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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
9章:アメンドーラ男爵領開拓記

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第362話:いざ領地へ

 ナタリアが拝領した領地であるモントラートは、ラヴァル廃棄街から四日ほど街道を進んだ先にある。西に三日、南に一日と、旅に慣れたレウルス達からすれば散歩気分で向かえる距離だ。

 人目を避けて街道を通らず、最短距離で真っすぐ進んでいけばその半分程度もかからないだろう。だが、今回の移動に関してはその手は使えない。


 レウルスやエリザ、サラやミーア、ネディといった少人数での旅ならばともかく、レウルスがこれまで経験したことがないような大人数での移動になるからだ。


 人数の内訳は、ラヴァル廃棄街で募った作業者がおよそ五十人になる。冬の時期の作業ということで体が丈夫で健康的な若い男――それも冒険者や職人、農作業者を問わず集めた。


 それに加えて元々ラヴァル廃棄街に移住していたカルヴァン達を含め、ドワーフが四十人。町造りの中心はドワーフ達の働きにかかっているといえるだろう。


 そしてレウルス達五人に、全体の指揮を執るコルラード。更にはコルラードが元々連れていた部下達が十人ほど同行する。


 コルラードの部下達は兵士であり、ラヴァル廃棄街の大抵の冒険者よりも腕が立つ。そのため現地で作業を行う際の護衛として同行する面もあるが、コルラードは部下の中から馬の扱いに慣れている者を選抜し、今回の旅に加えていた。

 移動中の旅具や食料、現地で開拓作業を行うための道具などを積んだ荷車を馬に曳かせるための御者として、そして現地に到着した後にラヴァル廃棄街や近隣の領地と時間をかけずに連絡を取り合うべく、“連絡係”として馬を走らせることがあるためだ。


 なお、作業を行うための道具はともかく、家を建てるための資材などは用意していない。運ぶだけで大きな労力が必要となるため、現地で手に入れられるようナタリアが手を回しているとのことだった。


 これらの人員によって総勢で百名を超える大所帯となる。だが、荷車を曳いているためレウルス達のように森の中をショートカットするわけにもいかない。また、さすがに大人数過ぎるため街道以外を通ると近隣の領主からも他所からの侵攻かと警戒されてしまうのだ。


 事前にナタリアから話を通してはいるが、百人を超える人員――それも兵士や冒険者、ドワーフで七割以上を占めているため、警戒しないというのは無理な話である。小さい村程度ならばレウルス達抜きでも真正面から攻め滅ぼせるほどの戦力なのだ。

 それらの理由から街道を通らなければ色々と危険なため、レウルス達は大人しく街道を通ってモントラートまで進むつもりだった。


「どこからこれだけのドワーフを……いや、吾輩は何も聞かないのである。聞くと危険な気がするから、絶対に聞かないのである」


 ラヴァル廃棄街の西門傍で人員の確認を行ったコルラードは、ドワーフ達からそっと目を逸らしながらそう呟く。


「これからもお世話になりますし、姐さんの部下ってことはコルラードさんも身内みたいなもんでしょう? 知りたいなら教えますよ?」


 そんなコルラードに対し、レウルスは善意100パーセントで申し出る。コルラードが知りたいと言うのなら、教えても良いと思ったのだ。


「やめるのである! 我輩は絶対に聞かん! 聞かんぞ!」


 しかし、コルラードは何か察知したのか全力で拒否する構えを見せた。そのためレウルスが素直に引き下がると、ドワーフの集落から連れてきたドワーフ達から疑問の声が飛ぶ。


「おいレウルス、なんだコイツは」

「さっき自己紹介してただろ? コルラードさんだよ」

「そういう意味じゃねえよ! お前が“頭”じゃねえのかって話だ!」


 ドワーフ達のそんな声に、ラヴァル廃棄街から参加した冒険者達からも頷きが返ってきた。


「たしかにな……ナタリアの姐さんからも言い含められちゃいるが、余所者が頭ってのはどうにも落ち着かねえ」

「カルヴァンの旦那含め、ドワーフの旦那方にゃ色々世話になっているから文句はねえがなぁ……」


 元々面識があり、一時期はラヴァル廃棄街に出入りしていたドワーフ達に関しては、冒険者達も文句がないようだ。現在進行形で世話になっている町の職人達などは、ドワーフ達に対して敬意すら抱いているほどである。


