物はおばあ様が作ってくれた……」


 レウルスの冗談と思えない声色に若干引いたエリザだったが、レウルスに倣って自己紹介を始めた。しかしすぐに言葉に詰まり、視線を落としてしまう。


「おばあ様が……作ってくれた、料理すべて……じゃった……もう、二度と食べられんがの……」


 十三歳だったのか、と驚くよりも先に会話の選択を失敗したと悟るレウルス。それでもエリザの事情を知らなければ何の進展もないと考え、声に同情を滲ませながら尋ねる。


「そうか……ずっと気になってたんだけど、そのおばあ様ってのは何者なんだ? 魔法使いで強かったってのは聞いたけど……」

「おばあ様はおばあ様じゃ。強くて優しくて、かあ様ととう様がワシの傍にいられない時も傍にいてくれたのじゃ」

「……その辺りの事情、聞いても良いか?」


 もっと仲を深めてから聞くべきだとは思うが、エリザには時間が残されていない。娼婦云々は別として、ナタリアを始めとしたラヴァル廃棄街の住人がエリザを排斥しないとも限らないのだ。


「うむ……」


 その辺りを理解しているからか、エリザも素直に頷く。そして顔を上げてみると、その瞳には涙が滲んでいた。


「ワシが生まれた場所はハリスト国のケルメドという町での。町には千人ぐらいいたじゃろうか。小さい頃……たしか五……いや、六歳か七歳ぐらいじゃったか? ワシが吸血種だとグレイゴ教の奴らが騒いで追い出されたんじゃ」


 冒険者組合で登録する際に聞いた話と若干の違いがあるが、幼い頃は町の中に住んでいたようだ。レウルスは黙って話を聞き、続きを促す。


「着の身着のまま、家族全員追い出されての……いや、あれは逃げただけじゃな。ケルメドの近くの山に逃げ込んで、最初は洞窟で暮らしておったよ。ワシとかあ様、とう様とおばあ様の四人で……」


 遠い記憶を思い出すようにエリザが目を細める。それは外見に見合わない老成した仕草だったが、それだけの苦労があったのだろう。


「山の中で水場を見つけて、切り倒した木で家を作って、畑も作って……大変ではあったが楽しかった……」

「……一つ聞くけど、エリザの家族も吸血種だったのか?」


 魔物が住んでいるであろう山の中で生活環境を整えるなど、並の人間にできることではない。そう考えたレウルスが尋ねるとエリザは首を横に振った。


「吸血種はワシだけじゃ。でもおばあ様は魔法が使えたし、とう様は屈強な戦士じゃった。かあ様は普通の……うむ、とう様も頭が上がらんかったが、普通の人じゃった」

(この世界って嫁さんの尻に敷かれる旦那が多くないか……)


 話を脱線するようだったが、思わずそんなことを考えずにはいられないレウルスである。レウルスの恩人であるドミニクも、元上級下位冒険者だというのに妻の女性には頭が上がらなかったようなのだ。

 レウルスとしても亭主関白を推奨するわけではないが、やはり女性――子を産んだ母親は強いということなのだろうか。


「時折魔物を倒しては剥ぎ取った素材や肉をケルメド以外の近くの村に売りに行き、どこか定住できる場所がないか探しておったんじゃ」

「ケルメドって町から逃げ出してすぐに他所の村や町に行かなかったのか? エリザのお婆さんや親父さんの力があればどこでも受け入れてもらえそうだが……」


 魔物が生息する山の中で生き延びるだけの技量があるのだ。正規の町や村は無理にしても、ラヴァル廃棄街のような場所ならば諸手を上げて受け入れるはずである。


「おばあ様が言うには回状? が出回っていたらしくての。他所の村に移ろうにも身分証もなかった。それにワシが吸血種だと騒いだグレイゴ教の奴らがあちこちで見張っておったんじゃ」


 人間であるエリザの父などは問題なく町や村に出入りできたが、エリザを連れて行くのは無理だったらしい。


「とう様はケルメドを出て遠くに逃げようと考えたらしいんじゃが、逃げ出した場所のすぐ近くに潜む方が逆に見つかりにくいとおばあ様が言ってのう。“あの時”までグレイゴ教に見つからずに済んだのはおばあ様のおかげじゃ」

「……あの時?」


 そう問いかけると、エリザの表情に深い影が差す。その瞳に浮かんでいた涙が零れ落ち、頬を伝っていく。


「かあ様ととう様、それにおばあ様が死んだ……いや、殺された時のことじゃ」

「――――」


 紡がれた一言に、レウルスは返す言葉を持たなかった。そんなレウルスに気付いていないのか、エリザは淡々と話を続ける。


「かあ様に子ができての……山の中ではさすがに産めぬということで近くの村にとう様と行っておった」


 そこまで話した瞬間、エリザの声色に深い憎悪の色が宿る。


「――そこでグレイゴ教の奴らに捕まって殺された」


 憎々しげに、心底からの怨嗟が込められた声だった。エリザが強く歯を噛み締めた音が部屋の中に響き、レウルスは音を立てて唾を飲み込む。


「そりゃ、また……なんでそんなことを」

「……ワシのように新たな吸血種を産むかもしれぬから、らしいぞ?」


 吐き捨てるようにエリザが言うが、口調に反してその眼差しは悲しそうだった。


(あー……なんだっけか……か、かく……隔世遺伝だったか?)


