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第六話 リアナ

「……なんでお前が居るんだ?」


『私ぐらいになるとね、VR機器を通さずにこの世界にお邪魔することも朝飯前なんだよ』


 ふふんと得意げに胸を張るリアナ。

 人はそれを不正アクセスというのではないだろうか。

 バレたら速攻でアカウントを凍結されそうなものだが……、バレないんだろうなぁ。

 前の世界のノリで暴れなければ。 

 そんな俺の心の内を知ってか知らずか、リアナは続けた。


『安心してよ。今回の私はあくまで傍観者。

色々遊べなくはないけど、それよりもユウトたちを見てるほうが楽しそうだから』


 そういえばゲームを始める前も観覧料とか言っていたか。

 気まぐれな彼女だが、現時点でそのつもりだというのは信じていいのだろう。

 ただ気になるのは。


「今回のお前はNPCじゃなくてプレイヤー扱いなのか?」


 見慣れた白いドレスではなく、革のローブに身を包んだリアナを見て俺は訊ねた。


『古巣と違ってNPCで好き勝手やるとバレそうなんだよねぇ。

 それに、プレイヤー側として遊んでみるのも面白いかなって』


 それは心強い。ちなみにリアナのクラスは……ッ⁉


名前:リアナ

性別:女

レベル;1

クラス:僧侶

HP:12/12

MP:10/10

攻撃:4

魔攻:6

防御:8

魔防:6

敏捷:3


「……僧侶……?」


 ふうっ、と俺は一旦目を閉じる。

 どうやら久々のVR世界に疲れているらしい。

 あの傍若無人、破壊と闘争の申し子みたいなリアナが僧侶を選ぶわけないじゃないか。

 

 再び目を開き、確認する。

 あろうことか、クラスは僧侶のままだった。

 俺はある結論に達する。


「……リアナ、クラスの選択ミスってるぞ。待っててやるからキャラ作成し直して来いよ」


『ユウトも大概失礼だよね』


 不機嫌そうに眉を寄せるリアナ。


「ああー、僧侶もいいよね。PT募集で蹴られること少ないし。私も昔はよくやってたよ」


 レナがリアナの選択に好意的な声を上げる。

 彼女が僧侶を好きというのも意外だった。人を振り回すような人間ほど、他人を癒したくなるものなのだろうか。


「ボス戦とかで「あっ、ここで私が手を抜いたらこいつ死ぬんだ」って感じが堪らなくて」


『私も生殺与奪を握っている感じが良いなぁって思って』


「………、」


 そっか。僧侶って、他人を自分の手のひらで転がすクラスなのか。

 そう考えるとリアナの選択はこれ以上ないほどピッタリだと言えた。

 ……機嫌取らないと回復のターゲットに選んでもらえないかもしれないな。


「でもこれで結構良いPTになったんじゃない? 前衛と後衛が居て、回復役もいるし」


 そういうレナのクラスは魔術師だ。

 俺は同意する。


「ああ。試しにどこかで戦闘してみるか。

 リアナ、オススメはないか?」


 初心者用のモンスターであるスライムしかいない草原は流石に論外だ。

 他に良い狩場はないか、リアナに訊ねる。

 俺の問いかけに、彼女は“淡々”と答えた。


『うん、あるよ。

 というより、こちら側でそういうイベントを用意しているって言った方がいいかな』


 そうリアナが言い終えた直後。

 パキンッ、という音が草原に響いた。

 その音の正体を探りに俺とレナが後ろを振り返ると、空間に白い蜘蛛の巣のようなヒビが入っていた。

 

「……バグ?」


 ぽつりとレナが呟く。

 リアルな世界であるからこそ、その光景はあまりにも異質だった。

 ヒビはやがて視界全てを覆いつくし――、硝子を砕くような音とともに“世界が砕け散った”



 そうして現れたのは純白の世界。

 草原や青空は消え失せた、どこまでも無機質で空っぽの領域。

 唐突な出来事に戸惑う俺たちにリアナは言った。

 

『レナも前情報は調べてこなかったんだね。

 安心して、これはただのチュートリアルイベントだから』


 言葉とは裏腹に、リアナの声は冷たい。

 その意図を探ろうとした時だった。


『――どうかこの世界をお救いください』


 顔を上げると、そこに一人の少女がいた。

 歳はリアナと同じ程。かつて彼女が着ていたものと似た白いドレスに身を包んでいる。

 その顔立ちは同性のレナが隣で息を飲むほどに調っていた。


 何より目を惹くのは、腰まで伸ばされた髪の色。

 雪のような純白でもなく、月光のような銀色でもない。

 真珠のように、ほんのりと薄く桃色がかった白。


 それが地に着くのも構わずに彼女は膝を折り、祈りを捧げるようにこちらを見ていた。

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