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第320話:王都ロヴァーマ その2

 王都の巨大さに圧倒されたレウルス達だったが、城壁の内と外を隔てる門もまた大きかった。


 十メートル近い高さを持つ両開きの扉は金属で作られており、『魔法文字』を使って『強化』されているのか僅かに魔力が感じられる。

 城壁から少しばかり離れた場所には水で満たされた堀が設置されており、扉を含めた城壁の高さと頑丈さが見て取れる重厚さと併せて非常に防衛力が高そうだった。


「近くで見ると本当にデカいな……城壁を登って侵入するのも難しそうだ」


 城壁はほぼ垂直になっているため、仮に実行するとすれば『熱量解放』を使わなければ途中で落下しそうである。


 レウルスがそんなことを考えていると、門の前にいくつもの人影が見えた。


 商人や旅人など、レウルス達と同じように王都へ入ろうとしている者が多くいたのだ。そんな者達を検査しているのか兵士の姿もあり、荷物や身分の確認を行っているようだった。


「コルラード」

「はっ。少々お待ちを」


 長蛇の列というほどではないが、先に並んでいた者達の検査が終わる頃には日が暮れそうである。だが、ナタリアも同じことを考えたのか、レウルスが尋ねるよりも先にコルラードに声をかけて先行させた。


 馬車の御者をミーアに頼んだコルラードは外見に見合わぬ機敏さで城門へと駆けていく。


「姐さん、コルラードさんは何をしに行ったんだ?」

「事情の説明よ。わたしは準男爵だし、王都に召喚された立場だから面倒な検査も免除になるわ。形だけ荷物の確認が行われるぐらいかしら……あとは“こちらですること”はないわね」


 そう語るナタリアに釣られてレウルスが前方に視線を向けてみると、コルラードが門前で検査をしている兵士に話しかけているのが見えた。


 そして、数分と経たない内にコルラードが兵士を連れて戻ってくる。


「アメンドーラ様、こちらにどうぞ」

「ありがとう」


 ナタリアの家名を呼び、兵士が馬車の誘導を始める。そして門前に並んでいる者達を追い越し、門へと誘導されていく。


(貴族の特権みたいなもんか……準男爵は貴族じゃないって聞いてたけど、特別扱いされるぐらいには偉いんだな)


 先に並んでいた者達に軽く視線を向けるレウルスだが、不満の感情が向けられている様子はない。よくあることなのか、あるいは貴族に準ずる者に文句をつければ厄介だと考えているのか。

 そんな疑問を抱きつつも列の先頭に進んだレウルス達だったが、ナタリアの言葉通り、兵士は馬車の荷物を軽く確認しただけで引き下がる。


 だが、それで通行の許可が下りるわけではなく、他の兵士が一抱えもある大きさの鏡を運んできた。


 素材まではわからないが、金属を磨いて作ったと思しき鏡がレウルス達の姿を映す。その鏡からは僅かに魔力が感じられたが、レウルスが判断できる限りでは“何か”をされた感覚もない。


(……なんで鏡?)


 王都に入る前に身だしなみを確認しろということなのか、とレウルスは内心で首を傾げる。しかし兵士は特に何も言うことはなく、鏡をレウルス達一人ひとりに向け、すぐに引っ込めてしまった。


(なんだったんだ? 魔力を感じたから魔法具みたいだけど……)


 兵士の行動を不思議に思ったのはレウルスだけではないらしく、エリザやサラ、ミーアやネディも不思議そうにしている。ナタリアとジルバは堂々としており、特に気にした様子もなかった。


「ご協力に感謝いたします」

「ご苦労様。それじゃあ通らせてもらうわね」


 兵士の言葉にナタリアが微笑んで返し、一行は門を潜っていく。兵士に話を通しにいったコルラードも戻り、馬車が暴走しないよう馬の傍につく。


 巨大な城壁の外見通りというべきか、門の先は短いながらもトンネルのようになっていた。城壁は高さだけでなく“厚み”もあったようで、十メートルを超えるトンネルをレウルス達は通っていく。


「姐さん、さっきの鏡って……」


 平然とした様子のナタリアにレウルスが小声で尋ねると、ナタリアは同じように小声で答えた。


「ああ、あの鏡? あれは『変化』を見破るための魔法具よ」 


 特に隠すべきことでもないのか、あっさりと鏡の正体を告げるナタリア。それを聞いたレウルスは思わずといった様子で背後を振り返る。


(『変化』を見破るって……間諜対策? いや、上級の魔物が侵入するのを防ぐためか?)


