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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
10章:支配された町と血に抗いし吸血種

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第388話:コルラードの頼みごと その2

 コルラードから頼みごとを引き受けたレウルスだったが、アメンドーラ男爵領の北端まで進んでみても目的である隊商の姿は確認できなかった。


 “縦”にも“横”にも広いアメンドーラ男爵領だが、現状では整備されている道が非常に限られている。大量の資材を運ぶには馬を曳かせた荷車等を使用する必要があるが、そんな条件以外でも通れる道は街道ぐらいしか存在しないのだ。

 レウルス達のように森の中でも平気で移動できる者もいるだろうが、コルラードの話では昨日到着予定の隊商は“普通”の人間達である。背負える荷物だけを背負って森の中を踏破してくるような手合いではない。


「他所の街道にまで来ちまったな。ここまで一本道だったし、こっちにはサラがいるから気付かずにすれ違ったなんてこともないはずなんだが……」


 アメンドーラ男爵領のものと比べるときちんと整備された街道を見ながら、レウルスが呟く。


 アメンドーラ男爵領を北上して行きついたT字の三叉路は、東に進み続ければラヴァル廃棄街に、西に進み続ければ城塞都市ティリエへとつながっている。


 もちろんその間に何本も分岐点があり、他の町や村にもつながってはいるのだが――。


「スペランツァの町に行くための道に気付かず、そのまま南に進んでしまった可能性はどうじゃ?」


 エリザは自身の発言に納得できない表情を浮かべつつも、一応の懸念とそう発言する。


「いくら整備が行き届いていないっていっても、ここ数ヵ月の人の往来でそれなりに道っぽくなってるしなぁ……他所の町に行くような商人なら間違えないだろ」


 エリザの意見を聞いたレウルスは苦笑しながらそう答えた。レウルスも考えないではなかったが、さすがにそれはないと思ったのだ。


 アメンドーラ男爵領には北端から南端まで縦断する街道が二本存在するが、現状ではスペランツァの町以外に人が立ち寄るような場所もなく、街道の途中で曲がり道に気付かないほど荒れているわけでもない。

 人の往来によって自然とそうなっているのだが、仮に曲がり道に気付かず直進したとしても、どんどん道が荒れていくためすぐに気付いて引き返すだろう。


「うーん……少なくとも昨日今日で街道を大勢が通った形跡はなかったし、ボクとしては単純に遅れているだけなんじゃないかなって思うんだけど」


 地面に刻まれた轍の痕から判断したミーアがそう言うと、レウルスは納得したように頷いた。


「旅にアクシデント……じゃない、予想外の出来事は付き物だからな。とりあえず西に進んでみるか」


 もしかすると今頃大慌てで向かっているかもしれない。時刻は正午を回った時間帯のため、一時間ほど進んでみて何もなければ一度引き返してコルラードに報告するべきだろう。


 件の隊商はアメンドーラ男爵領の西から向かってきているはずで、街道に沿って進めばいずれは見つかるはずである。

 日暮れまでにスペランツァの町へ帰還することを考えると一時間程度しか進めないが、レウルス達の足ならばかなりの距離を稼ぐことができるだろう。


 仮に隊商ではなく巡回の兵士などに遭遇したとしても、アメンドーラ男爵領で開拓をしている者というしっかりとした身分があり、送られてくる資材の確認という理由もあるのだ。特に問題はないはずである。


「進むのが遅れているだけならば良いんじゃが、魔物や野盗に襲われて……なんてことも考えられるからのう」

「移動の途中で急病人が出たから近くの町や村に寄っている、なんてことも考えられると思うけど……」


 ひとまず街道に沿って西に向かって走りつつ、エリザとミーアが意見を交わし合う。そんな二人の声を聞いたレウルスは首を傾げた。


「でも、商人なら約束の期日に間に合わないなんてことはなさそうだよなぁ……他所の町の支援だし、その辺が曖昧なのか?」


 あるいは純粋な商人ではなく、“支援者”が組織した輸送の集団なのか。


 以前ヴェルグ伯爵家のディエゴが護衛を務めていた時のように、遠くから移動しているのならば一日程度の誤差は仕方ないと言える。魔物や野盗に襲われる危険性もあるが、天候の悪化によって進めなくなることもあるのだ。

 ただし、今回遅れている隊商はアメンドーラ男爵領からそれほど離れていない町に店を構えているらしく、以前スペランツァの町を訪れた際も約束の期日に遅れることはなかった。


「ふむ……じゃが、コルラードさんも特に文句を言っていなかったんじゃろ?」

「支援の資材が送られてくるだけでもありがたいからなぁ。遅れてるっていっても一日だし……って、ここまで進んで会わないってことは、四日遅れぐらいになりそうだけどな」


 そんな雑談を交わしながらも、全員が『強化』を使っているためかなりの速度で移動している。そのため例え隊商を発見したとしてもスペランツァの町に到着するのは明日、下手すると明後日になりそうだ。


 しかし、一向に隊商の姿は見えない。レウルス達は予定通り一時間ほど移動したものの、それらしい存在は影も形も見当たらなかった。


(全然見つからないな……どうしたもんか)


 レウルスは空を仰ぎ見て太陽の位置を確認する。既に中天を過ぎて傾き出しており、時刻は午後一時を回ったところだろう。

 これから全速力で帰れば日暮れまでにはスペランツァの町に戻れるが、全く痕跡が見つからないというのも気にかかる。


(争ったような形跡もないし、ただ遅れているだけ……か? 野営するための道具は持ってきてないしな……)


