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第402話:三度目 その1

 ジルバを連れたレウルス達は、スペランツァの町を出発してレモナの町へと向かう。


 レウルス達が抜けるにあたり、スペランツァの町の防衛に関する話し合いを行ったため、出発は昼過ぎになった。

 それでも真っすぐ森を突っ切って向かえば、翌日にはレモナの町を訪れることができるだろう。


 レウルス達が町からいなくなる間、防衛を担当するのはコルラードとドワーフ達である。並の魔物ならば十分に余裕を持って対処できる戦力であり、上級の魔物でも相手の実力次第では防戦は可能だろう。


 近接戦闘が主だが、ドワーフも中級に属する魔物なのだ。そんなドワーフが四十人も滞在しているスペランツァの町の防衛戦力は、同規模の兵士が篭るよりも遥かに強力である。下手すると数倍以上の戦力と見做しても問題ないほどだ。

 そこに飛び道具であるクロスボウを配備して遠距離攻撃も可能となれば、先日襲ってきたような魔物の群れだろうと対処は容易だった。


 そういった背景もあり、レウルスとしてもスペランツァの町の防衛をコルラードに委ねれば安心して旅立つことができる。普段が我が強い性格のドワーフ達だが、さすがに有事の際はコルラードに従うからだ。


 かつては国軍に属し、騎士となって今に至るまでコルラードは部下を率いてきた身である。集団の運用はお手の物だろう。


「町造りにドワーフを四十人も投入すると、半年も経たない内にあれほどの規模になる……いやはや、長生きはしてみるものですな。この歳になっても知らないことばかりで新鮮ですよ」


 森の中を駆けながら、雑談がてら話しかけてくるジルバ。その表情には穏やかな笑みが浮かんでいるが、レウルスとしては苦笑を返すことしかできない。


「もしかすると数年と経たない内にレモナの町以上に発展するかもしれませんよ……あまり派手にやり過ぎても問題がある気がするんですが、大丈夫なんですかね?」


 他所の町から、自分のところにも手を貸せと言われそうだ。そんな危惧を抱くレウルスに対し、ジルバは笑みを深める。


「別に亜人といっても問題さえ起こさなければ町にも住めますし、アメンドーラ男爵様が彼らに居住権を与えるのでしょう? そうなるとアメンドーラ男爵領の領民ということになりますし、そういった“横槍”は入れ難いでしょうね」

「へぇ……でも、ミーアがいる前で聞くのも何ですけど、なんで他の町では亜人を見かけないんです? これまで色々な町に行きましたけど、見たことないですよ?」


 レウルスが見つけたカルヴァン達以外にも、探せばドワーフ等はいるだろう。現にヴェオス火山の麓に他所のドワーフが移住してきたことを思えば、珍しくはあっても皆無ではないはずだ。

 木の根に足を取られないよう注意しながら走るレウルスに対し、ジルバは笑みの種類を苦笑へと変える。


「いくら知性があってコモナ語を話せるとしても、魔物の一種だと見做す人もいますからね……領主としても領民の安全のためには受け入れ難いのでしょう」

「そうなんですか……」


 レウルスとしては、ドワーフ達は気の良い連中ばかりで付き合いやすい。

 性格は竹を割ったようにさっぱりとしており、その“仕事ぶり”とは裏腹に細かいことを気にしない。酒好きで短気で怒りっぽいところはあるが、その場合は殴り合えば即座に解決する。むしろ殴り合うと仲が深まる気すらした。


 ラヴァル廃棄街でも最初は警戒されていたが、冒険者や職人を中心として徐々に受け入れられていったのだ。今ではドミニクの料理店で酒を飲んでいたとしても誰も気にしないほどである。


「城壁に囲まれた町で生活しているからか、場所によっては魔物を見たことがないという方もいらっしゃいますからね。人によっては生まれた町の中で一生を過ごすという方もいらっしゃいますし、亜人とはいっても魔物と一緒に生活を送るというのは難しいのでしょう」

「そんなもんですか……」

「ええ……っと、レモナの町が見えてきましたね」


 そうやって雑談しながら走っていると、森から出るなりジルバがそう言う。その視線の先にあったのはレモナの町で、レウルスは気を引き締める。


 時刻はスペランツァの町を出発した翌日――その早朝である。


 レモナの町の周囲では相変わらず畑作業に勤しむ者や巡回する兵士の姿などが見えるが、特に変わった様子もない。


 今回は戦闘になる可能性もあるが、遠目に見えた農作業者は穏やかな顔つきで畑作業をしており、兵士も真面目な様子で周囲を警戒こそしているだけだ。


「それでは最後の確認ですが、仮に戦闘になった場合、まずは逃げることを優先します。我々なら屋根の上を移動できますし、町を囲う壁も乗り越えられるでしょう」


 一度足を止め、休憩がてら“今後”の方針に関してジルバが話していく。


「レウルスさんの予測では他者を操る魔法、あるいは『加護』を持つ相手がいるようですが、町の住民を操られた場合は殺さないでください。骨の一本や二本なら仕方ないですが、操られているだけなら殺すわけにはいきませんしね」


 そんなジルバの言葉にネディを除いてレウルス達が頷く。ネディだけはどことなく不満そうだったが、以前のように勝手に行動する様子はなかった。


「操っている大本が判明したら、極力その場で仕留めたいと思います。ただし相手がわからない、あるいは仕留めきれないと判断すれば退きます。その判断は私かレウルスさんがしましょう」


