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第315話:試し切り

 王都へと出発するまでの間、レウルスが行うべきことはそれほど多くない。


 旅の準備や王都で必要となるものはナタリアが用意するということもあり、レウルスが率先して何かをする必要がないのである。


 行うべきことがあるとすれば、秋らしく収穫の最盛期を迎えている畑に向かう農作業者達の護衛ぐらいだ。

 そのためレウルスは毎日のように護衛依頼を請け負い、ラヴァル廃棄街から北へと進んだ場所にある畑で周囲に睨みを利かせていた。


「うーん……これは中々……」


 夜間に畑の作物を狙おうとでも考えていたのか、畑の近くにある林の奥に潜んでいた角兎を『首狩り』の素材を使って作られた剣で両断したレウルスは、どことなく満足したような声を漏らしていた。


 『首狩り』の剣を受け取り、既に三日が過ぎている。最近は魔物が寄ってこないため自分の方から探しに出かけているが、多くの作物が実っているからか、サラを伴って探してみると遠出をしなくとも魔物を見つけることができていた。


 ――そこをレウルスは襲った。


 放っておけば夜間に作物を狙う可能性があるため、問答無用で襲い掛かった。腹を満たすために、魔力を補充するために、そして何より『首狩り』の剣を試すために。


 林に潜んでいたのは角兎のイーペルや巨大カマキリのシトナムぐらいだったが、実戦に変わりはない。さすがに『熱量解放』を使うことはなかったが、エリザやサラとの『契約』によって底上げされた身体能力を使い、一方的に勝利を収めることができていた。


 三日間で見つけることができた魔物の数は、角兎が七匹に巨大カマキリが三匹の合計十匹である。


 護衛という立場もあり、畑から離れすぎないよう注意する必要があるため発見した数は少ない。レウルスがラヴァル廃棄街に来た直後にサラの探知能力があれば、十匹の魔物を見つけるのに一日もかからなかっただろう。


 魔物が近寄らなくなったことはラヴァル廃棄街にとって助かることだろうが、レウルス個人としては魔力の補充が難しくなりそうで困るところだ。


 そうして探し出した魔物を相手に『首狩り』の剣を振るってみたが、いくつかわかったことがあった。


 さすがにぶっつけ本番で強力な敵を相手に使うわけにもいかず、事前に試し切りすることで長所と短所をレウルスなりに見つけたのである。


 『首狩り』の剣の長所は三つ。


 一つはその切れ味で、『龍斬』と比べても大差がない。剣の長さや重量の違いから『龍斬』に軍配が上がるだろうが、並の武器とは比べ物にならない切れ味があった。

 それこそ“並の武器”ならば、レウルスの膂力と相まって両断することも可能だろう。


 一つは取り回しの容易さである。『龍斬』と比べれば短くて軽い分、至近距離での戦闘では非常に便利だった。両手で握って振るう必要もないため、手数を稼ぐだけならば短剣を使用して“二刀流”で戦うことも可能だろう。

 もっとも、レウルスに二刀流で戦えるような技術がないため、膂力と速度に物を言わせて刃を連続で叩き付けるという戦い方しかできそうにないが。


 そして最後の一つが魔力の伝達の容易さである。レウルスにとって数少ない遠距離攻撃手段となる、魔力の刃が非常に放ちやすいのだ。魔力を込めて振るえば、それだけで刃のように魔力を放つことができる。

 加えて『龍斬』と同じように魔力の刀身を生み出して間合いを変化させることもできるが、そうするぐらいならば『龍斬』を使った方が早いだろう。それでも戦闘時の一手としては十分に活用できる。


 そんな三つの長所と比べ、短所は二つあった。


 一つは武器の短所というよりもレウルス個人の問題で、『龍斬』を使った戦闘に慣れ過ぎている点だ。刀身が短い分、当然ながら『龍斬』と同じように振るうことはできない。踏み込む位置や振るい方が大きく異なるため、レウルスに大きな違和感を与えていた。

 これに関しては慣れるしかないだろうが、有事の際に間合いを見誤ると致命的な事態につながりかねないため注意が必要だとレウルスは思う。


 もう一つは『龍斬』と比べて強度で劣るという点である。『龍斬』のように何を斬っても欠けず、曲がらず、手荒に扱っても大丈夫とはいかない。

 仮に再びスライムと戦うようなことがあれば、『龍斬』のように刃が多少摩耗するだけでは済まないだろう。


 サラの力を借りて炎を纏わせることも可能だが、『龍斬』と比べると手応えに“脆さ”を感じてしまうレウルスだった。


 総じて評価するならば、やはり『龍斬』には及ばない。名剣だというのは否定しないが、レウルスの戦い方に一番合っているのが『龍斬』で、『首狩り』の剣は数段劣る。


 取り回しの容易さから防戦で使用するぐらいに留めるべきだろう。魔力の刃が放ちやすいため牽制にも使えるだろうが、レウルスとしてはあまりにも『龍斬』が秀逸過ぎた。

 基本的に『龍斬』を使い、屋内での戦闘や速度で劣る相手には『首狩り』の剣を使う。もっと技量があれば違った選択肢もあるのだろうが、レウルスにできるのは状況に応じて使い分けることぐらいだった。


