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第363話:開拓開始 その1

 アメンドーラ男爵領に足を踏み入れ、荒れ具合が目立つ街道に沿って進むこと一日あまり。


 “目的地”に向かって進んでいたレウルスは、前日から数えて何度目になるかもわからない魔力の気配を感じ取っていた。


「話には聞いちゃいたが、本当に魔物が多いんだな……」


 地図を見ていたコルラード曰く、あと一時間も歩けば町の建設予定地に到着するらしい。だが、鬱蒼と生い茂る森の中からカルネと呼ばれる犬型の魔物が群れで迫ってきているのを目視し、『龍斬』を構えた。


 ここ最近のラヴァル廃棄街周辺ではあり得ないような、魔物との連続遭遇。それによって移動速度が落ちているレウルス達だが、幸いなことに怪我人などは存在しない。


 今回現れたカルネ――魔犬も、一匹一匹の強さは下級中位ほどだ。しかし群れの中に強い個体がいるのか、十匹ほどの魔犬が統率された動きで森から飛び出してくる。


(うーん……エリザにはサラと一緒に列の中央付近にいてもらった方が良いか? でも、いつもならこれぐらいの距離では近寄ってこないはずなんだけどなぁ……)


 場所が変われば魔物の“無鉄砲さ”も変わるのだろうか、それとも逃げた先が別の魔物の縄張りになっていて逃げることができないのか、などと考えながら駆け出すと、魔犬が涎を撒き散らしながら飛び掛かってくる。


 飛び掛かってきたのは三匹ほどで、他の七匹はレウルスを取り囲むように移動したり、コルラード達を牽制するように唸り声を上げたりと様々な行動を取っていた。


「ふっ!」


 レウルスは軽く呼気を吐きながら『龍斬』を一閃し、飛び掛かってきた魔犬の内二匹をそのまま“開き”にする。それでも構わず飛び掛かってくる残った魔犬一匹は剣の柄から手を放して首を掴み、地面を陥没させる勢いで思い切り叩き付けた。


 冒険者に成り立ての頃は苦戦した相手だが、今ならば『熱量解放』を使わずとも対処ができる。それを示すようにレウルスは暴れ、三分とかけずに魔犬の群れを仕留めきった。


「熊に犬に鳥に兎に虫……当分は肉に困らないな」

「待つのである。前の四つはともかく……虫?」


 ドワーフ達の手を借り、これまでの旅で積んでいた食料がなくなった荷車へと積み込んでいく。その際にホクホク顔でレウルスが呟くと、コルラードが頬を引きつらせながら尋ねてきた。


 その問いかけを受けたレウルスの視線の先にあったのは、シトナムと呼ばれるカマキリの魔物だ。これから現地での作業用の鎌として使えるだけでなく、その肉も生で食べられる優れものである。


「というかよぉ……こんなに魔物が寄ってくるのって血の臭いが原因じゃねえのか?」


 肉が腐らないようネディが魔法で凍らせているが、鼻を鳴らした一人のドワーフがぽつりと呟いた。


 さすがに街道傍に大量の血液を放置するわけにもいかず、血抜きをせずにそのままネディが凍らせているが、血の臭いがしないかと言えば嘘になる。


「いやぁ……血の臭いで寄ってくるのならもっと大量に、一気に襲ってくるだろ……だから違うって、うん」


 レウルスは大量の魔物の死体が乗せられた荷車を庇うようにさりげなく立ち位置を変えつつ、そんなことを言う。


 一々足を止めて血抜きをしたり皮を剥いだりする暇がないため凍らせているが、捨てろと言われれば全力で拒否する構えだった。仮にそうなった場合、この場で片っ端から齧っていくつもりである。


「……まあ、魔物を狩れば狩るほど領内の安全につながる……はず……である……もうじき目的地に着くから、それまでは我慢であるな……」


 コルラードは諦めたように頷き、移動を再開する。


 街道に沿って南に進んでいくと、途中で右折――地図で見ると西へと進む道があったためそちらへと進んでいく。


 そうして一時間ほど進むと、森が開けて見晴らしの良い平野へと出た。平野のところどころに木が生えているが、平野の外縁部は明らかに人の手が入った形跡があり、切り株などが散見される。


 目を凝らして遠くを見てみると、平野のところどころに朽ち果てた建造物がいくつか存在していた。また、堀や壁を造ろうとしたのか地面が真っすぐ抉れていたり、そのすぐ傍で積まれた土が盛り上がっている場所もある。


「ここですか?」

「うむ……前任者の“失敗の痕”も残っているし、地図上でも間違いないのである」


 コルラードに肯定され、レウルスは改めて平野へと視線を向けた。


 元々辺り一帯が平野だったのか、町を造るのに十分な広さがある。ところどころに林と呼ぶべき規模で木が生えている場所もあるが、それらを伐採すれば一キロメートル四方程度は平地が確保できそうだ。

 ラヴァル廃棄街と比べるとやや狭いが、町がある程度形になったら周囲の木々を切り拓いて拡張しても良いだろう。


「予想よりも木々が多いが……少し移動すれば畑にできそうな平野もいくつか存在するし、十分も歩けばそれなりに幅がある川も存在するのである。以前の計画ではその川の上流から水を引こうと考えていたようであるが……」

「魔物が多くて頓挫した、と……井戸は掘れそうですかね?」

「以前試掘した際、地下に水脈があったらしい。そのため“下水道”を掘って近くの川の下流につなげる際に苦労をしたと聞いているのである」


(下水道は先に用意してあったのか……いや、その辺りの手間を省くために姐さんもこの土地を選んだのか?)


