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世知辛異世界転生記(漫画版タイトル:餓死転生 ~奴隷少年は魔物を喰らって覚醒す!~ )  作者: 池崎数也
4章:剣と杖と鍛冶師の里

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第114話:ドワーフの縄張り その3

 ――冒険者と兵士の違いは何か?


 武力を用いるという点では大差ないが、“この世界”においてその立場は大きく異なる。


 片や、廃棄街と呼ばれるスラム染みた場所を守る自警団。


 片や、国もしくは町や村を治める領主に組織された正式な軍隊。


 冒険者は魔物を倒すことが主であり、兵士は魔物だけでなく領内に現れた野盗の討伐や他の領地の兵士との紛争、そして他国と開戦した場合の兵力として扱われる。


 冒険者は廃棄街で生まれた者や廃棄街に住み着いた流れ者が就くが、兵士はれっきとした職業だ。その土地を治める領主の性格や領地の場所によって数や質は変わるが、基本的には鍛え上げられた屈強な戦士である。


 小さな村などでは兵士兼農作業者ということもあるが、それは稀な部類だ。野盗などの人間による脅威だけでなく、魔物という危険な生き物が存在する世界において兵士という職は兼職で務まるものではない。

 常日頃から訓練し、武装を整え、実戦を繰り返すことで技量を磨く。そうして“一人前”の兵士になれば、同じ年月を生き抜いてきた冒険者と比べても屈強に育つ。


 もちろん、何事にも例外はある。


 冒険者でありながら並の兵士より強い者も、僅かとはいえ存在する。だが、魔物相手だけでなく対人戦の技術も磨く兵士と比べると、ほとんどの場合で冒険者の方が劣るだろう。

 その上、兵士が最も力を発揮するのは集団戦である。指揮官の指示を忠実に守り、周囲と連携しながら個人だけでなく集団としても最大限の力を発揮する。


 例え魔法が使えずとも、兵士は鍛え上げた肉体と技、そして連携によって強力な魔物すらも狩るのだ。


 しかし、“それ”はあくまでも理想である。兵士であっても全員の力が均等ということはありえず、また、領主によっては最低限の軍備しか整えない場所も存在した。


 兵士はたしかに重要で、領地を治めるためにも必要だ。それはどの領主も理解している――が、精強な軍勢を組織し、維持するには大金がかかる。ない袖は振れないというのは例え世界が変わろうとも覆らない、厳然たる事実だ。


 危険な職業である以上、兵士に支払う給料は相応に高くなる。それに加えて食費を始めとした生活費、訓練にかかる費用、武器や防具の購入費に修繕費、領内を見回る際の荷駄を曳く軍馬など、非常に金食い虫である。

 その上、兵士は戦いを生業としている以上、生産的なことはほとんどできない。領地によっては土木作業に駆り出すこともあるが、それはそれで領内の仕事を奪うことになる。


 基本的に兵士とは消費するだけの存在で、領内の治安を維持改善することしかできない。


 無論、それは非常に重要なことだ。兵士が弱い、あるいは動きが鈍いと知られれば、他所から野盗が移動してくることもある。魔物退治とて、領民の安全に直結する以上“まともな”領主ならば手は抜けない。


 そんな兵士だが、マタロイ国では分類すると二種類に分けられる。


 一つは、国軍と呼ばれる兵士だ。

 その名の通りマタロイ国が保有する軍隊で、首都や主要な街道、国境近辺の砦などを守る。


 そして、もう一つは領軍と呼ばれる兵士である。

 これは各地の領主が組織する軍隊で、見方を変えれば私兵とも呼べるだろう。領地を守り、戦いがあれば領主に率いられる軍隊だ。


 国軍の最上位者が国王ならば、領軍の最上位者は領主になる。その立場の違いから国軍と領軍は反目し合うことがあるものの、兵士という枠組みに収まるため度を越した衝突は“ほとんど”ない。