(下手すると短剣の方が使う機会が多いかもな……)


 『首狩り』の剣を鞘に収めながらレウルスはそんなことを思う。


 短剣は刃渡り三十センチ程度と戦闘で使うには心許ないが、ドワーフが鍛え上げたということもあって頑丈である。切れ味も鋭く、ラヴァル廃棄街の冒険者組合で貸し出している短剣と比べると雲泥の差があった。

 魔物を解体するのにも便利で、なおかつ常に腰の裏に差しておけるほど携帯性に優れてもいる。斬ってよし、突いてよし、魔物を捌いてよし、投擲してもよしと非常に便利な武器だった。


 『龍斬』と同じ時期に作られたこともあり、レウルスとしても愛着が湧いている。さすがに『熱量解放』を使って全力で振るうと傷む可能性が高く、サラの力を引き出して炎を纏わせると折れるだろうが。


「ねえレウルス、その剣って結局どんな感じなの?」


 レウルスが『首狩り』の剣について思考していると、サラが興味深そうに尋ねてくる。


「『龍斬』には劣るけど良い剣……俺からすればそんな感じだな」

「レウルスってばその大剣が大好きだもんねー」


 からかうわけでもなく、ただ純粋に感想を述べるサラ。レウルスはそんなサラの言葉に苦笑を返すと、背中に担いでいた『龍斬』を握った。


 余談ではあるが、『龍斬』を背中に担いでいる都合上、『首狩り』の剣は左腰に差し、短剣は腰の裏に固定してあった。レウルスは右利きのため『首狩り』の剣は順手で抜き、短剣は逆手で抜く形になる。


 『龍斬』は鞘自体が武器になっているため、柄を握って振るえばそれだけで戦える。ドミニクの大剣の破片を素材に使った鞘と、ヴァーニルの素材を使った刀身。鞘の状態でも並の武器を容易に超える切れ味があるため、刀身を抜く暇がなくとも十分に戦えるのだ。


 そうして『龍斬』を構えたレウルスは、意識を集中させて『熱量解放』を使った。


 最早慣れたもので、『熱量解放』に関しては意識して発動することができる。だが、『首狩り』との戦いでレウルスには“その先”が見えており――。


「……やっぱり駄目か」


 数十秒ほど『熱量解放』を維持したレウルスは、ため息を吐くと共に解除する。


 『首狩り』に首を斬られ、死の気配が色濃くなった“あの瞬間”。『契約』を通してエリザとサラの力を引き出した感覚があった。

 ラヴァル廃棄街に戻ってきたレウルスはことあるごとに試しているが、集中力が足りないのか、あるいは魔力が足りないのか、再現できていなかった。


(新しく剣を手に入れたっていっても、俺の戦い方が上達しなけりゃどうにもならねぇ……“アレ”が自由に使えるようになれば、なんて思ったが……)


 『熱量解放』を使った状態で、体外に出ていこうとする大量の魔力を体内に収める。


 言葉にすればそれだけだが、どうにも上手くいかない。


(練習できる時間が短すぎるしな……)


 『熱量解放』を使う以上、どうしても時間制限がある。魔力にも限りがあるため、長時間練習するわけにもいかないのだ。


 魔物を狩って魔力を補充できる目処が立っている状況でなければ、練習することもできない。それでいて練習できるのは精々数十秒である。これでは上達のしようもないだろう。

 ある程度魔力を残しつつ、可能な限り練習を行う。それを繰り返すことで少しでもコツを掴めればとレウルスは思っているが、感覚的な技術になるため上手くいってなかった。


「……畑に戻るか」

「はーい! 今夜も焼き肉ね!」


 レウルスが先ほど仕留めた角兎を担ぎ上げると、サラが嬉しそうに声を上げる。


 焼肉奉行ならぬ焼肉精霊と化している節があるが、レウルスとして美味い焼き肉にありつけるため特に触れることはなかった。


 そうして、王都へ旅立つまで少しずつ時間が進んでいく。


 王都で何が待ち受けているか、この時のレウルスは知る由もなかったのだった。

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