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第369話:■■■■■■□□□□

久しぶりに前書きをお借りいたします。

本日(6/3)、拙作のコミカライズ版の3話目が掲載されます。

よろしければそちらもお読みいただければ幸いに思います。

「グリフォンの群れ……で、あるか?」

「ええ」


 町へと戻ったレウルスは、その足でコルラードのもとへ赴いて“事情”の説明を行う。するとコルラードは頭を抱え、近くにいたカルヴァンは表情を歪めた。


「グリフォンか……厄介な奴がいるじゃねえか。しかも二十匹近い数がいただぁ?」

「そうなんだよ。ミーアから聞いたけど、おっちゃんはグリフォンを知ってるんだよな? 特徴は何かあるか?」


 後ほど他の作業者にも周知徹底して注意を促すつもりだが、まずは情報をまとめなければならない。そう考えて尋ねるレウルスに対し、カルヴァンは腕組みをしながら唸った。


「特徴……特徴か。そうだな……たしか群れで生活するっていうのと、縄張りからはあまり出てこない……それと風魔法を使うぐらいか?」

「風魔法……」


 カルヴァンが語ったのは、グリフォンの習性と使える魔法に関してである。それを聞いたレウルスは小さく首を傾げた。


(中級中位から上位で、風魔法を使って、遠目に見た感じだと多分三メートルを超えている……風魔法版キマイラ? いや待て、キマイラは空を飛ばないよな……)


 キマイラよりも弱いのか、強いのか、あるいは同程度なのか。仮にキマイラよりも弱いと仮定しても、空を飛べる上に風魔法まで使えて、なおかつ群れで行動する中級の魔物というのは洒落にならない。


「ここに町を造ろうとした前任者が失敗してますし、コルラードさんはもしかして知ってました?」

「いや……さすがにグリフォンの群れが領内に生息していて、それが原因で町造りが失敗したとなると情報が残っているのである。それがないということは、“その後”に住み着いたのだとは思うが……」


 レウルスが水を向けると、コルラードは頭を抱えたままで答える。


「前任者が気付けなかっただけで、元々住み着いていた可能性はあると?」

「うむ……それを今この場で言っても仕方ないがな……中級の魔物が出るとは聞いていたが、さすがにそれほどの規模の群れは予想外である」


 コルラードとしても初耳だったのだろう。コルラードの右手が胃の辺りに移動していくのを見ながら、レウルスは声を潜めて尋ねる。


「……この機会だから聞いておきますけど、前任者が失敗したのってグリフォン以外の魔物が原因なんですよね? 他に強い魔物がいたりしません?」

(オルゾー)を割と見かける、という話は聞いていたのである。あとは稀にキマイラが出るとかで……」

「強いのがいるじゃないですか……」


 思わずレウルスがツッコミを入れると、コルラードは何故か眉を寄せながらレウルスを見た。


「そのキマイラを相手に“どこぞの馬車”を守りながら勝ったり、『首狩り』を仕留めた者がいるのだ……正直なところ、一匹や二匹ならば丁度良い餌……もとい、手頃な相手というか“誤差”だと思っていたのである」

「なんで今、餌って言ったんです? ねえ、何でですか?」

「それに、キマイラが出ようとドワーフが数人でかかればどうとでもなるであろう?」

「俺の目を見てから言ってくださいよ」


 最近扱いが酷い気がする、などとレウルスが考えていると、コルラードは深々とため息を吐いた。


「貴様の口振りから察するに、前任者が開拓に失敗したのは何か“裏”があって、それを吾輩や隊長が隠している……そう考えているのだな?」

「……まあ、言葉を飾らずにいうとそんな感じです」


 ここまで話した以上、隠しておく必要もない。そう思ってレウルスが肯定すると、コルラードの瞳に真剣な気配が宿った。


「――“そんなもの”はない」


 そして直截に、これ以上の誤解を招きようがない口調で断言する。


「グリフォンの群れは予想外だったが、前任者が失敗したのは単純に戦力が足りなかったからなのだ。簡単に前任者の“境遇”を我々に当てはめて例えてやるのである」


 良いか、と指を立てながらコルラードは言葉を続ける。


「隊長……アメンドーラ男爵から魔法の腕と政治力を取って、人脈を半減……四分の一ぐらいにしておくか。その上で吾輩、レウルス達、ドワーフ達……この三つを抜いて、護衛の戦力は上級どころか中級に届く者が僅かにいる程度の冒険者を五十名ほど」


