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第381話:乱戦 その2

 周囲の熱源が向かってきていると聞いたレウルスは、『龍斬』を構え直すなり肉声ではなく『思念通話』に切り替えてサラへと声をかける。


『一番近い熱源はどっちだ?』

『レウルスから見て左側! けっこう近い!』


 そんなサラの言葉を聞き、レウルスは即座に駆け出す。するとレウルスが知覚できる範囲に魔力が入り込んできたため、すぐさま目を向けた。


 今しがた仕留めたグリフォンが呼んだのか、森の中から新たに姿を見せたのもグリフォンである。体のあちらこちらにかすり傷程度ではあるが傷を負っているにも関わらず、レウルスに向かって一直線に向かってきていた。

 そんなグリフォンの後方には、それまで交戦していたのか化け熊の姿も見える。おそらくはグリフォンを追いかけてきたのだろうが、レウルスを見るなりブレーキをかけるようにして減速した。


『サラは近づいてくる魔物を逐一知らせてくれ! こっちは俺が相手をする! そっちに魔物が行くようなら四人で協力して迎撃を頼む!』

『はいはーい! まっかせてー!』


 『思念通話』の“つなぎ先”としては一番慣れているサラに指示を出すと、レウルスは向かってくるグリフォンを迎撃する。グリフォンはレウルスを視界に収めつつ地を蹴ったかと思うと、翼を羽ばたかせて急速に浮かび上がる。


『クェエエエエエエッ!』


 続いて咆哮と共に魔力が放たれた。それに気付いたレウルスは『龍斬』に魔力を込めつつ横薙ぎに一閃する。


「っとと!?」


 グリフォンが放った風の塊を両断したレウルスだったが、その余波で僅かに姿勢が揺らいだ。しかし風に押されてバランスが崩れただけで痛みなどはない。


 空に飛び上がるまでの時間稼ぎとして放った牽制だったのだろう。レウルスは森の枝葉を突き抜けて上空に逃れようとしているグリフォンを追い、『強化』を使いながら進路上にあった木を駆け上る。

 そして、今度は魔力の刃を使わず直接斬りかかった。空中のため踏み込むことはできないが、それでも木を駆け上った勢いを乗せてグリフォンを両断しようとする。


『ケケッ!?』


 空を飛ぶ手段がないにもかかわらず迷いなく斬りかかってきたレウルスに対し、グリフォンは僅かに驚いたような鳴き声を漏らした。それでも『龍斬』で斬られれば危険だと判断したのか、身を捩って即座に回避行動を取る。


 大剣を振るうレウルスの左脇を抜けるように進路を変え、斬撃を回避し――。


「逃がすか!」


 レウルスは左手を柄から離すと、グリフォンの翼を無理矢理掴み取った。そして全力で握り締め、離脱しようともがくグリフォンを膂力に物を言わせて左手一本で引き寄せる。


「シャアアアアアアアァッ!」


 重力に引かれて落下し始めるのにも構わず、レウルスは右手だけで握った『龍斬』を振るう。そしてグリフォンの首を刎ね飛ばすと体勢を入れ替え、落下するグリフォンの体を蹴りつけて真横へと跳んだ。

 跳んだ先にいたのは、動きを止めた化け熊である。レウルスは空中でぐるりと回転し、眼下の枝葉ごと化け熊を両断するべく魔力の刃を繰り出した。


『ッ!? ゴアアアアアアァァッ!?』


 化け熊はレウルスの行動に気付き、その場から離脱しようとする。しかし僅かに判断が遅く、レウルスが放った魔力の刃が化け熊の四本の腕の内、左腕二本を斬り飛ばした。


 激痛から悲鳴を上げる化け熊だったが、レウルスはそれに微塵も構わず、地面に着地するなり化け熊目掛けて突進していく。


 そして痛みで動きが鈍った化け熊を間合いに捉えた瞬間、踏み込みと共に『龍斬』を斜めに切り上げる軌道で振るった。

 化け熊の首が宙を舞い、斬られた首の断面から血が噴き出す。化け熊ならば首を刎ねさえすれば死ぬだろうと判断したレウルスは一つ息を吐いた。


『レウルス今度は右!』


 サラの注意を促す声とほぼ同時に、魔力と殺気を感じ取る。レウルスは瞬時に膝を折るようにしてその場へと伏せた。

 その直後、それまでレウルスの首があった位置を飛来した魔力が通り過ぎていく。それはグリフォンが放った風の刃だったのだろうが、魔力の飛来に遅れること数秒、風の刃によって幹を両断された木が何本も倒れ始める。