 エリザの両親も祖母も吸血種ではないというが、更に遡れば吸血種がいたのかもしれない。数代を経てエリザに吸血種としての力が芽生えたのならば、新たに生まれた子どももまた吸血種である可能性はあった。

 そのような事実があったとして、エリザにとっては何の慰めにもならないだろうが。


(……ん? いや、待てよ……グレイゴ教ってのは強力な魔物を信仰して狩るっていう意味不明で物騒な宗教だろ? それなのに吸血種を産むかもしれないから殺す?)


 レウルスの脳裏に過ぎった疑問。それはエステルから聞いたグレイゴ教の行動とは真逆ではないか、というものだった。


 エステルに聞いた話では、グレイゴ教が信仰するのは上級の魔物である。強力な吸血種は上級の魔物に匹敵するのかもしれないが、眼前のエリザは下級下位の魔物にすら勝てそうにない。生まれてもいない赤子など、それ以前の話だろう。


(強かったって話のお婆さんと親父さんを排除するために吸血種のエリザをダシにした……なんて“オチ”もあるか? 家名持ちで町の有力者なら権力争いもありそうだし。でも俺からすればグレイゴ教って意味不明なところが多いしな……)


 もしかするとグレイゴ教の内部でも複数の派閥があり、それぞれが違った教義を掲げて行動しているのかもしれない。その辺りはエステルにでも確認しなければわからないが、今はエリザの話を聞くことが先決である。


「いつになってもかあ様ととう様が戻らぬ……危ないのはわかっておったが、ワシとおばあ様はその村に向かったんじゃ。そしてそこで初めて二人が殺されたことを知った……ワシとおばあ様はすぐに村から逃げ出した……山にも帰らずにの」


 その“おばあ様”が今一緒にいないことから、続いて起こったであろう惨劇がレウルスにも予想できた。


「あとは村を見張っておったグレイゴ教の奴らに後をつけられ、襲われた……おばあ様は強かったが、追っ手の数が多かった。ワシを逃がすために囮になって……」


 ――奴らに殺された。


 そう締め括り、エリザは憎々しげに顔を歪めた。


「囮になったとしても、生きている可能性が……」

「――ない」


 希望的観測を口にするレウルスだったが、エリザは首を横に振る。


「逃げている時に、遠くから見たんじゃよ……おばあ様が殺されるところをな。剣で斬られ、槍で貫かれ、首も刎ねられた……いくらおばあ様でも、生きては……おれんじゃろう」


 言葉を紡ぐことすら苦しそうにエリザが否定した。その言葉にレウルスは今度こそ完全に絶句する。


 部屋の中に沈黙が満ちた。エリザは涙を流しながら体を震わせ、レウルスはこのような時にどうすれば良いのか見当もつかない。

 前世の記憶を頼ろうにも、記憶が薄れている以前にここまで重苦しい過去を持つ人物と接したことなどないのだ。両親を、祖母を、そして生まれてきたであろう弟妹を殺された人物にかける適切な言葉など、レウルスは持ち合わせていない。


 レウルスが言葉を失っている間にも、エリザの流す涙は量を増す。座っていた木箱の上で両膝を抱えて血を流すように、この世の理不尽を嘆くように、涙を流し続ける。


(失敗、したか……)


 そんなエリザの姿を見たレウルスは、ただただ己の浅慮を悔んだ。


 エリザの事情を聞く必要はあったが、ここまで重苦しいものをぶつけられるとは思っていなかった。

 あるいは、幼い頃に両親を魔物に殺された上、長年に渡って農奴として扱き使われた自分より不幸な者などいないと高を括っていたのか。ラヴァル廃棄街でもレウルスよりも悲惨な境遇にいる者と出会ったことがなく、自分こそが最も不幸だと思っていたのか。


 レウルスとエリザのどちらがより不幸かなど、比べる必要はないだろう。しかし今の話を聞いたレウルスは自分よりもエリザの方が不幸だと、そう思ってしまった。


 レウルスとエリザに違いがあるとすれば、それは前世の記憶の有無だ。常識どころか世界自体が違う今世だが、幸か不幸かレウルスには苦境を耐えるだけの我慢強さがあった。

 シェナ村では危険で過酷な労働に従事させられたが、適度に手を抜いて己を守るだけの知恵があった。例え泥水を啜ろうとも生きたいと、このままでは死ねないと思う執念があった。


