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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
8章:王都と叙爵と精霊使い

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第319話:王都ロヴァーマ その1

 ラヴァル廃棄街から王都ロヴァーマへの旅は、順調に進んでいく。

 既に旅を初めて十日が過ぎ、ナタリアが言うには何もなければ今日中に到着できるであろう場所まで進んでいた。


 野盗や魔物の襲撃もなく、問題といえる問題は起きていない。強いて言えば旅の途中で雨に降られて一日足止めを食らったことぐらいだが、移動速度が早いため当初の予定通り十日という日数で王都に辿り着けそうだった。


 王都が近づくにつれて、変化はいくつか起こる。


 一つは巡回の兵士とよくすれ違うことだ。マタロイ南部を旅すれば一日に一回すれ違うかどうかという頻度だが、王都が近いからか日に三回はすれ違う。

 また、隊商らしき集団や数人だけで行動している商人、割合は少ないが旅人らしき者など、マタロイ南部では滅多に出会わないであろう者達とも街道上ですれ違うことがある。


 そうやって人の往来も多いからか街道もきちんと整備されており、馬車がすれ違えるほどの広さがあった。さすがに石畳が敷かれているなどということはないが、きちんと突き固められた街道はとても歩きやすい。


 他にもマタロイ南部との違いがあるとすれば、街道に沿うようにして多くの村が点在していることだろう。


 元々平野だったのか、あるいは切り拓いたのか、シェナ村と比べても貧相な防衛設備しかない割に広大な畑を保有する村があちらこちらに存在するのだ。


 野盗や魔物からすれば“狙い目”と言えそうな立地だが、それを防いでいるのが街道上で頻繁に遭遇する兵士達なのだろう。少なくても十人、多い時は三十人ほどで隊列を組んで歩き、街道や付近の村の安全に寄与しているようだった。


 ラヴァル廃棄街と同様に収穫の時期に当たるのか、街道からは畑で農作業をしている者達の姿がよく見える。

 周囲に魔物が潜めそうな森や林がないからか農作業者達は安心した様子で、のびのびと収穫を行っており、同じマタロイの国の中だというのに別の国に来たような印象すらあった。


長閑(のどか)だねぇ……」


 思わず、といった様子でレウルスが呟く。


 畑の周囲には空堀と呼ぶには狭くて浅い溝と、腕にも及ばない程度の太さの木材で作られた柵があるが、シェナ村で農奴として働いていたレウルスからすれば到底安心できるような防衛設備ではない。

 魔物はおろか、人間の侵入すら防ぐのが困難だろう。もっとも、街道だけでなく畑の周囲でも時折兵士の姿を見かけることができ、一定の距離を置いて物見櫓のような物が設置されているため、農作業者は安心して仕事に精を出すことができるのかもしれない。


(村っていうよりも、食料の生産拠点って感じなのか?)


 農地に適した場所を開墾し、農作業を行う者達が住む場所を用意し、安全を確保するために兵士を巡回させる。


 言葉にすればそれだけだが、村の規模に対して畑の面積が大きく、食料の生産に重きを置いているように思われた。


 村と村の距離も近く、二、三時間歩くと次の村が見えてくるほどである。

 ただし、食料の生産だけに注力しているわけではないのだろう。王都に近付くにつれて街道を遮るように砦が設けられ、石材を積んで造られた三メートルほどの高さの壁が行く手を阻んでいる。


「ある意味、この場所も既に王都の“外縁部”と言えるのである。王都で消費される食料を生産すると同時に、攻められた際に防衛しやすいようにしているのだ」


 そう語るのは国軍に属していたことがあるコルラードで、その目はどこか懐かしむように細められている。


「兵士の巡回が多いのも、農繁期に当たるからであるな。普段はもっと少ない」

「へぇ……それだけの兵士を動員できるってだけでも、とんでもないことですよね?」


 レウルス達はマタロイ南部から北上するようにして進んできたが、他の方角には村や畑がまったく存在しないということはないだろう。

 治安を維持するだけの兵力が存在し、なおかつ惜しむことなく動員しているというのはすごいことではないかとレウルスは思った。


「王都ですもの。ああ、ちなみに王都の東側に関してはこれほど大規模な畑が広がっているわけではないわ」

「そうなのか?」


 ナタリアの補足するような言葉に、何か理由があるのだろうか、とレウルスは首を傾げる。警戒を欠かすわけではないが、あまりにも平穏過ぎて会話ぐらいしかすることがないのだ。


「レウルスさん、以前メルセナ湖に行った時のことを思い出してください」


 そんなレウルスの疑問に答えたのはジルバである。周囲の長閑な風景に癒されているのか、普段と比べてその雰囲気は柔らかい。


「メルセナ湖に流れ込む川がありましたが、覚えていますか?」

「レテ川ですよね……って、ああ、そうか。そういえば途中から分岐して王都の方に続いてるんでしたっけ?」


 ジルバに言われてレウルスは記憶を引っ張り出す。


 ネディと出会い、スライムと死闘を行う羽目になったメルセナ湖。そのメルセナ湖に流れ込むレテ川はところどころで分岐しており、途中で支流に乗ると王都近くを通るという話だった。


