第12話:魔物退治 その1
会社に入ったばかりの新入社員だというのに、仕事の手解きを受けることなく客先出向を命じられた。
今の気分を例えるならばそんなところだろう、とレウルスは内心だけで呟く。ニコラとシャロンの口振りからもしやと考えていたが、『冒険者』というものは習うより慣れろの精神であるらしい。
装備こそ借りられたものの、剣の振り方一つ教えられずに魔物を退治することになったのだ。
「……死ぬんじゃね?」
場所はラヴァル廃棄街から東に十分ほど進んだ林の傍。そこは先日レウルスが角兎と遭遇した林であり、ニコラ達も定期的に訪れている場所らしい。
そんな林の傍で恐々尋ねるレウルスに対し、シャロンは無表情で声をかける。
「剣を使うに当たって最初に教えるべきは剣術じゃないのかってこと?」
「うん、まあ……こっちは完全に素人ってことを考慮してくれると嬉しいんだけど」
教わる側としては文句を言いにくいが、素人に刃物を持たせても満足に扱えるとは思えない。これが刃渡りの短いナイフや包丁ならばまた違うのだろうが、レウルスが借りたのは刃渡り70センチ近い片手剣だ。
ナイフも極めようと思えば血の滲むような鍛錬が必要となる。しかしその軽さや手の延長として扱える刃の長さは、剣と比べて習得しやすそうだとレウルスは素人考えで判断していた。
これが剣になると、握り方は良いとしても構え方や振り方が流派や状況で千差万別となる。
(槍にしとけば良かったか……)
技量や速度が伴わなければ魔物相手には役に立たないと聞いたが、遠い間合いから振り回すだけでも牽制にはなるだろう。そう考えたレウルスは早くも後悔し始めていた。
「レウルス。これからお前さんが戦う相手はなんだ?」
「はい? え……魔物、だよな?」
ここまできて魔物以外と戦わされても困る。そんな困惑を込めて答えるレウルスに対し、ニコラは真剣な表情で頷いた。
「そう、魔物が相手だ。剣で戦う以上は剣術を学ぶのも道理だろうが、剣術ってのは大抵が人間相手に発展してきた戦法って言える。もちろん魔物に通じる剣術もあるんだろうが、そんなもんを教えられる奴ぁラヴァル廃棄街にゃいねえ」
ニコラも我流で腕を磨いたということだろう。そう考えたレウルスに対し、ニコラは表情を崩して苦く笑う。
「ついでに言やぁ、剣術ってのは技術だ。正式に習おうと思えば高い金と長い時間がかかるし、あるいは兵士にでもなるしかねえ。俺達廃棄街に住む奴らに教える物好きもいねえしな」
そこまで言ったニコラは頭を振って表情を元に戻すと、己の得物である剣の柄を軽く叩いてから話を続けた。
「魔物ってのはな、種類が多い上に個体で大きさも変わる。相手が人間なら背丈も大きな差はねえが、魔物だとメルト単位で違うことも珍しくねえからな」
「ん……メルトって何だ?」
「あん? なんだよレウルス。長さの単位も知らねえのか?」
これぐらいだ、と言いながら両手を広げるニコラ。それを見たレウルスは目測で長さを測ると、おおよそで1メートルだと判断する。
「メルト、セント、ミルト。これがマタロイにおける長さの単位……知らなかった?」
補足するためか他の長さの単位についてシャロンが教えるが、レウルスは顔の前で手を振った。
「三歳の頃に両親が魔物に殺されたし、他に教えてくれる人もいなかったからなぁ……何かを知ろうとしたら村の上役連中が殴って止めるし、下手すりゃ殺されるし」
文字もそうだが、知らない“常識”が多すぎる。レウルスは己の置かれた立場を改めて実感するが、ニコラとシャロンはレウルスの話を聞いてその表情を僅かに変えた。
「そうか……魔物になぁ」
「…………」
ニコラは同情と悲しみを浮かべ、シャロンは何かを考え込むよう顎に手を当てて目を細める。