 魔力が飛んできた方向に視線を向けたレウルスは、草木に潜むようにして視線を向けてくるグリフォンに気付く。どうやら他のグリフォンや化け熊を仕留めている間に忍び寄ってきたらしい。


(この距離でも魔法が届くのか……って、おいおい……)


 レウルスとグリフォンの間には何十本もの木が存在するが、その全てが斬られていたのか、徐々に傾き始める。その倒れ方は不規則でどの方向に倒れるかわからなかったが、それを見越したようにグリフォンが翼を羽ばたかせた。


 風の刃に続き、今度は人間など吹き飛ばせそうな勢いで突風を生み出すグリフォン。その威力はすさまじく、倒れかけていた木々がレウルス目掛けて一斉に押し寄せてくるほどだ。


 それを見たレウルスは、即座に『龍斬』を鞘から抜く。避けようにも押し寄せる木々は大量で、回避が困難だった。


 ――故に斬る。


 真紅の刀身を晒した『龍斬』を握り締めつつ、レウルスは『熱量解放』を使った。そして刀身に全力で魔力を込めつつ、真一文字に一閃する。


 飛来する木々を両断し、押し寄せる風を両断し、更にはその先にいたグリフォンの体も二つに切り分ける。


「グ――ゥ、オオオオオオオオオオオオォォッ!」


 木々を両断したものの、風に押されていた勢いまで消えるわけではない。レウルスを押し潰すようにして迫る木々に気付いたレウルスは、体の中から湧き上がる衝動に押されて右足を振り上げた。

 重力と風の勢いに引かれて飛んできた木の幹を、全力で蹴り飛ばす。その勢いは凄まじく、後から続いていた他の木に激突して進路を強引に変えるほどだ。


 それでもレウルスの方へと倒れてくる木は『龍斬』で両断し、事なきを得る。


『ちょっとレウルス!? 何やってんの!? なんかすごい勢いで木が吹き飛んだんですけど!?』


 エリザ達を巻き込まないよう注意はしていたが、木々が吹き飛ぶところはしっかりと見えていたらしい。サラが驚愕したような声を『思念通話』越しに飛ばしてくるが、レウルスはそれに答える余裕がなかった。


 幾度もの斬撃によって木ではなく丸太へと変貌した落下物目掛け、今度は前蹴りを叩き込む。そうして蹴り飛ばした丸太の先にいたのは、この場から逃げ出そうとしていた角兎だ。

 レウルスが蹴り飛ばした丸太は風切り音を上げながら飛来し、勢いもそのままに角兎を轢き潰す。


(こいつは、ギリギリ、だな……)


 狙い通りに体が動いているが、それでも気を抜くと暴れ出しそうなほど力が溢れている。


 溜めていた魔力がレウルスに扱える上限に収まっていたのか、先日『熱量解放』を使った時と比べるとその衝動は控えめだった。


 自身でも扱い得るギリギリの魔力量。“現状の”上限値を脳と体に叩き込みながら、レウルスは地を蹴って駆け出した。


 前回と違って魔力量が原因なのか、それとも逃げることを諦めてしまったのか、遠目に化け熊の姿が見えた。そのため周囲に散らばる丸太や木々を蹴散らすように駆け、化け熊へと襲い掛かる。

 化け熊は抵抗するように四本の腕を振り回し、打撃を繰り出す。それは直撃すれば木を圧し折るほどの威力があるが、当たらなければどうということはない。当たる前に腕を斬り飛ばせば、何も問題はない。


『今度は左右から来てるわよ! 右側が……えっと、三匹!』


 化け熊を袈裟懸けに切り倒したレウルスは、サラの言葉を聞いて意識を左右に向けた。


 左から駆けてくるのは角兎で、右側から駆けてくるのは三匹の魔犬である。逃げるよりも戦うことを選んだのは、背を向けて逃げ出しても逃げ切れないと考えたのか、あるいは複数で襲えばどうにかなると考えたのか。


