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[5/24 23:50] 再始動

見えている視界が全て真っ暗闇。

いや、本当に自分の瞳が開いているのかさえ、疑問に思えてくる。

私は暗闇の中をひたすら歩いていた。


『…い……唯…』


ふと、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り返ってみると、そこには彼の……桂の姿があった。


「け……い?」


『ああ、俺だよ。唯』


思わず、涙が零れてきた

彼が無事だったなんて。

信じていたけど、まさかこうして再びめぐり合う事ができたなんて……。


「本当に……桂なの…?」


私は再度聞き返す。

彼はにっこりと笑い、私へと近付いてきた。

そして、私の背中へと手を回して抱きしめた。


「ちょっ! 桂? え…、えぇっ!」


流れていた涙が一気に止まり、同時に頭の中で思考回路がショートする勢いで空回りする。

やばい……。

なんだか、顔が妙に熱くなってきた。


『唯、ずっと探していた』


「け、桂…っ?」


唐突な桂の言葉に戸惑ってしまう。

桂の抱きしめる腕の力が少し強くなった気がした。


「ねぇ…痛いよ、桂」


だが、桂はそんな私の言葉を無視するかのようにさらに腕の力を強めた。


「ッ! 痛いっ!!」


私は桂の腕をすぐさま振り解き、彼から距離を置いた。


「何するのよ、桂。なんだか……おかしいよ」


『おか…しい……? いひひ…、おかしくないよ・・・俺ハオかシくなんテなイッ!』


「け…い…ッ…?」


私の目の前に映っているのは紛れもなく桂だ。

その姿も声もまさしく彼そのもの。

だけど、彼はこんな狂っている目はしていない。

こんな、ゲスな声で話さない。

こんな……こんなっ!


――こんなの……私が知っている桂じゃない!



『なァ、唯ぃ〜。俺ト一緒ニ死のうヨぉ〜!』


「ひいっ!」


狂人はどこに閉まっていたのか、拳銃を取り出して、その矛先を私の方へと向けた。


『唯ぃ〜、俺からのはっびィバぁ〜すでィだよォ〜!』


「いや……」


『受け取ッてヨ。心カラ祝福すルからさァ〜ッ!』


「ぅ……い、いやぁッ!」


『いひひひぃヒィッ! さよならァあああああああああーッ!』


そう言った後、狂人はその引き金の先を“私から自分の首元に変えて”盛大に引いて見せた。


バンッ!!


銃声と同時に真っ赤な血が首にできた銃の穴から中から外へと吐き出すように一気に、ドバッ、ドバッ、と溢れ出た。

それはもう、トマトジュースを器から大量に溢した感じと似ていた。

もちろん、大量の血の雨が私の顔へと勢いよく降り注いだ。

顔に生温かい赤い水がドビュ、ドビュとかかりこむ。


――何……? これ。


それはもう現実的なモノとは対極だった。

首元から血管……だろうか、それに白骨のような異様に気味が悪いモノが次々と見えてきた。


「げほ…げぇ…、うげぇっ!」


強烈な吐き気、それに目まいが私を襲った。


「げほ……げほ、……はぁ……はぁ…」


あまりにも衝撃的なショッキング映像だった。

偽者だと思っていても、姿形は桂そのもの。

その桂が今目の前で死体となって、白目を上に向けたまま地面に横たわっている。

だが、まだ手足はピクピクと動いている。


「う……ぁ…いぁ…いや…っ……」


まるで死んだ魚が苦しみもがいているかのように元気に。

赤い血をまといながら、ピクピクと!!


「いやぁあああああああッ!」












私は叫び声と共に悪夢から目覚めた。


「はぁ……はぁ…っ…」



――今の…夢…だったの?



「桂……」


夢の中での彼はまさに悪夢そのものだった。

……なんだか、とっても不吉な夢だった。


「ッ! …なに……これ?」


突如、足から強烈な痛みを感じた

そして、痛みで先ほどまでの出来事を一気に思い返した。


――そうだ……。私、テロリストに撃たれて……それで死ぬ寸前だったのに、なんで……?


足元を見てみると、丁寧に包帯が巻かれていた。

誰かがあの状況から私を助けてくれたのだろうか。

……いや、それしか考えられないだろう。

私は生きている安堵感と助けてくれた人に対する感謝を抱いて、この部屋の辺りを見渡した。

薄暗い電気が点いたこの部屋は少し火薬の匂いがしていた。

隅っこに置かれていたテーブルに一枚の紙と銃、それに銃の弾が置かれていた事に気がつき、痛む足を引きずりながらもその紙を拾い上げた。

そして、それを読み上げてみた。


『大羽さん。怪我をしているあなたを置いていって、本当にゴメンなさい。

 私はこの街の脱出する通路を探すために外へと出て行きます。

 でも、大丈夫。心配はしないで。

 外へと出られる道を見つけたら、すぐにここへと戻ってくるわ。

 それとあなたの怪我の事について。

 弾は幸い貫通していたので、なんとか手当てをする事ができたわ。

 でも、無理に歩かないでね。手当てといっても応急処置程度だから。

 では、行ってきます。共に最後まで頑張りましょうね。

 ※念のために電話番号を書いておきます。何かあったかけてね。

 090-****-****                     三里 』



「……三里さん」


三里が私をあの窮地から救い出し、手当てもしてくれていた。

そして、今なお怪我を負った自分を見捨てずに危険な場所へと自ら赴き、脱出路を懸命に探している。

私は三里に対して熱いモノを感じずにはいられなかった。

しかし、彼女には申し訳ないのだが私も休んでいる暇はなかった。


「……桂」


嫌な胸騒ぎがしていた。

あんな不吉で嫌な悪夢はそうそう見ない。

私は携帯をポケットから取り出して、彼へと連絡しようとした。

携帯の画面には2件の着信履歴が残っていた。


――……桂ッ!?


その二つとも、桂だったことに驚く。

マナーモードにした事が裏目に出てしまい、桂の電話に気付けなかったのだ。

私はすぐに桂の携帯へと電話を入れてみた。



5月24日、時刻は23時55分。


私にとって、人生最悪の誕生日まで残り5分を切っていた。




大羽 唯


[所持品]


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