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第35話:吸血種 その2

「……なんじゃ、ここは?」

「ラヴァル廃棄街っていうんだけど……知らずにこの町の近くまで来てたのか?」

「知らぬ。遠目に見えたのはあっちの町じゃ」


 ラヴァル廃棄街の傍まで辿り着くなり、疑問の声を上げるエリザ。運んでいる間に泣き止んだのだが、目の周りが赤くなっている。

 そんなエリザに対して不思議そうな顔をするレウルスだったが、横抱きにしているエリザがラヴァルの町を指差しているのを見て納得した。


 自分も初めてラヴァル廃棄街を見た時は目の錯覚かと思ったのである。すぐ傍に城壁に囲まれたラヴァルがあるというのに、何故こんな場所にも町があるのだろう、と。

 エリザの反応に苦笑を浮かべたレウルスは、さてどうしたものかと内心だけで首を傾げた。このままエリザを抱えたままラヴァル廃棄街に入っても良いのか、それとも一度町の外に待機させておくべきか。


 そもそもの話、レウルスが吸血鬼だと勘違いした吸血種という種族が実在するのかすらわからない。仮にいたとして、このまま町に連れ込んで問題が起きないだろうか。


 ――ないと思いたいが、吸血種だと知られた瞬間殺されはしないだろうか。


 そうやって悩んでいると、ラヴァル廃棄街の門を守る冒険者達が駆け寄ってくる。そしてレウルスの顔を見て表情を緩めるが、次いでエリザの姿を確認するなり目を見開いた。


「おいおい……レウルス、そのちっこい嬢ちゃんはどこから攫ってきたんだ?」

「攫ってきたわけじゃねえよ……もしかして税金取られる?」


 その場合どういう基準で税額が決められるのか、少しばかり気になることではある。誘拐税という名目で金を取られたらこの世界の業が深すぎて笑えない。レウルスの冗談に門番を務める冒険者――トニーは愉快そうに笑った。


「ここで門番をやってそれなりに長いが、そんな理由で税金を取った覚えはねえな。今日の獲物はその嬢ちゃんだけか?」

「イーペル一匹。肉はそのまま食っちまったし、毛皮はバラバラで回収できなかった」

「バラバラって……生きてるイーペルをそのまま千切りながら食ったわけじゃねえだろうな……まあいい。角だけなら税金はナタリアの姐さんが回収するだろうさ」


 さすがにエリザの税金を取られることはないようだ。そのことに密かに安堵するレウルスだったが、トニーの目付きが細まったのを見て表情を引き締める。


「で? お前さんだけなら問題なく通せるが、そっちの嬢ちゃんは何者だ?」


 それは門番として当然の問いかけだろう。レウルスもラヴァル廃棄街に来た頃は“お客様”扱いだったのだ。


「んー……何者かって聞かれるとなぁ」


 若干の険しさを含んだトニーの声色に苦笑を零すレウルス。エリザに視線を向けてみると、トニーの警戒心が原因なのか問いかけが原因なのか、僅かに身を震わせていた。


 抱きかかえた今だからこそわかる、エリザの体の細さ。それはかつてのレウルスと同様に、満足な食事を得られなかったことが原因なのだろう。あるいはハリスト国とやらからこの場所に逃げてくるまでの旅路で痩せ細ったのか。

 素性の知れないエリザをラヴァル廃棄街に入れることは、レウルスとしても抵抗がある。しかし痩せ細った子どもを見捨てるというのも目覚めが悪い。何より威嚇で済んだとはいえ問答無用で斬りかかった負い目がレウルスにはあるのだ。