 嘘か真か、淡々と前任者に関して話していくコルラード。レウルスには確かめようもないが、わざわざ騙す理由もないだろう。


「それら冒険者に近隣の領主から借りた兵士が多少加わるが……開拓のための作業者を守り切れると思うか? 当時はテンペルスが襲ってきたという話は聞かなかったが、それ以外は襲ってくる魔物が質も量も変わらんのだぞ?」

「……無理ですかね?」

「無理である。ここまで大規模な町にせず、もっと小さな……それこそ数百人が住めるぐらいの村ならばどうにかなったかもしれんが……そこまで条件を落としても完成させられる可能性は低かったであろうな」


 真剣に語るコルラードだが、どうやら本当に単純な戦力不足が原因で前任者の開拓が頓挫したらしい。 


「それでも下水道を造り、簡単ながらこうして“町”の形造りまで済ませたのだ……その苦労と熱意は並々ならぬものがあったであろう」

「そうなんですね……単純に戦力が足りなかったのか……」


 レウルス達の町造りは順調に進んでいるが、前任者はそうではなかった。その理由にレウルスは納得し――すぐさま疑問を覚える。


「あれ? 戦力が足りないのに町を造ろうとしたんですか? 当時はここまで魔物が多いってわかってなかったんですかね?」


 戦力が足りないのならば、もっと安全な場所で町なり村なりを造れば良かったはずだ。拝領した領地がモントラートだったとしても、もっと他の領地に近い場所に造ればここまでの危険はなかったはずである。


「他の領地に近い場所を開拓するというのも、それはそれで問題があるのだが……宮廷貴族の横槍が入ったという“噂”は聞いたことがあるのである」

「……なるほど、噂ですか」

「うむ、噂である。南部の貴族が力を持ち過ぎないよう、新たな領地の開拓を支援させるという名目で金を吐き出させようとした……そんな噂である」

「そんな噂が流れるなんて、王都は本当に怖いところですね……俺、もう二度と行きたくないですよ」


 どうやら仄暗い裏事情がありそうで、レウルスは真顔で話を打ち切った。


 前任者が開拓を失敗した直接的な原因が戦力不足だという点に変わりはない――が、そもそも王都の宮廷貴族は失敗することを前提としていた可能性が高いらしい。


(姐さんは大丈夫……って、“だからこそ”俺が王都でベルナルドさんと戦わされたのか……今度は戦力が揃っているから大丈夫ってアピールになるもんな)


 前回は失敗前提だとしても、今回は違う。それだけの条件を整えたからこそ、ナタリアも動いたのだろう。


「……話を逸らしてすいませんでした。グリフォンに関してはどうしますか?」


 これ以上は触れない方が良さそうだと判断したレウルスは、話を戻してグリフォンへの対応に関して問う。すると、コルラードは十秒ほど悩んでから口を開いた。


「とりあえず様子見である。縄張りから出ないというのなら、刺激さえしなければこちらに向かってくることもないであろう? 町造りを優先するのだ」

「駆除はしなくていいんですか?」


 グリフォンがいた岩山からは距離があり、カルヴァンの話を信じるならば縄張りから出てこないため、向こうから近づいてくる可能性は低いだろう。

 だが、空を飛べる魔物が相手だと油断はできない。レウルス達が地上を移動するよりも早く、それこそ十分とかけずに飛んでくるかもしれない。


「正直なところ、隊長がこちらに来て下さればどうとでもなると吾輩は思っているのだ。グリフォンも風魔法を使うようだが、隊長の相手にはならないであろうからな」


 そう答えるコルラードの声色には、揺らぐことのない信頼が込められていた。ナタリアならばグリフォンの十匹や二十匹、容易く蹴散らせると信じているらしい。


「一応確認しておくがレウルス……貴様達ならばグリフォンの群れだろうと勝てるのではないか?」

「それは実際に戦ってみないとわかりませんよ。群れで行動しないのなら一匹一匹“釣り出して”仕留めれば良いんでしょうけどね」


 それが可能だったならば、慌てる必要もないだろう。一匹ずつ仕留めて喰らい、群れを絶滅させれば済む。


「キマイラと同等の強さと仮定して、複数が同時に襲ってくると考えた場合……俺達で同時に相手をできるのは同数の五匹ぐらいですかね。手段さえ選ばなければ群れを全滅させることも可能だとは思いますが……」