「そうなんです。東にはレテ川の支流があるため、畑はそれほど多くありません」

「川があるのなら、水が確保しやすくて畑が作りやすいんじゃ……」

「レウルスさんも体験したでしょう? あの川、けっこう荒れるんですよ。ただ、水を引くのに便利なので、水路を作って水の被害が及びにくい場所で畑を作っているわけです」

「……そういえば、それが原因でメルセナ湖まで流されましたもんね。いや、それがなければネディとは出会えなかったんで、レテ川が荒れて運が良かったとも言えるんですが」


 魔法が存在する世界でも自然現象には勝てないらしい。


 護岸整備をすればどうにかなりそうだが、レテ川の支流全域を整備するのは難しいだろう。要所だけでもと思わないでもないが、水害だけでなく魔物による被害も存在するのである。安全な場所に畑を作るというのも仕方がない話だろう。


「えーっと……ちょっとした疑問なんだけど、王都の近くに大きな川が通ってるって危なくないの? 水の災害もそうだけど、船に乗って他国の連中が攻めてきたりとか……」


 鍛冶職人としてはそういった王都の“構造”が気になったのか、ミーアが疑問の声を上げる。


 今回の旅ではレテ川まで移動して船に乗るよりも直接向かった方が早かったが、場所によっては船に乗ってレテ川を下る方が早く王都に着くだろう。交通の便が良いのは結構なことだが、ミーアの言う通り防衛の面では気になる部分もある。


「……いや、ごく少数で移動して、途中で船から降りて国内に潜伏するというのなら“アリ”な手段ではあるのだが……」


 ミーアの疑問を受けたコルラードは、そこでチラリとナタリアを見た。そんなコルラードの視線の動きを追ったレウルスは、まさかと思いながら口を開く。


「大勢で船に乗って移動してたら良い的だ……みたいな感じですか?」

「……そんな感じである」


 どうやら船に乗って攻め寄せても、遠距離から魔法で吹き飛ばしてしまうらしい。相手側に強力な魔法使いがいれば防げそうだが、マタロイの王都の傍という敵からすれば死地に等しい場所に強力な魔法使いを送り込むのは勇気がいるはずだ。

 そして、レウルスやミーアといった素人でも疑問を覚えるのだ。王都を守護する兵士達も十二分に警戒しているだろう。


 街道と広大な畑、時折砦という旅路を進みながらそんな物騒な会話をしていたレウルス達だったが、日が傾き始める時間帯になると遠目に目的地と思しき場所が映った。


「あれが王都……か?」


 遠くにラヴァルのような城塞都市を見つけたレウルスは、思わずといった様子で呟く。距離があるため全容は定かではないが、到着の時間を考えると間違いなく王都ロヴァーマだろう。


 距離があるため最初は豆粒ほどの大きさに見えたが、近づくにつれてその巨大さが実感できる。


 思ったよりも小さいな、と考えたレウルスだったが、王都のものと思しき城壁を視界に収めてから歩き続けても中々辿り着かない。


(あれ……思ったよりも遠い?)


 少しずつ視界の中で大きくなっていく王都の城壁と、レウルスの困惑。

 天気が良くて空気が澄んでおり、レウルスの視力の良さも原因になったのか、歩いても歩いても一向に王都に辿り着かない。


 それでも一時間も歩く頃には距離を縮めることができ――レウルスは思わず呟いていた。


「でかいな……」

「でかいのう……」

「おっきー……」

「すごいねぇ……」

「……うん」


 レウルスに続き、初めてロヴァーマを見たエリザ達も感嘆の声を漏らす。


 だいぶ近づくことができたレウルス達だったが、王都ロヴァーマは端的に言って巨大だった。


 王都への侵入を妨げるのは、高さが三十メートル近くありそうな城壁。石材を積んで造られたその城壁は今世においてレウルスが見たどんな城壁よりも高く、同時に広い。

 王都ロヴァーマは城壁によって緩い円状の造りになっており、城壁の高さが理解できるほど近づくと今度は“左右”の距離がわからなくなる。


 直径でいえば一体どれほどになるのか。街道に従って歩いていたレウルス達だったが、王都の城壁の広大さを目の当たりにしてただただ圧倒されていた。


(石材を切り出して、運んで、積んで……いくらぐらいかかったんだろう……)


 城壁を作るだけでどれほどの時間と金額、そして労力がかかったのか。推測することすら困難で、レウルスは感動すれば良いのか笑えば良いのかもわからない。

 いくら魔法が存在するとはいえ、尋常ではない規模の大きさである。ラヴァルの城塞も初めて見た時は驚いたものだが、王都の城壁と比べれば遥かに劣るだろう。


 確認したわけではないため確証はないが、眼前の城壁で王都の周囲を全て囲んでいるのだとすれば、たしかに王都の名に相応しい。


 レウルスやエリザ、サラやミーア、ネディといった面々は呆気に取られているが、ナタリアやコルラードは当然として、ジルバも王都を訪れたことがあったのだろう。レウルス達と比べれば非常に反応が薄く、日が暮れる前に到着できたことだけを喜んでいた。


「何を思っているかはその顔を見ればわかるわね……とりあえず、今はこう言っておきましょうか」


 そんな三人の内、ナタリアが苦笑しながら告げた。


「――ようこそ、王都ロヴァーマへ」

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