 そんなドワーフ達は良いが、コルラードに関しては反応が渋い。ナタリアからも指示に従うよう言われているものの、“余所者”に従うのは心情的に拒否感があるのだ。


「そう言われてもなぁ……正直なところ、魔物や野盗相手に先陣切って突っ込むのならまだしも、町造りに関して俺が音頭を取ったら悲惨なことになると思うぞ?」


 現地でどのように町を造るかに関しては、コルラードがナタリアから“設計図”を預かってきている。そしてそれを実際に形にするべく指揮を執るのがコルラードで、レウルスは自分が代行できるとは到底思えなかった。


「コルラードさんは元々姐さんの部下として働いていたし、今回はこっちが世話になる立場だ。それにほら、俺に剣術を教えてくれるぐらい腕が立つし、気も利くし、色んなことを知ってる。コルラードさんが指揮を執ることに俺は微塵も反対しないぞ?」


 町の仲間が訴える不満を、レウルスは苦笑混じりに宥めていく。それと同時に、こういった不満が出るのも仕方がないと思えた。


 レウルスの場合はコルラードと頻繁に接する機会があったため、町造りに関して指揮を執ることに不満など全くない。ナタリアがコルラードに任せているというのもそうだが、コルラードの“優秀さ”を実際に目の当たりにしてきたからだ。


「みんなの気持ちもわかるけど、まずは実際にコルラードさんが働くところを見てから判断してくれよ。何か不満があるのなら、そこで改めて指摘すれば良いさ……ま、俺はそういった不満は出てこないと思ってるけどな」


 コルラードならば余所者だからと抱く反発も、それに伴う不満も、自らの働きで覆してくれるとレウルスは思っている。それ故に断言すると、冒険者達もドワーフ達も渋々といった様子ではあるが引き下がった。

 レウルスがそこまで言うのならば、まずは様子を見よう。そう判断してのことである。


 だが、当のコルラードは頬を引きつらせながらレウルスに噛みついた。


「レウルス貴様、以前も指摘したがそれはわざとであるか? 吾輩への期待を引き上げて何をしたいのだ? 吾輩、貴様のように“ぶっ飛んだ存在”ではないのだぞ?」

「……? 事実を並べているだけじゃないですか」

「悪意がなさそうなのが逆に性質が悪いであるなっ!?」


 きょとんとした顔で首を傾げるレウルスに、コルラードは胃を押さえながら叫んだ。


 そんな風に騒がしく出発準備を終え、レウルス達はモントラートへと旅立つのだった。








 モントラートへの旅は順調に進んでいく。


 百人を超える大所帯のため街道を進む際に少しばかり列が長くなるが、先頭をレウルスとコルラードが歩き、列の中心に索敵要員としてサラが、列の後方にはエリザとミーア、ネディがついている。


 馬に曳かせた荷車のガタガタという音を聞きながら進んでいくが、魔物や野盗が襲ってくることもない。

 サラが何度か熱源を探知したものの、魔物らしき熱源は逃げ、集団の野盗らしき熱源もある程度近づいてきたと思ったら全速力で離脱していったのだ。


 魔物は下級だったのだろうが、野盗の逃げっぷりは凄まじかった。一度移動を止め、血気盛んなドワーフを二十人ほど連れてレウルスが殴り込もうと準備していると、波が引くようにして熱源が離れていったのである。


 追撃しても良かったが、レウルス達としても余計な時間は取られたくない。そう思ってそのまま進むが、街道では魔物や野盗以外でも巡回する兵士の一団と遭遇した。


 だが、こちらはコルラードが名乗り、通行している理由を告げるとあっさりと解放された。事前にナタリアから話が通っていたため、兵士達も荷車を軽く確認しただけで納得したのだ。

 それどころか、護衛として同行した方が良いか、などと言い出す者もいたほどである。


 それは何か思惑があったのか、それとも純粋な厚意だったのか。コルラードは言葉巧みに断ると、その気持ちに感謝する旨を伝え、なおかついくつかの伝言を託して兵士達と別れた。


 中にはコルラードと顔見知りの者がいたのか、コルラードが準男爵になったことを喜び、肩や背中や横腹を小突いて笑顔で去っていく兵士もいたほどである。


 日中は平穏で、夜間も冬の寒さが多少堪える程度で平和だった。夜襲があるかもしれないと警戒したレウルス達だったが、さすがにそのほとんどが武装した百人を超える集団を襲いたいと考える野盗はいなかったようだ。


