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第374話:それは異常か正常か その3

 レウルスにとって、魔力というものは非常に曖昧な存在だ。


 体内にある魔力に関しては、大まかにだがその量を把握することはできる。『熱量解放』を何分ほど維持できそうか、という曖昧な指標だが、感覚として保有している魔力に関しては推測することができていた。

 それは例えるならば、『今の腹具合なら何時頃にお腹が空くな』というように経験と体感によって導き出されるものだったが、今この時、レウルスは自身の体から流れる魔力をはっきりと知覚することができていた。


(俺の魔力がエリザとサラに流れてる……こんなにはっきりと“魔力の流れ”を感じたのは初めてだぞ……)


 おそらくは『契約』を通してエリザとサラに魔力が流れているのだろう――が、ここまではっきりと感じ取れたのは初めてだ。


 正直なところ、レウルスは自身が魔力の扱いに関して非常に下手だと自覚している。


 魔力を感じ取ることはできる。武器に魔力を込めて刃として放つこともできる。『熱量解放』を使えば格上の相手とも打ち合うこともできる。


 だが、その全てが非常に“大味”だ。他の魔法使いのように魔力を操り、魔法の中では基本中の基本である『強化』を使うこともできない。

 今まではエリザとサラから送られる魔力によって、自然と体が『強化』されたような状態になっていた。だが、今ではレウルスの方から二人に魔力が送られているのがはっきりと知覚できる状態である。


(これが魔力……もしかして俺が保有できる魔力が上限に達した? いやでも、感覚的にはまだいけそうな気もするんだけどな……)


 ひとまずサラが焼いていた肉を全て受け取ると、満腹感に構わず齧りつく。腹がはち切れそうなほど満腹感があるが、実際にはち切れるわけではないと判断してのことだ。


(うーん……俺の魔力も増えてるけど、食べた分がそのまま増えるわけじゃなさそうだな……半分近くエリザとサラに流れてる……か?)


 レウルスの体感としては、補充した魔力が十とすれば五を自身に蓄え、残り半分の五の魔力をエリザとサラに分け与えているように感じられた。

 “溢れた分”がそのまま二人に流れ込むわけではなく、半分は自身の魔力として蓄えているらしい。


 満腹だというのに食べたものをそのまま消化している自分の体に思うところはあるが、レウルスとしてはエリザとサラの方が気にかかる。


(満腹感に目を瞑ればまだまだ魔力を蓄えられそうな気もするけど……ヴァーニルは『契約』で魔力が流れ過ぎると危ない……というか弾けるとか言ってたよな。この二人の場合どうなんだ?)


 エリザは吸血種で、サラは火の精霊だ。“普通の人間”とは到底言えない存在で、保有できる魔力の最大量がどうなっているのかもわからない。

 このままレウルスの魔力が流れ込み続けた場合、二人の負担になるのではないか。そう思いながらレウルスが二人をじっと見つめると、エリザは頬を朱色に染め、サラは無邪気に笑って首を傾げた。


「な、なんじゃ? そんなに見つめられると……その、恥ずかしい……んじゃが……」

「もしかしてまだお肉食べる? 食べるの? それならばどんどん焼いちゃうわよ!」


 外見は似ている二人だが、反応は微塵も似ていない。そのことに苦笑を浮かべたレウルスだったが、すぐに表情を引き締めた。


「俺から二人に魔力が流れていっているんだが……二人とも大丈夫か? 体に異常があったりしないか?」


 もしも異常があるのなら、魔力が流れていかないよう制御できる術を身に着ける必要があるだろう。あるいは、手っ取り早く『熱量解放』を使って魔力を消耗する必要があるかもしれない。

 しかし、レウルスの魔力が減ったとしても二人に流れる魔力が止まるかはわからないのだ。そのため、まずは変調がないかと尋ねたものの、エリザもサラも首を傾げるばかりである。


「むぅ……言われてみれば、レウルスから魔力が送られているのう。じゃが、異常と言われても特に何もないんじゃが……」

「……あ、うん、そ、そうね。気付いてた気付いてた。レウルスから魔力が流れてるって、わたし気付いてた」


 エリザはともかく、サラは本当なのか疑わしい反応を示す。そのためレウルスがじっとサラを見つめると、サラは慌てた様子で手を振った。


「ほ、本当よ? 本当に気付いてたのよ? ただほら……わたしってばレウルスの魔力をもらって顕現したからか、レウルスの魔力をもらっても違和感がないし、魔力がちょっと増えてるなーって感じがするだけ……みたいな?」


 そう言って上目遣いでレウルスを見るサラだが、今のところはエリザ共々悪影響はないようだ。


「……二人とも、魔力の量に余裕はあるのか? 無理はしてないか?」


 二人が最大でどの程度の魔力を保有できるかわからず、レウルスの口調も自然と気遣うものになる。


 頼むから隠すような真似はしないでくれ、と言わんばかりにエリザとサラを見つめると、二人は顔を見合わせてから頷いた。


「ワシはまだまだ平気じゃ。先日の下水道の“掃除”で魔力を消耗したから、普段よりも減っているぐらいじゃな」

「わたしも全然平気よ? 限界は……うーん……正確にはわかんないけど、今の倍以上魔力があっても平気?」


 どうやら二人とも魔力量の“上限”に関しては相当高いらしい。少なくともレウルスの魔力が流れ込んでも、すぐに問題が起きるというわけでもなさそうだ。


(まずは様子見しつつ、何ができるかを確認していった方が良さそうだな……)


