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第177話:共闘 その1

「レウルス!」


 エリザ達のもとへと駆け寄ったレウルスだったが、近づくなりエリザが飛びついてきた。レウルスは体ごとぶつかってくるエリザを抱き留めると、その顔に小さく苦笑を浮かべる。


「っと……すまん、心配かけたな」

「本当じゃ! 本当に……本当に心配したんだからっ!?」

「……悪い」


 この場に駆けつけるなりローランと斬り合いを始めたため、エリザとはまともに言葉を交わすこともできなかった。サラは『思念通話』で、ミーアは直接言葉を交わせたが、ローランから距離を取って魔法を撃っていたエリザとは言葉を交わす暇もなかったのである。


 エリザは目の端に涙を溜め、声を震わせながらレウルスの服に顔を埋める。その様子だけでもエリザがどれほど心配していたかが感じ取れ、レウルスは今この時ばかりは、とエリザの頭を優しく撫でた。


 途中で“素”が出た辺り、本当に心配をかけたのだと反省もする。


「だから言ったじゃない。わたしが消滅してないんだからレウルスは生きてるって」

「サラちゃん……例え生きていても、怪我をしてる可能性もあったんだから。ボクも心配したよ……」


 サラは普段通りに、ミーアは安堵したように言う。だが、二人の言葉を聞いたレウルスは苦笑を深めてしまった。


「危うく死ぬところだったけどな……ネディが助けてくれきゃ溺死してたよ」

「さっきもそう言ってたわね……命の恩人だって。色々と言いたいことがあるんだけど、あの子はなんなの? なんかもう、滅茶苦茶嫌な感じがするんだけど」


 何故かネディと距離を取りつつ、サラが嫌そうな顔で尋ねる。普段は底抜けに明るいサラにしては珍しいことに、その顔は本当に嫌そうだった。


「俺としても説明が難しいんだが……他に何も感じないのか?」


 そんなサラに対し、レウルスは逆に尋ねる。“何”が嫌なのかはいまいちわからないが、それ以外に精霊として感じるものはないのか。


「えー? 他に何かって言われても……」


 サラはネディに対して無遠慮な視線を向ける。だが、眉を寄せて嫌悪感を見せるだけでそれ以上の感想は出てこないようだった。


(サラでもわからない、か……今はスライムを優先しないとな)


 時間があればもっと詳しく話を聞きたいところだったが、今はスライムが迫ってきている。そのためレウルスはサラから視線を外し、今度はネディを見た。

 ネディはサラから向けられる視線を一顧だにせず、とてとてと足音を立てながらレウルスに近づく。


「レウルス、これからどうするの?」

「……予定通りスライムを迎え撃つ。それで先に確認しておきたいんだけど、ネディの魔力は……残ってなさそうだな」


 ネディから感じ取れる魔力は非常に少なくなっている。長期間スライムを凍らせ続けたことでそのほとんどがなくなり、孤島から脱出する際にも魔法を行使したことで底を突きかけているのだろう。

 まったくのゼロというわけではないが、エリザやサラと比べると非常に希薄な魔力しか残っていないようだった。


 魔力が限界に近い以上ネディを戦わせるつもりはないが、レウルスとしては別の部分が気になってしまう。


(ネディが精霊だと仮定して、魔力がなくなったらどうなるんだ?)


 レウルスが初めて“まともに”『熱量解放』を使ってキマイラを倒した時は、魔力切れで気絶した。ネディが魔力を使い切った場合、レウルスと同じように気絶で済むのか。


(サラは参考にならないしな……こんなことならヴァーニルからもっと話を聞いておけば良かったか)


 レウルスと正式に『契約』を交わしたサラの場合は、レウルスが死なない限り消滅もしないとサラ本人から聞いている。それならばネディの場合はどうなのかと危惧するところだが、ネディは自分自身のことをまったく理解していない。

 ネディをこの場に連れてきたのは、ネディがスライムに殺されるのを防ぐためだ。それだというのに魔力切れで命を落とされてはたまらない。


(ネディは極力戦闘に参加させないとして……)


