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[5/24 22:10] 僅かな希望

移動してから、だいたい1時間…。

ようやく、警察署が見えてきた。

本来ならこの半分の時間で着くものの、なにしろ隠れながら移動していたので時間が倍近くかかってしまった。

警察署の正門辺りにはテロリストの人影がなかった。

私は慎重に正門を潜って、そのまま警察署内へと入りこんだ。







――そ…そんな…。


正面ロビーに入ると、私の想像とは裏腹に悲惨なくらい荒れ果てていた。

地面には警察官数名の死体が倒れており、手には銃が握り締められていた。


――こんなことって…。


私は愕然とする。

まさか、警察署が既にテロリストに襲撃されていたとは思わなかったからだ。

…いや、まだ諦めるのは早い。

きっと、まだ警察署内に生存している警察官がいるはずだ。

私は大声で叫んだ。


「だれかー! 生存者はいませんかー!」


返事は…返ってこない。

正面ロビーから移動して、二階へと上がった。

二階もまた悲惨なくらい荒れていた。

地面には机や棚等が倒れていたりしていて、移動が困難なところもあった。

私はまた、生存者がいないか確認するために叫んだ。


「生きているのなら返事をください!」


だが、返事は返ってこなかった。

やっぱり、もう署内に生存している警察官はいないのだろうか…。

下がる気持ちを抑えながら、私は最上階である3階へと向かった。

3階はそれまでの階と比べてはまだそんなに荒れてはいなかった。

これなら、誰か一人はいるかもしれない…!

期待が込みあがってきて、再び私は大声で叫ぶ。


「返事をください! 誰かいませんかー?」


建物内に私の声が響く。

だが、やはり返事は返ってこない。

希望を捨てられなかった私はもう一度叫んでみた。


「お願いです! どなたか返事をください!」


それでも、反応はなかった。

ただ、虚しくも窓ガラス越しの風の音だけが聞こえている。


――やっぱり…もう、いないのね…。


ようやく諦めが着き、私は下の階へと戻ろうと振り返って歩き始めた。

…その時だった。


――……くぅッ…。


その返事は呻き声に近かいが、女性の声が奥の方から、微かだが聞こえたのだ。

私はすぐさま声が聞こえた方角へと走る。

着いた先は、扉のプレートに「会議室A」と書かれた部屋だった。

どうやら、この奥から聞こえてくる。

私は念のために、銃を構えながら、ドアノブを回した。


ガチャ!


ドアがゆっくりと開いて、私はその部屋内へと入った。

部屋内は電気が消されていて、暗くて周りがよく見えなかった。

私はリュックサックに閉まっていた懐中電灯を取り出して、スイッチを入れた。


カチッ!


眩しい一条の光が部屋を照らしていく。


「…だ、誰!?」


ライトを着けた直後に女性の声が部屋の奥の方から聞こえてきた。

私は敵でない事を伝えるためにゆっくりと話しかける。


「大丈夫ですか?」


相手の女性は私の声に驚いたのか、少し声のトーンが上がった。


「お、女の子…?」


「あ、はい! あの、暗くて分からないんですけど、電気のスイッチがどこにあるか教えてくれませんか?」


「え…、ええ。入ってきた扉のすぐ左にあるわ」


「ありがとうございます」


私は女性の言葉に従って、入ってきた扉の左の壁を調べてみた。

言われたとおり、スイッチらしき物を発見してそれをつけてみる。

つけた瞬間、部屋内の電気が一斉に点いて、私は懐中電灯のライトを消した。

そして、部屋の奥に右腕を押さえていた女性を見つけた。

その押さえていた右腕からは血が出ていた。

私はすぐさま、その女性の方へと向かう。


「大丈夫ですか?」


私は女性に駆け寄って、話しかける。


「弾は貫通しているから平気よ。それよりも…、あなた、一人でここへ…?」


「はい…。警察の人に保護してもらおうと思って…それで…」


「そう…。それは残念だわ。見ての通りわかると思うけど、もはや篠山市の警察は壊滅状態に追い込まれているわ」


「…やっぱり、そうですか…」


私は銃をしまって、女性へと手を伸ばす。


「大丈夫よ。一人で立てるわ」


女性は私の手を借りずに一人で立ち上がり、お尻を軽く払った。


「あなたの名前は?」


「私は大羽唯。篠波学園の2年です」


「へぇ、あの篠波学園の生徒さんなのね〜…。あたしの名前は梢三里。職はここの警察官よ。まぁ…、今ではすっかり“無力な”だけどね」


三里は皮肉を言いながら、苦笑いを見せた。

決して笑えない冗談だったが、あまりにも彼女が可笑しな顔をしたために頬が少し緩んでしまう。


「さてと…」


三里が表情を変えて、私へ話しかける。


「大羽さんは今の状況、どこまで知っているの?」


「“テロリストが篠山市を占拠した”…まではテレビのニュースで聞きました」


「…そう。まぁ、大体の現状は知っているのね」


そう言って、三里はポケットから包帯を出して、それを右腕に巻き始める。


「あたしも脱出したいのは山々なんだけどね。どうやら、篠山市はテロリスト達に完全に包囲されているみたいなのよ」


「そうだったんですか…!」


私は三里の言った言葉に驚いた。

まさか、既にテロリスト達は篠山市を取り囲んでいたとは…。


「とりあえず、今は政府が対応するまで様子をみながら、必要なものを揃えた方がいいわね」


「必要な…もの?」


私は三里に聞き返す。


「ええ。まず、大羽さんがその手に持っているものとかをね」


「銃…ですか?」


「正解。備えあれば憂いなし…って言うでしょ? いざというときに身を守るためには必要だしね」


確かに三里の言う通りだ。

私もこの銃を奪って、自分の命を守ったのだ。

銃を奪っていなかったら、今頃、私は死んでいたのかもしれない。

思いつめている私に、三里が自分の銃を取り出して、装弾する。


「とりあえず、協力してくれる…? あたし一人じゃ、ちょっと厳しいからね」


三里の協力申請に返答を迷うが、答えは一つしかなかった。


――お互いが生き残るためにも、協力しないと…。



「ええ。私で良ければ手伝います…! 梢さん」


「三里でいいよ、三里で」


笑いながら、三里は私に握手を求めて、手を差し出した。


「…では、三里さん。よろしくお願いします」


私はその手をちゃんと握り締めて、握手をした。

三里の体温が私に伝わり、“自分以外の人がちゃんと生きている”という事に単純に嬉しかった。


――…そうだ。まだ、助かるかもしれないんだ…!


曇りかかった私の心がだんだんと晴れていくのを自分でも感じる。

ほんの少しだけど、希望の光が見えてきたような気がした。

 

大羽 唯


[所持品]

・ワルサーP99 [16発]

・ワルサーP99 マガジン(1)


[]内は弾数。

()内は所持数。

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