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第七話 チュートリアル

『異界の勇者たちよ。今、この世界には大きな危機が迫っています。

 魔界の者がゲートを開き、侵略を始めているのです』


 真剣な瞳でそう告げる少女に。


『ありがちな設定ね。

 言ってて恥ずかしくないのかしら』


 苛立ち混じりに辛辣な言葉を浴びせるリアナ。

 意に介さず少女は続ける。


『――ッ!? いけません。ここにも彼らの魔の手が』


 何かに気付いたように振り返る少女。


『そう。あくまで与えられた役を演じ続けるのね』


 やけに突っかかるリアナを俺とレナが怪しげに見守っていると、少女の目線の先に黒い渦が生まれる。

 そこより人影が現れる。肉も皮も無い、骸骨の騎士が。


「スカルソルジャーか」


 前作であれば中盤で現れるモンスターだった。

 ようは、これを倒せばチュートリアル達成というところなのだろう。

 

『気を付けてください。魔界の力でブーストされています』


『はいはい。忠告ありがと。

 ユウト、レナ。ちょうど良い腕ならしになるでしょ?』


「まあな……」


 聞きたいことはあるが、まずはこいつを片付けてからだろう。

 腰の鞘から剣を抜きながら、少女の前に立つ。

 レナも杖を抜き、魔法の詠唱に入った。

 それを合図に骸骨剣士がこちらに襲い掛かる。


 助走で勢いを付け、上段から長剣を叩き付けてくる。

 チュートリアルだけあってそこまでの速度はない。

 わざわざ受ける必要もなく、体を開いて躱す。


 思うように体が動く。敏捷の数値が上がるとそのレスポンスが速くなっていくため、前作のノリでいくと回避が遅れる可能性もあった。

 どうやら半年のブランクが良い感じに効いているようで、今は思考と動作のズレが無い状態だった。

 

 剣を下段から跳ね上げて、武器を振り下ろして硬直している骸骨剣士の腕を斬り飛ばす――つもりで攻撃するが、腕をかち上げてよろめかせるだけに留まる。

 どうやら攻撃力が足りていないようだ。

 まあ、それを補ってくれる奴がいるのだが。


「“貫け、――アグニル・アロー”」


 レナが魔術師の初期スキルを発動させる。

 放たれた炎の矢が赤い尾を引きながら虚空を駆け――、骸骨剣士の胸を射抜く。

 頭上のHPバーが一気に30%ほど削られた。

 奇怪な悲鳴を上げて苦しむ死霊の騎士に、俺もまたスキルを発動する。


「ブラストソードッ!」


 刀身に蒼い輝きが渦巻く。

 それを未だ燃え盛るモンスターの胸に突き差した、直後。


【ユニゾンスキル 発動】


 見慣れない表示が輝く。

 炎が俺の刀身に絡みつき、赤い旋風と化して骸骨剣士のHPを削り――焼き飛ばした。


経験値:10

ゴールド:10

ドロップ:―


 呆気に取られる俺を置いて、リザルトが表示される。


「今のは……?」


『ユニゾンスキル。今作から決められた複数のスキルを特定のタイミングで発動することで、強力なスキルに変異させれるようになったんだよ』


 俺の疑問にリアナが答える。

 なるほど、スキルを強化するだけでなく、組み合わせを見つける楽しみも方もできたということか。

 まあ、廃人たちがとっくに洗い出していそうな気もするが。


 それはともかくこれでチュートリアルクリアだ。

 これでようやく冒険を始められると、俺が鞘に剣を仕舞い掛けた時だった。


『まだです』


『まだだよ』


 真珠色の少女とリアナが同時に言葉で制す。

 何事かと問いかけようとした時だった。


 眼前にぽっかりと人が通れるほどの昏い楕円の穴が生まれる。

 咄嗟に横へ跳べたのは、本当に僥倖だった。


「――ッ!?」


 刹那。

 ザンッ――と、巨大な壁が直前まで俺が存在した空間を埋め尽くす。

 地から天へ。世界が縦に切り裂かれるのを見て、俺はそれが巨大な剣だと気付いた。


『――さあ、始まるよ。

 どうしようもなく身勝手なシナリオ、チュートリアルの終盤戦。

 プレイヤーの意思も努力も踏みにじる、負けイベントが』


 リアナが吐き捨てると同時、狭間より剣の主が現れる。

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