[5/24 ??:??] Nightmare
何も見えなくて、何も聞こえない。
ただ、暗闇が広がる世界。
そんな中、俺は虚空を舞うようにこの暗闇の中、浮かんでいた。
――…イ、……桂…。
どこからか、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
若い女性の声だ。
呼び声に返事をしようとするが、声が思うように出せない。
それにこの声。
どこかで聞いた事があるような…。
でも、誰だったのか思い出せない。
「き…みは…だれ…?」
ようやく言えた言葉も虚しく、声の主からの返事は返ってこない。
相手の声を俺は知っている。それだけは確かな自信を持って言える。
なのに、それが誰なのか思い出せない。
……何故だ?
――…桂、どうして助けてくれなかったの?
「……え?」
聞き覚えのある声の主が何を言っているのか、さっぱり分からないでいた。
だが、この声の主に関係している何か大切で忘れてはいけなかったような事を俺は忘れてしまった気がする。
暗闇の中、俺は声が聞こえてくる方角へと何かを掴み取るように手を伸ばす。
その方角が本当に正しいかは自分でも分からない。
ただ何か、失ってはいけないものだと無意識に、がむしゃらに手を伸ばしていた。
ふと、俺の伸ばした手が誰かの温かい手で握られる。
まるで心を全て包まれたような感覚。
この手は…まさか……。
「き…みは……!」
声の主が誰なのかを思い出し、その名を言おうとした時、暗闇だった空間が一瞬で真っ白な風景へと変わった。
そして、その時、声の主の顔が俺の目に映った。
今にも消えてしまいそうな、少し悲しみを帯びた儚げな微笑みを浮かべて、俺の手を握っている姿が……。
「**―――――!!」
必死にその名を呼ぼうとするが、何故か、その言葉が口に出せない。
「**! …クソ……なんで…!」
何度試しても、その名を口にする事ができない。
何故なんだ…? どうして!
――…桂。もう、いいよ……。
そう言うと、声の主は握っていた手を離すと、白い霧に包まれていく。
まるで、自分から姿を隠すように。
「待ってくれ! 行くな……、行くなー…!」
俺は必死で消え往く人にそう叫んだ。
だが、声の主はこっちに振り返らず、そのまま白い霧の中へと姿を消していった。
「ッ…! ユイ―――――…!」
やっと言えることができた名前も虚しく、この空間に永遠に響いた。
俺の意識が途絶えるまで、永遠に……。
七尾 桂
[所持品]
・ベレッタPx4 [18発]
・ベレッタPx4 マガジン(2)
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[]内は弾数。
()内は所持数。