第十四話 刺すかも
俺の顔色を見て、やっぱりねとリアナは笑った。
その話を聞いていたレナが首を傾げた。
「……ねえ、リアナ。スキルの説明を見た時から思っていたんだけど、いくら破格のスキルと言っても、他のスキルが設定できなくなるのはちょっとやり過ぎじゃない?
それだけ習得条件が厳しくて、デメリットもあるのに」
…………。確かに、それは俺も薄々思っていたことだった。
スキル欄がない以上、どれだけスキルを習得しても一つしかセットできないなら、クリムゾンブレイズ以外に選択肢はないだろう。
レナの問いかけに、リアナは再び質問を返した。
「……例えばさ。あなたが一生懸命編んだマフラーをユウトにあげたとするじゃない? で、ある日ユウトを見たら、他の女の子が編んだ手袋を着けていたとしたら――」
「うん、刺すかも」
何を……ッ⁉
っていうか、なんで通じ合ってるのこの二人。最初の険悪な雰囲気が嘘みたいじゃん。二人の仲を心配してた俺が馬鹿みたいじゃん……。
大体その例え話自体おかしいし。俺だって複数の女の子の手編みのプレゼントを同時には……、でも手編みか。仕舞っておくのも悪いし……じゃなくて。
「スキルと手編みのプレゼントじゃ話が違うだろ」
「リアナに取っては同じだから。私のスキル以外使ったら……刺すかも」
だから、何を……?
しかし怖くて聞けずにいる俺に、彼女は続ける。
「だから私のスキルを習得した時にスキルポイントは振れないようにしたし、ユニーク装備は全部弾くようにユウトのアカウントに設定しておいたから」
…………。………………はい?
「ちゃんとスキルを習得する時に警告を出しといたけど、張り飛ばしてたし、見てるわけないか」
「ああ。だからこの杖私のところに来たんだ。てっきり私が一番交戦時間長かったからかと思ったんだけど」
茫然とする俺を放って、納得したようにレナが頷く。
「……どういうこと?」
「知らない? オンラインゲームでは戦闘の貢献度によってドロップの判定が決まるものが多いの。ダメージとか支援とかで貢献度も変わるんだけど、討伐ボーナスが一番大きいかな」
俺が昔やっていたMMOはランダムドロップだったが、そういうシステムもあるのか。
へえ、また一つ勉強になったなぁ……。もう俺には関係ないことだけど。
――いや、まだあきらめる時ではない。抗議すべき相手は目の前にいるのだから。
「リアナ。スキルとドロップアイテムの件、なんとかならないか?」
「うん」
即答だった。
くじけないし。
「そこをなんとか! スキルポイントを割り振れないなんて、そんな悲しいオンラインゲームが今まであったか? しかもユニーク装備が弾かれるとか、拷問以外の何物でもないし」
スキルの割り振りを面倒くさいと思っていたことは棚に上げた。
「使えるスキルも一つだけなんて、この先どうやって戦っていけばいいんだ!」
俺の魂の叫びを聞いたリアナは……なぜか、ぽかんとした顔をしていた。
「……ねえ、ユウト。
まさかとは思うけど、クリムゾンブレイズがただの始動技ってことはわかってるんだよね?」
「え?」
始動技? 一体何の?
聞き返そうとした瞬間、リアナの体にノイズが走った。
彼女は慌てた様子で周囲を見回す。
「あっ、やばい。バレそうだからちょっと消えるね」
「おい、その引きはないだろ! ちゃんと全部話してから――」
「リアナのスキルと装備で頑張って! 以上!」
凄い簡潔なアドバイスを言い残して、リアナはパッとその場から姿を消した。
そうして、夕暮れの草原に静寂が戻る。さっきまでの出来事が全部嘘のようだ。
……。うん、そうだ。多分疲れて幻でも見てたんだ。
ユニーク装備が手に入らなかったのを知らないうちに気にしてんだろうなぁ。
「あ、そういえばユウトさっきユニーク装備を手に入れてたよね。
あれはあの子の装備だから弾かれなかったのかな」
幻想が一分も持たずにレナへぶち壊される。
っていうか、いつの間に名前呼びに。まあ、俺もレナって呼んでるからいいんだけど。
「はあ……」
俺は大きくため息をつき……、このままゲームを進めることを決める。
念願のユニーク装備も手に入れられたし、クリムゾンブレイズにも何か隠された力があるみたいだし、これでとやかく言うのは贅沢が過ぎる。
異変とかは……、まあ起きた時に考えればいいか。
早く小屋へ帰って、さっき獲った猪肉でレナに牡丹鍋でも作ってもらおう。
あ、崖の上の異変を解決したこともNPCに伝えないと。
そんなことを話ながら、俺たちはその場をあとにした。
その時の俺は、知る由もなかった。
このリアナとの出会いが、全プレイヤーを巻き込んだ大事件の始まりであったとは。