「それじゃあ仇を討ってやらねえとな。さすがに生きてる魔物全部を殺すのは無理だが、お前さんの両親を殺した魔物を倒しゃ供養にもなんだろ」
「や、それがなにぶんガキの頃の話なんで、どんな魔物に殺されたかわからないんだよ」
正確には、教えてすらもらえなかった。両親が魔物に殺されたと知らされただけで、その詳細を聞こうとしても誰も答えなかったのである。
「レウルス。君は十五歳?」
「そうだけど……それが何か?」
十五歳を迎えてマタロイでは成人になったからこそシェナ村から売り飛ばされたのだ。前世では成人を迎えると祝われたものだが、この世界においてはなんとも酷い“お祝い”だと笑うしかないレウルスである。
「いや、なんでもない……同い年だと思っただけ。それと長さについては言った通りで、重さはキラム、グラム、ミラム。君の剣は鞘を含めて大体2キラムと500グラム」
そう言われて己の剣を持ち上げてみるレウルス。既に虫食い状態になっている前世の記憶と照らし合わせてみるが、キラムはキログラムと変わりがないらしい。
(というか、グラムで通用するのかよ……)
魔物や魔法が存在する異世界だが、長さや重さの単位には多少共通点があるようだ。覚えやすくてありがたいと思うものの、微妙な差異が逆にレウルスの疑問を刺激する。
「メルトやキラムよりも大きい単位ってあるのか?」
「あん? そりゃアレだ。えーっと……なんだっけ?」
レウルスの質問に答えようとしたニコラだったが、答えを知らないのか忘れてしまったのか、助けを求めるようにシャロンを見た。
「1000メルトで1キルト、1000キラムで1トーム。兄さんはもう少し勉強してほしい」
「ど、ど忘れしただけだっつーの!」
呆れたようにシャロンがため息を吐くと、ニコラは拳を握り締めて力説する。そんなニコラ達を他所に、レウルスは密かに肩を落としてため息を吐いた。
(キロメートルでキルト、トンがトームか。これだけを知るのに十五年かかったなんて……)
『冒険者』という職業の危険さに思うところはあるが、シェナ村から脱することができたのは最早僥倖とすら言えるほどだ。長さや重さの単位に関して知るだけでもシェナ村では命がけで、そのような場所で長生きできたとは到底思えない。
(もしかすると文字もどこかの国と似てたりしてな……日本語じゃないのはたしかだけどさ)
共通点さえわかれば文字の習得も簡単かもしれない。ラヴァル廃棄街に生きて戻ることができれば、まずは勉強から始めようとレウルスは決意した。
「って、そんなこたぁいいんだよ! 魔物だ魔物! レウルス、まずは魔物の倒し方をしっかり学べ!」
知識という点ではシャロンに到底敵わないからか、ニコラは話を打ち切って話題の軌道修正を始める。レウルスとしても異存はないため頷くが、シャロンはニコラの様子に深々とため息を吐いていた。
「話を戻すけどよ、魔物は種類が多い上に大きさも全然違う。そんな奴らを相手にするのに、剣術を学んでいてもそこまで意味がねえんだよ」
(たしかに……野生の動物ぐらいならまだしも、恐竜相手に剣術が役に立つのかって言われるとなぁ)
野犬ぐらいならば剣でも倒せそうだが、体長が何十メートルもある恐竜を剣一本で倒せと言われても無謀でしかない。人間の中にそれほど巨大に育つ者はおらず、剣術で戦える相手の大きさも自然と決まるというものだ。
「だから魔物相手に戦い方を覚えていく。生き抜くことができれば体も戦い方を覚えるってもんよ」
「それはそれで極端すぎじゃ……」
普通の剣術が魔物相手ではそれほど役に立たないというのは理解した。だが、だからといって何も学ばずに魔物と戦うのもどうかとレウルスは思う。