 泣きながら抱き着いてくるエリザをあやしつつ、レウルスは思考する。スライムが上陸するまであと五分もないだろう。それまでに迎撃態勢を整えたいところだ。


 孤島ではスライムを仕留めきれなかったが、この場所ならば全力で戦える上に戦力が揃っている。

 カンナとローランという予定外の戦力もいるが、スライムを相手にするのならば心強い。あとはスライムを仕留めるための“火力”が必要なのだが――。


「エリザ……戦えるか?」


 緊張の糸が切れたのか、再会に思うところがあったのか。泣きじゃくるエリザにレウルスが声をかけると、数秒経ってから顔を上げた。


「っ、ぐすっ……スライムを、倒すんじゃな?」

「ああ。放っておくには厄介な相手だし、逃げ切れるかわからないんでな」


 問題があるとすれば、カンナやローランと共闘することだろう。レウルスも思うところがあるが、グレイゴ教徒に家族を殺されたエリザほど根深くはない。


 スライムの魔力が近づいているのを感じつつも、レウルスは膝を折ってエリザと目線の高さを合わせる。

 戦闘の際には極力レウルスが指示を出すようにしており、必要だからと言い含めれば押し通せるかもしれない。だが、今回はエリザの心情が想像できてしまう。


 エリザがきちんと納得できなければ後々尾を引くと考え、レウルスは真っすぐにエリザの目を見る。


「それで、だ……状況が状況だからグレイゴ教の二人と共闘しようと思うんだが……」

「……それは、必要なことなんじゃな?」


 即座に感情で反発することはなく、静かに尋ねるエリザ。思うところはあっても、巨大なスライムが迫っているという状況の危険さを感じ取っているらしい。


「必要か不必要かで言えば、必要だ。腕が立つってのもあるけど、グレイゴ教徒は魔物退治が得意な連中だしな。スライムが相手でも上手く立ち回れるかもしれねえ……それに、さすがにスライムと戦いながらあいつらとも戦うのは無理だ」


 レウルス達とグレイゴ教徒、そこにスライムを加えた三つ巴など命がいくつあっても足りないだろう。

 スライムの相手をカンナとローランに任せて退くという手もあるだろうが、ここまで執拗に追跡してきたことを思えば、カンナとローランを無視してレウルス達を追いかけてくる可能性もある。


「俺とジルバさん、それとグレイゴ教の二人が前に出て陽動をする。そのついでにできる限りスライムを“削る”から、エリザとサラは全力で魔法を撃ち込んでくれ」


 それは作戦とも呼べない、単純な戦力の割り振りだ。スライムが相手でも接近戦を行える者が前に立って気を引き、後方に控えたエリザ達が魔法を叩き込む。

 どのタイミングで撃つかは指示する必要があるだろうが、事前に準備を整えておけば余裕をもって撃退できるかもしれない。もっとも、エリザ達は魔法を発現させたまま待機する技量がないため、スライムとの戦闘が始まってから準備をする必要があるだろうが。


「えーっと、ボクは何をすれば……」


 レウルスが説明をしていると、ミーアが控えめに尋ねてきた。スライム相手に近接戦を挑める技量も身体能力もなく、エリザやサラのように属性魔法を使えるわけでもない。


 そのためこの場でできることはないのではないか――そんな考えが表情に浮かんでいるミーアに対し、レウルスは首を横に振った。


「あのデカさだとどうなるかわからないけど、スライムが“跳ねた”時にエリザ達を逃がしてくれ。状況によっては三人をまとめて抱えて逃げてもらうかもしれないしな」

「……え? 跳ねる?」

「跳ねる。さっき戦った時も跳ねてな……危うく押し潰されるところだった」


 冗談でしょう、とでも言いたげなミーアに、レウルスは真剣に答える。直接戦闘に参加するわけではないが、エリザ達の安全を確保するミーアは下手すると一番重要な役割かもしれない。


「あのスライムは俺を狙うと思うけど、ネディも狙われるかもしれない。だからなるべく距離を取って、いつでも逃げられるようにしておいてくれ」

「わ、わかった」


 エリザとサラの“射程”にスライムを収めつつも、状況に応じて距離を取る必要がある。至近距離でスライムと戦っている最中にその辺りの見極めができるかわからないため、ミーアには臨機応変に対応してもらうしかない。


「それに、だ……」


 ジルバと向かい合ったままで動こうとしないカンナとローランを横目で見たレウルスは、声を潜めて言う。


「ないと思いたいが、グレイゴ教の二人が妙な動きをした時に備える必要もある。もしもあの二人がこっちを狙う素振りを見せたら……」


 スライムを前にしてレウルスやジルバを襲う余裕はないと思うが、世の中何があるかわからない。後方にエリザ達が控えている以上は問題も起きないだろうが、“もしも”の時は後ろから撃つ必要がある。


(……まあ、ないと思うけどな)


 カンナはどうかわからないが、少なくともローランが襲ってくることはないだろうとレウルスは考えていた。それでもカンナとローランについて言及したのは、二人が“仲間”ではないからだ。


 あくまで一時的な共闘で、状況が違えば再び殺し合うことになる。言外にそう言い含めたのは、エリザを慮ってのことだった。


「とにかく、今回の戦いはエリザ……お前にかかってる。雷魔法はスライムにも効きやすい魔法らしいし、“頼りに”させてくれ」

「う、うむっ! わかったのじゃ!」


 泣いた影響か普段よりも赤くなっている目を擦り、元気よく返事をするエリザ。その返事にレウルスは内心だけで苦く笑うと、最早見上げる必要があるほどに近づいてきているスライムへと向き直る。


「それじゃあ頼んだぞ!」


 そう言い残し、レウルスは『龍斬』に魔力を込めて刀身を抜き放つなり駆け出すのだった。











どうも、作者の池崎数也です。

お久しぶりです。短いですが更新です。


少し間が開きました。申し訳ございません。

リアルの仕事がごたついていました。


5章を読み返していて気付いたのですが、途中から水の『宝玉』を水の『魔石』と書いていました。

そのため修正しています。


それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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