「――俺の“推薦”だ」


 故に、レウルスは後ろめたいことなど何もないといわんばかりに言い切る。エリザを優しく地面に下ろすと冒険者登録証を首元から取り出し、推薦状を外してエリザに握らせる。

 ラヴァル廃棄街の流儀を全て知っているわけではないが、推薦状があれば街の中でも無下に扱われることはないはずだった。


「おいおい……正気かよ『魔物喰らい』」

「さすがにそりゃあ……」


 トニーと共に駆け寄っていた他の冒険者達が難色を示す。彼らからすればエリザはかつてのレウルス以上に得体が知れないのだ。警戒するのも無理はないだろう。


「お前ら、ぐだぐだ抜かすんじゃねえ」


 だが、そんな周囲の疑問の声をトニーが一刀両断する。そして腕組みをして天を仰ぐと、数秒してからレウルスに真っ直ぐな視線を向けた。


「ソイツがこの町にとって有益だと思えばこそ推薦するんだろうが……“もしもの時”はお前が責任を取るんだな?」

「ああ」


 自身の言動が原因だが、レウルスもラヴァル廃棄街にきちんと受け入れられるまで紆余曲折があった。それでも命がけでキマイラを倒し、自らの価値を証明してみせたのだ。

 エリザが凶行に及ぶとは思えないが、もしも野心を隠していたのだとすれば推薦者であるレウルスにも責任が及ぶ。それでもレウルスはエリザを自らの“推薦”として通すつもりだった。


「それなら文句はねえ、通りな」

「……悪ぃ、トニーさん」


 トニーとしても色々と聞きたいことがあるのだろうが、レウルスの“推薦”ということで見逃すつもりらしい。そのことにレウルスは頭を下げ、地面に下ろしていたエリザを再び抱き上げる。


 そしてラヴァル廃棄街の門を潜り――背後からトニーの声が響いた。


「おい嬢ちゃん。一つだけ忠告しておいてやるが、お前さんを抱えているソイツ……レウルスはつい最近キマイラを殺した。それぐらい腕が立つ奴だ。“下手なこと”を考えるなよ?」


 それはエリザだけでなく、レウルスへの警告でもあったのだろう。何か問題が起きれば自分の手でエリザを斬れと、そう言っているのだ。

 そんなトニーの言葉を聞き、腕の中のエリザが小さく身震いをした。それに気付いたレウルスは安心させるように抱える力を強くすると、朗らかに笑う。


「おいおい、からかうなよトニーさん。あれはみんなの助けがあったからできたことだっての」

「……ま、そういうことにしておこうか」


 言葉を交わし、今度こそトニー達と別れる。そしてドミニクの料理店へと続く道を歩いていると、エリザがぽつりと呟いた。


「ワシをこの町に連れてきて……本当に良かったのか?」

「あん?」


 ぼそぼそと囁くような声にレウルスは眉を寄せる。辛うじて聞き取ることはできたが、エリザが言いたいことを理解しかねたのだ。


「その、なんじゃ……お主の立場が悪くなるのではないか? ワシは素人じゃが、さっきの動きを見ればわかる。お主、かなり強いんじゃろう? この町でも良い扱いを受けておるんじゃろう?」


 レウルスに抱きかかえられたまま、どこか心配そうな視線を向けるエリザ。そんなエリザの視線を受けたレウルスは思わず噴き出してしまった。


 吸血鬼だと勘違いしたとはいえ、大剣を抜いて斬りかかったレウルスを気遣うその姿勢に驚き、それと同時に感心してしまったのだ。


「色々と重なった結果、自分でも意味がわからない力でキマイラをぶっ殺しただけだよ。俺もこの街に来てまだ一ヶ月も経ってねえ。悪くなるような立場は持ってないさ」


 それに、と言葉をつなぎ、レウルスは笑う。


「何も食えない辛さってのは、人一倍理解してるつもりでな……まずはメシだメシ。俺も腹が減って仕方ねえ。この町で一番――いや、この世界で一番美味い飯屋に連れて行ってやるよ」