 ラヴァル廃棄街でも整備されているが、下水道に関しては既に掘り抜いてあるらしい。先に建物などを優先しなかったのは、下水道の位置などを決めなければその後の建築で苦労するからだろう。

 もっとも、途中で頓挫しているため苦労も何もない。レウルス達が再利用できることを感謝するぐらいだ。


「それで? まずはどういう形で作業を進めるんですか?」


 既に太陽が中天を過ぎており、日中に作業できる時間も限られている。そのためレウルスが疑問をぶつけると、コルラードは平野の中心付近を指さした。


「まずは作業用の拠点を造るのである。将来的に隊長……いや、領主であるアメンドーラ男爵が住む場所になるが、まずは町の中央に五十メルトほどで正方形に堀と壁を設け、その内側に簡易で良いから建物を造るのである」


 そう言いつつ、コルラードは荷物から一枚の地図を引っ張り出す。そしてその場で広げてみると、そこにはナタリアが設計した町の概略が描かれていた。


「地面を掘って空堀にして、出てきた土を固めて土壁にするってことか……並行して地面を突き固めるとしても、この人数なら五十メルトぐらいならすぐに終わるな」

「建物を造るって言っても資材がなけりゃどうしようもねえぞ? 地面に穴を掘って家にするか?」

「壁を土で造るとしても、さすがに屋根はな……」


 ドワーフ達も概略図を覗き込み、口々に疑問や懸念を口にする。中には荷車からスコップを取り出す者もおり、すぐにでも作業に取り掛かれそうだった。


「資材に関しては近隣の領主の“協力”によって手に入るのである。まずは野営の際に使っていた天幕を張り、資材が届き次第きちんとした家を建てるのだ」

「あちこちにボロボロになった家屋がありますけど、あれはどうします?」


 どれほどの時間が経っているのかわからないが、平地のあちらこちらに倒壊した家屋が存在している。

 魔物が暴れて壊れたのか自壊したのかも不明だが、建材を再利用するのは難しいだろう。使えるものがあるとすれば、一部の家屋に使用されている石材ぐらいか。


「ある程度形が残っている木材に関しては、当面の薪代わりにでも使うのである。それらの回収と天幕の設営をラヴァル廃棄街の住民達に、空堀と土壁造りはドワーフ達に任せるとしよう」

「俺達やコルラードさん、それとコルラードさんの部下はどうするんです?」


 ひとまずこの場に残されている資材を回収しつつ、並行して作業も進めていくつもりらしい。だが、名前を呼ばれなかったレウルスが疑問をぶつけると、コルラードはその視線を周囲の森に向ける。


「吾輩は全体の指揮を執るのである。部下達は荷車を退いてきた馬を使い、吾輩達がこの場に到着したことを周辺の領主へと伝えに行かせたいのだが……」


 そう言いながら、コルラードは懸念を示すように眉を寄せた。


「予想よりも魔物が多いのでな……部下だけで向かわせるのは不安が大きいのである。ここまでの道中で会った兵士達に伝言を頼んではいるが、資材を運搬してくる者達も危険そうでな……」

「本当に魔物が多いですからね……俺達が森に突っ込んで少しでも魔物を減らしてきましょうか? そうすれば街道も少しは安全になりそうですけど……コルラードさんの部下の人達には、俺達が仕留めた魔物を運んでもらうとか」


 この場所に辿り着くまでレウルス達が遭遇した魔物は、本当に多かった。


 下級の魔物だけでも角兎が十五匹に巨大カマキリが八匹、魔犬が十八匹にトロネスと呼ばれる紫色の怪鳥が七匹である。

 そこに中級下位の魔物である化け熊が三匹と合計で五十匹を超える魔物に襲われたのだ。幸いそこまで強い魔物はいなかったが、怪鳥や化け熊などは属性魔法を使ってくるため油断ができない。


 それらの悉くを仕留めたわけだが、町の建設予定地周辺の森にはまだまだ魔物が潜んでいそうである。森の深くまで足を踏み入れれば、レウルスがこれまで見たことがない魔物とも遭遇しそうだ。


「ううむ……今日のところは周辺の森の“掃除”を頼むのである。吾輩の部下達は作業者の護衛に当て、その代わりにドワーフから数名荷運び役を出すとしよう」

「俺としてはどちらでも助かりますけど……ドワーフから引き抜いて大丈夫ですか?」


 建築や土木作業となると、ドワーフに勝る者はいないだろう。それはコルラードも理解しているはずだが、ドワーフから人員を出した方が良いと判断したようだ。


「正直なところ、吾輩の部下達を森の中で行動させるのは不安があるのだ。不意打ちされたら死にかねんからな……」

「……そういうことなら、ドワーフを何人か借りていきますね」


 並の冒険者と比べるとコルラードが連れてきた兵士達の方が強いが、森の中での戦闘となると不安が大きいらしい。レウルス達が仕留めた魔物を運ぶだけだとしても、自衛できるだけの腕は持っていた方が良いだろう。


 そうやって作業の割り振りを決めたレウルス達は、ここまで運んできた荷車や荷物を町の中心部――将来的にナタリアの住居となる場所へとまとめて置き、それぞれ作業に取り掛かるのだった。

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