表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/634

第15話:魔物退治 その4

「紫色の……鳥? いや、鳥にしてはずいぶんとでかい気が……」


 己の目を疑うように呟くレウルスだったが、その視界に映っていたのは紫色の巨鳥だ。距離があるため正確な大きさはわからないものの、穴開きチーズのようにボロボロな前世の記憶が“アレ”はおかしいと訴えかけてくる。


 鳥類の体というものは大きさに反して軽い。中には飛べない鳥もいるが、基本的に体の大きさの割に軽い場合がほとんどである。

 しかしながらレウルスが目視した巨鳥は広げた翼を含めれば三メートルほどの体躯であり、羽ばたく度に“重さ”を感じさせる動きをしているのだ。見た目の大きさ通りの重さがありそうで、空を飛ぶ重量物というのはそれだけで脅威だとレウルスは思う。


「ありゃトロネスか……」

「それも三匹」


 どうやら飛んできている巨鳥はトロネスというらしい。足の鉤爪で人を掴み、そのまま持ち上げて空を飛びそうな魔物が三匹も飛来してくるのだ。


「……やばくねえ?」


 まだ距離があるが、鳥の飛行速度を考えれば接敵するまでそれほど時間がない。レウルスは一応剣を抜いてみるが、空を飛ぶ相手に剣が届くはずもないと考え直して剣を鞘に納め、足元に落ちていた石を拾い上げた。


「ちなみに先輩方、あの紫の馬鹿でかい鳥はどれぐらい強いんで?」


 これで弱ければ良いのだが、と拾った石を握りながら一縷の望みをかけて尋ねてみると、ニコラは訝しげな顔をしながら首を傾げる。


「分類としちゃあ下級上位だ。飛んでるってのも厄介だが、風魔法を使ってくるからシトナムやイーペルより厄介……なんだが……」

「飛んできた方向が問題」


 シャロンに言われてレウルスも気付いたが、今まで交戦していたイーペルやシトナムとは異なり、紫の巨鳥が飛んできたのは林とは別方向である。


「縄張りっつうか、棲み分けっつうか、トロネスがいるのはもうちょい西の方なんだよ。飛べるからこっちまで来るのはおかしくねえが、血の臭いに釣られるにしちゃ距離がありすぎる」

「トロネスの鼻がそこまで利くとは聞いたことがない」


 そう言われてレウルスは記憶を探るものの、鳥類の嗅覚が鋭いかどうかなど聞いた覚えがなかった。元々聞いたことがなかったのか、それとも思い出せないだけなのかは不明だが、この場で思い出せないのならどちらでも一緒である。


「そもそもシトナムにイーペル、それにトロネス……この短時間で三種類の魔物に遭遇すってのがおかしくてな。日によっちゃあ魔物に遭遇しないってこともあるんだが……」


 レウルスと同じように石を拾いつつ喋るニコラだったが、その顔は腑に落ちないと言わんばかりだ。シャロンは表情が変化していないためわかりにくいが、杖を構えて警戒を強めている。


「偶然ってことは?」

「もちろんある。でもなぁ……いや、まずはこの場を切り抜ける方が先決だ。俺とシャロンは全力で走れば逃げ切れるが、お前はそうじゃねえ。さすがに抱えて逃げたら追いつかれそうだし、迎え撃つぞ」

「お願い先輩見捨てないでね!?」


 走って逃げ切れるということは、レウルスを置き去りにすれば確実に逃げ切れるということである。それに気付いたレウルスが懇願するように叫ぶと、ニコラは意地悪気に頬を歪ませた。


「ところで、トロネスは風魔法を使うって言ったよな? 風の塊を飛ばしてくるんだが、直撃するとかなりの衝撃があるんだ。下手すりゃ一発で意識を持ってかれる……で、その後は啄まれてな。冒険者の中には生きたまま(はらわた)を啄まれて死んだ奴も――」

「後輩脅かすの反対! 遠距離から撃ち落とそう! シャロン先輩の格好いいところが見てみたいな!」


 助けを求めるようにシャロンへ視線を向けるレウルスだが、シャロンは飛来する巨鳥へ視線を向けたまま沈黙している。ニコラが言うように走って逃げるようには見えないが、何の反応もないと不安を煽られてしまう。