 “それ”がないエリザは、ただの子どもでしかない。レウルスが助けることもできず、息絶えて埋葬することしかできなかった子ども達と大差がないのである。


 憐憫、同情、共感。それらの感情が複雑に混ざり合い、レウルスは行き場のない感情を持て余すように深々とため息を吐く。聞くにしてももう少し手順というものがあっただろうに、と後悔する。


 ――同時に、まずいとも思った。


 勘違いで斬りかかった負い目もあったが、膝を抱えて蹲る目の前の少女を見捨てられないと、このままラヴァル廃棄街の外に放り出せばそのまま死んでしまうと、保護欲に似た感情が湧いているのだ。


 もしもこれが演技だったら大したものだろう。冒険者見習いとして活動を始めた初日にほとんど成果が得られず、このままでは己の身が危険だと判断したエリザが作り話をした可能性も否定はできない。

 だが、エリザの語り口は真に迫っており、流す涙は本物に見えた。それが余計にレウルスの心に“重り”を乗せるのである。


「のう、レウルス……」


 動くことができない、言葉を紡げないレウルスだったが、名前を呼ばれて我に返る。すると、いつの間にか木箱から立ち上がっていたエリザが目の前にいた。


「お主は、ワシのことを“同類”だと言った……なら、聞きたい……聞きたいのじゃ……」


 それは、ラヴァル廃棄街に来たばかりのエリザにレウルスが向けた言葉だ。他に行く場所がないからと告げたエリザに答えた、レウルスの言葉だ。

 エリザはレウルスの襟元を両手で掴み、涙を流しながら縋るように問いかける。


「ワシは……何か悪いことをしたのかのう? かあ様ととう様の子として生まれただけなのじゃ……おばあ様の孫として生まれただけなのじゃ……新しく生まれてくる子どもを……弟か妹を、お姉ちゃんとして守りたかっただけなのじゃ……」


 顔を近づけ、真正面から覗き込むようにして尋ねるエリザ。その間にもエリザが流す涙は頬を滑り落ち、床にまだらな染みを作っていく。

 その問いかけを否定することは簡単だっただろう。エリザは何も悪くないと慰めることも、きっと簡単だった。


 だが、レウルスとは異なる方向性の悪意を――それもとびきり悪質で強烈なものを受けたエリザにかける慰めの言葉を、レウルスは持たない。仮に慰めの言葉をかけたとしても、それは酷く薄っぺらいものになると思ったから。


「すまん……言葉が見つからねえ」


 故に、レウルスは何も言えないことを謝罪した。前世を含めれば遥かに年下の少女への慰め一つ浮かばない自分が、妙に腹立たしかった。

 例え薄っぺらい慰めの言葉でも、もしかしたらエリザの心を癒す切っ掛けになるかもしれない。そんなことはないと、お前は悪くないと慰めることもできたかもしれない。しかし、レウルスにはそのどれもが言葉にできなかった。


 それでも、襟首を掴んでくるエリザの背中に両腕を回してゆっくりと、優しく抱き締めて。


「だから、今は泣いちまえよ。全部とはいかなくても、少しでも吐き出しちまえ」


 言葉の代わりに態度で示すように、その背中を叩いた。赤子を、幼子をあやすように優しく、ゆっくりと。

 同情も慰めも、優しい言葉さえも、今のエリザにはきっと届かない。ならばせめて、その怨嗟の声を聞き届けてやろうとレウルスは思った。


 泣いて抱えているものを吐き出すことができるのなら、まだどうにかなる。泣くこともなく飲み込んでしまえば、いつかは壊れて“かつての自分”のようになるとレウルスは思った。


「――――っ!」


 それが切っ掛けだったのか、それとも偶然か。エリザはレウルスの胸元に顔を押し付けて大声を上げて泣き始める。涙声で両親と祖母、生まれてきたであろう弟妹に謝り、エリザにとって大切だった家族を殺した者達へ怨嗟の声を吐き出し続ける。


 出会ってほんの僅かで、それも初対面で斬りかかったレウルスにしか頼れないというこの状況。そんなレウルスしか泣き付く相手がいないことが哀れで、エリザの背中を叩くレウルスの手つきがよりいっそう優しくなる。


「あーあー……涙どころか鼻水まで出てるじゃねえか。ったく……本当にクソッタレな世界だよ、ちくしょうめ」


 急激に湿り気を帯びていく自身の胸元に苦笑を一つ零しつつも、エリザが泣き疲れて眠るまでレウルスはその小さな背中を優しく叩き続けた。


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[良い点] ない [気になる点] 文章が陰湿。後付けの開設がしつこいくらいウザイ。流れに対して関係ないところで「娼婦」だの持ち出してくるところが気持ち悪い。
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