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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
8章:王都と叙爵と精霊使い

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第348話:ジルバの本音

 レウルス達は大教会での騒動を乗り切ると、長居は無用と言わんばかりに借家へと戻っていた。


 『精霊使い』という名前は気にかかるものの、サラとネディが『精霊の証』を受け取った以上、留まる必要性を見い出せなかったからだ。

 ソフィアもそれを止めることはなく、大教会にいた精霊教徒達もサラとネディを拝むばかりで止めることはしなかった。


「あー……疲れたぁ……」


 借家に戻ってきたレウルスは、防具を外してから居間のソファーに腰をかける。そして背もたれに体を預け、疲れを含んだ声を漏らした。


「疲れたのう……」


 エリザもレウルスと同じようにソファーに腰を掛け、大きな息を吐く。大教会ではサラとネディ、そしてレウルスが注目されていたが、同行するだけでも精神的に疲れたのだ。


「見てるだけだったけど、ボクも少し疲れたかな……」


 そんなレウルスとエリザを見て、ミーアが苦笑しながら呟く。レウルス達と出会うまで隠れ里を作って生活していた身としては、今日の大教会の雰囲気はあまりにも異質に感じられた。

 それはレウルスやエリザとしても同様の心境だったが、普段と変わらない者もいる。


「ねえジルバ、この服と首飾りってどこに仕舞っておけばいいの?」

「……その辺に置いてて、いい?」


 渡された『精霊の証』――首飾りと外套をその身から外したサラとネディは、必要に駆られなければ二度と着るものかと言わんばかりの様子だった。


「ラヴァル廃棄街に戻ったら、カルヴァンさんに相談して保管用の棚でも作ってもらいましょう。それまでは他の衣服と同じように保管していただければ問題はないかと」


 大教会での剣幕が嘘だったかのように、“普段通り”サラとネディに笑顔を向けながら答えるジルバ。そこにはソフィアが相手だろうと容赦なく噛みついてみせた雰囲気は欠片もなく、外套を不慣れな手つきで畳むサラとネディに優しげな眼差しを向けている。


(ジルバさんの機嫌が元通り……かはわからねぇな。笑顔だけど裏では怒ってるかも……)


 サラやネディと言葉を交わすジルバを、ソファーに全身を預けたままでそっと盗み見るレウルス。


 ジルバとは一年以上の付き合いがあるというのもそうだが、普段から色々と世話になっている。

 ソフィアが何を考えているか不安に思うところはあるが、知り合って間もないソフィアや大教会の精霊教徒と比べると、これからも接していくであろうジルバの反応はレウルスとしても恐ろしいものだ。


「その、ジルバさん? さっき大教会で『精霊使い』がどうとか言われましたけど、俺にはそんなつもりはなくてですね……たしかに普段からサラがことあるごとに肉を焼いてくれたり、ネディにお風呂の水を溜めてもらったりしてますけど……」


 そう言いながら、レウルスは思った。


 ――これは言い訳ができないぐらいまずいのでは?


 サラやネディを“利用する”つもりは微塵もないが、二人の力は頻繁に借りている。


 サラに関してはいきなり名前を強請ってきて『顕現』したかと思えば、そのまま一方的に仮の『契約』を結んでついてきた。今では正式に『契約』を結んだレウルスの家族ではあるが、その力を本当によく借りている――主に肉を焼くために。


 ネディに関してはレウルスのみならず、ラヴァル廃棄街を水不足から救ってもらった。その上、普段から風呂に入るために力を貸してもらっている。


 振り返ってみると、『精霊使い』という名前はあながち間違いではないと思えた。つい先日、ベルナルドと戦っている際に『契約』を通してサラの力を借りたのも記憶に新しい。

 どんなことを言われるか、さすがに問答無用で襲ってくることはないだろうが、などとレウルスが考えていると、ジルバは心情が読めない笑顔を向けてくる。


「レウルスさん、精霊教の教義を覚えていらっしゃいますか?」

「え? えーっと……大精霊を始めとした精霊に感謝しつつ、日々の営みの糧にする……ですよね?」


 唐突なジルバの質問に、レウルスは首を傾げながら答えた。


 火の精霊であるサラ、水と氷の精霊であるネディ。この両者が司る属性は、日々の生活にもつながるものである。

 大精霊コモナは人類を救い、様々な属性を司る精霊は人間の営みに欠かせない。それら精霊に、ひいては自然に感謝するのが精霊教の教義である。


 レウルスが知る“この世界”の宗教は精霊教とグレイゴ教の二つだが、グレイゴ教と比べると精霊教は非常に理解がしやすい。


 元日本人のレウルスからすると、自然に感謝するというのは食事をする前に手を合わせて『いただきます』、食べ終われば再び手を合わせて『ごちそうさま』と述べるような感覚である。

 グレイゴ教の教義があまりにも謎過ぎて理解が及ばないというのもあるが、レウルスとしては非常に取っ付きやすい教義なのだ。


「ええ、そうです。それを理解しているという前提で尋ねますが……レウルスさんはサラ様やネディ様に感謝をしていますよね?」

「……? 家族でも何かしてもらったら感謝するのは当たり前では?」


 何を言っているんだこの人、とでもいいたげに眉を寄せるレウルス。


 相手がサラやネディでなくとも、エリザに何かを教わった時も、ミーアに武器や防具の手入れを教わった時も、感謝の気持ちを忘れたことはない。


「その通り、“当たり前”のことです。そして、レウルスさんもサラ様やネディ様に対して何かをすれば感謝される……そういったやり取りの大事さを教義で説いているわけです」


