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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
9章:アメンドーラ男爵領開拓記

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第364話:開拓開始 その2

 町の建設に取り掛かったコルラード達とは別に周辺の森の“掃除”に取り掛かったレウルス達だが、いきなり森の奥へと踏み込むような真似はしない。


 まずは町の建設予定地になっている平野の外縁部へと移動し、サラが魔物の熱源を感知した場合だけ森の中に踏み込み、魔物を仕留めたらすぐさま森から撤退する。

 これは建設作業に取り掛かっている作業者達を狙って魔物が接近した場合、即座に駆けつけられるよう備えてのことだ。


 日が暮れるまで残り数時間といったところで、それまでに最低でも夜を越せるだけの準備を整える必要がある。そのため作業を行っている者には割り振られた作業に集中してもらい、少しでも建設を進めてもらおうと考えたからだ。


「しかし、本当に魔物がたくさん生息してるな……」


 今しがた仕留めた角兎の死体を荷物の運搬係としてついてきてくれたドワーフに託しつつ、レウルスは呟く。


 レウルスが魔力を感じ取れる距離は相手の魔力の強さに影響されるため、索敵範囲はそれほど広くない。それでも視界が悪い森の中にも関わらず数十メートル離れていても相手の位置に気付くことができるが、サラはそんなレウルスよりも更に広範囲に渡って索敵を可能としている。


「うーん……あちこちに熱源が……距離も遠かったり近かったり……」

「一番近いのは?」

「三百メルトぐらい先?」

「……さすがにそこまで踏み込むのはやめておくか」


 直線距離で三百メートルというと大したことがないように思えるが、鬱蒼と生い茂る草木によって視界が遮られている森の中である。サラだけを連れて突撃するという手もあるが、実行すると他の場所から現れた魔物を見逃す危険性もあった。


 そのため極力平野から離れることがなく、仕留めたらすぐさま戻ってこられる距離にいる魔物ばかりを狙う形になってしまう。それも、平野が広いため外縁部をなぞるように移動しながらだ。


「サラよ、ちなみにじゃが数はどれぐらいいるんじゃ?」

「えーっと……五……十……うーん……うじゃうじゃ?」

「うじゃうじゃって……」

「うじゃうじゃ……うじゃうじゃ」


 エリザの疑問にサラが答え、ミーアが引きつったような苦笑を零す。ネディは『うじゃうじゃ』という言葉が気に入ったのか、何故か二回繰り返していた。


「あの犬の魔物みたいに、集団で移動するやつらもいるしな……そういう群れで移動しているやつらはいるか?」

「んー……あ、これかな? 固まってるから具体的な数はわからないけど、五から十ぐらいの熱源が二つ……三つ?」

「……さすがに現状で森に飛び込むのは下策か」


 上級の魔物ほど厄介ではないだろうが、数の暴力というものは侮れない。負けるとも思わないが、それらの対処に時間を取られている内に平野の作業者が襲われる可能性もある。


(まずは空堀と土壁ができないと周辺の徹底的な掃除は難しそうだな……でも、魔物が相手だと空堀と土壁を飛び越えて入ってきそうだし……)


 一ヵ所に留まって作業を行っている者達を守るのは、ラヴァル廃棄街でも行ってきたことだ。農作業者の護衛は冒険者にとって定番の仕事で、レウルスとしてもある程度は慣れている。

 だが、アメンドーラ男爵領は到着したばかりのため、ラヴァル廃棄街周辺のように魔物が寄り付かないほどにレウルス達の“縄張り”と化しているわけではない。


(エリザがいても下級の魔物が少しは寄ってくるしな……これはアレか? 逃げた先に他の魔物がいるから、逃げるに逃げられない状態なのか?)


 エリザを連れていれば下級の魔物が逃げ出すと思っていたレウルスだが、逃げるよりも向かってくる数の方が多かった。

 レウルス達に向かって襲い掛かるか、他の魔物の縄張りに逃げ込むか。その二択なのだとしたら、下級の魔物が寄ってくる理由もわかる。ただし、至近距離まで近づいてエリザに気が付いたら回れ右をして逃げ出そうとする点は変わらない。


(魔物が多いと素材も取れるし肉も多いしで俺としては嬉しいんだが……ここまで多いのも考え物だなぁ)


 先ほど仕留めたシトナムの殻を割り、アロエに似た色の肉を生で齧りながらレウルスは心中でぼやく。苦みがあるが、焼くよりも生で食べた方が好みなのだ。


 もちろん、そうして“おやつ”を食べている間も警戒は欠かさない。『龍斬』片手にシトナムの肉を齧り、時折外殻も一緒にバリバリと噛み砕きながら、レウルスは森の奥を注視する。