 領主が謀反を起こした場合や、著しい失態を犯して取り潰される場合などに矛を交えることがあるぐらいだ。


 領軍の役割は領内の見回りや問題を解決することで、国軍とは性質が異なる。そして、ここでいう“問題”には当然、魔物退治も含まれるわけであり――。


「ドワーフか……地中に穴を掘って生活するとは聞くが、本当に今回の騒動の元凶なのか?」

「そのための調査だろ? 無駄口叩いてると隊長にどやされるぞ」


 城塞都市アクラの北東にあるヴァレー鉱山でここ最近起こっている崩落事故について、調査を行うのも領軍の仕事となる。


 ヴァレー鉱山はアクラを治める領主の領地に含まれており、ヴァレー鉱山から発掘される鉱石類は重要な資源だ。それだというのに、ここ最近崩落事故が続いているのである。

 アクラの近辺では時折ドワーフが目撃されていたが、ドワーフの特性から今回の事故の原因である可能性が高いと判断され、アクラの領軍が派遣されていた。


 まずはヴァレー鉱山周辺を捜索したものの、ドワーフが見つからないためその捜索範囲はさらに広がりつつある。


 領軍として調査に赴いた兵士達の中には、いるかもわからないドワーフを探すのは御免だと思う者もいた。これは職務に忠実ではないというよりも、ドワーフに関する情報があまりにも少ないことからきている。


 ヴァレー鉱山の近くにドワーフがいる――かもしれない。


 ドワーフがヴァレー鉱山の中を掘って崩落させた――かもしれない。


 探せばドワーフが見つかる――かもしれない。


 そんな曖昧な仮定がいつしかアクラでも噂となり、アクラの領主は即座に領軍を派遣した。

 領民へのアピールもあるのだろうが、ドワーフというのは優れた鍛冶の腕を持つことでも有名な亜人である。可能ならば捕獲して来いとも言われており、どちらかというと捕獲の方が本命だろうと兵士達の中では噂されていた。


「中級の魔物を生きたまま捕獲してこいなんて、無茶を言うよな……」

「亜人って言っても魔物なんだ。ヴァレー鉱山の崩落に絡んでるのなら、殺すだけで十分だろうに」


 隊列を組んで歩きつつも、小声で兵士達が愚痴を交わし合う。普段ならば移動には街道を利用するというのに、今回はドワーフ探しということでわざわざ“森の中”に入っての行軍だ。気が滅入ることこの上ない。


 下級の魔物ならば、兵士達にとっては大した敵ではない。魔法を使える魔物ならば少しばかり厄介だが、十分に余裕をもって狩れる。

 だが、中級の魔物となると話は別だ。中級下位の魔物ならば一対一でも勝てないことはない。しかし中級中位となると複数でかかる必要があり、中級上位に分類される魔物が相手ならばそれなりに損害を覚悟する必要がある。


 非常に厄介なことに、生け捕りにしろと言われたドワーフは“平均して”中級中位に分類される魔物だ。弱い者ならば中級下位程度だが、強い者になると中級上位に匹敵する。


 小柄だが膂力が強く、その上、『強化』を使って暴れ回るのだ。優れた鍛冶師でもあるドワーフが振るう武器は兵士達のものよりも質が良く、正面から打ち合えば武器を折られかねない。


 相手が一匹や二匹ならば問題はないだろう。十匹程度でもまだどうにかなる。それでも、兵士の中にはドワーフと戦いたくないという者もいた。

 勝てる勝てないという次元の話ではなく、ドワーフが例外なく精霊教徒――正確には火の精霊を信仰する者だからだ。兵士の中には精霊教を信仰する者も存在し、そんな彼らからすれば率先して戦いたい相手ではなかった。