「剣を握って、相手を斬れる位置に移動して、相手に避けられないよう剣を振るう……簡単なことだろ?」
「簡単に聞こえるけど下手すりゃ死ぬよね!?」
「死なないよう相手の攻撃を避けりゃ良い」
言うは易し、行うは難しの典型ではないか。それも難易度が半端ではなく高い類の難問である。
「シャロン先輩……」
「縋るように見られても困る……たしかに乱暴な言い方だったけど、兄さんの言うことも正しい。ボクは魔法使いだから距離を取って戦うけど、距離を詰められた時の戦い方を実戦で学んだ」
ニコラが相手では話にならないとシャロンに視線を向けるレウルスだったが、シャロンは取り合わない。冗談でも何でもなく、訓練なしで魔物と戦わなければならないようだ。
それが『冒険者』の鍛錬方法というのならば拒否はできない――できないのだが、不安と不満を抱いても罰は当たらないだろう。
「何のために俺達がついてきたと思ってんだよ。お前を魔物と戦わせるにしても、まずは“手本”を見せるに決まってるじゃねえか」
せめて弱い魔物が出てきますように、と居るとも知れない神に願うレウルスだったが、苦笑しながらかけられたニコラの言葉で思考を打ち切られた。
「手本ってことは……っ」
どのように戦うのか見て学べということか。そう尋ねようとしたレウルスだったが、首筋にチリリと怖気が走って言葉を途切れさせた。
獅子の魔物と遭遇した時と比べれば遥かに弱いものの、“嫌な予感”が襲ってきたのである。その反応に従って周囲を見回してみると、林の奥に動く存在があった。
「おっと、言ってる傍からお客さんだ……シトナムとは運が良いな」
「とりあえずタダ働きは免れそう」
そんなレウルスとほぼ同時。ニコラが剣を抜いて楽しげに笑い、シャロンも身の丈ほどある杖を構える。レウルスもそんな二人に倣って腰の剣を抜き放とうとするが、少しばかり焦りの感情が邪魔をしたのかスムーズに剣を抜くことができない。
それでも強引に剣を抜こうとしたのだが、林の中から姿を見せた魔物の姿に思わず固まってしまった。
(カマ……キリ?)
ニコラの口振りから判断するに、シトナムと呼ばれているらしい魔物。それは一メートル近い体高と両手の先に生えた鋭利な鎌が目立つ、カマキリに似た生き物だった。
全身がほぼ緑色であり、草原などに潜めば体が保護色となって見落しそうである。相手もレウルス達の存在に気付いていたのか、両手の鎌を構え、背中の羽を広げて威嚇の体勢を取った。
「で、でかっ! 気持ち悪っ!」
前世でカマキリを見たことがないわけではないが、さすがに一メートル近い昆虫というのはインパクトが強すぎる。そのためレウルスは無意識の内に叫んでいたが、ニコラは剣を構えたままで笑う。
「アレはまだ成長途中だ。運が良ければもう少しデカい奴に会えるぜ?」
「それ運が悪いだろ!?」
シトナムと呼ばれたカマキリの魔物の習性なのか、それとも魔物全般に言える習性なのか、三対一だというのに逃げる様子はない。それどころか両腕の鎌をすり合わせて金属音を鳴らし、人の腕ぐらいならば噛み切れそうな大きな口を開閉して牙を剥く。
「え? なに? なんなの? 昆虫なのに人間襲うの? てか肉食なの? 明らかにこっちを狙ってるよね? 食い物的な意味で」
もしもエイリアンが実在すればこんな感じではないか、と腰を引かせるレウルス。魔物退治をするべく訪れたのでなければ、即座に回れ右して逃げ出すところだ。たしかに肉食性の昆虫も珍しくないが、サイズがサイズだけに恐ろしい。
「落ち着いてレウルス。シトナムの危険度は下級中位。君はイーペルを狩ったことがあると聞いた。それなら大丈夫」
「……ちなみに俺が倒した兎の危険度は?」
「下級下位」
「カマキリ格上じゃん!?」