(今のところ脅威になりそうな魔物はいないけど……これからの作業を考えると、エリザは“町”で皆を守ってもらう方がいいか? ミーアとネディも護衛に残して、俺はサラとドワーフから何人か連れて森に突っ込むとか……)


 その辺りはコルラードと相談して決めた方が良いだろう。そんなことを考えつつ、レウルスはシトナムを丸々一匹分食べ終える。


「ねえ? なんで焼かないの? ねえ、なんで?」

「生で食べた方が美味いからだよ」


 そんなレウルスを見たサラが不満そうに服の裾を引っ張るが、さすがにこの状況で魔物を焼いて食べるわけにもいかない。そもそも、何故食べているのかという疑問が先に出そうだが、レウルスとしては腹が減ったため食べただけである。


 そうやって平野の外縁部に沿って移動していくレウルス達。太陽は徐々に傾き、空の色を青から茜色へと変えつつある。

 その間に仕留めた魔物は十匹ほどになるが、最近のラヴァル廃棄街周辺での魔物との遭遇頻度を思えば異常なほどだ。仮に森の奥深くまで飛び込んでいたならば、その数は数倍になっていたかもしれない。 


「……ん?」


 そうして歩き回っていたレウルスだが、ふと足を止める。そして目を細めて森の中を見るが、夕暮れが迫りつつある時間となると森の中は一足先に暗くなりつつあった。


「どうしたんじゃ?」

「魔力を感じたような……いや、気のせい……か?」


 その時レウルスが感じ取ったのは、気のせいとも思えるような僅かな魔力である。しかしいくら森の中が暗くなりつつあるといっても、いきなり視界全てが闇で見通せなくなるわけではない。


「サラ、近くに魔物の熱源はあるか?」


 それでも一応の警戒を込めてサラに尋ねたレウルスだったが、サラは森の中に視線を向けながら首を傾げた。


「んー……んん? 遠くにはいくつも存在するけど、近くにはない……ような?」

「二人して曖昧な……どうしたというんじゃ?」


 レウルスとサラの言葉を聞き、訝しげにしながらも愛用の杖を構えるエリザ。ミーアも鎚を構え、ネディも森の中へと視線を向ける。

 だが、そのまま数分経っても森に大きな変化はない。変化があるとすれば、日暮れが迫ったことで暗さが増したぐらいだろう。


(気のせい……なんて油断するのはなしだな。サラが近くから熱を感知してないってことは、遠くから魔力が届いたのか? そうだとすると、かなり強い魔力ってことになりそうだが……)


 あるいは、かつて遭遇した巨大ミミズのコリボーや『城崩し』のように土中に潜んでいるのか。


「…………」


 レウルスはその場で地面に耳をつけ、音を探る。すると、その意図を察したミーアも地面に耳をつけた。


「わりとあちこちの音が聞こえる……けど、土の中には何もいない……か?」


 かつてコルラードが実践してみせたように、具体的な距離や数、移動速度などまで推測することはできない。それでも土の中に何かが潜んでいるようには思えなかった。


「うん、と……ボクもそう思う。少なくとも土の中を移動しているような音はしないよ」


 自信がなさそうに呟くレウルスとは対照的に、ミーアは確信を込めて断言する。それは自身も土中に家を造って住むドワーフだからこその発言なのだろう。


 そんなミーアの言葉を全面的に信用したレウルス達は、もうじき日が暮れるということもあって平野へと撤退するのだった。








 作業に着手して三時間程度しか経っていないが、平野に戻ったレウルス達が見たのは正方形に掘られた空堀とその内側に造られた土壁だった。


 将来的にナタリアの居住地になると言われた場所に、一辺五十メートルほどの空堀と土壁が出現していたのだ。


「……以前俺達の家を改造した時もそうだったけど、仕事が早すぎないか?」


 空堀といっても幅は二メートル、深さは一メートルほどである。そして掘った際に出た土を空堀のすぐ傍に積み、押し固めて即席の土壁へと仕立て上げていた。


 それは傍目にも突貫作業とわかる荒さで、空堀の“壁”は少し強く触れるだけで崩れそうである。土壁も土の量の割に一メートル程度と低く――それらを差し引いてもその速度は異常と言えるだろう。


「地面を掘って軽く固めて、そのついでに掘った土で壁を造っただけだぞ? それに俺達ドワーフが三十人以上で作業をしてるんだ。時間があればもっと手を加えられるんだが、それは明日以降に回すぜ」


 『強化』が使えるドワーフを三十人以上動員すればそうなるか、と納得するレウルス。たしかにまだまだ手を加える必要があるだろうが、即席の空堀として上等だろう。


 一メートル近く掘り下げてあるため、堀に落ちれば土壁と合わせて二メートルもの“壁”が立ちはだかるのだ。身体能力の高い魔物ならば空堀と土壁をまとめて跳び越えることもできそうだが、そうなると今度は着地音が響くだろう。上手い具合に土壁に着地したとしても、その衝撃で土壁が崩壊して音を立てそうである。


