第四話 VRMMO
「これって……」
玲奈の部屋に通され、一番最初に目に飛び込んできたものに思わず俺は声を上げる。
スマホでリアナが勝手にネットサーフィンして拾ってきた画像を見せられたので知っていた。
例の事件を受けて改修されたVRゲーム機器。
それが部屋の中央に鎮座していた。ただし、一つではなくニセット。
「旧型と交換で来た新型のVRゲーム機器よ。
リアナから聞いたわ。両親からVRゲームの許可が下りないんでしょう?」
どうやら俺の知らないうちにリアナが情報を漏らしていたらしい。
本当にプライバシーとかあったもんじゃねぇな……。いや、便利なことも多いんだけどな。
欲しい情報を言っておけば、あとでリスト化して渡してくれるし。言わなくても俺に役で立つであろう情報をまとめて置いてくれる。
それに前に株をやらせたときなどは、いつの間にか一万円を十万円近くまで増やしていた。
これに関しては金銭感覚がおかしくなりそうなのでやめさせたが、最悪何があっても彼女さえいれば生きていくのに困らなそうだということもわかった。
あれ? ゾーンどころかリアナという存在だけで結構チートじみているのではないだろうか。
そう考えると彼女への溜飲も下がる。
「ああ。進路もあるし、交換で来たVR機器も妹の方にいっちまったしな」
問題が起きたVR機器はその危険性から自主回収が行われた。
その代わり、新型VR機器が発売と同時に元の所有者たちへ届けられることになったのだ。
当然うちにも来たのだが、それは高校入学を決めた妹の方に流れてしまった。
最初は要らないようなことを言っていたが、友達と遊ぶ内に楽しくなったらしく、春休みということもあって毎日プレイしているようだった。
それを聞いた玲奈は、サラッと言った。
「そう。なら、今度からここでプレイしていいわよ」
「……はい?」
「ああ、遠慮しないで。VR機器は勇人のために買ったわけじゃなくて、前の時に姉さんと一緒にやろうとして一つずつ買っていたのよ。
ただ、姉さんがすぐに飽きちゃって、そのお払い箱になってたやつが交換で新しくなっただけだから」
それよりももっと遠慮するべきところがあるんですが。
『よかったね、ユウト。ちなみに今人気なのは《サクセスオブアーツ》って通称SOAっていうMMOだよ』
「世界観とシステムは前作のものに近いって話よね?」
『そうそう。ちなみにアイカがプレイしているのもSOAだよ』
「ああ、そういえば勇人の妹も遊んでいるんだっけ?」
『うん。詳しくは教えないけど、結構MMOの中で有名人になってるよ』
「へえ、流石血は争えないってところか」
鞄からリアナがスマホのスピーカーで玲奈と会話する。
リアナ。俺はともかく勝手に妹の情報を教えない。
っていうか、MMOの中でアイツがそんなことになっているとは初耳だった。
……じゃなくて。
「勝手に話を進めるなよ。
第一、まずいだろ。毎日ゲームをやりに女子の部屋に通うなんて」
やりたくないと言えば嘘になる。
だが、一般常識としてそれは間違って――、
「……そう言って、さっきから私の部屋よりVRゲームの方に目が釘付けじゃない」
『そうそう。
それに、“あなたが言ったことでしょう?”
自分に嘘をつくなんて良くないよ』
それは、誰が誰に言った言葉だっただろうか。
俺は苦笑を漏らす。
(――ああ、そうだったな。
細かいことごちゃごちゃ気にするなんて、楽しくねえよな)
リアナの言葉に吹っ切れた。
目の前に楽しいことがあるのに、それを我慢するなんて前の自分に逆戻りするのと同じだ。
部屋の主である玲奈が良いというのだから良いのだろう。
親には適当に図書館で勉強するとでも誤魔化せばいい。成績はゾーンを使えば自在にコントロールできるのだから、結果を出せば文句も言うまい。
「わかった。
ありがたく、その話に乗らせてもらうよ玲奈。
じゃあ、《サクセスオブスキル》っていうゲームをやろうぜ」
「そうこなくっちゃ。
もう既にインストールは済んでいるのよ。
月額料金は払ってもらうけどいいわよね?」
『うん、みんなの分は私が払うよ。
観覧料としてね』
「そうなの? ありがとね」
「…………、ああ。ありがとう」
リアナが払う。それはつまり彼女が資産を有していることを意味している。
それがどこから来て、どれほどのものなのか。
思考を巡らせかけて俺はやめる。それは考えても楽しくないことだ。
「じゃあ、まずはみんなでキャラ作成からね」
「え? まだお前プレイしてないのか?」
玲奈の言葉に思わず俺は訊ねる。
彼女は嬉しそうに口元を緩めた。
「うん。勇人と一緒に始めようと思ってたから」
いつもの悪戯じみたものではなく、優しい少女の微笑みに。
「そ、そうか」
見惚れていたことを隠すようにVR機器に手を伸ばす。
こうして俺は再びVRMMOの世界へ舞い戻ることになった。