「ハッハッハ、弟は逃げる方に賛成らしいぞ……ま、冗談だ冗談。俺とシャロンがいりゃあのぐらいはどうにでもしてやんよ。ただし、相手は空を飛んでるからお前の方に向かうかもしれねえ。その時は防御固めて身を守ってろ」

「魔法を使ってくる魔物相手の“お手本”を見せてもらってないんだけど、どう思う?」

「訓練初日から中級手前の魔物とやり合えるなんて運が良いな。お前さんツイてるぜ」

「それって絶対に運が良いとは言わねえよ!?」


 強い敵と戦えることを喜べるような戦闘民族の生まれではなく、そのような育ちもしていない。いっそ逃げてやろうかと思ったレウルスだったが、ニコラはそれまでのからかうような表情を真剣なものに変え、口の端を釣り上げた。


「そんだけ軽口が叩けりゃ上等だ。俺一人ならお前さんを庇いながらだとちぃとばかし厳しかったが、シャロンがいる以上は問題もねえ。相手の攻撃にだけ注意して見とけ」

「そうは言ってもさあ……」


 シャロンが実際に戦うところを見ていないため、安心して良いのかすらわからない。それでもニコラは心の底からシャロンを信頼しているらしく、巨鳥を迎え撃つその姿には何の気負いもなかった。


「イーペルの死骸を囮にして逃げるってのは駄目なのか? 食ってる間に逃げれば……」

「無理だな。あいつら、こっちを完全に捉えてやがる。というかレウルス、向こうからすりゃ俺らを殺せば“食料”が増えるんだぜ? 見逃す手はねえよ」

「食える物が増えるから見逃せないってところに心底同意するよチクショウ……」


 レウルスが逆の立場なら、せっかくの獲物は見逃さないだろう。ましてや相手は複数で空を飛んでおり、なおかつ魔法が使えるというのなら一方的に叩くことも可能だ。


 そうやって緊張を誤魔化すための会話をしている間にも巨鳥との距離が縮まり、秒を追うごとにその巨体がどんどん迫ってくる。

 今からでも逃げられないかなぁ、などと考えながらも戦闘態勢を取るレウルスだったが、それを制するようにシャロンが杖を持ち上げた。そして、数秒とかけずにシャロンの周囲に氷の塊が四つ生み出されていく。


 氷の形状は棒状であり、大きさは二十センチ程度。その上で先端を尖らせた氷の矢だ。ただし、レウルスからすれば矢と言うよりは氷の杭にしか見えなかったが。


『ッ!?』


 シャロンが氷の矢を生み出したことを敵も察知したのだろう。それまで真っ直ぐ飛んでいた巨鳥三匹は力強く羽ばたき、一匹が急加速、残り二匹が旋回して回避行動を取る。


「――撃ち落とす」


 そう呟くなり、シャロンは杖を振り下ろす。それと同時に空中に生み出された氷の矢が次々に放たれ、風を切りながら巨鳥へと迫った。

 シャロンが狙ったのは急加速して回避しようとした巨鳥であり、放った四本の氷の矢の内二本は左右への回避を防ぐための牽制、そして残り二本が本命として巨鳥の胴体へと叩き込まれる。


『ギャギュッ!?』


 ドン、という鈍い音と共に巨鳥が悲鳴を上げ、空に血しぶきが舞う。氷の矢は一本が羽を貫き、もう一本が胴体ど真ん中に直撃したのだ。

 自身が加速していたこともあり、氷の矢が衝突した際の衝撃は相当なものだったのだろう。怪鳥は錐揉み回転をしながら落下し、頭から地面へと叩きつけられて砂煙を上げる。


「うぉ……グロい……」


 空に散った血もそうだが、地面に叩きつけられた巨鳥の姿を見たレウルスは周囲に聞こえない声量で思わず呟いていた。地面には物の見事に“血の花”が咲いており、落下の衝撃の凄まじさを物語っている。