「いやいやいや……僅かな時間でこれほどの作業ができるのなら大したものである。隊長の五年という目算も、あながち嘘ではなかったのであるな……」


 言葉の前半はドワーフ達へのツッコミとして、後半はコルラード自身にしか聞こえないような呟きとなる。


 土壁の内側に入ってみると、この場所まで食料等を運んでいた荷車が整然と並べられており、土壁からなるべく離れるようにして天幕が張られている。二つほど離れた場所に天幕があるが、おそらくはトイレなのだろう。


(こうして見ると、街道にある『駅』みたいな感じだな……向こうは空堀も小さいし、土壁じゃなくて木の柵だけど)


 天幕の近くでは石を積んで作った竈や焚き火も存在しており、暗くなりつつある周囲を明るく照らしている。また、夜間の警戒のためか四方には篝火も置かれていた。


 そんな『駅』もどきに入るため、一ヵ所だけ空堀を造らずにそのままになっている場所もあるが、さすがに短時間で跳ね橋などを造るのは無理だったようだ。それでも即席の防衛設備と考えれば破格だろう。


 さすがに夜間は作業ができず、これまでの旅の疲れもあるため、作業者の多くは食事を取ったらすぐに休むことになる。だが、何もない平地で休むよりは安心して休めるだろう。


 レウルスはエリザ達を休ませ、カルヴァンなどのドワーフの中でも体力が有り余っている者と不寝番を務める。また、旅慣れていて体も鍛えられているコルラードも不寝番を買って出ていた。

 不寝番は十五人ほどで、それぞれ天幕を囲むように位置取りする。月の光はそれほど強くないが、篝火や焚き火もあるため土壁を登ってくるような存在がいればすぐに気付けるだろう。


 レウルスはコルラードと共に、空堀を設けていない唯一平野とつながっている“入口”に陣取る。すると、暇潰しなのかコルラードが口を開いた。


「レウルスよ……貴様、魔物を狩るのは良いがどうするつもりであるか? ネディ様に頼んで凍らせてはいるが、さすがに量が量だぞ?」

「え? そりゃ革や牙みたいな素材は取っておいて、肉は食べますよ。さすがに夜中に肉を焼くと寄ってきた魔物の対処が面倒そうなんでやりませんけど、全部食べます」

「全部……であるか?」

「はい、全部です」


 食べられるだけ食べて満足感を得るという意味でも、魔力の補充という意味でも、仕留めた魔物を食べないという選択肢は存在しない。


(でもなぁ……満足感はあっても“満腹感”はなぁ……)


 食べようと思えばいくらでも食べられるが、満腹になったことはない。それを思い、レウルスはため息を吐き。


「――――」


 ほぼ無意識の内に、腰に差していた『首狩り』の剣を抜いていた。それもただ抜くだけではなく、居合抜きのように剣を抜いた瞬間魔力の刃を放つ。


 そうやってレウルスが魔力の刃を放った先は、篝火から少しばかり離れた場所だった。明かりが届くか届かないか、その境界線とも言える場所である。


 放った魔力の刃は土壁の上をギリギリ掠めるようにして飛来し――僅かな間を置いて重たい物が地面に落下する音が響く。


「……今のは?」

「わかりません。さっき森で薄っすらと魔力を感じたんで、多分ソイツだと思うんですが……」


 そう言いつつ、レウルスは近くに用意していた松明に火を移して音がした方へと向かう。不意打ち気味に『首狩り』の剣を使ったが、今度は何があっても良いようにと『龍斬』を抜く。


「なんだこりゃ……」


 そして、松明を掲げて今しがた斬った魔物の姿を確認したレウルスは思わず眉を潜めてしまう。


 土壁の外――空堀に落下した形で姿を見せたのは、黒い蛇だった。


 どうやら密かに忍び寄っていたらしいが、レウルスが放った魔力の刃によって頭部を真っ二つにされたらしい。空堀に落下した体が僅かに動いているが、生きているわけでもないだろう。


 そんな黒い蛇だが、レウルスが初めて見るほどに大きかった。

 全長は十メートルを超えており、胴体の太さは一メートルほどある。斬り飛ばした頭が空堀に転がっていたが、レウルスが一抱えするほどに大きかった。


 魔力はほとんど感じられず、ほぼ直感に従って魔力の刃を放ったレウルスだったが、思わぬ大物についつい頭を掻いてしまう。


「本当に油断できねえな、オイ……」


 魔力や体温を隠していたのか、至近距離まで接近してきた蛇の魔物の姿にレウルスはため息を吐くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり変温動物は熱源探知外か。シトナムハどうだったのかな
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