 三十センチはあろうかという角を突き出し、斬られても突き殺すと言わんばかりに跳躍し、体ごとぶつかる勢いで角兎が弾丸のように突っ込んでくる。


『キィィッ!?』

「――――」


 だが、『熱量解放』を使っている状態のレウルスからすれば、余裕をもって捉えられる速度だった。突き出された角を左手で掴み取り、そのまま振り回して即席の鈍器として右側から飛び掛かってきた魔犬へと叩き付ける。


 角兎の体重は数十キロあり、『龍斬』よりも重い。それでも飛び込んできた勢いを利用するように振り回すと、魔犬を薙ぎ倒せる武器となる。


 角兎を魔犬に叩き付けるなり左手を離し、右手だけで握った『龍斬』を振り下ろす。そうして角兎と魔犬をまとめて斬り殺すと、返り血がレウルスの頬を汚した。


「……足りない、なぁ」


 頬に伝う返り血を一舐めし、レウルスが呟く。


 サラが感じ取った熱源の数とレウルスが仕留めた魔物の数は、到底釣り合っていない。


 ――つまり、まだまだ“獲物”がいるということだ。


 こうなってしまったからには、可能な限り仕留めなければなるまい。そう判断したレウルスは、『龍斬』を担いで駆け出すのだった。








「……それで? 暴れに暴れた結果が“コレ”であるか?」


 三時間後、ある程度魔物を仕留めたと判断したレウルスはコルラードやドワーフ達を呼びに行ったものの、“現場”を確認するなりコルラードから呆れたような声をかけられていた。


 魔物だけでなく両断された木が何十本――下手すると百を超える数が転がっているのだ。グリフォンの風魔法によって斬られたものも多いが、レウルスが斬ってしまったものも多い。


「申し訳ございません」


 そのためレウルスは言い訳のしようもなく、素直に頭を下げた。ドワーフ達も呆れたような様子でグリフォンを始めとした魔物の死体を回収している。


「グリフォンに気付かれてしまって交戦せざるを得なかった、というのは理解したのである……だが、さすがに暴れ過ぎではないか?」

「申し訳ございません」


 他の魔物もいたが、グリフォンの数が減っていたように見えたためチャンスだと思った面もある。他の魔物に気を取られているのなら各個撃破できるのではないか、と考えた面もある。


 結果としてグリフォンを八匹、化け熊を四匹仕留めることができた。下級の魔物まで加えれば合計で三十匹近い数を仕留めることができたため、戦果としては非常に大きいだろう。


 しかし、暴れ過ぎだと言われれば否定できない。『熱量解放』は適度に使用していたため魔力の消耗はそれほど大きくないが、森の中での戦闘となるとどうしても周囲に被害が出てしまうのだ。


 エリザ達も戦い、五匹ほど魔物を仕留めたが、レウルスと違ってそこまで環境を破壊することもなかった。ミーアが前衛として魔物の足を止め、エリザ達が長距離から魔法で仕留める戦法を選んだため環境を破壊する要素もなかったのだろう。


「……まあ、どちらにしてもいずれは戦わなければならない相手だったのだ。損害もなく仕留めることができたのなら、吾輩もこれ以上は言わないのである。ただし、“後片付け”は必要であるな」


 レウルスが仕留めたグリフォンを検分しつつ、コルラードは疲れたように言う。アメンドーラ男爵領から脅威となる魔物が減るのは歓迎すべきことだが、それでめでたしめでたしとはいえない。


「斬ってしまったのなら仕方がないのである……とりあえずレウルス、貴様には切り株の除去を命じよう。グリフォンがいたという岩山にも近いし、切り株を除去して地面を均しておけば周辺を調査するための拠点を造るのにも丁度良いであろう」

「了解しました……」

「それが終わったら魔物がどこに行ったのか調査しつつ、可能な限り仕留めるのだ……木はあまり斬らぬよう注意せよ」


 呆れたように言うコルラードに対し、レウルスは頷くことしかできなかった。

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