第九話 ゲームブレイカー
『力を……? あなたは一体どういうつもりなのですか?』
混乱している様子のアリスに、俺は簡潔に告げる。
「決まっているだろ。あのネームドボスを倒して、お前も一緒に王国の神殿に付いて来てもらうんだよ」
『それは不可能です。私たちではヴォルトールには勝てません』
「なぜそう言い切れる?
――攻撃が来るぞ、シールドを頼む!」
低い唸り声と共にヴォルトールが得物をこちらへ叩き付ける。
俺の声を受けてアリスはシールドを展開してそれを防いだ。
「ほら、お前はネームドボスの攻撃を完全に防ぐ事ができる。
攻撃魔法だって、命を代償とするもの以外も使えるんだろう?」
『確かに覚えてはいますが……』
「逆に聞かせてくれ。なんでお前はヴォルトールに勝てないと思うんだ?」
『なぜってそれは……。それは……』
俺の問いかけに、アリスは答えることが出来ない。
彼女がここで死ぬ理由は、ヴォルトールに勝てないからじゃない。
そうシナリオで定められているからだ。
『ッ、でも、私はここで死んで、あなた達を王国に送らなければならないんです!』
「じゃあ、お前はここで死にたいのか?」
俺の言葉に、彼女はピタリと止まる。
まるで悪い夢から醒めたように。
『死……。それは消失、存在の否定。
それは嫌。なら私は死にたくない……?』
「そうか」
ごく当たり前な彼女の言葉に、俺は微笑んだ。
人工知能だ。当然そういう概念も有しているのだろう。
ストーリーに囚われていたために、そこへ辿り着けなかっただけで。
『そう。なら、まずはこの鉄屑を片付けないとね……!』
妹の出した答えに、爛々と瞳を輝かせて姉が嗤う。
「そうは言っても、結局はこの子頼りなんじゃない?」
まあ、サポートはするよと杖を構えるレナ。
「死にたくないなら、どうすればいいかわかるな?」
『ヴォルトールを倒す』
「そうだ。まあ、レナの言った通りお前頼みになりそうだけど、ヘイト取りは任せとけ」
ヴォルトールによって繰り出される怒涛の攻撃に、障壁に亀裂が入る。
死闘の予感に、気を引き締める。
アリスは首を横に振った。
『大丈夫、あなた達にも力を』
再び俺、レナ、リアナの足元に魔法陣が浮かぶ。
一瞬転送陣かと不安が過るが、すぐにそれは杞憂だとわかった。
『彼の者たちに、楽園の加護を――インフィニット・ブレイズ』
ヴォルトールによって障壁が破壊された直後、輝ける紅が全てを染め上げた。
◆
すっ、と。何の抵抗もなく。
ヴォルトールの巨剣が半ばから断ち切られ、切っ先が宙を舞った。
「――まさか。このスキルまで使い回しているとはな」
それを成した紅輝の剣を手に、俺は呆れを通り越していっそ感謝の念さえ覚える。
異常なまでのステータス値上昇による思考と動作のズレが懐かしい。
腕を叩き切るつもりが、攻撃が速過ぎた。
『没にするどころか全体バフにするとか、もう公式チートだよね』
「いっそ、敵が可哀想になるぐらいにね」
緋色のエフェクトを纏うレナ達が口々に感想を述べる。
ゲームブレイカー。皮肉にもそう呼ぶに相応しいアリスのスキルの力を手に、俺は嗤った。
「ああ、壊してやるよ。
そして創り変えてやる。俺が望むシナリオになぁッ!」