(魔法ってのはもっとこう、綺麗で華やかなもんかと思ったが……)


 何もないところから氷を生み出すという点では文字通りの魔法だったが、その運用方法は非常に血生臭い。冒険者という職に就いている以上仕方がないのだろうが、魔法に対する理想や幻想が崩壊する気分だった。


 シェナ村で炎の魔法を使う兵士を見たことがあったが、魔物を追い払うぐらいで実際に燃やし尽くすところは見たことがなかったのである。剣を使った戦闘と異なり、長距離から一方的に相手を殺したシャロンの魔法に戦慄すら覚えた。


「ぼさっとすんなレウルス! 次が来てんぞ!」


 地に落ちて息絶えた巨鳥の姿に複雑な思いを抱くレウルスに対し、ニコラから鋭い叱責の声が飛ぶ。その声に慌てて集中するレウルスだったが、接近途中で左右に分かれて旋回した巨鳥の片割れが自分に狙いを定めていることに気付いた。


 もう一匹はニコラに狙いを定めたらしく、一直線に突っ込んでくる――と思いきや、何故かその場で滞空し、羽を大きく羽ばたかせた。


「チッ! 風魔法だ! 避けろ!」


 巨鳥の動作を見て慌てたようにレウルスの方へ駆け寄ろうとしたニコラだったが、間に合わないと悟ってそう叫ぶ。それを聞いたレウルスはどこに逃げれば良いのかと逡巡したものの、巨鳥の羽ばたきに合わせて“何か”が放たれるのを感じ取った。


(何か……飛んできてるっ!?)


 一体何が、と思うよりも早くレウルスの体は動いていた。目には見えなくとも、危険な何かが接近してきていると本能が察したのだ。

 咄嗟に剣と石を投げ捨て、着地を考慮せず水泳の飛び込みのように真横へ飛ぶ。そして次の瞬間、それまで立っていた場所が盛大に吹き飛んで息を飲んだ。


「はっ? な、何だっ!?」


 突然土煙を上げながら地面が爆ぜ、一体何事かと目を白黒させる。地面を転がっていたレウルスは即座に身を起こして状況を確認するが、風に吹かれて土煙が晴れると、まるで巨大なハンマーで殴りつけたように陥没した地面が見えた。


(避け損ねてたら……)


 それほど大きく凹んでいるわけではないが、地面を凹ませるとなるとどれほどの威力があったのか。直撃していればレウルスもただでは済まなかっただろう。軽く骨の二、三本は折れていたに違いなく、下手すれば一撃で死んでいたかもしれない。


「ちょっ、ちょちょちょ先輩アレマジでやばいって! 顔に当たったら死んでるって! 顔面セーフじゃなくて一発アウトだって!」

「ところどころ意味不明だが死んでないなら問題ねえ! シャロン!」


 放り投げた剣を拾いながら助けを求めるレウルスに叫んで返し、ニコラがシャロンの名を呼ぶ。するとシャロンは先ほどと比べて小さい氷の矢を十発ほど宙に生み出し、レウルスに向かって風魔法を放った巨鳥へと一斉に撃ち放った。


 飛来する氷の矢に気付いたのか、狙われた巨鳥は即座に回避行動を取る。しかし先ほどよりも数が増えた氷の弾丸を全て避け切ることはできず、羽を撃ち抜かれて落下し始めた。


「よくやったシャロン!」


 残った一匹の巨鳥へ石を投げつけて牽制していたニコラが剣を抜いて駆け出し、地面に向かって落下してくる巨鳥の首を刎ね飛ばす。その間にシャロンは立ち位置を変え、最後の一匹からレウルスを守るように立ちはだかった。


 仲間が二匹倒されたことで怖気づいたのか、最後の一匹は羽を大きく羽ばたかせてこの場から逃げ出そうとする。それを見たシャロンは杖を掲げて再度氷の矢を生み出すと、その背中に向かって容赦なく発射する。