 最初から撤退を選択肢に入れているジルバだが、レウルスは頷きながらもジルバへ感心と疑問が半々に混ざった感情を向ける。


(妙に手慣れているような……狙われる側からすると、ジルバさんが潜んで襲ってくるとか怖いなんて話じゃねえな……)


 若い頃“やんちゃ”をしていたと語っていたジルバだが、似たようなことをしたことがあるのかもしれない。


「ただしグレイゴ教徒なら退かずに殺します」 

(あ、いつものジルバさんだったわ……)


 だが、続いた物騒な言葉にレウルスは逆に安堵してしまった。


(まあ、操る云々っていうならレベッカぐらいしか思い当たらないしな……その場合は退けない、か)


 レウルスはかつて交戦したレベッカの顔を脳裏に思い浮かべる。可能性は低いと見ているが、もしもレベッカが出てきた場合はその場で仕留めるつもりだった。


「では、いきましょうか」


 短いながらも今後の方針に関して話し合ったレウルス達は、ジルバの言葉を合図として歩き出す。レウルスとジルバ、サラとネディは自然体だが、エリザとミーアは緊張しているのか少しだけ動きが硬かった。


(下手すると襲撃を仕掛けるようなもんだしな……緊張しても仕方ないか)


 そう思いつつ、レウルスは緊張を解すようにエリザとミーアの頭に手を乗せる。そして軽く撫でると、エリザとミーアは安心したような様子で歩調を正した。


 そうやって歩くこと少々。レウルス達はレモナの町の門近くまで近づく。するとそれに気付いた兵士が槍を片手に駈け寄ってきた。


「何者だ!? っと……君達か」


 誰何してきたのは以前レモナの町を訪れた際にも顔を合わせた兵士である。その兵士は槍の穂先を向けかけたものの、レウルス達の顔を確認するとすぐに槍を下ろした。


「先日以来だな。用件は……この間の件か?」

(……ん?)


 そう言って渋い顔を向けてくる兵士に対し、レウルスは顔に出さないよう注意しながら内心だけで疑問を覚える。


(なんか、以前とは雰囲気が違うような……)


 そんな疑問を抱きながらも、レウルスは口を開く。


「そんなところです。通行許可をいただけますか?」

「ああ……少し待ってくれ」


 兵士は城門の傍で見張りをしていた別の兵士へと駆け寄ると、数度言葉を交わしてから戻ってくる。


「通って構わないぞ……ところで、そちらの方は? 精霊教の関係者のようだが……」


 兵士は訝しげな視線をジルバへと向けた。これまで三回レモナの町を訪れたが、初めて見る同行者だからだろう。


 ただし、服装から精霊教徒だと判断したのか、警戒と呼べるほど厳しい表情はしていない。


「私は精霊教徒のジルバと申します。この町の教会に用がありまして」

「そう、ですか……」


 兵士はジルバを頭の天辺から爪先まで眺めると、首を傾げながら道を譲る。レウルスはそんな兵士に一言礼を告げると、通行の許可が出たからと城門を潜った。


(……んん?)


 そうして城門を潜るなり、レウルスは違和感を覚える。


 これまで二度レモナの町を訪れたが、城門を潜るなり町の喧騒が聞こえてきたからだ。


 行き交う人々の足音や話し声が、そこかしこから聞こえてくる。


「……む? 今日は妙に騒がしいのう」


 レウルスと同様の違和感を覚えたのか、エリザが訝しげな声を漏らす。それはサラ達も同様だったのか、目を丸くしながら周囲を見回していた。


「何年も前になりますが、私が以前訪れた時もこのような感じでしたが……“前回”とは違うのですね?」


 そんなレウルス達の反応を不思議に思ったのか、ジルバが尋ねてくる。レウルスは周囲に聞こえないよう注意しつつ、小声でそれに答えた。


「もっと静かといいますか、暗いといいますか……とにかくここまで“普通”じゃなかったです」

「ふむ……」


 ジルバは一つ頷くと、自然な動作で周囲に視線を向ける。そして数秒観察したかと思うと、笑顔を浮かべてレウルス達を促した。


「まずは教会に向かうとしましょうか。この町の精霊教徒に会えれば何か聞けるかもしれません」


 そう言って歩き出すジルバに従い、レウルス達も歩き出す。何が起きても対応できるよう気を張ってはいるが、レウルスだけでなくエリザ達からも困惑の気配が伝わってきた。


(しかし、なんだ……この違和感は)


 以前と異なり、町を歩く住民の顔が明るい。歩く音、話す声、それらが存在することにレウルスは違和感を覚えていた。


 レウルスが小さく首を傾げながら歩いていると、サニエルの店の前に差し掛かる。すると、丁度出かけるタイミングだったのかサニエルが店の中から出てきた。


「っ……これはこれはレウルス様! 先日は失礼いたしました! 資材を運ぶ件ですが、ようやくご領主様から許可が下りまして……二度も約定を破っておいておきながら都合の良い話ではあるのですが、近い内に再開できるかと……」


 レウルスの顔を見るなり、サニエルが焦った様子でそんなことを言ってくる。


 だが、レウルスとしては虚を突かれたような心境だった。


(この雰囲気……“前回”と違う? 一体どうなってるんだ?)


 揉み手をしそうな勢いで話しかけてくるサニエルに、レウルスは面食らったように目を瞬かせるのだった。

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