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[5/24 18:55] 初めての人殺し

玄関のドアを強く蹴り飛ばす音が聞こえてきた。


ドクン、ドクン…!


心臓が更に早まって鼓動していくのがわかる。

確か、玄関のドアの鍵はちゃんと閉めたはずだ。


――大丈夫…、大丈夫だ。


自分を落ち着かせるために心の中でそう言い聞かせる。

護身として、台所に置いていた包丁を手にして、部屋の片隅に隠れた。


ドンッ!


玄関のドアが壊されたような音が聞こえて、私の体がビクッと震え上がってしまう。

誰かが私の部屋に入りこみ、だんだんとその足音がこっちへと向かってきている。

私は身を隠しながら、一瞬だけ侵入者を見る。

迷彩服を着た男で、手には拳銃を持っていた。見た目からして、軍人だ。


――やっぱり、さっきの音は拳銃だったのね…!


予想していた事がついに確信へと変わった。

なら…あの悲鳴をした人達はもう―――。

私は殺されないためにも隙を伺って、部屋から脱出しようと考えた。

侵入者は付けっぱなしのテレビに注意を引き付けられている。


――逃げるなら今しかない…!


私は侵入者に気づかれないようにそっと背後へと周り、玄関へと向かう。

侵入者には気づかれていない。大丈夫だ。


――そう、このまま行けば…助かるんだ!


恐怖に怯えながらも、希望は捨てなかった。

玄関の手前まで着くと、急ぎながらも音を立てずに靴を履こうとした。


ブー! ブー!


片方の靴を履き終えた所だった。マナーモードにしておいた携帯電話が鳴り始めたのだ。


――しまった!


バイブレーションの音に振り返り、侵入者は玄関前にいた私に気づいた。


「動くな!」


侵入者の声に反応して、私は動きを止める。

侵入者は私に銃を向けて、こちらへと近づいてきた。


「武器は捨てろ。…抵抗はするなよ」


侵入者の指示に従って、私は手に持っていた包丁を床に置く。

終わりだ。もう殺されてしまう…。

私は絶望に浸って、侵入者が銃の引き金を引くのを覚悟し、下を向いた。

だが、一向になかなか引き金を引く気配がない。

変に思った私は煩わしい思いを感じながら、顔を上げた。

すると、侵入者の男は引き金を引くどころか、銃を下ろした。

そして、私を下品な面をして見つめてくる。


「…殺すにはもったいないくらいの容姿だな」


そう言って、侵入者は強引に私に抱きついてきた。


「い、いやッ…! 放して!」


私は必死に力を入れて、侵入者の腕の中から逃げようとする。


「こら、暴れるんじゃねえ!」


「や…、やだ」


「このヤロウ!」


「キャッ!」


頬を打たれて、私は地面へと倒れる。


「大人しく言う事を聞いてりゃあ、いいのによ」


侵入者は再び、私へ銃を向ける。


――嫌だ…。死にたくない!


生への衝動に駆られた私はさっき床に置いた包丁を手にして、それを侵入者の足元に思いっきり刺した。


「―――ッ!」


刺した箇所から溢れんばかりの大量の血が床に流れる。

この時、もはや私は他人を傷つけることなど考えている余裕はなかったのだ。


「ぐわぁああああッ」


侵入者は苦痛の叫びをあげて、刺さった箇所を見つめる。

その隙に私は侵入者の手にある銃を奪おうとそれを掴み、力いっぱいに引っ張った。

その動作に気づいた侵入者も銃を奪われないようにと、がむしゃらに引っ張る。

傷を負った為だろう。侵入者にそれ程の力は感じられなく、私は難なく銃を奪い取る事に成功した。

私は侵入者から距離をとって、奪った銃を向ける。

侵入者は足元に刺さった包丁を引き抜くと、それを持ってこちらにゆっくりと近づいてきた。


「こ…こないで! それ以上近づいたら、撃つわよ…!」


「お嬢ちゃんにそんな事できる訳ねぇだろう」


侵入者は一歩、また一歩とさらに私へと近づいてくる。

私も侵入者の動きに合わせて、後ろへと後退する。

だが、それも限界があり、背中に壁が当たって、これ以上どこにも後退できなかった。

侵入者は甘い囁きを私に言う。


「大人しく銃を返してくれたら、生かしてあげるよ〜?」


「そんな嘘…信じれない…!」


「はぁ〜…、なら大人しく諦めるよ」


侵入者は諦めたのか、ナイフを下ろす。

私はその言葉にホッとして、銃を下ろしてしまった。


「――んな訳ねーだろが!」


その時に出来た隙を侵入者は見過ごさず、下ろしたナイフをこちらに向けて、そのまま突っ込んできた。


「――ッ!」



――バンッ!



「ぐは…っ! そんな…馬鹿…な……」


ほんの数秒の差で侵入者のナイフが私の喉元に突き刺さる前に私が放った銃がテロリストの腹部に命中した。

迷彩の服からは血が滲み出ており、手にしたナイフを落として侵入者は床へと倒れこむ。

そのまま倒れこんだっきり、侵入者は微動さえしない。


「はぁ…、はぁ………」


私は手に持つ銃を床に落とした。

生き残れたというのに、喜ぶ事ができない。

むしろ、凄く後味が悪かった。

だんだんと興奮していた状態から理性が蘇ってきて、自分がした事の重大さに気づく。


――私が…殺してしまった。


その現実だけが、残ってしまった。

正当防衛だからだとか、そんな甘い考えじゃない。

人を殺してしまったのだ…。

いきなり、手がブルブルと震え出した。

同時に勝手に涙がポタッ、ポタッと流れ落ちていく。


「う…ぁっ…あぅっ…ウァーッ…ァーーッ!」


しゃくれた声を出して、私はその場でひたすら泣いた。

今は…泣く事で精一杯だった。

 


大羽 唯


[所持品]


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