[5/24 19:40] 仲間
未央との会話をある程度、済ませた後に俺は残っている武器、弾薬を確認していた。
今銃に入っていた弾は18発。
マガジンが2つあるから、合計58発となる。
未央が持っていた銃を見てみる。
「Cz75」…。9mm×19パラベラム弾使用の装弾数15発(+1発)の銃だ。
粗悪なものが多かった東側製の武器としては異例の高品質・高精度であったこともあり、西側市場で成功した数少ない東側の銃器だ。
サイレンサーが付けられて、消音対策も万全である。
未央から奪った銃を俺の銃が入っていたホルダー内へと収めて、俺の銃はウェストポーチに入れる。
「……あなたはこれからどうするの?」
未央からの質問を受ける。
俺は頭を掻きながら、それに返答した。
「脱出できそうなルートを探しながら、人を探すつもりだ」
「家族?」
「ああ。親父を…な」
「そっか。…生きているといいね」
その言葉を言った一瞬、未央の顔は寂しそうな表情へと変わった。
それを見て、俺は急いで話題を変える。
「そうそう。あと、もう一人探しているんだ。そいつは家族じゃないけど、大切な人でさ…。多分、まだ生きているはずだと思うだけど…」
「……それって、恋人?」
からかっているつもりなのか、未央が少しニヤけた顔で聞いてきた。
「違うよ!」
そう。
断じて違う。
唯は仲の良い友達だが、友達以上ではない。
確かに性格もルックスも良くて、社交的で世話焼きな奴で本当に良い奴なのだが…。
実際に俺は唯をあまりそんな目で見たことがないのだ。
しかし、かと言って他の男に取られてしまうと素直には喜べないと思う。
…なんだか複雑だ。
「…冗談よ。でも、そんなに慌てるって事は…――」
「だから、違うって! ホントにそんなんじゃないよ」
俺の慌てた表情がおかしかったのか、未央が悪戯そうに笑う。
未央の顔が先ほどと変わって明るくなり、俺は安心した。
そう言えば、あまり意識して見ていなかったのだが、彼女はかなり可愛らしい顔をしている。
――…っておい! 何考えているんだよ、俺は…!
不純な事から気を逸らすため、俺は別の事を考えようとする。
そして、ほんの些細な事に気付いた。
――ん…。なんか…今思えば可笑しな状況だな、これ。
本来ならもっと早く気付くだろう。
さっきまで殺しあっていた相手とこうも笑いあって、話しているなんて。
…いや。
そもそも、彼女もある意味で被害者なのかもしれない。
上からの命令で強制的に人殺しを余儀なくされたのだ。
逆らったら、家族が殺されるという一方的な条件をつきつけられて…。
「……なんか、可笑しな状況だね」
未央も俺と同じ事を考えていたのか、ボソッとそう呟いた。
「そうだな…」
俺は未央を見た。
こうして、見ると彼女はテロリストだからと言って、どこも他の一般市民と変わらない。
ちゃんとした良心もあるし、ちゃんと笑える。
――そりゃ、当たり前か。
俺の中のテロリストのイメージと言うと、映画でもあるようにもっと極悪非道な物が強かった。
だが、目の前の少女はそのイメージを良い意味で見事に壊してくれたのだ。
俺はある決心をすると、未央へと近づいていった。
「…な、何?」
未央は少し警戒しながらも、俺の接近を許した。
俺は未央の腕、足を結んでいたロープを解いた。
「え…? なんで…」
確かに普通はそう思うだろう。
俺は今、自分の命を危険にさらす行為をしたのだ。
だが…。
「このまま置いていっても危ないだろ?」
俺が言った言葉もあながち、嘘ではない。
未央は先ほど、“自分の作戦は失敗した”、と未央自身認識して言っていたのだ。
しかも、それはテロリスト達の本部へと全て知られてしまっている。
使えない駒はすぐさまに切り捨てるもの。
このまま、ここに放置して万が一に他のテロリストに発見されたら、間違いなく消去。
すなわち、殺されてしまうだろう。
また、武器も持たないテロリストが手足を縛られて何もできない状況にいるところを何も知らない市民が見つけてしまったら、その激しい怒りの矛先を確実に未央に向けるだろう。
そうなったら、怒りに身を任せた市民からの暴行を絶対に受けてしまうだろう。
それに、もし発見した者が男だとしたら、酷い場合には強姦行為を受けてしまうかもしれない。
…最悪の場合、市民に殺されてしまう可能性もある。
それは決して、否定はできない。
「……でも」
未央はそれでもまだ戸惑っている。
まぁ、当然と言えば当然なのだが…。
「まぁ、条件はあるぞ」
「……条件?」
「俺と一緒に行動する事」
「…それだけ?」
「ああ。銃を返す訳にはいかないからな。無力なキミに一人で行動して死なれても後味が悪いだけだし。それに…」
俺は照れくさくなりながらも、続けて言った。
「キミは殺したくて人を殺したんじゃないってわかったんだ。…俺はその事を信じるよ」
「…その…ありがとう」
未央がまるで言葉に表せないくらいの感謝の笑みを俺へと見せる。
そんな未央を見て、俺は素直に喜んだ。
「よし! それじゃあ、とりあえずここを出るか」
「あ、……その前に」
未央は自分の服に着いていた盗聴器を外して、それを地面へと落として踏み潰した。
「改めて…。近江未央です。よろしく、ケイ」
初めて未央が俺の名前を呼んだ。
その呼び方から、違和感が不思議としなかったのは気のせいだろうか…。
「ああ。よろしく、未央」
「初めて名前で呼んでくれたね」
「キミの方こそ、…お互い様だな」
俺は未央と二人で診療所を出た。
市民とテロリスト。
相反する存在同士だが、今の俺達にはもうその言葉は関係なかった。
七尾 桂
[所持品]
・ベレッタPx4 [18発]
・ベレッタPx4 マガジン(2)
・Cz75 [15発]
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[]内は弾数。
()内は所持数。