「店に来るのは構わんが、せめて営業時間に来い」

「すいません、マジですいません……こんな早い時間に依頼を切り上げることになるとは思わなかったんです」


 エリザに対して格好つけたレウルスだったが、ドミニクの料理店はまだ開店していなかった。そのため頭を下げて何か作ってもらえないか頼み込むと店主――ドミニクは苦笑を浮かべた。


 筋骨隆々と表現するしかない体格を持ち、厳めしい顔をしているドミニクだが、レウルスを“身内”と認めているからかその表情は柔らかかった。


「それで、その剣はどうだ?」

「いやー、色々な意味で重たいっすよおやっさん。普通に振ろうと思ったら上から下に振り下ろすぐらいしかできないっすわ。そのまま勢い余って地面に斬り込んじまったし」


 エリザを椅子に座らせ、背負った大剣を壁に立てかけながらレウルスが笑う。命の恩人であるドミニクから託されたというのもそうだが、物理的に重すぎるのだ。

 ドミニクはそんなレウルスの言葉に小さく笑うと、すっと目を細める。


「地面にめり込んだぐらいなら刃毀れ一つしないからな。当面は重さに慣れろ……それで、その娘は?」


 レウルスは身内だが、エリザは別ということだろう。いつの間にやらドミニクの右手には包丁が握られており、レウルスはさり気なくエリザを庇える位置に立つ。


「俺の推薦っす。なんというか……俺と似たような立場で育った子みたいで。代金は俺が払うんで、とりあえず何か食うものと水、あとは……」


 エリザはドミニクの動きに気付いていないのか、料理店の内装を興味深そうに見回していた。

 そんなエリザだが、長期間旅をしてきたのか汚れが目立つ。本人に直接言うつもりはないが、汗や汚れによる臭いも鼻についた。


「ウサギ一匹捌いて食ってきたんで、顔を拭く物をもらえますかね? ついでにこの子の分も」

「まだ準備中なんだがな……水は(かめ)に貯めてある分を自由に使え。顔を拭くための布は外に干してある」


 料理は作るが、他は自分でやれということらしい。レウルスはそれとなくコロナの姿を探すものの、店内にいないのか隠れているのか見つからなかった。


「それじゃ、布と水を借りますね」


 素性の知れないエリザを警戒しているのだろう。そう判断したレウルスはエリザを椅子に座らせ、ドミニクに言われた通り外へと向かった。そして干されていた布を二枚取ると、今度は店内に戻って水瓶の蓋を開ける。

 水もタダではないため手桶で少量だけすくって布を湿らせ、ついでにコップに飲み水を注ぐと、落ち着かない様子で周囲を見回すエリザの元へと戻った。


「ほら、これで顔を拭け。そうすりゃ少しは落ち着くだろ」

「う、うむ……」


 軽く絞った布を渡し、テーブルにコップを置く。エリザはレウルスが体面に座るなりビクリと体を震わせたが、特に反発することなく顔を拭き始めた。


 一分ほどかけて丁寧に顔を拭くと、今度はコップに手を伸ばす。そしてレウルスの反応を窺うようにチラチラと何度か視線を向けた。


「気にしないで飲んでくれ。なんなら俺の分も飲んでいいからな」


 レウルスの言葉に、エリザはゆっくりと、しかし一息に水を飲み干す。余程喉が渇いていたのかレウルスの分まで飲み干すと、大きく息を吐いた。


「これほど水が美味いと感じたのは、初めてなのじゃ……」

「ああ、わかるよ。でも、これからもっと美味いものが食えるからな」


 レウルスがそう言うと、元々仕込みが済んでいたのか木製の御椀に入れられた塩スープが運ばれてくる。かつてのレウルスが初めて食べた時と同じように、煮込まれた野菜が入った塩だけで味付けされたスープだ。