 王都だけあり、警備も厳重なようだ。ただし、『変化』している者を見破る鏡を配置するのは些か過剰な気もしたが――。


(って、平気で町中に侵入してくる上級の魔物がいるじゃねえか……)


 レウルスの脳裏に浮かんだのは、喧嘩友達(ヴァーニル)の姿である。以前『変化』を使って堂々と侵入してきたことを思い出し、『変化』対策が必要なのだと納得した。

 もっとも、『変化』したヴァーニルならば城壁を飛び越えて侵入しそうである。王都を守るだけあって見張りも精鋭だろうが、ヴァーニルならばほんの僅かな気の緩みを突いて侵入しそうだ。


「うわぁ……もっとしっかり見ておけば良かった。『変化』を見破る魔法具ってどうやって作るんだろ……鏡に『無効化』を刻んだらいけるのかな……ううん、そんな単純な仕組みならもっと広がってそうだし……」


 レウルスがヴァーニルに関して考えていると、ミーアが残念そうな声色で呟く。どうやらドワーフであるミーアの琴線に触れたようだ。


(さすがは王都っていうべきなんだろうな……でも“中身”はどんなもんかねぇ)


 城壁の重厚さや兵士による確認はともかくとして、王都に住まう者達はどんな存在なのか。また、これまで訪れたことがある城塞都市とは異なるのか。

 さすがにこれまで見たことがある町並みと大きく異なることはないだろうが、異国情緒ならぬ異世界情緒溢れる光景が広がっている可能性もある。


 はたしてどんな町並みが出迎えるのか、などと考えながらレウルスは城壁のトンネルを抜けた。


「――お待ちしておりました、精霊様」


 そして、揃って笑みを浮かべた集団に遭遇した。


「…………」


 明らかにレウルス達を――正確に言えばサラとネディを待ち受けていたと思しき集団を前に、レウルスは沈黙する。


 その集団の数はおよそ三十人といったところで、全員が一様に笑みを浮かべている。年齢や性別は老若男女といった様子で、男女問わず年嵩の者もいればレウルスと大差ないような年齢の者もいた。

 服装はエステルやジルバが着ている修道服に似た黒い服で、全員が首元に精霊教徒の証である首飾りをつけている。


(王都の精霊教徒……だよな。明らかに出待ちしてたみたいだが……)


 揃って笑顔を浮かべている姿は傍目から見れば不気味にも映るが、“その笑顔”はジルバで慣れていた。そのためレウルスは特に動揺することもなく、ジルバに視線を向ける。


「…………」


 ジルバもまた、レウルスと同様に沈黙していた。ただしレウルスとは異なり、その瞳にはどこか警戒の色がある。


 相手に敵意はない。そもそも王都に入った途端襲われるなど、危険地帯にもほどがある。


 ――それでも、レウルスの勘は油断するべきではないと訴えかけていた。


「申し訳ございません。精霊様にお会いできると聞き、無礼を承知で押しかけてしまいました」


 集団の代表なのか、一人の女性が頭を下げる。すると他の者達も一斉に頭を下げ、謝意を示した。


(……この人)


 その女性を見たレウルスは、引っかかるものを覚えて僅かに眉を寄せる。


 女性の身長は百五十センチの半ば程度で、この世界においては普通といえる大きさだ。可愛いというよりは綺麗だと評すべき顔立ちは整っているが、赤い瞳には意志の強さが見て取れる。

 肩口まで伸ばされた金色の髪は真っすぐで、よく手入れがされているのかさらさらとしている。他の者と同様に黒い修道服を身に着けているが、全体的にスレンダーな印象があった。

 外見だけで判断するならば、年齢はレウルスよりも年上だろう。


 ただし、その女性に関して引っかかったのは年齢や服装といった部分ではない。雰囲気こそ異なるが、その顔立ちにどこか見覚えがあったのだ。


(顔だけ見ればエステルさんに似てるな……雰囲気は正反対だけど……)


 目の前の女性こそが、ジルバが言っていたエステルの姉なのだろう。


 女性の顔立ちからそう判断するレウルスだが、笑顔を浮かべているというのにその女性に対する印象はエステルへ向けるものとは異なる。


 胡散臭いとまでは言わないが、油断できない雰囲気を感じ取ったのだ。


「これはこれは……お久しぶりですねソフィア様」

「ええ、お久しぶりですジルバさん」


 僅かな沈黙を置き、笑顔を浮かべたジルバが女性――ソフィアへと話しかける。


 それに答えるソフィアは相変わらず笑顔だったが、その口調はどこか他人行儀だ。


「用件をお聞きしても?」


 だからこそ、というべきか。久しぶりに会ったと言いながらもジルバが即座に話題を聞き出そうとする。

 完全に進路を妨害しているわけではないが、このまま放置して進むわけにもいかないのだろう。


「既に言いましたよ? 精霊様にお会いできると聞いたので、この場に参った次第です」

「それ以外の意図はないと?」

「……? 精霊様にお会いすること以上に、何か重要なことがありますか?」


 きょとん、とした様子で不思議そうに首を傾げるソフィア。


(会えるって聞いたって……誰からだ?)


 一方、レウルスはソフィアの言葉に疑問を抱いていた。たしかにレウルス達は王都の教会に用があったが、ここまで正確に出待ちされるほど情報を流した覚えもない。


 それを不思議に思っていると、ソフィアの視線がサラとネディへ向けられる。そして笑みを深め、胸に手を当てながら二人に向かって片膝を突く。


「お二人が精霊様ですね? お会いできて光栄に思います。もしよろしければ、我々の教会にて歓待させていただきたいのですが――」

「え、嫌だけど?」


 そしてレウルスが止める暇もなく、ソフィアの申し出をサラが真正面から切り捨てたのだった。

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