「これで終わり」


 シャロンの言葉通り、その攻撃を以って三匹の巨鳥全てとの戦いは終わりを告げた。








「色々と脅かしておいてなんだが……思ったより楽勝だったな」


 剣に付着した巨鳥の血をボロ布で拭いつつ、ニコラが呟く。それを聞いたレウルスは眉を寄せ、ため息を吐いた。


「魔法を避け損ねたら死んでいたかもしれないけどな……」

「避けたんだから細かいこと気にすんな、と言いたいところだがよく避けたな。風魔法ってのは目に見えないから避けにくいんだが……」


 血を拭った剣を鞘に納め、短剣で紫の巨鳥の解体を始めながらニコラが言う。それを聞いたレウルスは何と答えたものかと悩んだが、結局は曖昧に濁すことにした。


「えーっと……勘? なんかヤバイと思ったから避けた……みたいな?」

「良い勘だな。大事にしろよ」


 勘という言葉だけで納得したのか、ニコラはそれ以上追及しなかった。何故か巨鳥と戦う前にあった余裕がなくなっており、仕留めた三匹の巨鳥を手早く解体してシャロンへと視線を送る。


「退くぞ」

「賛成」


 シャロンと短く言葉を交わし、これまでの戦闘で集めた魔物の素材や肉などをニコラがまとめて担ぐ。そのどこか慌ただしさを感じる行動に疑問を覚えたレウルスだったが、ラヴァル廃棄街に戻るのだろうと察して息絶えた巨鳥達に視線を向けた。


「鶏肉が……」

「臭みが強くてあんま美味くねえぞ。つうか食いモンなら後で奢ってやるから、今は町に戻ることだけ考えろ」


 そう言ってニコラは周囲を見回すと、他に魔物の姿がないことを確認する。


「先頭はシャロン、真ん中にレウルス、殿は俺がやる。町まで距離はねえが、気を抜くなよ」

「わかってる」

「……了解」


 レウルスには理由がわからないが、ラヴァル廃棄街の中でも経験豊富な冒険者の二人が真剣なのだ。そのためレウルスはこれ以上何も言わず、この場からすぐに走り去るのだった。








「……生きて戻ったか」


 ラヴァル廃棄街に戻り、ドミニクの料理店に足を踏み入れるなりかけられた言葉がそれだった。開店の準備をしていたのか厨房で野菜の皮を剥いていたドミニクが、レウルス達の姿を見るなりそう言ったのである。


「そりゃ当然っすよおやっさん! ちゃんと俺とシャロンで面倒みたんすから!」

「その割にずいぶんと早く帰ってきたようだが……」


 正確な時間はレウルスにもわからないが、現在の時刻は正午を多少過ぎたぐらいだろう。冒険者として初めて活動するレウルスとしても早い帰還だと思ったものの、ニコラとシャロンの様子を見れば反対することもできなかった。

 ドミニクも二人の様子から何かがあったと察しているのか、鼻を鳴らしてレウルス達が持ち込んだ今日の“成果”へと視線を向ける。


「イーペルの角に毛皮に肉、シトナムの鎌、それにトロネスの羽か。短い時間の割にずいぶんと獲物が多いな……怪我は?」

「全員無傷っすよ」

「少し疲れただけ」


 ぶっきらぼうに怪我の有無を確認するドミニクに対し、笑って答えるニコラとシャロン。ドミニクはそんな二人の様子に再度鼻を鳴らすと、厨房で料理の手伝いをしていたと思わしきコロナへと声をかけた。


「獲物を取ってくるのは良いが、ずいぶんと血生臭いな……コロナ、水と手拭いだ」

「もう準備してるよ」


 ドミニクの言葉を聞き、パタパタと足音を立ててコロナが駆け寄ってくる。その手には水が入った木桶と人数分の手拭いを持っており、レウルス達の元に辿り着くと手拭いを水に浸し、絞ってから手渡した。