毒を持つ蜘蛛や蜂ならばともかく、カマキリの方が角兎よりも危険だと判断されているらしい。たしかに体の大きさや両腕の鎌はレウルスの目にも脅威に映ったが、前世での知識が目の前の現実は理不尽なものだと叫んでいる。
「よおし……レウルス、よく見とけよ? 相手がシトナムなら勉強にはもってこいだ。シャロン、お守りは頼んだぞ」
それだけを言い残し、剣を構えたニコラが地を蹴った。レウルスは思わずニコラを止めようとするが、ニコラは風のような速度で走っていく。
シトナムとの間にあった距離はおよそ三十メートル。ニコラはその距離を二秒もかけずに詰めると、シトナムが鎌を振るうよりも先に踏み込み、剣を真横に振るってシトナムの胴体を両断した。
「……速過ぎやしませんかね」
返す刃でシトナムの首を刎ね、レウルスがそんな感想を漏らすまでかかった時間は五秒程度。残心として剣を構えたままでシトナムが確実に死んだことを確認するニコラを他所に、シャロンが口を開く。
「シトナムは両腕の鎌と噛み付きにさえ注意していれば苦戦する相手でもない。魔法も使ってこないし、飛び道具もない。少し外殻が硬いけど、組合から支給された武器でも十分に狩れる魔物」
それに、と言葉をつなげ、シャロンはレウルスを横目で見る。
「背丈は低いけど、足で立って腕で攻撃……さらに頭が急所で首を切り落とせば間違いなく死ぬ相手。君の練習相手には打ってつけだとボクは思う」
「人間の動きと大きく変わらないから戦いやすいと?」
言葉の意図を汲んで尋ねてみると、シャロンはどこか満足そうに頷いた。
「そういうこと。腕が三本以上あったり、空を飛んだり、魔法を使ってくる魔物と比べれば簡単に倒せる。まあ、油断してあの鎌で胴体を真っ二つにされる奴もいるから、気を抜いて良いわけじゃないけど」
「真っ二つって……」
「切れ味だけは本当にすごい。質が悪い革鎧だと防ぎきれずにそのまま真っ二つになる。その分、安全に倒すことができれば『冒険者』にとっては“美味しい”相手」
美味しいと聞いてレウルスの食欲が刺激されたが、言葉通りの意味ではないだろう。その証拠にニコラは短剣を抜いてシトナムの鎌を切り落とすと、手招きをしてレウルスとシャロンを呼び寄せる。
「これから先、シトナムを倒したら両腕の鎌を回収しろ。こいつは頑丈だし切れ味も良い。柄を付けりゃそれだけで農作業で使える鎌に早変わりだ」
「シトナムを倒した証拠にもなるし、冒険者組合に持ち込めば討伐の報酬と合わせて報奨金を払ってくれる。『冒険者』として生活するなら、まずは魔物の特徴と回収すべき素材を覚えること」
意外と、と言っては二人に失礼なのだろうが、魔物退治の研修としては悪くないとレウルスは思った。
最初は魔物と戦うと聞いて危険だと思ったが、手本を見せた上で注意点や倒した後のことまで教えてくれるのである。
(さすがに倒したモンスターがお金になったりはしないか……)
ゲームによっては倒したモンスターがゲーム内で使える通貨になることもあるが、さすがにそこまでファンタジーな世界ではないらしい。それでもそれとなく地面にお金が落ちていないかと目を配るレウルスだったが、シトナムの死骸を見てその場に膝を突いた。
「ん? どうしたんだ?」
「いや、ちょっと……」
レウルスは手に持っていた剣を地面に置き、代わりに短剣を抜く。そして不慣れながらも短剣を振り下ろしてシトナムの腕の外殻を割ると、中を覗き込んだ。
シトナムの腕は5センチほどの太さであり、外殻に覆われているものの両腕の鎌を振るうには細く見える。しかしながら魔物である以上人間の理屈は通じないだろうという興味から“中身”を確認してみると、白さを帯びた透明な肉が見えた。
「なんだなんだ、何か気になることでもあんのか?」
