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第十八話 分かれ道

 このゲームにPvPが実装されてなくてよかった。

 実装されていたなら、今頃戦場と化していたに違いない。


 ジロリと、レナがこちらを見た。


「ねえ、ユウト。目障りだからこの子、元居た場所に返してきて」


 いや、犬とか猫じゃないんだから。

 がしっと、ナツメが俺の手を掴んだ。


「王子さま。今すぐあたしと一緒にこの小屋を出ていきましょう!

 あなたにはもっとふさわしい場所があります」


 どこだろうなぁ。

 まあ、どちらにせよレベルの関係で大人しくしていなければ――。


「ゴーレムを倒したプレイヤーは誰なのかって、リーレの町どころか全拠点その話で持ちきりですよ!

 今戻れば一躍有名人ですっ」


 ……え? その話をしたっけ?

 いや、レベルを見ればわかるのか。


「あれだけ宣伝をしていた運営はなぜか発表してませんし、ネットでも結構話題になってるんです」


 怖くて見ていなかったのだが、やはりそうなっていたのか。

 どうしよう、運営からインタビューとかされて公式サイトに乗せられたりとか……俺の柄じゃない。

 やばい、なんで本名をそのまま使っちゃったんだろう。下手すれば即バレで夏休み明けにどれだけの人間に質問されるか……。


 矢継ぎ早にまくし立てるナツメに、俺はちょっとその未来図を想像し、ネーミングに後悔し始めた頃。


「――へえ。つまり、それが目的だったわけだ?」


 その話を聞いていたレナの瞳が鋭い光を宿した。

 ナツメは、可愛らしく首を傾げて見せた。


「目的? なんのことです」


「恰好を見る限り随分と目立ちたがり屋みたいだし?

ゴーレムを倒したプレイヤーの彼女だ嫁だなんてなれば、一緒に有名になれるもんね」


 ぐっ、と。俺の手首を掴む手に力が籠った。


「はあ? あなたじゃないんですから、そんなあくどいことを考えるわけないじゃないですか。あたしは、ただ王子さまのことを考えて……」


「……そう。ねえ、ユウトはどうしたい?」


 二人の双眸がこちらに向く。

 

「どっちでもいいよ、私は。

 この生活にもちょっと飽きてきてところだし、ここで別れて進むのでも。ゴーレムの経験値とユニーク装備を持ち逃げする形になっちゃうけど」


「いや、別にそれは気にしなくてもいいけど」


 彼女と出会わなければ、俺はクリムゾンブレイズを習得できたかわからない。

 いや、きっとできなかっただろう。次の拠点で装備を整えたり、スキルポイントを振り分けていたに違いない。


 ゴーレムの時のことを気にして彼女が好きに動けないというのなら、逆にそれこそが嫌だった。

 だから。


「……そうだな。

 いつかはバレることだし、そろそろ先に進んでみるのも悪くはないか。

 お互いにやりたいこともあるだろうし」


 本当はもう少しこのままでも悪くないと思っていた。

 だが、それがレナを縛るというのなら、俺は敢えてこちらの道を選ぶ。


 聡い彼女には俺の思惑を読み取ることなど容易いようで、その答えに微笑んだ。


「本当にお人好しなんだから。

 じゃあ、最後だから腕によりをかけて料理を作るか。今日は何が獲れたの?」


「ああ。熊肉が獲れたよ。っていうか、あんまりアレンジを加えるなよ」


「うん、忘れられない味になると思う」


「うんじゃなく。大丈夫って言ってくれれば安心できるんだけどな」


「あの、あたしのこと忘れないでもらえません……?」


 完全に置いてけぼりを喰らっていたナツメが、おずおずと発言する。

 あ、忘れてた。


「ああ、忘れてたわ」


「あなたが言うと意図的に忘れてたようにしか聞こえないんですよね」


「まだ居たのね。あなたの分の料理はないから」


「いりません。毒でも入ってそうですし」


「そんなことしないわよ、毒がもったいないし。

 ……というか、さっさとその手を離さないと切り落とすけど」


「切り落とせるものなら切り落としてみればいいじゃないですか。

 あたしと王子さまの手は、ゲームシステムによって守られてるんですから」


「……そう。じゃあ、ちょっと試してみましょうか」


「おい⁉ いや、まじで大丈夫とわかってても怖いからそのナイフしまってくれ」


「システムを超えるって、ちょっとロマンがあるわよね?」


 本当にナイフを振りかざしてくるレナ。

 逃げ惑う俺と、都合それに引きずられるナツメ。

 二週間に渡る共同生活は、こんなドタバタ劇で幕を閉じた。


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