「ちなみに、どんな手段があるのだ?」

「遠距離からサラに全力で魔法を撃たせます。そうすればグリフォンを群れごと焼き払えると思いますよ。仕留め損なった個体がいたとしても、そっちは俺が仕留めればいいですし」


 さすがにスライムの大部分を消し飛ばした時ほどの威力は出せないだろうが、サラが全力で火炎魔法を行使すれば一定以上の効果が見込めるだろう。


「……問題は?」

「相手の風魔法で相殺される……あとは上手くいったとしても魔法の余波で岩山が吹き飛んだり、周辺の森が燃え尽きたりする可能性があります」

「却下である……が、迎撃の手段はあるのだな?」


 重ねて尋ねてくるコルラードに、レウルスは頷きを返す。言葉にした通り、手段を選ばなければいくつか手段があるのだ。


 相手が飛んでいるのなら、エリザに雷魔法を撃ってもらうのも一つの手である。感電して落下死するかもしれない。ネディの力まで借りられれば負ける要素はほとんどないだろう。


「なるほど……では、やはり様子見をするのである。隊長も隊長で大変であろうし、グリフォンで“最後”とも限らん。グリフォンの群れを薙ぎ払ったら、更に強力な魔物が出てきて消耗した隊長では手に負えなかった……などということもあり得るのでな」


 コルラードは自身が下した判断に関して説明していく。


「テンペルスやグリフォンという情報にない魔物が住み着いていたのだ。レウルス達には面倒をかけるが、まずは情報収集を優先するのである」


 アメンドーラ男爵領の魔物に関して調査を進め、必要ならばナタリアに“出陣”を頼むらしい。もしもグリフォンが縄張りに拘らず動き回る性格だったのならば、このような判断は下せなかっただろう。


「しかし、そうなると武器をどうしたものか……弓で仕留めきれるか怪しいところではあるが、ないよりはあった方が良い、か……カルヴァン殿、ドワーフは弓の扱いに関してはどのようなものであるか?」

「作れはするが、弓はなぁ……ほれ、この通り背が低い上に腕が短いんでな。ただし、飛んでいる奴が相手なら弓よりも使えそうな武器があるぞ。レウルスが以前“土産”に持って来てくれたものなんだが……」


 そう話すカルヴァンに、レウルスは不思議そうに首を傾げた。カルヴァンが言っているのは、以前レウルスが持ち込んだクロスボウに関してだろう。


「でも、おっちゃんもアレは欠点があるって言ってただろ? グリフォンに通じるのか?」


 一定の威力は出せるが、それ以上となると難しい。つまり、通用しない相手にはとことん通用しないのが“飛び道具”なのだ。


「通じないのなら通じるようにすりゃいいだろうが。デカくするなり素材を変えるなりして、グリフォンだろうが撃ち落とせる威力にすりゃいい」

「……その素材は、どこから出てくるのであるか?」


 思わずジト目になるコルラードだが、カルヴァンはそれを気にした様子もなく答える。


「なに、鉄と木材がありゃどうとでもしてやる。レウルスが狩りまくった魔物の素材でいくらでも買い付けられるだろ? 町と作業者を守るためって考えりゃ高い買い物でもないと思うんだがねぇ」

「それなら俺達はこれまで通り、周辺の魔物を狩りながら領地の調査を行ってますね。あまり離れないようにしますし、グリフォン以外でも気になる魔物がいたらすぐに報告しますよ」


 カルヴァン達がクロスボウを作るために町造りの資材を使うというのなら、それを補填するためにも魔物を狩らなければならないだろう。町造りに必要な資材は色々とあるが、その全てに対して取引が成り立つぐらいには魔物の素材が取れている。


 魔物を仕留めれば町周辺の治安を高めると共に、資材の代金にもなる。更に言えばレウルスも肉が食えて一石三鳥だ。


「当分は森だけではなく、空にも注意して作業を行うよう作業者に徹底するのである」


 そんなコルラードの言葉を最後に、レウルス達は解散して各々の作業を再開するのだった。

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