 いっそのこと隊商が店を構えている町――レモナと呼ばれる町まで向かうのも一つの手だろうが、さすがに野営の道具を持ってきていないためそれも難しい。


 レウルスも足を踏み入れたことはないが、城塞都市ティリエに向かう途中で街道を左折して進めばレモナの町に到着する。レウルス達の足ならば、スペランツァの町から二日とかからない場所にある。

 ただし、現在レウルス達がいる場所からでは途中で夜を明かす必要があるだろう。どうしたものかとレウルスが考えていると、周囲の索敵を行っていたサラが声を上げた。


「あ、道の先から熱源が向かってきてる。数は……いっぱい? 熱源の動き的に、これまで物を運んできてくれた人達と似てる……かも?」

「……やっぱり遅れてただけか。一応声をかけにいくかな」


 サラの報告を聞いたレウルスは、エリザ達に一声かけてから再度駆け出す。サラが熱源を探知できる範囲は広いが、それでも数百メートルだ。走ればすぐにたどり着ける距離である。


 そうして駆け出したレウルス達が見たのは、予想通りというべきか馬に荷車を曳かせた集団だった。その前方や後方には護衛と思しき兵士の姿もあり、レウルス達を見て警戒を強めている。

 そのためレウルス達は減速し、武器に手をかけないよう注意しながら正面から歩み寄った。


「何者だ!」


 金属の鎧を身に着け、槍を携えた兵士が誰何してくる。その装備や動きを見る限り、正規に訓練を受けた兵士なのだろうとレウルスは思った。


「驚かせてすみません。俺達はアメンドーラ男爵領で町の開拓を行っている者でして……到着が遅れているようでしたので、何かあったのではないかと確認に来たんです」


 やはり遅れていただけで、魔物や野盗に襲われたというわけでもなさそうである。そのためレウルスが安堵していると、兵士の男性が訝しげな顔をした。


「たしかに我々はアメンドーラ男爵領に向かっている途中だが……約束の期日は明後日のはずではないか? コルラード殿ともそう約束していたはずだが……」

(……んん?)


 兵士の返答を聞き、レウルスは内心で反応に困ったような声を漏らした。しかし相手が嘘を吐いているようも見えず、レウルスは表情に困惑を貼り付けながら首を傾げる。


「……失礼ですが、レモナの町の方々では?」

「いや、我々はティリエの町を出発してここまで来たのだが……」

「そうでしたか……失礼いたしました」


 兵士も困惑したように首を傾げている。その態度に嘘の色はなく、レウルスは困惑を深めながら頭を下げた。


(おかしいな……この人達は“次”に来る予定の隊商だったのか。そうなると俺達が探している隊商はどこにいるんだ?)


 神がかり的な方向音痴が音頭を取って変な場所へと進んでいるのではないか。そんな冗談すら頭に浮かんでしまうレウルスである。


 そうやってレウルスが悩んでいると、兵士の男性もレウルスを見て首を傾げている。そんな兵士の仕草に気付いたレウルスが何事かと思っていると、兵士は半信半疑といった様子で尋ねた。


「赤毛に大剣、格好は冒険者……それにアメンドーラ男爵領……貴殿、もしやレウルス殿では?」

「え? そうですけど……もしかして以前どこかでお会いしましたか?」


 それまでの訝しげな様子から一転、敬語に切り替わった兵士にレウルスは困惑する。ティリエの町には立ち寄ったことがあるため、どこかで顔を合わせたことがあったのかと疑問に思ったのだ。


「おお! お噂はかねがね。前回町を訪れた際はお会いできず残念に思っておりました! 本当にお若いですな!」

(あー……そっちか)


 記憶にないためそうだとは思ったが、やはり初対面だったらしい。しかし噂を聞いたことがあるらしく、レウルスの特徴から“そうだ”と判断したようだ。


(『魔物喰らい』って名前が広がってるとは聞いたけど、思ったより広がってるんだな……)


 広まって困るわけではないが、こうして有名人にでも会ったかのように接してくるとそれはそれで反応に困る。そのためレウルスが曖昧に笑っていると、兵士もまた笑顔を浮かべて言った。


「『精霊使い』と呼ばれる方が連れているということは……まさか皆様精霊で?」

「……え?」


 兵士の言葉に、レウルスは思わず素で目を丸くするのだった。








「ふむ……レモナの隊商は見つからず、明後日到着予定のティリエの隊商だけが見つかったと……」


 その日の夕刻。

 スペランツァの町へと帰還したレウルスは、すぐさまコルラードへと報告を行っていた。


「複雑な道でもないし、道を間違えたということもないはずだが……」


 コルラードもレウルス達と同じように考えたのか、怪訝そうに眉を寄せている。


「幸いにというべきか、運んでくる予定の品物は建材が多いから食料不足に陥ることもないが……ううむ、どうしたものか……」


 このまま待つか、それとも確認をするべきか。仮に確認するとしても誰を向かわせるか。ナタリアに報告してから動くかどうするか。


 そんなことを考えるコルラードだったが、レウルスの顔を見て首を傾げる。


「ところでレウルスよ、妙な顔をしておるがどうしたのであるか?」

「……いえ、予想外のところで予想外の名前を聞いたなぁ、と……」

「は?」


 反応に困って表情を歪めるレウルスに対し、コルラードは意味がわからないといわんばかりに目を丸くするのだった。

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