外見は緑色で、割ってみると中身は薄白い。その点だけで言えばアロエに近いが、シトナムはカマキリに似た魔物である。短剣を滑らせて外殻を縦に割ってみると綺麗に肉が露出し、シトナムの外見さえ気にしなければ蟹にも見えた。
「シトナムって毒はあるのか?」
「聞いたこたぁねえな」
「なるほど……はぐっ」
――毒がないなら食べてみよう。
そんなことを即断し、レウルスはシトナムの肉に噛み付いた。匂いがそこまで強くなく、見た目がアロエに近かったのも決断の理由である。見た限り寄生虫もいないように思えた。
「はああああぁぁっ!? ちょ、お前、なにやってんだ!?」
「え? いや、食えるかなーと」
もちゃもちゃとした歯応えに眉を寄せながら答えるレウルス。外殻を割ってみると肉の太さは三センチ程度しかなかったが、昆虫とは思えないサイズのシトナムの腕は長く、食べ応えがある。
「あ、けっこうイケる。生臭いしちょっと苦いけど意外と美味しい」
少なくとも食べられないほどではない、というのがレウルスの感想だった。シェナ村やラヴァル廃棄街に向かう途中で空腹を紛らわせるために食べた雑草と比べると、十分食材として成立しそうな味である。
(ピーマンに近い、か……あれ? ピーマンってこんな味だったっけ? 焼いて塩を振ったら普通に食べれそうだけど)
自分が知る前世の食べ物を思い浮かべてみるが、遠い記憶の中で食べたものを明確に思い出すことはできなかった。それでも舌に感じる苦みからピーマンを連想したレウルスに、ニコラとシャロンは信じられないものを見たように驚きの目を向ける。
「……先輩達の分はこっちってことで」
自分だけ食べるのはさすがにまずかったか、などと思いながらレウルスはシトナムの腕を差し出す。ドミニクのおかげでそこまで空腹ではないが、食べられそうなものがあればその場で食べるべきだろう。
それはシェナ村で生きた十五年の間に得た数少ない知識であり、この世界での生き方だ。
シェナ村ではレウルスと似たような境遇の子どもが珍しくなく、それでいて与えられる食料は少なかった。そのため食べ物を巡って頻繁に取っ組み合いの喧嘩になり、何も食べられないということもありえたのである。
レウルスはその辺は“上手くやっていた”が、食べられそうなものはすぐに食べなければ他者に奪われてしまう。前世では卑しいと嗤われるかもしれないが、今世では死活問題なのだ。
「……シトナムを食べる人、初めて見た」
「どんだけ飢えてんだよオイ……」
引き気味に呟き、ニコラとシャロンはレウルスが差し出したシトナムの腕から距離を取る。レウルスはそんな二人の反応に首を傾げると、シトナムの肉を噛み千切りながら不思議そうに言った。
「いや、その、食えるなら木の根っこでも雑草でも虫でも食べてたし。毒がない生き物なら食べれるかなーと」
「腹ぁ壊しても知らねえぞ?」
「大丈夫っす。生まれてこの方、腹を壊したことないんで」
今の世界に生まれて唯一良いことがあったとすれば、何を食べても問題のない頑丈な胃袋を持っていたことだろう。それが生まれつきのものか、食えるものならば何でも食わなければ生きていけない環境で鍛えられたのか、それはレウルスにもわからなかったが。
「そういえばシャロン先輩は魔法が使えるんだよな? それで火を熾したりできるか?」
「火炎魔法は才能がない……興味から聞くけど、もし火を熾せたらどうするつもり?」
「え? これを焼いて食べるんだけど……」
生でも食べられるが、大抵の場合において肉は焼いた方が美味しい。今の体になってから肉を食べる機会はほとんどなかったが、世界が変わろうと焼き肉の美味さは変わらないだろう。
不思議そうに答えるレウルスに、ニコラとシャロンは何度目かになる引き攣った笑みを返すのだった。