 そう話すジルバだが、レウルスとしてはピンとこない。理解はできるものの実感が伴わないのだ。


 そんなレウルスの反応を見て何を考えたのか、ジルバはふっと笑って遠くを見るように目を細める。


「レウルスさん、私と初めて会った時のことを覚えていますか?」

「……そりゃあ覚えてますよ」


 ジルバに言われてレウルスは過去の記憶を引っ張り出す。


 ジルバと初めて会ったのは、エリザがラヴァル廃棄街に来て間もない頃。大雨のせいで冒険者として働けなかったためドミニクの料理店で過ごしていたところ、突如として現れたのがジルバだった。

 ラヴァル廃棄街の教会へ寄付したことに対する感謝を伝えにきたのだったか、とレウルスも目を細めながら当時を振り返る。


「あの時『客人の証』を渡しましたが……何故渡したと思います?」

「え? 寄付をしたから……ですよね?」

「ふふふ……それもあるんですが、本当のところは違うんですよ」


 そこで何故か笑みを零すジルバだが、その笑顔はとても温かいものだった。


「私が寄付の御礼として教会から野菜を持って行ったんですが、それをその場で食べて何と言ったか覚えていますか?」

「えー……さ、さすがにそこまでは覚えてないです……」


 たしかに野菜をもらって食べたことは覚えているが、何を言ったかまでは覚えていない。そのためレウルスが素直に答えると、ジルバは笑みを深めながら言った。


「『ありがとう、美味しかった。お礼はたしかに受け取った』……教会の子ども達にそう伝えてほしいと、あなたは仰られた。その言葉があったからこそ、私はあなたを精霊教の客人に相応しいと思ったのですよ」


 魔物の肉を子ども達に食べさせたいと考えたこともそうだが、と呟いてジルバは話を続ける。


「聞けば、宗教どころか文字も学べない環境で育ってこられたと……そのような生い立ちにも関わらず、あなたはごく自然と精霊教の教義に則った行動をされた。ならば、それに応えるのが私という人間のするべきことでしょう?」

「……正直に言うと、そこまで考えていたわけではなくてですね」


 買い被りだと否定したいレウルスだったが、ジルバはそれを遮るように言う。


「だからこそ、ですよ。人間、意識していないところに本当の性根が出るものです。“それ”を私は()しと受け取りました」

(……なんか滅茶苦茶買い被られてる気がする)


 ジルバの評価は嬉しく思えるが、同時に申し訳なく思う。自分はそこまで出来た人間ではないのだが、と面映ゆい気持ちにもなった。


 すると、そんなレウルスの反応に気付いたのか、ジルバは苦笑を浮かべる。


「まだ納得されていないようですね……では質問を変えましょう。サラ様かネディ様、あるいはお二人を同時に誘拐し、脅迫してその力を悪用しようとした者がいたとしましょう。レウルスさんならどうされますか?」

「斬ります」

「それです」

(え? どれ?)


 ジルバから向けられた質問に間髪置かずに答えたレウルスだが、ジルバの反応はレウルスにとって理解の外にあった。


「レウルスさんはお二人のことを大切に思い、お二人もまた、レウルスさんのことを大切に思っている。それは人が自然に感謝し、自然が応えて実りをもたらす様に似ていると思いませんか?」

「そう……なんでしょうか?」

「少なくとも私はそう思っています。そして、それを踏まえた上で言えば、今日のソフィア様の発言は――」


 それまで穏やかな雰囲気で話していたジルバだったが、身に纏う空気が急激に変化する。


「『精霊使い』……あの場では精霊様に対して不敬だと言いましたが、“精霊を使う”のだとしても、“精霊の使い”だとしても、あなた方の関係を表すには不適当でしょう?」


 そう話すジルバが見せた感情は怒りである。そうではないと、否定するようにジルバは言う。


「精霊教を信仰する者としては複雑な部分もありますが、レウルスさんはサラ様やネディ様と“対等”に、互いを思い遣りながら日々を過ごしています。それを知る者としては『精霊使い』などという呼び名は到底許容できません」


 つまり、大教会でジルバが怒ったのは精霊というよりもレウルス達に対して失礼だと考えたからのようだ。もちろんそれはレウルス達の普段の関係性を知っているからこその感覚なのだろうが、レウルスとしては驚くと共に嬉しくも思う。


「……ありがとうございます」


 レウルスは姿勢を正し、頭を下げる。

 ジルバは危うく『精霊使い』という位階を授けられそうだったレウルスではなく、それを提案したソフィアに対してのみ怒っていたらしい。


 そのことに安堵すると共に感謝したレウルスは、自分と同じようにジルバの話を聞いていたサラとネディに視線を向ける。


「んー……難しくてよくわかんなかった!」

「…………」


 にぱっ、と微笑みながら言い放つサラと、そんなサラの脇に無言で肘鉄を入れるネディ。


 ジルバはサラとネディの様子に苦笑を浮かべると、不意にその視線を借家の入口へと向ける。


「どうやらナタリアさん達が戻られたようですね」


 話はここまで、と言わんばかりに呟くジルバ。レウルスも魔力を探ってみると、魔力が二つ、借家の傍に存在していた。


 ナタリアとコルラードも“用事”を済ませて帰ってきたのだろう。それならば祝うためにも出迎えるべきか。


 そう考えたレウルスはソファーから立ち上がり、玄関へと向かう。だが、ジルバとすれ違う際、周囲には聞こえない声量でぼそりと呟きが飛んできた。


「ただし……もしもサラ様やネディ様を不幸な目に合わせるようなことがあれば……わかりますね?」


 笑顔だというのに微塵も笑っていない眼差しでジルバに言われたレウルスは、真顔で何度も頷くのだった。






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