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第四話 真なる紅

 剣を轟々と燃え上がらせる火焔が、刀身の根元から紅色の光へ彩られた。

 その色は赤ではなく、紅。何ものにも染まらぬ、真なる紅。


「綺麗……」


 背後の少女の呟きが耳に届いた。

 俺も、罵声を浴びせていた周囲のプレイヤーたちでさえ、その輝きに目を奪われていた。


 まさか……、新しいスキル? 

 そんな疑問へ答えるように、体が動く。


 煌々と揺らめく真紅の刃を手に跳躍し、ゴーレムの振り上げられた前腕の根元へ真下から斬りかかる。

 先は弾かれた堅牢な岩壁。今度は粘土のように突き刺さり、斬り飛ばす。赤のゲージが五分の一ほど削られた。

 軽々と舞った腕がギャラリーの頭上へ鉄槌となって落ちる。悲鳴が上がるが、どうでもよかった。


 まだ、攻撃は止まらない。

 刃を返し、今度は真上から斬り下ろす。ゴーレムが残った腕で体を庇うが、紅い剣閃と共に半ばから地面に崩落する。

 地面に着地と同時に逆袈裟へ剣を振り抜く。両脚が斜めにズレ、ゴーレムの胴体が地響きを立てて転がった。赤のゲージは残り1割を切る。


 その時だった。ゴーレムの胴体が、切断された四肢が輝き出す。

 ゲージが時間を巻き戻すよう、徐々に伸びていく。


 自己再生機能まで持ってるのかよ!?


 俺は舌打つが、まだこちらの攻撃は終わっていない。

 剣を握った右腕を、限界まで後ろに引き絞り――解き放つ!

 気づけば、真紅の剣をゴーレムの胴体、その胸のコアへ突き刺さしていた。


 やったか?

 心中で問いかけるが、ゴーレムの体が消え去る様子はない。咄嗟にその頭上を見ると、ギリギリ……ドットほどのゲージが残っていた。


「――ッ!」


 残ったゲージがゆっくりと、しかし確実に伸びていく。

 それに反比例するように、剣の光は徐々に収まっていく。もう体が動く気配はない。

 こちらを見下すゴーレムの無機質な顔が笑った気がした。

 所詮、お前はヒーローなどではないと。

 

 頭の中で、何かが弾ける。

 それは。それを決めるのはッ!


「ッ、まだだッ‼」


 剣を握る手に力を込め、ゴーレムの巨体を蹴り飛ばして引き抜く。

 地面に着地し、俺はまだ輝きを残した剣を腰だめに構える。

 スキルによるサポートの気配はない。


 だが、もう幾千と振るった技。体が覚えていた。

 地面を蹴る。剣の達人のように一拍で間合いを詰め、


「これで、沈めぇえええッ‼!」


 紅輝の刃を振るう。

 全身全霊を込めた一撃、雷光に似たエフェクトが弾けた。

 それが収まると、今度こそゴーレムの体は光に包まれ――消えていった。


 そこまで確認してから、俺はその場で尻餅をつく。もう集中力の限界だった。

 だが、そんな頭を仰々しい電子音が刺激する。

 タブレットが目前に現れる。こんなメッセージが表示されていた。


ブレイズソードとSP600を消費し、クリムゾンブレイズを習得しました。


 ……。疲れているのか。

 俺は目をこすり、もう一度タブレットを見る。画面が変わり、こんなメッセージが表示されていた。


ユニークモンスター、ゴーレム討伐

経験値:3,000,000×2÷2

ゴールド:500,000÷2

ドロップ:

ヨルムンガンド:レナ・スズミヤ


レベルが50に上がりました。


HP:80→1540

MP:40→1240

攻撃:44→980

魔攻:14→250

防御:68→1150

魔防:16→325

敏捷:24→355


 俺は、そっとタブレットを放り投げた。

 初期ステータスが懐かしいインフレ具合だった。

 運営が宣伝していた通り、一気にレベル50まで上がってしまうとは。


 というか、討伐項目の÷2ってなんだ? ドロップアイテムを手に入れていた、レナ・スズミヤっていうのはまさか……。


「え? ええ? ユニークモンスター討伐? え、ユニーク装備!? れ、レベル50!?」


 戸惑いと驚愕の混じった声の主を振り返る。

 黒髪の少女が、タブレットを前にすごいあたふたとしていた。

 

 どうやら、彼女とゴーレムの戦闘に俺が乱入したという形で、一時的にPTを組んだ状態になっていたようだ。

 チラリとギャラリーが居た場所を見る。他のプレイヤーたちは綺麗さっぱり消えていた。恐らくゴーレムの鉄槌でぷちっと死んだのだろう。俺の心もさっぱりする。

 自業自得とは、アイツらのような人間のためにある言葉だ。


「大丈夫か?」


 俺がレナというらしい少女に声を掛けると、彼女はがばっと顔を上げた。


「あ、あの、夢ですか!? 私、今、夢を見ているんですか!?」


「いや、たぶん現実だ」


 言って、自分でちょっと首を傾げる。バーチャル空間なのだから、現実とは言わないのではないかと。

 そんなどうでもいいことを気にするあたり、俺自身も結構動揺しているようだった。

 とにかく、今は情報があり過ぎて状況が整理できない。

 そこで、俺は。


「ちょっと、一緒に状況を整理しないか?」


 同じ境遇の少女にそう提案を持ち掛けたのだった。


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