 そのため足止めされるようなこともなく、予定通りレウルス達は街道を進んでいく。まずはラヴァル廃棄街から西に三日進み、途中で左折して南に向かうための街道があったためそちらへと進路を変える。


 そこから一日ほど南に下れば目的地であるモントラート――アメンドーラ男爵領の最北端へと着くのだが、街道を進んでいる内にレウルスはふと気付いたことがあった。


 これまで通ってきた街道は大きな凸凹もなく、人の往来によってしっかりと踏み固められていた。だが、徐々に足の裏に伝わる感触が柔らかくなってきているのだ。

 一応、街道だとわかる程度には地面が均されている。馬車が一台通れるほどの幅しかないが、草が生えているようなこともなかった。


 しかし、それも進んでいく内に状況が変わっていく。道の端から侵食するように草が生え始め、場所によっては生えた草によって街道が“消されている”のだ。


「本格的に足場が悪くなってきましたね……この辺りってまだ他所の領主さんが治めている場所じゃないんですか?」


 街道の手入れが行き届いていないことに疑問を覚えたレウルスは、隣を進むコルラードへと話を振りながら地面や周囲を観察する。


 街道の荒れ具合も気になるが、街道から少し離れるとそこは木々が生い茂る森になっていた。

 木々が繁殖して街道に迫ってきたのか、それとも森の中を切り拓いて街道を造ったのか、幅が三メートルほどの街道とは別に、草地が左右に十メートルほど存在する。しかし、そこから先は森になっているため視界もあまり良くなかった。


「ここを通るのは国境に向かう国軍ぐらいで、利用する者がほとんどいないのである。だが、“これから”はそうではあるまい」


 小さく笑みを浮かべながら、コルラードは地面の草を蹴り飛ばす。


「町ができれば……いや、造ろうとした時点で放っておいても商人が訪れる。人や物が通るようになれば、道も自然とできるのである。それに、今は荒れているがある程度は“基礎”ができているようだからな……軽く手入れをするだけでも街道として十分に使えるのである」

「なるほど……」

「まずは町をどうにか形にすることから始めなければなるまいが……いくら利益に鼻が利く商人でも、危険な場所は通りにくいのである。領内の治安の向上もどうにかしなければならんが……」


 そう言いつつ、コルラードはチラリとレウルスを見た。そしてすぐさま正面を向き、首を横に振る。


「まあ、それは吾輩が気にせずとも勝手に落ち着きそうであるな」

「姐さんからも“食べ放題”だって言われてますからね。町造りについてももちろん協力しますけど、まずは安全の確保を――」


 レウルスがそこまで言った瞬間、隊列の中央付近を歩くサラから『思念通話』が届く。


『レウルスレウルス、進行方向から何か近づいてきてる。数は二つで、けっこう速い?』

『エリザは列の後ろにいるし、下級の魔物って可能性もあるんだよな……っと、こっちでも魔力を感じ取った』


 レウルスはコルラードに合図を出し、列を止めさせて前に出る。もう少しでモントラートに入るというところまで進んでいるが、それを邪魔するように魔力が近づいてきていた。


 魔力の強さはそれほどでもない――が、下級の魔物とは思えないぐらいには大きい。


(中級の魔物か? こんな大所帯の集団を狙うってことは、それほど強いのか、判断ができないぐらい頭が悪いのか……)


 あるいは、冬のため食料が少なくて腹を空かせているのか。そんなことを考えながらレウルスは『龍斬』の柄を握り、剣帯から鞘ごと引き抜く。


 何はともあれ、これからナタリアの領地に足を踏み入れるのだ。襲ってくるのならば、排除するべきだろう。


 どんな魔物が出てきても良いよう、レウルスは適度に体を緊張させながら『龍斬』を肩に担ぐ。魔力が大きくなくとも、腕が立つ魔物も存在するため油断などできるはずもない。


 そうして身構えるレウルスの視界に、サラが報告してきた通り二匹の魔物が映った。番なのか二匹とも同種で、それは四本の腕を生やした、三メートル近い熊の魔物であり――。


「オオオオオオオオオオオォォッ!」


 これまでに戦ったことがあり、強さも把握しているレウルスは、即座に襲い掛かる。


 油断はしない――が、今夜は熊肉だと心が歓喜するのは止められないのだった。

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