第十三話 神殿
『アリスのは意図して与えたスキルだろうけど、それにしても破格だよね』
負ける方が難しいぐらいの壊れスキルに、思わず苦笑が漏れる。
すぐに退場させる予定だったとはいえ、運営はよくこんなスキルを与えたものだ。
「下手したらこれを見たプレイヤー側からクレームが来そうだけどな」
『このゲームじゃプレイヤーに許可を貰うか、PTメンバーにならないとステータス見れないから、本来なら見れないデータなんだけどね』
言われ、納得する。
確かにEXスキルだけじゃなくて、実装されている通常スキルも見放題だ。
……っていうか、こいつほぼ全てのスキルを習得してるんじゃ――、
『人のステータスを勝手にジロジロと見ないでください』
憮然とした表情でアリスが手を伸ばしてステータス画面を閉じる。
『司祭様を待たせているのですから、神殿へ急ぎますよ』
悠然と歩を進めるアリス。
雑貨屋で道草を食っていたことは棚の上にしまわれたようだ。
俺たちは顔を見合わせて頷き、そのあとへついて行った。
◆
アリスの後に続いていくと神殿の姿が徐々に見えてくる。
大理石の柱によって支えられた三角型の屋根。その下に2メートルは有に越す木製の扉が見えた。
ローマの神殿を模したような美麗な建築物であったが、それよりも俺には気になることがあった。
「すごい人だかりだな……」
城下町も人通りは多かったが、神殿前の広場その比ではない。
まるで祭りのような人波だ。
いや、でも雰囲気的には祭りっていうよりも……、
「まるで大学のサークル勧誘みたいね」
俺の言いたかったことをレナが代弁してくれた。
神殿から続々と出てくる初期装備のプレイヤーを明らかに上位装備のプレイヤーたちが呼び止めていく。
『ギルドの勧誘だろうね』
「……そうか。レアなEXスキルを手に入れた奴を引き込もうとしてるってことだな」
『そういうこと』
つまり、俺らにもそんな洗礼が待っているということか。
気分が重くなるが、アリスは平然と神殿へ歩を進めていく。
そのあとについて行きながら、俺はふと疑問に思う。
本来ならば彼女がここに存在しないということを、この世界で知らない者はいない。
それなのに、誰もアリスのことを気に留めないのはなぜだろうと。
その疑問を口にする前に、俺たちは神殿の扉の前に辿り着いた。
アリスが両手でその扉を左右に押し開く。
その先には今までの人だかりが嘘のように、静寂に満ちた世界が広がっていた。
神殿内部は教会に似た作りで、両脇に並んだ木製の長椅子の間を進んで行くと祭壇へと辿り着く。
白を基調とし、金の刺繍が施されたローブを身に纏う老齢の男がその前へ立っていた。
『司祭様、ただいま戻りました』
そう一礼するアリスの姿を見て、司祭と呼ばれた男は目を大きく見開く。
当然か。本来ならば彼女はここに来るはずがないのだから。
しかし、
『おお、よくぞ戻ったアリス。
その方たちが異界の勇者たちか』
司祭はそう続けた。
……どうやらリアナが言っていた通り、ストーリーが修正されたようだ。
『はい、そうです。この方たちはヴォルトールをも退けました』
『ヴォルトールを……!
彼らならば魔王を打ち滅ぼすことができるかもしれんな』
『司祭様。この方たちに神のご加護を』
『わかった。
勇者様方、どうかこちらへ』
淡々と進むありきたりなやり取りを眺めていると唐突にこちらに話が振られる。
呼ばれるがまま、司祭の方へ進むとそこには魔法陣の描かれた床があった。
『どうぞ、中へ』
その中に入るようアリスに促され、俺たちはその上に並ぶ。
それを見届けると、司祭は祈りを捧げるように両手を重ねた。
『偉大なる神よ、かの者たちにご加護を』
直後、魔法陣が白く輝き始める。
「ッ‼」
やがてそれは直視できない閃光となり、俺は反射的に目を閉じる。
そして瞼の裏で光が収まったのを知覚し、目を開くとこんなログが表示されていた。
EXスキル 変異を習得しました。