 それでもエリザは塩スープを前にしてゴクリと喉を鳴らす。続いて再び窺うような視線を向けられたため、レウルスは苦笑と共に頷いた。


 すると、エリザは待ちきれない様子でスプーンを手に取った。手を震わせながらもスープを一掬いし、そのまま口へと運び――スプーンを口に入れたまま体を硬直させた。


「……おいしい」


 十秒ほど経ち、エリザが零したのはその一言である。万感の想いがこもった、心からの言葉だった。

 そんなエリザの気持ちが、レウルスには痛いほど理解できる。かつて自分が“救われた”このスープは、涙が出るほど美味かったのだ。


 やはり空腹が酷かったのだろう。エリザは塩スープをあっという間に一皿平らげ、お代わりをし、続いてスープと一緒に運ばれてきた黒パンにも噛み付く。


「おいしいのじゃ……すごく……すごく……」

「ああ……美味いだろ」


 ――なるほど、かつての自分はこんな状態だったのか。


 自分も空腹を覚えるレウルスだったが、次から次に食を進めるエリザの姿に思わず笑みを零してしまった。気付いていないのか、それとも食べることを優先しているのか、エリザは涙だけでなく鼻水まで流している。

 そんなところまでかつての自分に似ている。そう思ったレウルスはまだ使っていなかった濡れ布を手に取り、エリザの方へと手を伸ばした。


「ほら、美味いのはわかるけど落ち着け。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」

「んむっ……」


 食事に夢中なエリザの顔を拭いてやる。エリザはそんなレウルスの行動に驚いたようだったが、レウルスに他意がないのを感じたのか大人しく顔を拭かれた。


「……ありがとう」


 小さく礼の言葉を呟くエリザに、レウルスは笑みを零す。


「いいから腹いっぱい食え。まずはそれからだ」


 そう言って、レウルスも塩スープを食べ始めるのだった。








「……で? あの娘は一体何なんだ?」


 食事を終えたことで緊張の糸が切れたのか、エリザは気を失うようにして眠ってしまった。そんなエリザを自分が借りている物置の藁ベッドに寝かせたレウルスだったが、店内に戻るなりドミニクが尋ねてくる。


「俺と似たような境遇の女の子……そんなところだよおやっさん」

「そうか……だが、普通の人間でもないのだろう? 魔力を感じたぞ」


 自身も魔法を使えるからか、ドミニクはエリザがただの人間ではないことを見抜いていたらしい。それでも即座に排除しなかったのは、エリザを連れてきたのがレウルスだったからだろう。

 レウルスはドミニクならば口も堅く、相談しても“問題”はないと判断して事情を話した。


「ハリストって国から逃げてきた吸血種……エリザはそう言っていた。俺は吸血種ってのが何なのか知らないけど、滅茶苦茶強い魔物だと勘違いしちまってね。それでいきなり斬りかかって殺しかけた」


 実際のところは威嚇で済んだのだが、エリザよりも自分の方が悪いことにした方が説明もしやすい。自分が悪かったからその謝罪に連れてきたのだ、と。


「……お前は何をしているんだ」


 ドミニクは呆れた様子でため息を吐く。そんな反応も自業自得だと思ったレウルスは言い訳もせず、聞くべきことを聞くことにした。


「それでおやっさん、吸血種って何なのか知ってるか?」

「ふむ……吸血種、か」


 顎に手を当てて考え込むドミニク。今でこそ料理店を営んでいるが、元々はラヴァル廃棄街でも腕利きの上級下位冒険者である。常識もあり、魔物の知識も豊富だろうと考えて尋ねたレウルスだったが、予想に反してドミニクは首を横に振った。


「聞いた覚えはあるが、詳しく覚えてないな……ナタリアに聞いてこい。アイツなら知っているはずだ。それに他国の人間だということも必ず伝えておけ」

「そっか……それならそうするよ。ああ、剣は置いていくから」


 エリザが妙なことを企んでいた場合はドミニクも武器が必要だろう。ただし、レウルスはエリザが何か企んでいるとは思っていない。エリザを警戒するドミニクへのポーズとして大剣を置いていくのだ。