 エリザとサラのこともそうだが、自分自身の体についてもよくわかっていない。そのためレウルスはサラから渡された骨付き肉を全て平らげると、町の開拓を兼ねて色々と試すことにしたのだった。








 レウルスが真っ先に試そうと思ったのは、『強化』の魔法に関してである。


 魔法の中では最も簡単でありながら、使えるのと使えないのとでは天と地ほどの差がある魔法だ。

 以前までは使おうと思っても、魔力の扱いが下手過ぎてどうにもならなかった。

 エリザやサラとの『契約』を通して勝手に『強化』されている上に、『熱量解放』が使えるのだから必要ないと思っていた面もあるが、『強化』には『熱量解放』のみならず他の魔法にも存在しない特徴が存在するのである。


 それは、『強化』に関してはその“発現方法”から魔力の消耗がないという点だ。


 自身の魔力を知覚し、操り、全身に行き渡らせる。言葉にすればそれだけだが、魔力を操るだけで使用できることから使い勝手が非常に良い魔法だった。

 先輩冒険者であるシャロンから聞いた話では、熟練者は武器の切れ味を“強化”したり、防具の強度を増すこともできるらしい。『強化』の『魔法文字』が刻まれた魔法具を知るレウルスからすると、それはとても理解しやすい話だ。


(魔力を操って……全身に行き渡らせて……)


 これまでにないほどはっきりと知覚できている魔力を、全身に行き渡らせていく。すると、レウルスは全身に力が漲るのを感じた。


「これが『強化』……か?」


 今までの失敗が嘘のように、あっさりと『強化』を使うことができた。レウルスは自身の体を見下ろしつつ、漲る力に目を細める。


(『熱量解放』と比べるとけっこう落ちるけど……普段よりかなり力が増している気がするな)


 何かあってはまずいからと町の敷地から出て試していたレウルスだったが、その視線が森の木々に向けられた。そして『強化』を維持したままで歩み寄ると、一抱えほどある木の幹に両腕を回す。


「ヌ――オオオオオオオオオオォォッ!」


 気合いのこもった声と共に、全身に力を込めていく。そして地面から木を引き抜く――よりも先に、集中が途切れて『強化』が解けてしまった。


「お、おお?」


 力の感覚が狂い、レウルスは思わず間の抜けた声を漏らす。 


(あー……これはちょっと……扱いに慣れないと、『強化』を使いながら戦うのは難しそうだな)


 『熱量解放』と違い、常に『強化』を維持するために意識の何割かを割く必要がありそうだ。だが、レウルスとしては何割もの意識を『強化』の維持に割かれるのは非常に厳しいものがある。

 『熱量解放』の場合、スイッチでオンオフを切り替えるように使うことができる。そのため『熱量解放』を使いながら気にするのは魔力の残量ぐらいで、扱いに慣れた今となっては発動し続けることも大して難しくはない。


 レウルスは再度『強化』を使うと、今度はその場で飛び跳ねたり、短距離を軽く走ってみたりした。そういった単純な動きならば『強化』を維持できるが、木を引き抜こうとした時のように意識が“他の何か”に取られると維持するのが難しくなってしまう。


 試しに『強化』を維持しながら先ほど引き抜こうとした木を再度引っ張ってみるが、いきなり全力で引っ張ろうとすると『強化』が解けてしまった。


「『強化』はどうじゃ? 使えるかの?」

「……これはしばらく練習しないと使い物にはならねえな。力が増してるから、少し慣れるだけでかなり役に立つとは思うんだが……」


 扱いに慣れさえすれば、わざわざ木を伐採せずともそのまま引き抜くことができそうだ。そうすれば伐採してから木の根を掘り起こす手間も省けるというものである。どの道地面を均す必要はあるが、少しは時間の短縮につながるだろう。

 『強化』に関しては使い続けて慣れていくしかない。魔力の流れが知覚できている今の内にある程度コツを掴んでおけば、魔力が減った後でも使うことができるだろう。


(『強化』の課題は慣れ、と……あとは……) 


 ひとまず『強化』の魔法に関して目途を立てたレウルスは、続いて別の魔法の実験へと移る。


 レウルスは魔力の“つながり”を意識すると、心中で声を発した。


『あー、テステス、マイク……はねえな。とりあえずテスト中……も通じねえか』

「っ!?」


 その声を向けた先は、エリザである。するとエリザはびくりと体を震わせ、周囲を見回してからレウルスを見た。


「な、なんじゃ!? レウルスの声が……なんじゃ!?」


 『思念通話』は聴覚を通したわけではなく、脳に直接響くような声になる。そのためエリザも驚きが大きかったらしく、焦ったような顔でレウルスを見た。


「『思念通話』だよ。魔力の流れがはっきりと感じ取れたから、もしかしたらって思って試してみたんだが……その様子だときちんと聞こえたみたいだな」

「う、うむ……サラはともかく、レウルスからは初めてじゃのう……」


 『契約』でつながっているからか、魔力の流れさえ理解できればあっさりと成功した。しかし、試しにミーアとネディに向かって『思念通話』を使って声をかけても何の反応も返ってこない。


(こっちは駄目、と……『契約』で魔力がつながっているからエリザとサラには成功するけど、ミーアとネディに『思念通話』を使うには単純に腕が足りないか?)


 すぐさま使えるようになるほど甘いわけではないらしい。それでも有事の際に声を出さずにエリザと話せるのなら、大きな力となるだろう。


(まだ今の状態になって半日も経ってないし、これからだな……)


 町の建設に支障が出ないよう注意しつつも、確認できることを確認していくべきだろう。


 レウルスはそう考え、まずは『強化』に慣れようと集中し始めるのだった。

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