「わざわざ他所の領地に援軍を頼んだんだろ? これでドワーフが見つからなかったら領主様はどうするつもりなんだろうな?」

「さてなぁ……それは俺達が考えることじゃないだろ」


 それでも、職務は職務である。ドワーフに会った場合は可能な限り対話を行い、無理なら殺すしかない。面倒だがこれも仕事だと言い聞かせる。


「……ん?」


 そう思っていた兵士達だったが、森の中を警戒しながら進んでいると妙な匂いに気付いた。何かが焼けているような、香ばしいような、気を引かれる匂いである。

 火事かと身構えた兵士達だったが、先日の雨で森の中はあちこちが濡れている。それならばこの匂いは何なのかと警戒を強めながら足を進め――。


「ほらほらレウルス! こっちも焼けたわよ? じゃんじゃん食べちゃって!」

「おう……あー、やっぱり内臓の土を取るだけでけっこうイケるわ。醤油があれば完璧なんだけどな」

「“しょーゆ”ってなんじゃ?」


 森の中で、巨大な魔物を食べている謎の三人組に遭遇したのだった。








「なるべく穏便に追い返そう。無理ならここには“来なかった”ことにするしかねえ」


 男性のドワーフから知らされた、兵士と思わしき集団の接近。その話を聞いたレウルスは即座に決断した。


 ドワーフの話では、ざっと数えただけでも五十人程度。正確に数える前に退いたため、下手するとそれ以上の兵士がいる可能性もある。

 だが、しかしである。仮に兵士が五十人程度ならば、レウルスの方には“ドワーフだけで”同数存在するのだ。


 兵士達がいたのは『迷いの森』でも街道に近い場所で、レウルス達がいる場所からは一時間ほど歩く必要がある。

 そんなレウルス達もドワーフの集落からはだいぶ離れており、現在地は『迷いの森』の丁度中間付近だ。兵士達が到達できるとしても、まだまだ時間がかかるだろう。


「追い返すの? 放っておいてもここまで来れないんじゃないかな……」


 レウルスの発言を聞き、ミーアが首を傾げた。昨日の大雨で『迷いの森』の地形が変わっているとしても、簡単には抜けられないと思っているのだ。


「相手は兵士で大人数だからな。この森が原因で迷うって気づいたら、木を切り倒しながら進んでくるかもしれないぞ? それに、ミーア達としても兵士が周辺をうろうろしてるのは嫌だろ?」

「それは……うん、まあ、そうだね」


 出会い方が原因なのか、それとも行動が原因なのか、あるいはレウルスの性格がそうさせたのか。ドワーフ達はレウルスに対してそれなりに好意的な態度を見せているが、実際のところは人間嫌いだ。

 兵士が相手といえど、ドワーフの集落に攻めてくるならば喜んで迎え撃つだろう。『迷いの森』で迷って集落に近寄らないならば放っておくだろうが、報告をしてくれたドワーフによると明らかに周辺を探るための動き方をしていたらしい。


「というかレウルスよお、追い返すのは癪だが、“いなかった”ことにするとしても相手は人間だぞ? お前さん、俺達の味方をするのか?」

「……? 人間って言っても知らない相手だし、下手するとおっちゃん達がやばいだろ? 武器も作ってもらうんだし、おっちゃん達の味方をするさ」


 問題があるとすれば、使っていた大剣がつい数分前にボロボロになったことぐらいか。刀身が曲がった上に刃も欠けており、不格好なノコギリのようである。


(いや、これはこれで視覚的な効果がありそうだな……でっかいノコギリみたいだし)


 『強化』の『魔法文字』が消えた以上、全力で振るえば即座に折れそうだ。それでも見た目のインパクトはあるため、兵士の交戦意欲を削ぐことができるかもしれない。


「じゃが、どうやって追い返すんじゃ? 帰ってくれと言って帰るとは思えんのじゃが……」


 それまで話を聞いていたエリザが口を挟む。ドワーフを守ることには賛成だが、その手段がわからないのだろう。

 そんなエリザの反応に、レウルスは今しがた仕留めた巨大ミミズを指さして笑った。


「前に一度やっただろ? 丁度“それっぽい”のがあるんだし、犯人にしちまおう。説得力を増すには……昨日の分もあった方がいいか?」


 レウルスはドワーフ達に頼んで今しがた仕留めた巨大ミミズと、昨日仕留めた巨大ミミズの残骸を運んでもらうことにした。


「あとはまあ、俺達の仕事だな。利用できるものは利用するとしようか」


 そう言って、レウルスは笑うのだった。











どうも、作者の池崎数也です。

拙作の評価ポイントが3万を突破しました。

毎度ご感想やご指摘だけでなく、お気に入り登録や評価等をしていただきありがとうございます。

過去作になかったペースでの3万ポイント到達で嬉しいやら驚くやらで……感謝感謝です。


それでは、こんな拙作ではありますが今後ともお付き合いいただければ幸いに思います。

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