 レウルスは自分とエリザの食事代として、手元に残っていた有り金の全てである銀貨一枚を渡す。幸いエリザと出会う前に角兎を一匹仕留めていたため、収入のアテはあった。


 食事代だけで考えると大銅貨一枚程度で済むが、借りている物置の代金を含めての値段である。ドミニクは自分がレウルスを“推薦”したということで、物置に寝泊まりするだけならお金を取ろうとしないのだ。

 かといってドミニクがお金を受け取ってくれるような部屋――ドミニクの妻でありコロナの母親でもあった女性が使っていた部屋を使うのは、レウルスとしても気が咎めるどころの話ではない。


 それらの事情から、レウルスは食事の代金に宿泊費等を含めて渡しているのだ。銀貨1枚はさすがに多すぎるが、数日分の宿代だと思えば不足はない。

 レウルスとしてもそろそろきちんとした部屋を借りたいところだが、ラヴァル廃棄街にアパートなどがあるかは不明である。仮にあったとしても、まずは借りるためのお金を貯める必要があった。


(こんなことなら肉は食わないでおけば良かった……って、あんなズタボロな状態じゃ売れないか)


 毛皮はボロボロで、肉の多くはミンチになっていたのだ。大剣で真上から斬り付け、地面に叩きつけた影響は非常に大きかった。それでも一番高値で売れる角は回収していたため、すぐさま金に困ることはないだろう。


(教会の寄付をもうちょっと自重してれば……いや、姐さんも釘を刺すぐらいだし、あれは間違ってないか。キマイラを倒した収入の三割で重傷が治ったと思えば安いもんだ)


 金がないというのは首がないのと同じだ。角兎一匹の討伐に角二本の売却で200ユラ――銀貨二枚にはなるはずである。エリザの分を含めたとしても、数日分の食費にはなるのだ。


 そんなことを考えつつ冒険者組合へ向かうレウルス。時折すれ違う冒険者達と軽口を叩き合い、ラヴァル廃棄街の住民から挨拶を受け、冒険者組合の扉を潜る。


 正午を僅かに過ぎた時間帯だからか、冒険者組合の中には目立った人影はなかった。ナタリアが暇そうな顔で受付に座っているだけである。


「あら、坊やじゃない。今日はずいぶんと早いお帰りね?」

「ちょいとアクシデント……じゃない、予想外のことがあってさ。姐さんに聞きたいことがあるんだ。あ、これは今日狩った獲物な」


 そう言って角兎の角を受付のテーブルに置く。ナタリアはチラリと視線を向けるだけで角の状態を見抜くと、すぐに銀貨一枚と大銅貨8枚を持ってきた。


「イーペル一匹の討伐報酬と、イーペルの角二本の売却……そこから税を引いて180ユラよ」

「ちょっと安くないか?」


 予想よりも少し安い。そう思って問いかけてみると、ナタリアは手に持っていた煙管で角を指した。


「満額欲しいのならもっと丁寧に狩りなさいな。傷がついているわよ。それに、できれば毛皮も持って帰ってきてちょうだい」

「おやっさんの大剣振り回して丁寧に狩るのって、絶対無理だと思うんだ……毛皮もボロボロだったしさ」


 自由に振り回せる重さではないのだ。“例の力”も自在に使えない以上、力任せに叩き斬るしかない。それでも危惧していた肉や毛皮については咎められず、内心だけで安堵した。


「次からは剣を借りていくよ」

「そうしなさいな……それで? 聞きたいことっていうのはなにかしら?」


 本題の前の軽い応酬を終え、ナタリアが聞いてくる。向けられた瞳に宿っている感情は興味だろうか。暇つぶしになるとでも思っているのかもしれない。


「吸血種って知ってるか?」


 ――そう言った瞬間、ナタリアの目が剣呑さを帯びて細められたのだった。


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