「どうぞみなさん。すぐに飲み水も持ってきますから」

「ああいや、コロナの嬢ちゃんにそこまで手間をかけさせるわけにゃあ……」

「ありがとうコロナ。兄さん、こういう時は甘えるべき」


 恐縮した様子のニコラと親しげに手拭いを受け取るシャロン。その違いを不思議に思うレウルスだったが、コロナから手拭いを差し出されて反射的に受け取る。


「レウルスさんもどうぞ」

「おっと……ありがとうコロナちゃん」


 魔物の解体などはニコラが行ったため血で汚れているわけではないが、魔物との戦闘で冷や汗を掻き、挙句に何度か地面を転がり回ったことで砂や土が付着している。そのため手や顔を拭いて綺麗にしていると、コロナがまじまじと見つめてきた。


「冒険者として初めて魔物と戦うって聞いて心配してましたけど……」


 レウルスの頭から爪先まで眺め、少しの怪我もないことを確認するコロナ。そして心底安堵したように、胸に手を当てながら微笑む。


「――うん、無事で良かったです」


 本当に自分のことを心配していたのだと思わせる声色と仕草に、レウルスは真顔で戦慄する。


(やばいなにこの子可愛い。やっぱり天使か女神なんじゃねえの?)


 今世においては他人の優しさにほとんど触れたことがないレウルスにとって、コロナから向けられた心配と安堵の情は驚愕に値するものだった。


「ボクは組合に用があるからこれで失礼する。兄さん、あとはよろしく」


 ある種の感動にも似た感情を覚えるレウルスを他所に、シャロンがそんなことを言い出す。ニコラもそれを止めることはなく、これまで担いでいた魔物の素材などを手渡した。


「報告は任せた。こっちはレウルスを労っとく」

「ん。時間が余るならボクも後で合流する」


 それなりに重さがあるイーペルの肉などを軽々と持ち上げ、足早にこの場を後にするシャロン。反応が遅れたレウルスが慌てて何事かと尋ねようとすると、それを遮るようにニコラが肩を叩いた。


「ま、お前が気にするこたぁねえ。冒険者として初めての魔物退治を生きてやり遂げた……今はそれだけで十分さ」


 それ以上は聞くなと言わんばかりの態度にレウルスは口を閉ざすと、ニコラは小さく笑ってからドミニクへ視線を向ける。


「というわけでおやっさん、コイツに何か食わせてやりたいんですが」

「まだ準備中で賄いぐらいしかないが……まあいい。少し待ってろ」


 一仕事終えたら飯を食いに来いとは言っていたが、これほど早く帰ってくるとは思わなかったのだろう。それでも約束通り食事を振る舞うつもりのドミニクはコロナを連れて厨房に戻ると、それほど時間をかけずにコロナがすぐに何かを運んできた。


「主菜はもう少し待ってくださいね。それまではこれをどうぞ」


 そう言ってコロナがテーブルに置いたのは、陶器製のコップである。中には薄いオレンジ色の液体が入っており、一体何だろうかとレウルスは首を傾げた。


「食前酒です。薄めたお酒に果汁を足してみました。美味しいって評判なんですよ?」


 言われて匂いを確認してみると、甘さを感じさせる匂いと一緒にほんの少しだけ酒精の匂いが鼻を突いた。今世で初めて嗅ぐ酒の匂いにレウルスが眉を寄せていると、ニコラがコップを持ち上げてレウルスへと差し出す。


「というわけでほれ」


 何の真似かと考えるレウルスだったが、酒が入ったコップを差し出されてやることなど一つしかないだろう。例え世界が変わろうとも、前世と変わらないこともあるのだ。


「初めての魔物退治の成功を祝って」


 口の端を釣り上げて笑うニコラに対し、レウルスもコップを持ち上げて同じように笑う。


「色々あったけど、生きて戻ってこれたことに感謝して」


『乾杯』


 そう言ってコップをぶつけ合い、酒に口をつける。


 ――今世で初めて飲んだ酒は、これまた美味い美酒だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=233140397&s
― 新着の感想 ―
[気になる点] 15年間地獄を味わってきたにしては主人公陽気すぎない?現実的に考えてもう少し感情を無くすだろうし、人間不信になるだろうし、いろいろと歪むと思うんだけど。なんか現代日本からそのままラヴァ…
[一言] 序盤が長すぎる、割愛できる部分が多すぎてくどすぎる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