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[5/24 21:10] The tower of death 2

「おーい、まだか?」


「後もう少しだけ、待って」


未央の着替えは未だに続いていた。

以前、唯の服の買い物に付き合ったときも時間が長い事が多かったために、待つ事は結構慣れているのだが、それでも長く感じてしまう。

これが女の子の長い買い物と言う訳だ…。

俺はその間、未央から預かった銃をいじっていた。

周りには人の気配が感じられないため、どうも気が抜けてしまう。


「ふぅ〜…」



――……唯は本当に無事なのだろうか?


顔を地面へと伏せながら、ポケットから出した携帯電話を開いては閉じて…、を繰り返していた。

どうしても、唯の生存の安否が気になってしまう。

しかし、携帯電話のトップ画面は着信、メールさえ入っていない。

唯の携帯へと電話を掛けてみるが、やはり出なかった。


「……くそ」


唯はどこかで生きている。今もそう信じたい。

…でも、本当にそうなのだろうか?


――もう、テロリスト達に唯は…――


俺はその先の想像を寸前で止めた。

自分で確かめるかぎりは生存の安否は分からないのだ。

だが、心の中の不安は募る一方だった。


「おまたせ。ごめんね、待たせちゃったね」


ようやく、着替えを済ませた未央が試着室から出てきた。

さっきまでは、未央の服装が多少なりとも気にはなっていたのだが、今はとてもそんな気分じゃなかった。


「……どうしたの? 顔、暗いわよ」


未央が俺の顔を覗き込んでくる。

心配そうな顔色を含んで、俺と目を合わせる。


「あ、ああ。別になんともない」


「――…本当に?」


未央の再度の質問に俺は戸惑ってしまう。


「その…、話したくないことなら、別に無理に話さなくてもいいから」


俺が困っている表情をしていたのか、未央が遠慮して言った。

未央の気遣いが俺の心を揺れ動かす。


――………仕方ない…な。


俺は今思っている事を全て、未央に話そうと決心した。


「未央、あのさ…―――」


そう続きを言おうとした時だった。

未央の表情がその瞬間に歪んだ。


「ッ…! 桂、危ない!」



バン!!


静寂を破った一発の銃声。

背後から聞こえたと同時に未央の体当たりを喰らって、二人一緒に地面へと倒れこんだ。

そのまま、物陰へと転がり隠れる。


「くッ!」


「だ、大丈夫?」


「ああ、怪我はしてない。それより…」


俺は姿が見えないように、銃声が聞こえてきた方向を見た。

拳銃を装備しているテロリストが一人、こちらを伺うように接近していた。

拳銃の他に無線機らしきものを手に握り締めている。


――……まずい!


無線機で増援を呼ばれると厄介だ。


「くっそ!」


俺はテロリストに銃の照準を定めて、そのまま発砲した。

だが、テロリストは俺が発砲する直前で壁へと隠れこみ、銃弾を回避する。


「古部です。まだ生き残っている市民発見。拳銃を武装している。援護を要請する。場所は…――」


無線機に呼びかけているテロリストの声が聞こえた。


――くっ…しまった!



『了解した。直ちに援護を送る』


無線機の会話が終了するのが聞こえ、通信がプツリと切れる音がする。

遅かった…。

最初の射撃で仕留めるべきだった。

場所が知られてしまった以上、すぐにここに増援がやって来るだろう。

銃に弾を込めて、俺は次の射撃体勢へと入る。


――いや、後悔している暇は…ない! 今はどう切り抜けるかだ。



「ねぇ…、桂」


「なんだ? 未央」


「……ごめん」


「え……―――?」


未央の謝罪の言葉と同時にいきなり後頭部を鈍器か何かで強く打たれ、俺は地面へと倒れこんだ。

頭からは微量ながらも、血が出てきている。

横たわる中、未央の姿を捉える。

その手には鉄パイプのような物を持っていた。


――…未央が……殴ったのか…?



「ぐっ……! ど…う……して…?」


…駄目だ。

激しい痛みに懸命に耐えようとするが、目が霞む。

自分の意識がだんだんと遠くなっていく。


「……く…そ……」


倒れた際に手から離れた銃を掴み取ろうと手を伸ばそうとする。

だが、それに気付いた未央がさきに銃を拾い上げて、自分のホルダーへと入れた。

未央は悲しげな表情で俺を見下ろしていた。

だが、次に俺が見たときにはその悲しげな表情が消えていた。


――……最初から、俺は裏切られていたのか。


心に穴が空いたような、感覚が痛みと同時に襲ってくる。


――テロリストにここにいることが発見されたのも未央がこのテロリストに現在地を教えたからだろうか…? 


だが、ここに入る前にはちゃんと周りを調べてみたが、テロリストらしき人物はいなかった。

それは俺もちゃんと確認している。

なら、小型の発信機か何かを未央が隠し持っていて、それで居場所を教えたのかもしれない。


――…いや、そんなことよりも俺は……。


そう、この数時間で俺は未央をすっかり信頼していたのだ。

だから、俺のショックはその分、酷く大きかった。

怒りは沸いてこない。

ただ、何も残らない虚しさだけが感じられた。


――……俺は未央に騙されていた…のか…。



「く…そぉ…っ!」



――…駄目だ。もう…視界が…暗くなって……ぃ・・・く…。


意識が朦朧としてきた。

手足の感覚がだんだんと失っていく。

俺は悪魔に誘われるかのように、闇に堕ちていく。

意識を失うその寸前、熱い液体が俺の顔に零れてきた。

それが俺の口に入り込む。

しょっぱい味が口の中に広がる。

これは……涙なのか?


「う…ぅう……ケイ、…ごめん……。……本当に…ごめんな…さいッ…!」


未央の泣いている声が聞こえてきた。

泣き声に混じりながら、まるで神に縋る聖人のような懺悔を幾度となく繰り返している。


――なんで、未央が泣いているんだよ……。なんで……未央が……。


もう、視界は真っ暗で何も見えないが、未央の顔は安易に想像する事ができた。

騙されていたのは俺なのに、本当は俺が泣きたいくらいなのにどうして未央が泣くのだろうか。

どうして、…どうして。


「うぅ……うぁああああ……ッ…!」



――もう泣かないでくれよ…。……頼むから、もう…―――。


そこで、俺の意識はプツンと切れてしまった。

だが、意識が途切れても、未央の泣き声と謝罪は俺の心にまだ聞こえ続けていた。



七尾 桂


[所持品]

・ベレッタPx4 [18発]

・ベレッタPx4 マガジン(2)


[]内は弾数。

()内は所持数。


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